月の輪通信 日々の想い
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2005年05月15日(日) 試食販売

朝剣道の帰り、汗臭い剣道着のままの息子二人を従えて、お昼前のスーパーをうろつくのが近頃の定番。
シャープペンの芯だの新しい国語のノートだの、時には替えの運動靴など、くだらないものをあれこれ買って、地下の食料品売り場へ流れ込む。
昼ごはんの焼そばを買う。
キャベツだのジャガイモだの普段は重くてうんざりする野菜のまとめ買いをする。
おやつ用の菓子パンやスナック菓子を買い込む。
日に日に消費量の増える牛乳を買う。
近頃では二人の息子達が、レジの済んだかごから買ったものをさっさとレジ袋に詰めてくれて、取り合うようにして重い荷物を持ってくれるので、楽チン、楽チン。
忠実な用心棒を二人引き連れてお買い物する有閑マダムのようで、ちょっと嬉しかったりする。
子どもってたくさん産んでおくモンね。(荷物持ち確保が目的・・・?)

お供の息子達が時々ふらりと姿を消す。
試食販売のウインナーの匂いに惹かれて行ったり、新しく出たカップめんのチェックに行ったり。
これはこれで息子達も結構楽しいらしい。
今日出会ったのは、パンの試食販売。
おじさんが、薄く切ったパンをトースターで軽くあぶり、お客に配って売り込んでいる。このおじさん、セールスに夢中になって、焼いていたトースターのパンを焦がしたり、「ここまで焼いたらあきまへんで。」と言い訳したり、何となく素朴ですっとぼけている。その喋り口が訥々として面白いとオニイがひっかかった。
「ほい、にいちゃん」とばかり貰った試食品を頬張りながら、イヤに熱心におじさんの講釈を拝聴している。
「かあさん、このパン、ごっつううまいで。」
あ〜あ、引っかかっちゃった。
男ってどうしてこんなに試食販売に弱いんだろう。
立ち止まったら買わずに帰れなくなってしまうのは、父さんそっくりだぁ。
「ああいうおじさん、僕、なんか好きやなぁ。」
ええい、ご祝儀だ。
レーズンとくるみの入ったパン、お買い上げ。

オニイの大人を見る目はなかなか渋い。
不器用にパンを売る試食販売のおじさんとか、新任研修で大きな声で指差し確認している若い車掌さんとか、高齢で引退間近の老剣士だとか、そういうい人たちの決してかっこよくはないけれど、その一生懸命さにオニイのアンテナは動く。そういう目立たない人の目立たない一生懸命に心動かされる事が多いようだ。
多分彼自身、自分が誰からも注目を浴びる華やかさや天性の才能でもてはやされる派手なパフォーマンスとは無縁の、静かに長く続く一生懸命を生きていくだろうという事に気づいているからなのだろう。
「15歳にして、この達観はどうよ」とも思うけれど、普通の人々に向ける穏やかで暖かなオニイの視線の確かさは、彼の最大の才能でもあると私は思いたい。

汗臭い防具袋と両手いっぱいの食料品、50円缶ジュースを飲み干す子ども達を詰め込んで、おんぼろトッポで家路に着く。
けっしてかっこよくはないけれど、これはこれで豊かだよなと思ったりする。
子どもらとの買い物は楽しい。


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