独り言

2003年10月13日(月) 狂気と誓約の関係 4

10/4の続きです☆




















「例えはともかくとしまして、セシリスさんに強大な力があるのは確かだということですわね。そして、大切な方を亡くされたせいで生まれた憎しみと狂気」

先へと話を進めるためにも、一度纏める必要がある。
果たしてそう思ったのかどうか、フィリアが今までの沙羅の話を簡潔にして述べる。

「そこから繋がる破壊衝動」

ウッドロウが付け足す。
受けて、「だが……」とリオンが瞳を細めた。

「だが、あの時の口ぶりだと、その狂気は不発だったようだな?」
「まぁね。彼自身、そうならないように努力していたし。それに、あの国と平和は確かに彼の大切な者達の命を吸い取ったけれど、壊す事なんてそもそもできなかったはずなのよ。例えばそういう事態になっていたとしても…ね」
「あ…何だ、ちゃんと解ってたんだな。逆恨みにも似た考えだって。生きてる人間の方が大事だって。ましてや、彼は民を守るべき王様だもんな!」

スタンがホッと胸を撫で下ろした。
セシリスの境遇に同情を覚えていたスタンだったが、続いていく話に次第に怒りにも似た感情を覚え始めていたのだ。
あまりにも、それらが理不尽すぎて。
けれど、沙羅の言葉はそれを覆すものだったから。

(そうだよな。大切な人を失った悲しみは解るけど、だからって、全てを壊すなんて、どう考えたって無茶苦茶だ。関係ない人達まで巻き込む事になるんだから)

「……違うな」
「えっ?」
「あいつが実行できないと思ったのは、そんな博愛主義めいた感情からじゃない。ましてや【王だから】等という責任感からでもない」

スタンの安堵を完全に否定したリオンが、淡々と彼自身の推測を述べていく。
沙羅は興味深そうに彼の話に耳を傾ける。
その彼女に向かって、リオンが確認した。

「【壊せない】理由は、【それをしてしまったら、彼等をも壊してしまう事になるから】だろう?」

沙羅の口元に、淡い笑み。

「何よそれ? 意味解んないんだけど?」

眉を寄せるルーティを鼻で笑う。
そんなリオンの態度にカチンときたのか、食って掛かろうとしたルーティをフィリアが宥めにかかるが、中々収まらない。
果てにはフィリアにまで矛先を向けようとする。
リオンは益々呆れた視線を送りつつ、「先を聞きたくはないのか?」と腕を組み直す。
ルーティは不満そうな表情をしつつも、多勢に無勢と見たのかどうか、周囲からの無言の圧力に渋々従った。

生意気な子供が披露する勝手な憶測だが、ここで止められてはどうにも気になって仕方がない。
ましてや『理解できないから聞くのを止めた』等と思われたら癪だ。
それに、ここにいる誰よりも件の人物の傍にいて、最初に話を振った沙羅が黙っているのも気になる。

(まさか、こいつの憶測が当たってるなんて事、ないわよね……?)

湧いた疑念に、まさかね、と否定し直す。
どちらかといえば、スタンと同意見だったルーティにとって、リオンのそれは突拍子もない上に、抽象的過ぎて理解できない。
困惑したような表情から見て、恐らく他の面々も思いは同じだろう。
というより、沙羅がこの話を始めた時点で、既に信じがたい内容ではあったのだが。
まあ、そんなこんなで一応ルーティも聞くスタンスをとる。
リオンは静かになったのを確認すると。

「まぁ、どちらかと言えば感覚論めいたものだからな。無神経な輩には難しいかもしれん」

(ああ、また余計な事を……)

若干青くなりながら、スタンが隣のルーティを伺う。
再び先のような騒動になるのでは、と危惧したのだが。

(あれ?)

予想に反して大人しい。
こめかみに青筋が入り、頬は引きつっているが、それ以上のリアクションを起こすつもりはないらしい。
次いで、ふとずらした視界に飛び込んだ光景に思わず苦笑してしまう。
ルーティが左腕をきつく掴んでいたのだ。
どうやら必死に怒りを抑えていた努力の賜物だったらしい。

「セシリスは壊れる事を恐れた。義姉と親友の犠牲の上に成り立った平和(モノ)は確かに憎い。けれど、彼等の想いが存在するからこそ、愛しい。……平和を壊してしまう事は、即ち、二人の【想い】をも壊してしまう事。否定してしまう事。【死】を意味なきものにしてしまう事。故に【壊せない】」

一気に続けた後、リオンは軽く息をつく。
スタン達は口を挟まず黙って話を聞いている。
彼等に浮かぶ表情は様々ではあったが、納得しかねている…意味を理解しかねているのは一目瞭然だった。
そんな彼等をある意味うらやましく思いつつ、リオンは最後を締めくくった。

「ヤツはあくまでも自分と死んだ義姉や親友の事しか考えていない。単なるエゴイストだ」

嘲笑めいた笑みが、知らずリオンの口元に上る。

【エゴイスト】。
全く、何てそっくりなのだろう。
恐らく自分も【彼女】と世界(もしくは数多存在する他者、あるいは平和)を天秤にかけたならば、迷わず前者をとるだろう。
例え周りから非難される事になっても、後悔はしない。
自分にとって大切なのは、唯一【彼女】だけだから。
何を敵に回しても…構わない。
それぐらいの【想い】。

(だが………)

だが、セシリスと違う点が二つある。
絶対に失うつもりはないし、させない事。
そして、失った後の世界を【愛しい】等とは到底想えないだろう事。

「……驚いた。良く解ったわね」

感心したような沙羅の声。
反して、想像さえしていなかった【理由】に4人は呆然としている。
リオンが前置きした通り、あまりにも感覚的、いや、考え方・捉え方の違いに、自分達の思考が追いつかない。
考えたそもそもの人物の思考回路も、容認しているしてしまっている沙羅も信じられない。
更に言えば、それを見抜き、サラリと言ってのけたリオンも。

(何だか、やっぱり厄介な話に興味を持ってしまった気がする……)

現時点で既に背負い済みな厄介事をも思い出し、皆に乾いた笑みが漏れる。


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愛羅