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2003年05月23日(金)
何げなく読んだ茨城のり子の 詩がよい。 魂の響きがそのまま直に伝わってくる。 インターネットで調べてコピーした 私の解説など入らない!
落ちこぼれ 茨城 のり子
落ちこぼれ 和菓子の名につけたいようなやさしさ 落ちこぼれ いまは自嘲や出来そこないの謂(いい) 落ちこぼれないための ばかばかしくも切ない修業 落ちこぼれこそ 魅力も風合いも薫るのに 落ちこぼれの実 いっぱい包容できるのが豊かな大地 それならお前が落ちこぼれろ はい 女としてはとっくに落ちこぼれ 落ちこぼれずに旨げになって むざむざ食われてなるものか 落ちこぼれ 結果ではなく 落ちこぼれ 華々しい意志であれ 花ゲリラ 茨城 のり子
あの時 あなたは こうおっしゃった なつかしく友人の昔の言葉を取り出してみる 私を調整してくれた大切な一言でした そんなこと言ったかしら ひゃ 忘れた あなたが 或る日或る時 そう言ったの 知人の一人が好きな指輪でも摘みあげるように ひらり取り出すが 今度はこちらが覚えていない そんな気障(きざ)なこと言ったかしら それぞれが捉えた餌を枝にひっかけ ポカンと忘れた百舌(もず)である 思うに 言葉の保管所は お互いがお互いに他人のこころのなか だからこそ 生きられる 千年前の恋唄も 七百年前の物語も 遠い国の 遠い日の 罪人の呟きさえも どこかに花ゲリラでもいるのか ポケットに種(たね)しのばせて何食わぬ顔 あちらでパラリ こちらでリラパー へんなところに異種の花 咲かせる
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自分の感受性くらい
ぱさぱさに乾いてゆく心をひとのせいにはするな みずから水やりを怠っておいて
気難しくなってきたのを友人のせいにはするな しなやかさを失ったのはどちらなのか
苛立つのを近親のせいにはするな 何もかも下手だったのはわたくし
初心消えかかるのを暮らしのせいにはするな そもそもが、ひよわな志にすぎなかった
駄目なことの一切を時代のせいにはするな わずかに光る尊厳の放棄
自分の感受性くらい 自分で守れ馬鹿ものよ
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根府川の海
根府川 東海道の小駅 赤いカンナの咲いている駅
たつぷり栄養のある 大きな花の向うに いつもまつさおな海がひろがつていた
中尉との恋の話をきかされながら 友と二人こゝを通ったことがあつた
あふれるような青春を リュックにつめこみ 動員令をポケツトにゆられていつたこともある
燃えさかる東京をあとに ネーブルの花の白かつたふるさとへ たどりつくときも あなたは在つた
丈高いカンナの花よ おだやかな相模の海よ
沖に光る波のひとひら あゝそんなかゞやきに似た十代の歳月 風船のように消えた 無知で純粋で徒労だつた歳月 うしなわれたたつた一つの海賊箱
ほつそりと 蒼く 国をだきしめて 眉をあげていた 菜ツパ服時代の小さいあたしを 根府川の海よ 忘れはしないだろう?
女の年輪をましながら ふたゝび私は通過する あれから八年 ひたすらに不敵なこゝろを育て
海よ
あなたのように あらぬ方を眺めながら……
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わたしが一番きれいだったとき
わたしが一番きれいだったとき 街々はがらがら崩れていって とんでもないところから 青空なんかが見えたりした
わたしが一番きれいだったとき まわりの人達が沢山死んだ 工場で 海で 名もない島で わたしはおしゃれのきっかけを落してしまった
わたしが一番きれいだったとき だれもやさしい贈物を捧げてはくれなかった 男たちは挙手の礼しか知らなくて きれいな眼差だけを残し皆発っていった
わたしが一番きれいだったとき わたしの頭はからっぽで わたしの心はかたくなで 手足ばかりが栗色に光った
わたしが一番きれいだったとき わたしの国は戦争で負けた そんな馬鹿なことってあるものか ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた
わたしが一番きれいだったとき ラジオからはジャズが溢れた 禁煙を破ったときのようにくらくらしながら わたしは異国の甘い音楽をむさぼった
わたしが一番きれいだったとき わたしはとてもふしあわせ わたしはとてもとんちんかん わたしはめっぽうさびしかった
だから決めた できれば長生きすることに 年取ってから凄く美しい絵を描いた フランスのルオー爺さんのように ね
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