日々雑感
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鍋でお湯を沸かす。小さな泡がぷつぷつと浮いてくるのを眺めながら、ふと思い出す。
小学校の1年か2年だったと思う。同じクラスの男の子が二人、家に来たことがあった。たしか、クラス会の出し物の練習をした気がする。お昼どきになり、レトルトのハンバーグを温めて食べようということになった。それまで、自分ひとりでお湯を沸かしたことは一度もなかった。けれどその日、なぜか母親は自分でやってみなさいと言って、鍋を渡してよこしたのだ。
小さな鍋に水を張ってコンロに置き、おそるおそる火をつける。家に来た子のうち、ひとりが傍らに立っていっしょに鍋を眺めている。手にはレトルトのハンバーグの袋。ドキドキしながら鍋を見つめていると、その子が「泡がぶくぶくって出てきたら、もう大丈夫だ。」と言った。たしかに、だんだんと、底のほうから泡が湧いてくる。「おれ、いつも自分でやってるから。」なるほど、泡が出てきたらお湯が沸いたということか。お湯の沸かし方を初めて知った瞬間である。
どんなことにも「初めての瞬間」があったはずなのに、そのほとんどは、もう忘れてしまっている。けれども、あの場面は今でもはっきりと思い出せる。よっぽど感心したのだろう。
名前も顔もおぼえているが、彼が今どうしているかは知らない。元気でいるだろうか。そして今でもやっぱり自分でお湯を沸かしているだろうか。
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