TOI,TOI,TOI!


2002年11月15日(金) 舞台の上のちっこいアジア人

昨日は先生と一緒にコンサートだった。
隣町Bad homburgのSchlosskircheでの本番。
私が出たのは最後の1曲だけだけど。でもギャラはみんなと同じ・・・。

先生+うちの学校の学生による弦楽五重奏(2×Vn.Vla.Vc.Cb.)&ソプラノ歌手で、
ボッケリーニ『スターバト マーテル』
休憩はさんで、弦5+チェンバロで、
ヴィヴァルディ『アラ ルスティカ』
そして、最後に
バッハ『ドッペルコンチェルト』
先生の元門下Ludwigと先生がソロ。
私はセカンドVnで登場。

楽しかった!

バッハは、全部で8人での合奏だったんだけど、全員立って弾いたんです。チェロとチェンバロ以外。
みんな立つと、自分がちっこいのがよく分かるー。



終わった後みんなでレストランに行って打ち上げ。
その席で私は、歌手のパパとLudwigのパパにいろいろ質問をされた。

「(将来は)どこで働くの?家族は日本にいるんだろ?日本に帰りたいだろう?」
「日本には日本の音楽があるのに、なぜ日本の音楽をやらないの?」

なるほどーそういう風に考えるのかーと、多少感心しつつ、面食らいつつ、

伸「私は幼い頃から20年間、ヨーロッパの音楽だけをやってきました。日本でも音楽大学に・・・」
「それは、邦楽の(学校)?」
伸「いいえ。ヨーロッパの音楽のです。邦楽に興味はありません。」
「こっちで就職するの難しいんじゃない?日本に帰らないの?」
伸「できればこちらで就職したいです。」
「なぜ?」
伸「・・・日本のオーケストラとこちらのオーケストラは全然違います。私はこちらのオケで弾きたい」
「何が全然違うの?」
伸「・・・(両方で弾いたときの感じ方の違いを説明。先生も日本のことに詳しいので助け舟を出してくれ、そのあと話題を変えてくれた)」

話題を変えても、おじさん達はそのあともずっとその話をしてたみたい。「韓国人」「日本人」って、そんな単語はいくら声をひそめても聞こえるのよー。

印象として漠然とあとに残ったのは、外国人には国に帰って欲しいって思ってるんじゃないのかなあ・・っていう。上に書いた内容だけでは伝わりにくいと思いますが(もっといっぱい聞かれた)。
音楽家の就職は、ドイツ人にとっても狭き門。しかも音楽の世界に限らず、失業者、職につけない人が年々増えているらしいから、そういうことも関係してたりして。

日本人なのに日本の音楽をやらないの?には、いろいろ考えさせられました。
ヨーロッパ人にとってヨーロッパの音楽をやるっていうのはどういうことなのかな。アジア人がヨーロッパの音楽をやることを、彼らはどういう風に見てるのかな。ちょっと客観的になってまじめに考えてみた。


もし、日本の柔道選手たちを片っ端から倒してフランス人の選手が優勝したとして、そのときの気持ち。
そして、バスケットボールで日本がアメリカに負けたとしてそのときの気持ち。
このふたつの気持ちは、同じではないと思う。

私の祖母は曙や武蔵丸が嫌い。別に理由はないけどなんとなくイヤや、と。

自然なんでしょうね。こういう気持ちが生まれるのは。
そう思う人のその思いを止めることは出来ない。

私は、相撲や柔道を外国人がやるようになったのは、すごくいいことだと思う。いろんな国のいろんな人に、日本の良い部分を知ってもらえたらやっぱりうれしい。
でも勝負の瞬間になったら、やっぱり日本で生まれたものは日本が最強であって欲しいという気持ちが顔を出す。

ワールドカップだって、アジアの国に負けた国の人は、負けたのがアジアの国だからこそ屈辱的に悔しかったんだと思う。

本場でヒーローになったイチローやナカタは、だからこそ本当に素晴らしいと思う。きっと一生懸命やっているのだろうし、皆に好かれる人柄なのだろう。
彼らの存在は、本当に私にとって励みになる。外国人とか、そういうことを超えている。ちっぽけなことで悩んだり迷ったりしている自分に気付き、ばかばかしくなる。やはり、できるかぎり、少しでも、少しずつでも、一回きりの人生をスケールの大きいものにしていきたいと思う。そういうイメージをいつも持っていたい。


いつか私は、こう言おう。

ヨーロッパの音楽は素晴らしいです。
ヨーロッパの中にいると分からないかもしれませんが、
こんなに世界中の人に愛されている音楽は、ヨーロッパの音楽だけです。

ドイツに来て、ドイツ語を少し覚え、ドイツ人と話して、ドイツ人の(物事の)考え方の特徴というものを知ってきました(同時に日本人にも考え方の特徴があるということも)。
生きた時代は違っても、バッハやベートーベンも、ドイツ語で生活しドイツ語で考え、多少なりともドイツ人の特徴的な部分を持っていたのだろうと想像したりします。そういうところから曲が生まれたと知るのは、私にとってすごく面白いことです。ドイツ人にとっては普通のことでも、私にとっては新しい発見なのです。


「なぜ?」に対してはこう言おう。
「好きだから」
ドイツで暮らすのが好きで、ドイツ(語圏)の音楽が好きだから。
それ以外の理由はないよ。


  
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