TOI,TOI,TOI!


2002年10月09日(水) 学生に優しい

コンサートのチケットは、当日券しか買ったことがない。
開演1時間前に出る、学生と年金生活者のための割引チケット、10ユーロ。1200円。
開演1時間前の時点で売れ残ってる席だったら、それがS席でもA席でも10ユーロで買える。

ベルリンフィルを聴きに、1時間半前にホールにいった。
ちなみに、家から歩いていった。
そしたらすでに学生たちがすでに列をつくってチケット売り場はごった返していた。さすがベルリンフィルだねなんて思って、まあ売り切れたらまた歩いて家に帰ってご飯作って食べようなんて思いながら列の最後尾についた。
立派なダブルのスーツをお召しになった紳士が、列の誰かに声をかけようとしてる・・・と思ってたらすぐに、

「きみは、音楽の学生?」

と、声をかけられた。
はい。と言うと、
「妻のチケットがある。今日彼女は聴けない。きみにこのチケットをあげる。」

それは、なんと115ユーロのチケット!!!!

「それは・・・なんて親切な!!!ありがとうございます!!!」
「なぜなら、きみが学生だから。いいんだよ全然。」


私、実はこれ3回目ぐらいなのだ。
バンベルク響を同じホールで聴いたとき。
すでにがらんとした当日券売り場に開演15分前にダッシュでかけこんだら、ちょうど同じタイミングで燕尾を着た男の人がひとり、その人も猛ダッシュでやってきた。出演者?と一瞬思ったけど無視して学生券窓口に一歩踏み出したら、彼はそれを見て声をかけてきた。
「学生?」
まだドイツの世間に慣れてなかった私は、その人をダフ屋だとしか思えなくて、
一瞬逃げ腰になった。言葉もわからんし、何か困ったことになったらいやだ。
そしたら彼は汗をかきながら、
「いいか。これはきみにとっての大きなチャンスだ。不用になった招待券がここに1枚ある。これできみは、この窓口でチケットを買わなくてもいいんだ。わかるか?」
と、ゆっくり丁寧に言ってくれた。

彼のことを変な目で見たことを反省する暇も与えず、彼は私にチケットを渡して、
「じゃ、楽しんで!!」と言って走っていってしまった。
なんとかぎりぎり「ありがとう!」を一回言うのが精一杯だった。

あとから考えたら、あんなに本番前ぎりぎりの時間に、わざわざそのためだけに表に出てきてくれたのだと、やっと分かった。
招待券、余っちゃった!学生にあげよう!とパッと出てきてくれたのだ。
ダッシュで戻って5分後には舞台で音を出しているのだ。


数日前に、テレビで「ベルリンフィルの12人のチェロ」をライブで見た。
このチェロアンサンブルの30周年記念コンサートだった。
コンサートはすっごく興奮した。ドイツのチェロのレベルは高い高いと言われるけれど、彼らは本当に世界一だ。超一流だ。最高峰だ。すごい!ほんとかっこいい!
メンバー紹介や曲の解説なども自分達でやっていて、しかも同じ人がずっとやるんじゃなく、曲ごとにどんどん交代していく。
マイクを持って、なにも見ないですらすらしゃべれるの、かっこいい。

このコンサートで、すごく印象に残ったことがある。

「このあいだの洪水で、ドレスデンの音大のコントラバス4台がだめになった。
僕達から、コントラバスの学生のための援助を、皆さんにお願いします。」

テレビの画面には、ドレスデンの音大あての口座番号が、さっと出た。

そうだった。ドレスデンのオペラハウスのコントラバスがすべて粗大ゴミ行きになったという話は聞いていた。衣装や舞台装置も全て。
しかし、言われるまで気づかなかったけど、でも、そのとおりだ。学校にももちろんコントラバスがあったはずだ。
被害にあった学生に目を向け、学生の気持ちを第一に思いやり、すぐに行動に移したのだ。なんて立派なんだろう。影響力のある人が行動してくれることはとてもうれしいことだ。
なんだか、じーんとした。


  
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