TOI,TOI,TOI!


2002年06月20日(木) 口唇口蓋裂

『口唇口蓋裂』

私は、生まれつきの障害を持ってこの世に生まれてきたのだという。
25年目にして、私は本当のことを知った。

親が私に何かを隠しているということは分かっていた。
父親によると、「思春期の情緒不安定な時期に言うべきではない」
との判断で、私には黙っていたそうだ。

この手術痕の傷、少し歪んだ口と鼻。
私はずっとこの顔と付き合ってきた。
もちろん大きなコンプレックスだった。
小学校の時はよく男子にからかわれた。
「それどうしたの?」と聞かれても、本人が知らないのだから答えられない。
ストレスがたまっていった。
私は、本当の事を知るのが怖くもあったが、同時に本当のことをすごく知りたかった。
原因がどこにあるのか、知りたかった。

父親がやっと打ち明けてくれたとき、私はいろんな感情が一気に膨れ上がり、パニック状態だった。が、すぐにインターネットであちこちのサイトを見て、この病気のことを詳しく知ることができた。

まず、この病気は、病気というより奇形である。
簡単に言うと、妊娠初期の段階で、人間の形が形作られるとき、何らかの理由でそこだけくっつかないために起こる障害だそうだ。
上唇が兎のように裂けて生まれてくるため、兎唇、などとも言う。
乳幼児期に成形手術をし、成長に合わせてあと数回の手術をする。
原因は不明。
不明である以上、母親に責任はない、といえる。
日本人では、500人に一人の割合でこの障害を持った赤ちゃんが生まれている。
おっぱいが飲めない、言葉の発音がうまくできない、歯並びはめちゃくちゃ、中耳炎になりやすい、などのえいきょうがあるが、一番の問題はやはり審美的問題である。
などと、あちこちのページに書いてあった。

私は、「黙っていよう」と判断した自分の両親を責めるつもりはない。
それも一つの選択だったと思う。
その上で、私が今考えていることをここに書きたいと思う。

今までの25年間を振り返り、もし私が障害を持った子供を授かったらどうするか、と考えた。
私は、物心ついたときから、子供に分かるように説明してあげたいと思っている。
本当のことを知らないと、いじめられたり、悩んだりしたときに、耐えたり立ち直ったりするための支えになるものが何もない。なんだか自分ひとりで孤独に立ち向かっているような気分になる。
「ほかにも同じことで悩んでいる人は500人に一人いるのよ」
といってもらえたら、子供はかなり救われるはずだ。
そして、母親が原因ではないということをはっきりさせることで、親子の関係もいくらかはうまくいくような気もする。
一人ではなく家族みんなでこの病気と向き合っているという実感があれば、子供は安心すると思う。

私がこの25年間この病気のことを知る機会がなかったように、この病気のことを知る人は少なすぎると思う。
世界中の親たちがもしこのような子供を授かっても、できるだけオープンな状態で、治療や世間の目にたちむかえる世の中になるように、この病気のことを多くの人に知ってもらいたいと思って、このような個人的なことをここに書かせてもらいました。

私は小さい頃、いつも歌っていたそうです。歌はすぐ覚えるし、音楽が好きそうだった。生まれつき障害を持った私に、これだけは人に負けないというものを身につけさせようと、親は私にバイオリンをやらせたのだそうです。

私はもしかしたら500分の1の確率でバイオリンをやっているのかもしれません。
それを考えたら、私がこの世に生まれたのも、もっとすごい確率なのだった、と思いました。
私がここドイツでバイオリンを弾いていることは、ものすごい偶然が重なってるのだ、と思いました。
最近人間関係で悩んでいたのですが、その人との出会いもものすごい偶然が重なっているのだ。と思いました。

この全ての偶然に、今、心から感謝をしています。



  
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