かれの考えによると、人間はある目的をもって、生れたものではなかった。これと反対に、生れた人間に、初めてある目的ができて来るのであった。最初から客観的にある目的をこしらえて、それを人間に付着するのは、その人間の自由な活動を、すでに生れるときに奪ったと同じことになる。だから人間の目的は、生れた本人が、本人自身につくったものでなければならない。けれども、いかに本人でも、これを随意につくることはできない。自己存在の目的は、自己存在の経緯が、すでにこれを天下に向って発表したと同様だからである。
『それから』 夏目漱石
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