原案帳#20(since 1973-) by会津里花
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2004年06月21日(月) わたしの被害者性

わたしは、かつて自分が「被害者」だったことがあるのを
今自分で思っているよりももっとしっかりと
受け止めなければならない。
そのことを忘れて、心に染み込むまで何度も繰り返された「被害」を
「あんなことは大したことじゃなかったんだ」と思ってしまったら
わたしが加害者になってしまう。

本当の意味で自分を大切にする、ということ。
それは、上に述べたような、こういうことなのだ。

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世間では割と最近まで「良いこと」とされていた「男らしさ」の中に
このことを阻害する要素があった。
「男はちょっとやそっとのことで文句を言うものではない」
……ん? ちょっと待った。
「女らしさ」の中にもあったじゃないか。
「女のくせに文句ばかり言うのははしたない(黙って男に従え)」

このように、いわゆる「ステレオタイプジェンダー(悪い意味でパターン化された『男/女らしさ』)」は
とても恣意的で、矛盾に満ちている。
もちろん、ある志向性を軸にとれば、そんなもの矛盾でもなんでもないし、
恣意的ではなくとても合目的的だ。
しかし、それは人と人とが共感し、理解しあうことを志向しているわけではない。
それは決して人が人として安心・安全・自信をもって生きていくこと(=しあわせ?)を
目指すものでもない。

「ある志向性」とは……
今、わたしはそれを言葉で言い表すことができない。
とても陳腐な言い方しかできないだろうから。
ただ、とても象徴的だけど、こんな形容はできるかもしれない。
「抑圧支配と戦争と死への志向性」

日本は、たまたま過去60年ほどの間、直接戦争に参加することがなかった。
けれども、その前までやっていた、とても歪んだ「戦争の道」によって
とても歪んだ志向性を社会に植え付けてしまっていた。
たとえ戦争なんかもうとっくに終わっていて
そんなことはよく知らない国の出来事でしかない、と思っているような人でも
過去の亡霊に脅かされ、それに踊らされ、暴力を容認する生き方を強いられている。

特に多くの企業は、今でもその組織のあり方に支配と戦争と死のにおいをぷんぷんとさせている。
上の例で言えば、「男らしさ」も「女らしさ」も、要するに文句を言わずに黙って従え、という価値観だ。
それは戦場での価値観に等しい。
戦場では、どのように殺し、どのように殺されるかということが常にその場での最大の関心事であり、
そのためには個人の意思や感情などは滅殺して組織の一部になりきり、
美しい形式の一部となって殺し殺されることが最善なのだ。
そのためには、文句など言わずに上の指示に従うことが「善」なのだ。
そうして、従わずにその形式を乱すことは「悪」なのだ。
(こういうヒステリックな「善悪」の「白黒思考」が顔を覗かせるのも
戦争という陰惨な嗜癖のもつ異常性のあらわれ、と言えるだろう)

わたし自身、企業社会の中に十数年浸っているうちに、
父親から植え付けられた暴力性を外から見えないところで爆発させる
陰湿な「男」に成り下がっていた。
わたしは父親からさんざん言葉でいじめ抜かれていたので
他ならぬ自分の家族に対して、同じように言葉で傷つけるように
なってしまっていた。
わたしは、そういう自分がもう許せなくなってしまった。
「無理して男になろうとしているのに、なったらこんなに醜い存在になってしまうのか」と。
こんな割に合わないことはない、と思った。
人を傷つけてまで、無理して偽りの自分を演じているのはもう嫌だ。
そんなふうに思ったから、わたしは女に戻った。
本当の自分を取り戻したのだ。
(それはもしかしたら、ただ単にステレオタイプジェンダーの「男らしさ」を
脱ぎ捨てただけだったのかもしれないが)

さいわい、女の自分を取り戻してからは、
実社会では今までのような暴力性を発揮してしまうことはなくなった。

けれども、ネット上で、時々父親からされたのと同じように
今また言葉でいじめられている、と感じてしまうと
同じ手段で対抗しようとしてしまうところがある。

いじめられるのは、あくまで「被害」なのだ。
わたしはそれに対して戦いを挑んだりせずに、
ただ黙って逃げればいいのだ。
反撃なんかしたら、「加害者」である相手によけいに付け入る隙を与えてしまうだけなのだ。
「おまえが加害者じゃないか」と言わせることになってしまうのだ。
そうして、わたしはもっともっと傷つけられ、もっともっと苦しみ、
そうして、もっともっと暴れまわるようになってしまうだろう。
やのかおな」になってしまう。

わたしは、自分の被害者性を、もっともっと大切にしなければならない。
いや、自分の被害者性を自覚して、
これ以上自分から「飛んで火に入る夏の虫」になんかなってしまうことがないように
慎重に振舞わなければならないのだ。

それが、自分の被害者性ゆえに「加害者」に転化してしまう、という最も惨めなことを
未然に防ぐために最も必要なことだ。


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