こしおれ文々(吉田ぶんしょう)

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2007年11月04日(日) 吉田サスペンス劇場【夏美】 第8話『大学生が殺された日その� �


吉田サスペンス劇場【夏美】 第8話『大学生が殺された日その� �


それはもちろん悪い夢なんかではなく
決して逃れられない現実だった


今日私は人を殺した。



ふと気づけば
彼の後頭部から流れ出した血は私の足元まで広がっていた。
私にはその血液が津波が迫っているように見え
逃げようとしても体が言うことを聞かず
2、3歩たじろぐだけだった。

手にはまだあの鈍い感触が残っていた。
彼に言われた一言に逆上し
思わずそばにあったバットを手に取り、彼の頭に振り下ろした。
私に背を向け
ケラケラと品のない声で笑っていた彼はそのまま横に倒れ、
スリッパで叩かれたゴキブリのように少しの間体をヒクヒクとさせたが、
時期に動かなくなった。


『逃げて。この部屋にある私の指紋をすべて拭き取って逃げるの。
 私と彼をつなげるものはないの。
 逃げればきっと誰にもバレずに済むから』

動揺する私に冷静な私が逃げろと言う。

下着のままだった私は自分の服を着て、
凶器となったバットはもちろん、
自分が触った家のモノから指紋を拭き取り、
布団の上やベッドのまわりにある自分の髪の毛を拾い
ティッシュにくるんだ。

最初は動揺していたが髪の毛を拾っている頃には
思った以上に落ち着いている自分がいた。


『大丈夫。私と彼の関係がわかる訳ない。』

自分にそう言い聞かし、
洗面台の鏡でボサボサな髪をクシでとかした。

最後に、彼がゴミ箱に捨てたコンドームを取り出し、
またティッシュにくるんで、
髪の毛をくるんだティッシュとともにバッグに入れた。

私は玄関の扉を開け、外に誰もいないことを確認すると、
彼の部屋から出てエレベーターを使わずに階段で一階まで降りた。

そして平静を装いつつ足早に駅へ向かって歩き出した。

ホームで5分待ち、
到着した電車に乗り込むと30分程度でいつもの駅に着いた。

駅前にあるいつものスーパーで買い物し、
いつもの道を通って自宅へと向かう。
途中バッグから丸められたティッシュを取り出し
コンビニの自動ドアの横にあるゴミ箱に放り投げた。


自宅に到着し玄関を開けたとき、子供が私に笑顔で駆け寄る。
『ママ、おかえり』

その屈託のない笑顔を見たとき暖かい安堵感に包まれ、
今日私が背負った大きな罪が少し軽くなった気がした。


きっとバレやしない。
いいえ。この子のためにもバレるわけにはいかない。
きっとあれは悪い夢。私はいつもの生活に戻ったの。


そう言い聞かし、子供と戯れながら、買い物した荷物を片手に台所へ向かった。


でもそれはもちろん悪い夢なんかではなく
決して逃れられない現実。


今日私が人殺しとなった現実。


管理人:吉田むらさき

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