追憶と忘却と回帰


2003年05月12日(月) ☆「天才」と「いい子」と「脱落者」のなれの果て

「あの頃だったらできたのに。」
「あの頃の能力があればよかったのに。」

「・・・あの頃に、もっと努力してればよかったのに!」








なんでもできた。

英語をしゃべらせれば一般中学生以上のレベル、
テストは常に100点満点、いや、それ以上の回答をはじき出す。
楽器を触らせれば、すべてをこなし、
ひとたび踊れば人だかり。
教師からは信頼され、
情報網もその年齢とは思えないほど。
「宇宙の誕生」「核融合の仕組み」なんかを淡々と語りだす。
それだけじゃない。
休み時間になれば、一センチ四方の折り紙から見事に鶴を4匹折ってみせたり、魔法のように友人の要望にこたえて亀や蛙、バラやタンポポを折ってみせる。
下手をすれば、人の心の中を読んでいたり、
ケタはずれの霊能力があったり。
催眠術なんて、朝飯前だった。
注意深くテレビや映画を見ていれば、彼女の姿は見て取れる。
(もっとも、体育だけは苦手であったが。)

誰もが「天才」だと口をそろえた。
名前さえ言えば、「ああ、あの頭のいい子?」と、認識されていた。


そんな小学校2年生が、この世に実在した。




そして彼女は、

努力を知らない子でもあったのだ。




夢はたくさんあった。

学者になりたい。
宇宙飛行士になりたい。
ピアニストになりたい。
音楽家になりたい。
画家になりたい。
作家になりたい。
声優になりたい。
教師になりたい。
医者になりたい。



・・・簡単なことだと思っていた。
どれを選んでも、簡単になれると思っていた。
いや、あの頃なら、なれたのだろう。
どれにでも。
確実に。

・・・確実に・・・。








努力はしなかった。


ただし、苦労はした。


母親がスパルタだった。それだけなのだ。
その恐怖ゆえに、彼女は「いい子」でいようとした。
母親恐怖症になってまで。


平日に友達と遊んだ記憶など無い。
それどころか、彼女の周りの人間は徹底的に排除しようとする親だった。




数年後に事件は起きた。

母親が、彼女のほとんど唯一の友人の親に、電話をしたのだ。
「うちの子が馬鹿になるので、お宅の子と遊ばせないでください。」






彼女の周りからは、友達は完全に消えた。






それと同時に。


彼女は、すべての能力と夢を、放棄した。
すべてを嫌々行った。

そして、ちゃぶ台をひっくり返すように、泣きわめいた。


「もう嫌だ、もう嫌だ」と。


努力もしないで手に入れた能力も名声も夢も、すべてが消えていった。
すべてを嫌々行ったがゆえに。
すべてを趣味のレベルに落としたがゆえに。
そして、過去を見ようとしなくなったがゆえに。


彼女は完全に「脱落者」となった。


今でも友人は言う。
「博学だね」
「なんでもできるね」
「凄いね」
・・・そんなんじゃない。

ただの、すべてが中途半端な「負け犬」なんだよ。



「天才」「いい子」「脱落者」のなれの果て、「負け犬」

それが、僕。


ここに来て、またすがり付こうとしてる。
過去の栄光に。
ありもしない能力に。
そして、見えもしない希望に。








「あの頃だったらできたのに。」
「あの頃の能力があればよかったのに。」

「・・・あの頃に、もっと努力してればよかったのに!」







今日のBGM>ストロベリージャム 希望峰









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ああ、そうだ、その「ほとんど唯一の友人」と、こないだ電気屋で会いました。
それで、少しお話しました。
声優の専門学校に進んだそうです。
そいつは、小学生のころから「声優になりたい!」って言ってた。
凄いな・・・。


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水無月 水姫 [MAIL] [HOMEPAGE]
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