夜中に、怖い夢を見たと言って泣きながら電話を掛けてくる。
　「大丈夫？」と聞くと大丈夫と答える。
　「どんな夢を見たの？」と聞くと忘れた、と答える。
　沈黙が続く。
　「どんな夢を見たの？」と聞くと今度は夢なんて見てない、と答える。
　沈黙が続く。
　「怒ってる？」と聞かれる。
　怒ってないので「怒ってない」と答える。
　「怒ってる？」「怒ってない。」これが30分は続いた。
　怒ってない私は、少し笑った。
　私は何も怒ってないのに、と。
　よいしょ、という小さな言葉に、と。
　「傷付いた」と言われて電話が切れた。

　貴方は私に何を言って欲しかったのでしょう。

　一回だけ、電話を掛けてみましたが切られました。
　私何かしましたか。
　貴方の恐れに優しく語りかけこうなったのなら、
　わざわざ貴方の為に怒るべきだったのでしょうか。
　理由も無く。
　「怒らないで」と怯える貴方を、怒鳴りつければ満足でしたか。
　私は唯、優しく「大丈夫？」と聞き、
　優しく「可愛いね」と言った。

　もう電話は掛けません。

さくま