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2004年06月19日(土) |
目の前にワイパーがほしい。
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姉さん、事件です。 18日の夕方、 うちのゴン(シーズー)が紀州犬に襲われました。 母が散歩中、放し飼いの紀州犬に襲われました。 右目を失いそうです。 紀州犬は母の後ろから覆い被さるようにして襲いかかり、母も転んで体を打った。 飼い主は、リードを付けないで散歩させていたのだ。 飼い主は相当離れたところを歩いていたので、現場を目撃すらしていない。 飼い主のおばさんは「うちの犬は人を襲わない」と言って、謝りもしなかった。 ゴンの真っ赤に飛び出てしまった目を見て、母は その人に怒って、名乗るように迫ったが、 「越してきたばかりで」と交わされ、 ゴンの目のひどさに一刻も早く病院へ連れて行かねばと うちの名前と家の場所を教えて、去ってしまった。 「明日の午前中に伺います」というその飼い主の言葉を信じて。
そのとき、ワタシは仕事中だった。 7時前に母からのメールで事件を知り、 慌てて帰宅して、その一部始終を知ったのだ。 動物病院で母は、ケガの状態が相当ひどいことを知らされ、 たぶん失明してしまうだろうと言われた。 ゴンは出血がひどすぎて検査もできない状態で、 白目と黒目もわからないくらい真っ赤で眼球が飛び出していたそうだ。 抗生物質と注射で炎症を抑えて、どこまで回復できるかを待つことしかできないらしい。 もちろん、今夜は入院させるしかなかった。 ワタシは朝会ったきり、ゴンに会えていない。 仕事へ行くときに、玄関まで見送りに来てくれたような気もするし、 どこかで遊んでいたような気もするし、 ほんとにごくごく普通の一日の始まりで、 不思議なくらいゴンの記憶がない。 こんなことになるなんて誰が予測できたか。
どこの誰かもわからぬまま、 リードから放して散歩させるなんて!と 悔しくて悔しくて、 精神的にも肉体的にも衰弱しきった母が 唯一の頼みの綱だったのが、 襲われた後に、その飼い主が黒ラブを散歩していた女性と話していたのを目撃したこと。 その夜、ワタシと母は、心当たりのある黒ラブの飼い主の家へ聞き込みに出かけた。 しかし、散歩をさせていた当人がおらず、詳しいことを聞き出せなかったのだが、 後で電話をくれるとのことだった。 しばらくして、黒ラブの飼い主から電話があったが、 この件に関わりたくないようで、 電話をしてきたのは当人ではなく、 紀州犬の飼い主のことは見かけるだけで名前も住所も知らないと言うことだった。 とりあえず、一晩待って、明日の午前中、その飼い主が現れることを願うしかなかった。 しかし、このことを知人に相談すると、皆口を揃えて、 普通はケガをさせた飼い主がその場で病院へ連れていくはずだし、 まず、名乗るはずだと言う。 「うちの犬はそんなことしません!」と認めないなんて信じられないと言う。 せめて、「うちの犬が何かしましたか?」と言うのが普通なのだ。 そして、薦められたように警察へ被害届けを出すことを決意した。
土曜日の午前中、父が病院へ行くことになった。 飼い主が家へ尋ねてくるかもしれないので、家には妹が待機していた。 しかし、ワタシが英会話から帰ってくると、家には誰も尋ねて来なかったと言うし、 病院から帰って来た父も相当ショックを受けていた。 しばらく入院させなければならないほど重症だったのだ。 ワタシとしては、もしかしたら一晩で家へ返してもらえるかもしれない、 なんて甘い考えもあったのだが かなり長期的に診ていかねばならない深刻な事実を知らされた。 「ただいま」と言っても、ゴンがいない。 ふと床を見てもゴンがいない。 ペットを、犬を飼っている人にしかこの気持ちはわからないだろう。 犬だって家族なのだ。 わたしたちにとって、人間となんら変わりない家族なのだ。 加害者も現れない。 わたしたちはどうしたらよいのか。 同じ犬を飼っている人間ならば、こちらの気持ちがわからないはずないだろう? 悔しさと怒りで気が狂いそうだった。 とにかく、被害届だけは警察に出すことにして、 こうなったらもう自分たちの足で探すしかなかった。
わたしたち家族はそれぞれエリアに分かれて、 同じ散歩コースに連れて来そうなエリアの家を一軒一軒尋ねて回った。 炎天下の中、汗だくで、散歩中の人や、犬のシールのある家を尋ねて歩いた。 皆親身に話を聞いてくれたが、なかなか有力情報を得ることはできない。 その都度、携帯で家族同士で連絡を取りながら皆で歩いて聞き込みをした。 諦めかけたワタシと母が最後に落ち合って、 この家を尋ねたら今日は諦めよう、と尋ねた家でまさかの奇跡が起こった。
「白くて大きな紀州犬のような犬を飼っている家がこの先にありますよ」
その言葉だけを頼りに、教えてもらった家を探し当てた。 しかし、チャイムを鳴らしても誰も出てこない。 表札もなく、犬のシールも貼っていないし、庭に犬小屋もない。 本当にこの家でよいのだろうか?と 隣の家を尋ねると、相当警戒されたが 紀州犬を飼っていること、 1年くらい前に引っ越して来た人だということと、 中年の女の人がいるということ、 該当する情報を全部得ることが出来たのである。 わたしたちは確信し、再度出直すことにした。
1時間後、今度は父と母がその家に向かった。 わたしと妹はその家であってくれ!と自宅で願うだけだ。 しばらくして、両親が戻って来た。 その興奮した様子に、まさか!
「あの家だった!」
母の執念だった。 家族の執念で犯人を探し出したのだ。 とにかく責任の所在がはっきりしたことでホッとしたが、 どんなに相手を責めたところで、ゴンは元には戻れない。 そのことだけが重くのしかかった。
しかし、その加害者のことを聞けば聞くほど怒りでいっぱいになる。 まず、その女性は夫にひとことも話していなかったということ。 夫にひどく怒られて泣いていたというのだが、 「だって紐から逃げちゃったんだもの・・・」などと言い訳をした。 彼女はいつも放し飼いで散歩をさせている人なのだ。 さも逃げてしまって仕方なかったような言い方をしたことに腹が立ってならない。 「午前中に家へ来ていただけるんじゃなかったのですか」と母が言えば 「急用ができてしまったので、これから伺うところだった」なんて! 急用なんて見え透いたことを!犬を散歩させていたに決まっている! だってさっき尋ねたときにいなかった犬がこのときいたんだもの! 嘘つくのもいい加減にしろ!なんという調子の良さだろう。 さらに「あの後、急いで追いかけたけど、 奥さん(うちの母)が慌てて帰ってしまったので・・・」なんて! 謝罪する気持ちがあったら、当日のうちになんらかの形で連絡してくるだろう? うちの名前と住所を教えたのに、なにも、電話1本もよこさなかったじゃないか。 だいたい、その場で謝罪もしない人だったのだから。 犬を飼っているのに犬のシールを貼っていないというのも 狂犬病の予防接種をしていないのか?保健所に届けていないのか? ずいぶんな家だと思う。 とにかく納得いかないことばかりだったが、 警察から感情的にならずに話し合いを付けるようにと言われていたので とりあえずいっしょに動物病院へ行ってもらい、 獣医さんからケガの説明を聞いてもらうことにした。 夕方、家族で面会に行く予定だったので、加害者と病院で落ち合うことになった。
病院へ着くと、先に加害者夫妻が到着していた。 わたしは煮えたぎる気持ちを抑えながら、 なにより、ゴンが心配だったので、とにかくゴンの顔を見たい気持ちでいっぱいだった。 ケガをしたゴンに一度も会っていなかったので 両親から聞く痛々しさに耐えられるか心配だったが、 いつもの担当の獣医さんが診察台にゴンを連れて来た瞬間、 「ゴン!」と声にならなず、涙が溢れてきた。 その痛々しさはもちろん、 それでも頑張って家族に喜ぶゴンが愛しくてたまらなかった。 ワタシの想像以上にケガはひどかったのだ。 獣医さんも相当ショックを受けていて悲しそうに、その症状を説明してくれた。 角膜が切れて出血がひどく、内側の膜まで切れているので まず、抗生物質と注射で炎症を止めなければならないこと、 炎症が止まってからの検査で 視力の回復がどこまでできるかわからないということ、 失明は免れても、ほとんど見えないだろうということ、 炎症が治っても、もう白目には戻れないということ、 つまり、出血した赤い目のままだということ、 白目に戻るとしても、相当長期的に(年単位)治療していかねばならないこと。 左目の2倍近くに腫れ上がり、飛び出てしまっている真っ赤な右目を この加害者はどう受け止めているのだろうか。 悔しくて悔しくて、 あなたがリードを付けてくれさえすればこんなことにならなかったのに!と 泣き叫びたい気持ちだった。 その夫婦は一通りの説明を聞き、謝罪して治療費を持つことを約束して帰った。 みんな悔しくてたまらなかったけれど、治療費の請求に揉めたくなかったので 精一杯穏便に運んだつもりだ。 夜8時までの面会時間中、家族で代わる代わるゴンを抱き、 大好きなおやつをあげてギリギリまでいっしょにいた。 体が元気なのが救いだったが、 そのあまりに変わり果てた痛々しい顔にほんとに涙が止まらなかった。 できることならいっしょに泊まっていってあげたいくらいだ。 帰り際に、院長先生からも話があり、 時間はかかるけれど、どこまで回復するか誠意を尽くしてくれるというので 少し安心した。 院長先生の話によると、紀州犬は大人しそうな顔をしているけれど気性は荒いらしい。 だからうちの母の方が大事に至らなくてほんとによかった、と言ってくれた。 そう聞くと、ゴンが助けてくれたんだって、ますます涙が止まらなくなる。 面会は何度も来て構わないということなので 明日もまた会いに行くよ。 別れが悲しいけれど、病院で安全で居てくれることがいちばんあのコのためになるのだ。 小さい体で頑張って生きているゴンを見て しっかりしなければと思い直した。
それにしても、ひどい話でしょう? リードなしで散歩させることは明らかに法律違反なのだ。 それも謝りもせずに、うちが犯人を突き止めなければ逃げようって魂胆。 そんな人間に犬を飼う資格はない! ましてやあんなに大きな紀州犬を、いくら大人しくて人を襲わないからって リードなしで歩かせるか? 何か起これば、飼い主は口を揃えて言う。 「うちの犬は噛みつきません。」「襲いません。」「じゃれてるだけです。」 でも実際、犬に襲われたのだ。 それを目撃すらできない場所に飼い主がいるって、放し飼いの限度にもほどがある。 たとえ、その犬に襲うつもりがなくじゃれてるだけだとしても、 その大きな爪で目を引っかけられたうちの犬は、失明しそうなんだよ! 母も背中に覆い被さるようにして襲われたのだ、 首を噛まれたら、 頸動脈を切られたら即死だ。 ゾッとする。 犬好きに悪い人はいない、が信条だったけれど そんな甘い世の中ではないのが現実だ。
家族にとっては、「犬」も家族。 一軒一軒聞き込みをして、本当に 犯人のわからない事件の被害者の気持ちが痛いほどわかった。 犬だったからよかった、なんて言いたくないけれど、 これが人間だったら・・・と思うと。 ひき逃げとか、まさにこういう気持ちなのだろう。 犯人を探そうと家族が必死でビラと配ったり、 呼びかけたりしている映像を目にすることがあるが 今回のわたしたちがまさにそれだった。 とにかく悔しい、犯人をのうのうと暮らさせてたまるか!という気持ちだけで 動いていた気がする。 ほんとに、被害者になってみないとわからない気持ちがあるのだ。 他人が思うよりずっと、犯人を憎んで憎んで恨み続けて許すことができない。 守りたいものを壊された家族の気持ちの強さは、 同じ境遇に置かれなければ到底わからないものだ。
ゴンの目は回復しても元のようには戻らない。 右目の視力はほとんど失う。 見た目だって、白目が真っ赤なままになってしまう。 それでもゴンは生きてゆく。 命には何ら別状はなく、炎症が治まれば、今までの生活が待っている。 障害を抱えながらも一生懸命生きてゆかねばならないのだ。 ゴンといっしょに、ワタシも。
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