申し込んだバイトの登録番号が「174」で、静かに喜びを噛み締めているTALK-Gですこんばんは。 突然話は変わりますが、10月31日〜11月2日の三日間(正確には3日までの四日間なのですが、私の所属する夜間部の出店期間は2日までだったので)、私の通っている大学で学園祭があったのです。 で、その最終日、店をたたんで始末をした後に、特設ステージでの「閉会式」と「乱舞」というものがありまして。 「閉会式」はその名の通り、学園祭無事に終わってよかったね、協力してくれた皆様ありがとう、みたいなアレなのですが、それでは「乱舞」とは何かと申しますと。 夜間部のクラブの中でも、文化会・体育会・学術研究会といったカテゴリから独立している「応援団」の「発表会」でして。 言ってみれば体育祭の「組体操」や「応援合戦」みたいな。 他のクラブの者たちは、それに拍手をしたりぼんやりしたりしつつ、彼らの演舞や演奏を楽しむというものなのですが。 素晴らしい、気合のこもった熱い乱舞を見ながら、ふと思ったのです。 「応援団」という組織は、リューのパロ向きではないだろうかと。 ――――――――――――――――― 晴れて志望していた大学に入学したアレク…… 春のキャンパスで繰り広げられる、各クラブの新入生勧誘で、アレクは従兄のアデュー(三回生)に捕まります。 そのアデューは、前をはだけた黒の長ランに学帽、足には下駄を履き、何だか一昔どころか二昔は前の「番長」みたいないかつい姿です。 思わずびびるアレクに、ずいと迫って言うアデュー。 「応援団に興味ないか?」 アレクはもともと文科系です。体力や腕力もずば抜けているわけではなく、同じ大学に入った双子の姉とは正反対に大人しい……いかにも優しげでおっとりとした「体育以外は優等生」でした。 そんな自分が、応援団? 余りに似合わない組み合わせに慄然とするアレクですが、ちょっと覗くだけで良いからというアデューの言葉に、仕方なくついていくことになりました。 ついていった先は、五階建ての立派な建物。吹き抜けになっていて、上から見ると丁度「ロ」の字型です。 「此処はクラブハウスになっていて、二階が体育会、三階が学術研究系、四階が文科系のテリトリーになってるんだ。で、五階は防音のついた音楽練習所とかが入ってる」 では、一階には何があるのでしょう。 アレクが尋ねると、待ってましたと言わんばかりの笑顔でアデューが回答します。 「一階は、このクラブ全体を纏める執行部や多目的ホール……そして俺達応援団の部室があるんだ」 何でも、この大学に多々あるクラブの中でも、アデューが所属する応援団というのは歴史も実績も規模も桁外れで、別格の扱いを受けているのだそうです。 「うちのクラブが他のクラブより偉い、とかじゃなくてな。 文化、体育、学術研究、そういう枠から外れた場所に存在してるって事なんだよ」 「はあ……」 いまいちよく判っていないアレクでしたが、とりあえず相槌を打っておきました。 それにしても、アデューの言う「応援団」とは、実際どんな組織なのでしょう。 アレクの中の「応援団」というものに対するイメージと、アデューが案内の道すがら語ってくれた「応援団の活動内容」などを擦り合わせてみるにつけ、益々もってアレクには縁遠い世界に思えてきます。 (きっと皆、アデューさんみたいに逞しくて背が高くて熱血で酒豪で豪放磊落で声が大きい猛者ばかりなんだ) はっきり言って自分の様な華奢な男は、其処に座っている事すら出来ないに違いない、と、アレクは半泣きになって、アデューについてきた事を後悔し始めました。 そんなアレクの肩をばんと叩き(お陰で彼は吹っ飛びそうになりました)、「そんな緊張するなよ」と明るく笑っていたアデューでしたが。 不意に、その笑い声がやみました。 「―――――?」 不思議に思ったアレクが咳き込みながらも見上げてみると、彼は前方を見据え、口を引き結んで眉根を寄せています。 「どうしたんですか、アデューさ……」 言いながら彼の見やる方向へと視線を向けたアレクは、思わず「ヒッ」と息を呑み、その場に硬直しました。 見えたのは、檜の表札に墨黒々と書かれた「ヴァニール大學應援團」の文字。 それが掲げられた、閉ざされたドアの所に立つ一人の男――――― 黒い髪に黒い肌、一分の隙も無い詰襟長ラン革靴姿の、身長210はあるのではないかと言うとんでもない偉丈夫。 「…………シュテル」 苦々しいアデューの呟きが聞こえたのかそうでないのか、鋭すぎる面立ちのその男は、黒で固められたその身の内で唯一異彩を放つ、火の様な真紅の眼をこちらに向けています。 暫しの沈黙の後、アデューは彼に言いました。 「……シュテル、お前そんな所で何突っ立ってんだ」 低い声。アレクが聞いた事も無いような、ドスの効いた声です。 それにシュテルという男は、唇の端を歪めて見せました。 「己は己の役目を実行しているのみ。 ふらふらと遊び歩いている貴様にとやかく言われる筋合いは無い」 これまた腹に響くような低い声。……はっきり言って怖すぎます。 周囲に流れる険悪な雰囲気から一刻も早く逃げ出さんと、アレクは回れ右をしましたが。 「はん、遊び歩いてなんていねえよ。新人勧誘してたんだよ、団長に言われた通りな」 アデューの声と共に、その肩をがっしりと掴まれました。逃亡失敗です。 「新人勧誘……?」 「そう、こいつだ」 ぐいと前に押し出されるアレク。シュテルの視線をもろに受け、彼は今にも失神せんばかりに緊張しています。 「貴方は……見学希望者か?」 こんな男に低く言われて、どうして「違います、帰らせて下さい」等と言えるでしょう。アレクは涙目でこくこくと頷きました。 「俺の従弟で、アレクって言うんだ。新一回生さ」 「アレク……」 何か思い当たる節でもあるのか、シュテルは刃物の様な目を微かに眇めました。 が、すぐに元の表情に戻り、 「ようこそ、応援団本部へ。歓迎します」 と、軽く頭を下げました。アレクは、頭を下げられている自分こそが見下ろされているような錯覚に陥り、そのプレッシャーに益々目を潤ませました。 (も、もう、さっさと見学を済ませて、何か理由をつけて帰ろう……) そう、固く固く心に誓うアレクをよそに、アデューは「団長は?」などとシュテルに尋ねています。 「団長は只今お休み中だ。来客があったら起こせと、そう仰られた」 「何、お休み中だと?!」 シュテルの返答に、拳を握り締めるアデュー。 「俺には外回りをさせといて、自分は優雅にお昼寝ぇ?! 許せん!俺が起こしてくる!!」 そう言ってドアに向かいますが、瞬間。 「―――――団長を目覚めさせるのは、このシュテルの役目だ。 貴様は外で待て」 肩で阻まれた上にドアノブに伸ばした手を掴まれ、アデューはぎりぎりと歯軋りしました。 「シュテル……お前、俺に何か恨みでもあるのか」 「『団長のジュース強奪事件』『団長のお召し物を上掛けにして居眠りをしていた事件』『試験の度に団長にノートと勉強会を強請っている事件』『打ち上げの際に酔っ払って団長を押し倒した事件』など、恨みを上げれば切りが無いが」 「どれもお前には直接関係ねえだろ」 「何を言う!!団長は我が命、団長を侮辱するという事はこのシュテルをも侮辱している事に他ならん!! 大体、貴様の様な下品な男が副団長であるという事自体、納得がいかんのだ!!団長の御傍に侍るのはこのシュテルだけで事足りると言うのに!!!」 「何ぃぃ?!手前、好き放題言いやがって!!ちょっと昔から団長の傍に居たからって、いつまでも自分だけが特別だと思うなよ!!俺だってお前みたいな奴が副団長だっていうのには、前から納得がいかなかったんだ!!副団長は俺一人で十分なんだよ!!!」 「……あ、あのー……」 突然罵り合いを始める大の男二人に、アレクはぽかんとするばかり。 為す術も無く其処に立ち尽くし、今にも殴り合いに発展しそうな二人のやり取りを見上げておりましたが。 カタン、とドアの方から響いた小さな異音に、思わず顔を向けました。 よくよく見れば、ドアノブがゆっくりと回っております。中から誰か出てくるのでしょうか。「副団長」二人はそれに気付いた様子も無く、未だぎゃあぎゃあ言い合っております。 (……誰が出てくるんだろう。ひょっとしてさっき言ってた「団長」?) こんなごつい男二人から、どうやら慕われているらしい「団長」なのですから、きっとそれはもう、雲つくような大男に違いありません。そう、きっと、凄い強くて、凄い怖くて、凄いいかつくて…… アレクが自分の想像にガクガク震えながら、徐々に開きゆくドアを凝視しておりますと。 「―――――騒がしいな、何事だ」 細く開いたドアの向こうから、低い――けれど決して野太くない、澄んだ綺麗な声が響きました。 途端。 「!!」 今の今まで小競り合いをしていた副団長達が、慌てて背筋を伸ばして答えました。 「団長、見学者です。アデュー・ウォルサム副団長の従弟で、新一回生のアレク君だそうです」 「俺が連れてきたんだぜ。入団希望だってさ」 「!ちょ、ちょっと、僕はまだ入部するとは……」 「まあまあ」 流石に慌てて否定しようとするアレクに、アデューはにやりと笑いかけます。 「絶対入団したくなるぜ。うちの『団長』を見たらな」 小声で囁かれ、顎でしゃくって見せられた先。 シュテルが恭しく開くドアから、しなやかな仕草で歩み出てきたのは――――― 「ようこそ、ヴァニール大學應援團へ。 私が團長のガルデンだ」 アレクの想像など及びもつかない美青年。 黒の詰襟に銀の髪が映える、ほっそりとして背の高いその青年は、翠の瞳を抱く切れ長の目を眩しそうに細め、薄い唇を微笑ませてそう言いました。 その微笑に、シュテルはうっとりと見とれ、アデューは少し誇らしげに胸を張り、アレクは愕然としています。 ……まさかまさか、こんなごつい男たちの頂点に立つのが、こんな自分より華奢な人物だとは。 驚きに声も出ないアレクを見やり、ガルデンと名乗った美青年は不思議そうに首を傾げます。 「どうした?ええと、アレク…君。具合でも悪いのか?」 「いっ、いいえ!」 慌てて首を振るアレク。それに彼はまた微笑み、 「そうか、良かった」 言いながら、歩み寄ってきました。 そしてアレクの顔をすっと覗き込みます。 「?」 間近に迫る繊細で優美なつくりの面(おもて)に、アレクはどぎまぎとしながら、翠の目を見返しました。 吸い込まれそうな、深い深い瞳。 全てを見通すような、何も見ていないような……そんな不思議な瞳。 ……ふんわりとシャンプーの良い匂いがします。 「………良い目をしているな」 「は?」 少なからずぼうっとしていたアレクは、ガルデンの言葉に我に返りました。 「温和だが芯の強そうな、良い目をしている。 私は君のような目の者が嫌いじゃない」 「―――――」 ガルデンにとっては特にどうという事も無い意味の言葉なのでしょうが、それでも思わず赤面してしまうアレクです。 ついでに言うと、背中に刺さる強烈な嫉妬の視線が痛いです。 団長殿はそんなアレクの様子や副団長達の形相にも気付かず、ぽんとその肩に手を置きました。……しっとりとして柔らかい手。甘手というやつでしょうか。 「では、早速團内を案内しよう。 リーダー部、バトンチアリーダー部、吹奏楽部の三つのパートに分かれているから、何か興味を引くものがあれば、何時でも言って欲しい。詳しく説明させて貰う」 「は、はい」 言われるまま、導かれるままに、団長の後について行くアレク。 その頼りない一歩が、彼のこれからの大学生活を決定付ける事になるのですが…… 今は未だ、誰もそれに気付いていないのでした。 ――――――――――――――――― で、シュテルは旗手(でかい團旗を掲げ持つ人)、アデューは鼓手(拍子もの・歌ものをリードする太鼓を叩く人)、ガルデンは時に下駄に袴に鉢巻・扇子で舞ったりエールを送ったり、そのド迫力に新入団員のアレクがびびったり、ガルデンに一目惚れしたアレクの姉がバトンチアリーダー部に入ったり、その娘がまた素直で明るくてキュートなものだから諸先輩方(カッツェやイオリといったチアの姉さん方)に可愛がられたり、OBに何故かラーサーが居たり、ライバル校があったり、そのライバル校の「カオスティア大學」の應援團々長キルガインとガルデンの間には少なからぬ因縁があったり、ガルデンを狙う男が團の内外どころか大学内外にもやたらと居たり、そんな男の一人が打ち上げの席で不埒な真似をはたらかんとガルデンにやたら酒を勧めたり、その外見に反してザルでウワバミのガルデンはいくら飲んでもけろりとしていたり、酔ったアデューがガルデンを押し倒したり、途端にシュテルが日本刀を抜いてアデューに襲い掛かったり、その隙をついてアレクの姉がガルデンの隣に座ったり、アレクはアレクで酔い潰れた人達の世話でいっぱいいっぱいだったり、同じように世話をしている苦労性の先輩の名前がサルトビと言ったり、吹奏楽部の部長がグラチェスだったり、副部長がヒッテルだったり、そんな應援團の顧問を務めているのがパッフィーだったり。 どうですか。(どうですかって)
「雷雲でもパソコンでも何でもガルデンだと思えば素晴らしい党」党員のTALK-Gですこんにちは。 長らくお暇を頂いておりましたが、漸くパソコンの状態も安定したので、ピッチを上げて頑張っていこうと思います。 御迷惑をお掛けいたしました。 まずは本日の更新。 TOP絵更新。「着てるのは去年のコート」です。 必要に迫られてアニメ塗りの練習用に描いたものが、HD整理中にひょっこりと出てきましたので。 アニメ塗りって難しいですね。 ――――― 此処数日は、大学の方で学園祭があったり、遂に「箱入り息子」に再インストールを施したり、オリジナル・ラヴに悶えたりと色々ネタがあったので、雑記の方の穴を埋める形でこそこそと書いていこうと思っております。 それでは、また後程。 ――――― 今朝はリューの夢を見ました。 ここの所、「もう駄目だ、起きていられない」という状態で眠りにつくと、必ずと言って良いほどリューの夢を見ます。 で、どんな夢を見たかというと。 これが案外まともなアデュー対ガルデンという夢で。 この二人がちゃんといつも通りの鎧を着て、赤茶けた荒地のような所で戦っているのです。 剣で切り結ぶ二人。 ガルデンは魔剣、アデューは精霊剣を手にしています。 幾度かの激突の末、アデューの精霊剣が弾き飛ばされました。 「クハハハハ!!」高笑うガルデン。 「アデュー・ウォルサムよ、見たか!!この剣は頂くぞ!!」 そう言って得意満面の彼は、足元に突き刺さったアデューの精霊剣を奪います。 「剣を返して欲しくば、この闇の騎士ガルデンを倒してみるが良い!」 と挑発の言葉まで投げかけ、絶好調です。 が、尻餅をついていたアデューは、ゆっくりと立ち上がると、 「判った、その剣はやるよ」 と、えらくあっさりと頷きます。 「えっ」 思いもかけない反応だったのか、戸惑ったような表情になるガルデンに、アデューは続けます。 「俺さあ、武器屋になるのが夢でさあ…… 騎士を廃業するからその剣、誰か新しい使い手にやろうって、ずっと考えてたんだ」 「あ……」 夢見るような表情のアデューに、ガルデンは何も言えず黙り込みます。 「それじゃあ、その剣、大切にしてくれよ。 頼んだぜ」 爽やかな笑顔を残し、すたすたと歩み去ってしまうアデュー。 ガルデンはアデューの精霊剣を持ったまま、成す術も無くしょんぼりと立ち尽くしておりました。 目が覚めた後、えらい切ない気分になったのですが、これは何を暗示している夢でしょうか。
あのカボチャのランタンは、ハロウィン終了後どうなってしまうのかが何より気になっているTALK-Gです漫画喫茶からこんばんは。 そう、ハロウィンですね、ハロウィン。萌えですね。良いですね。 黒とオレンジを基調にしたキュートなイラストとか描いてみたいですね。 描いてみたかったですよ。 此処はそれを昇華させるべく小話でも。 ――――― *大学教授×女子高生ネタです* 「ただいまー。……ガルデン、まだ帰ってないの? なーんだ」 少々がっかりしながらも、パティは自分の部屋に鞄を放った後、手を洗いに洗面所へと向かった。 ぱたぱたとスリッパを鳴らし、廊下を行く。と、その足音が、キッチンの前でぴたりと止まった。 「……何か良い匂い」 ふんわりと漂ってくる、甘い、香ばしい匂い。 それにつられるようにダイニングキッチンに入ってみると、中央に設えられたテーブルのこれまた中央、真っ白で大きな皿の上に、大きなパイがワンホール丸ごと置いてあった。 「わぁ」 思わず駆け寄り、そのつやつや輝くお菓子を見つめるパティ。 むら無く塗られた卵黄と適度な火の通し方ゆえか、実に実に美しい焼き色のそれからは、パイ生地の香ばしさと、恐らくそのパイ生地の中にたっぷり詰め込まれているであろう果物の甘い香りが、馥郁と漂ってくる。 「アップルパイかも……」 少しシナモンの利いたリンゴの甘煮。とろけるように柔らかくて、それなのに爽やかな歯触りが残っていて。そんな素敵なものをたっぷりと包んだアップルパイは、パティの大好きなお菓子のひとつだ。 が。 「……リンゴだけじゃなさそうなのよね」 パイやリンゴ、シナモンの香りに、ひっそりと加わっている香り。 リンゴよりも更に柔らかくて、ほっこりとした感じの甘い香り。 「何かしら?」 しばらく考えてみるパティだが、どうも思い当たる節が無い。 「………こんな時は」 実際に食べてみるのが一番。 こんな風にワンホールで置いてあるパイを勝手に食べる事に、若干の躊躇いはあったが、そんな事ではこの好奇心は止められない。 そう、好奇心だ、好奇心。中に何が入っているか、それが知りたいだけ。 決してお腹が空いたわけではない。断じて違う。 「ちょっとだけなら良いわよね」 パティはうきうきとナイフを持ってくると、では、と表情を引き締め、パイを小さく……ほんの八分の一程の大きさにカットした。 ざくざく、と小気味良い感触。ほわん、と溢れる湯気。中からとろりと零れそうなリンゴの甘煮。焼きたてのパイでなきゃ味わえない感激。 パティは普段から愛用しているケーキ皿に、急いで八分の一のそれを乗せた。 ……パイの端が少し皿からはみ出しているが、これは別に大きく切り分けすぎたのではない。元のパイが大きかったのだ。 キッチン中に広がる果物と生地とシナモンの香りに、パティはそもそもの「知的好奇心」も忘れ、早速フォークをパイに突き刺した。 「いただきまーす」 三角の先端を口に入れる。と、広がるのは、期待通り、期待以上のリンゴの甘さとパイの香ばしさ、そして――――― 「あ」 パティはようやく、その「リンゴ以外の何か」の正体に気づいた。 かぼちゃだ。 生クリームを加えて丁寧に裏ごしした、カボチャのペースト。 甘煮との二層になった、その上品で優しいほっくりとした甘さが、シナモンの利いたリンゴの甘さと融け合って。 何て魅惑的で、繊細で、懐かしくて、親しみ易い味――――― 気がつくと大きな皿の上のパイは、一欠けらも残さず消えていた。 「何だ、鍵が開いているな」 「この靴は……一足先に帰っておられたとは」 「!!」 気がつけば、玄関の方から声。それも聞こえてくるのは「彼」のものだけではない。 ゆっくりとした足音と共にキッチンに入ってきたのは、此処の家主たるガルデンと、見上げるような黒い偉丈夫…… 「……シュテル!」 「お久し振りです、パティ嬢」 鋭い面立ちのその男は、火のような紅い目を伏せ、慇懃に礼をした。 引き締まったその仕草、頭を下げられている側こそ背筋が伸びてしまいそうな折り目の正しさだが、両手に近所のスーパーの買い物袋を下げている所為で少し可笑しなものがある。 「い、一体どうしたの?シュテルがこっちの方に来るなんて……」 「いえ、ガルデン様に少々お話が御座いまして、不躾ながらお邪魔させて頂いたのですが」 「折角だから少しゆっくりしていって貰おうと思ってな。 ……で、パティ」 同じくスーパーの袋を床に下ろしながら、ガルデンが微笑む。 「制服も脱がずにそんな所で、一体何をしているのだ?」 「!」 素通しの奥の翠眼が一瞬きらりと光ったのに、パティは持っていた皿とフォークを慌てて背に隠した。 「あ、あの、その」 えへへ、と引き攣った笑いを浮かべてみるが、どうも誤魔化しきれていないようだ。 「其処にはパイが一皿、置いてあった筈なのだがな」 「な、何の事?」 「知らないか?」 「知らないわ」 「そうか」 ガルデンは眼鏡をくい、と上げると、少し考えるようにして呟いた。 「何処へ行ってしまったのだろうか……あのブルーベリーパイは……」 「ブルーベリー?嘘!リンゴとカボチャのパイだったわよ」 思わず声を上げるパティ。 ……しまったと口を押さえてももう遅い。 「やっぱりお前か!!!」 「あーん、ごめんなさい〜〜!!」 「つまみ食いだけならともかく、嘘をつくとは何事だ!!」 「だって、叱られると思ったんだもん!」 「当然だ!それに、着替えもせずにこんな所で立ったまま……行儀の悪い!!」 「き、キッチンの前通りかかったら、すごく良い匂いがして、それでつい……」 「……手は洗ったのか?」 「あ」 「………パティ………」 「あっ、あの、そのっ」 「今すぐ洗って来い!!!」 「はっ、はいい!!」 その後、見兼ねたシュテルが止めに入るまでに落ちた雷の数は、二度、三度ではなかったという。 ・ ・ ・ 「……結局あのパイは、御近所さんにお裾分けする分だったのね」 「そうだ。お前のクラスメートやアレクらにもな」 「ごめんなさい……」 「いえ、あの程度のパイ、焼き直せば済むことです」 「……シュテルが作ったの?」 「はい」 「本当にごめんね、折角作ってくれたのに」 「いえ……大した事ではないのです。あの程度ならば、片手間で出来ます故」 「……また焼いてくれる?」 「ええ、勿論」 「じゃあ今度は、ブルーベリーやポテトやバナナキャラメルパイも!」 「……レモンパイやマロンパイも作りましょう」 「……シュテル」 「は、ガルデン様……失礼致しました、差し出た真似を……」 「……私は甘いものが食えんから、ミートパイも作ってくれ」 「………畏まりました」 ――――― 済みません、全然ハロウィンと関係ない話になってしまいました。 でもきっとパティやアデューって、パイとか大好きだと思うのです。 ガルデンも小さい頃は、御母堂やシュテル(?)に作って貰っていたと思うのです。 カボチャとかリンゴとかワイルドベリーとかの素朴な甘いパイを。 そしてそれが過ぎ去りし日の幸せな思い出となっているのです。 ――――― <余談> 「………シュテル」 「何でしょうか、御館様」 「お前、何だか甘い匂いがしないか?バニラや卵やミルクの……」 「……実は、ガルデン様の御宅に御邪魔している間、何度となくパイやらケーキやらを作っておりまして……」 「何と……フフ、さぞやあの子と姫君も喜んでいたであろう」 「己の様な者の作る拙い菓子に、ああまでも賛辞を与えて下さり……恐縮し通しで御座いました」 「そう謙遜するなシュテルよ。……で、私が伝えておいてくれ、と頼んだ事は、あの子の耳に入ったのかな」 「…………」 「…………」 「……行って参ります」 「土産はいつもの酒で良いからな」
俺は24時間営業のネットカフェに来ていた。 あいつは相変わらず家で寝込んでいる。 電源は入るものの、普段の様な長時間のハードワークはおろか少々の作業も覚束ない状態だ。 文章作成なんかは大学のPCでも出来るけれど、其処はネットには繋いでいない為、どうしても此処に来なければならなくなったのだ。 必要な書類をメールで送信した後、サイトをチェックしたり、また文章を打ってみたりする。 処理も表示も早くて、快適で。 けれどどうしてか、しっくりこない。 あいつなら一発で出せる単語が出なかったり、ついあいつの癖に合わせた打ち方をしてミスタイプ処理されたり。 そんな小さな事の連続が、酷く俺を焦らせ、苛立たせた。 「……………」 BackSpaceキーを連打しながら、俺は一人考える。 俺という人間はこんなにも、忍耐力や順応力の無い人間だっただろうか。 あいつとは、三年以上かけて付き合ってきた。 初期メモリ64メガのあいつから初めて教わったのは、他の何でもない、忍耐力。 超低血圧の所為か目覚め(スタート処理)に毎度毎度10分近い時間を掛け、少し油断するとすぐに居眠り(フリーズ)してしまう。 最初は唖然としたもんだが、「これがこいつの個性なんだ」と切り替えて。 こまめに面倒を見てやりながら、俺は俺のやり方で、あいつを俺に合わせ、俺自身をあいつに合わせられるように、努力してきた。 そんな俺が、この最新型の、メモリもCPUも通信速度も段違いのPCに、些細な事で苛立つなんて。 気分転換にめくる雑誌の内容も頭に入らない。 ドリンクバーのジュースも味がしない。 適度に調整された空気の匂いに不安を覚える。 此処は俺の部屋じゃない。 このPCはあいつじゃない。 あいつの代わりにもならない。 俺はタイムスタンプの押された伝票を持って、席を立った。 笑い出したい気分だった。 此処は俺の部屋じゃない、このPCはあいつじゃない、だって? そんな当たり前の事に今まで気づかなかったのか。 ナイトパックの料金プランは、夜の十二時から朝の八時までの使用料を千百円で提供している。 その内の八百円ほどをドブに捨てる計算になるけれど、仕方無い。勉強料だと考えよう。 清算を済ませ、コンビニで夜食とアルコールを買って、俺は帰宅した。 夜道より尚暗い、冷え切った家。 散らかって狭い俺の部屋。 其処で眠り続けるあいつ。 電源を入れると、幾つものエラーメッセージを表示しながらも朦朧と目をあける。 カリカリと響くハードディスクの作動音。 微かなイオンの匂い。 ファンは正常に作動している。 俺はかねてから用意してあったフラッシュメディアを、ゆっくり、負担にならないように挿し込みながら、使う事は無いだろうと思っていたマニュアルの頁を開く。 「購入した時と同じ状態にする――再セットアップ」 ――――――――――――――――― 本当に御迷惑ばかりお掛けしてしまい、申し訳御座いません。
俺のパソコンは正真正銘の純メーカー製、所謂箱入り娘だったのだが、その内臓性能や俺の求めている機能に比べ、バンドルや経験値(メモリ)はあまりに貧弱で、売り場に並んでいた時の女王然とした姿が嘘であった様に、何とも頼りない奴だった。 少し計算をさせては止まり、ファイルを保存させれば壊し、曲を歌わせれば音程を外し、絵を描かせてはちょっとしたフィルタをかけるにも三十分も考え込む。特にものを思い出す(ロードする)のが苦手で、うんうん唸って人を待たせた挙句に、「思い出せない」(読み込みに失敗しました)と呟く。 IE6を何度入れてやろうとしても入らず、レジストリを弄れば悲鳴を上げる。ネットでちょっと画像の多いサイトを続けて見ていると意識を失い(青画面になり)、挙句の果てに食いすぎ(電力過多)で寝込む。 業を煮やした俺は、たっぷりものを教え込めるようにギリギリまで拡張してやったり(メモリを)、重くて多機能のを一本ぶち込むより軽くて機能が少ないモノをたっぷり食わせてやるやり方に変えたり(ソフトを)、しょっちゅう抜き差しするのと入れっ放しなのとどちらが負担がきついのか調べたり(USBプラグを)、色々とやってやったんだけど。 無理が祟ったのか、あいつは熱で倒れてしまった。 今、俺は携帯で、Web上の日記を書いている。 あいつは未だに意識を取り戻さない。この間は放っておいたら治ったんだけど、今度は… あいつは、もう一度、目を覚ましてくれるのだろうか。 ――――― 済みません、掲示板のお返事が遅くなっております。 もう暫しお待ちを!!(平伏) 携帯でも使えるのに変えようかしら。
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