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2002年10月29日(火)
数日前から、ベランダのローズマリーの鉢に、枯れ木色の蟷螂が住み着いている。
最初は本物の枯れ枝だと思ったので、手を近づけた途端に動き出したそれに、かなり驚かされた。
次の日になっても同じ場所にいるので、葉を傷つけられたり卵を産み付けられたりするんじゃないかと、内心やきもきしていた。
三日目になってもまだそこにいたので、なんだか気味が悪くなった。 恐る恐る、いらない割り箸などで突っついてはみたが、此処を去る気はないらしく、煩そうに身じろぎするだけだった。
はやく何処かにいってくれないかな?
いっそのこと、箸で摘み上げて外へ放り出してしまおうか?
そんな事を思いながら割り箸を再度蟷螂に近づける。
そこでふと、手が止まった。
もしもこいつを放り出すとして、その後、この蟷螂はどうなるのだろう?
よくよく見なくても、明らかにこの蟷螂は老人であり、気温はどんどん寒く、寒くなってきている。 加えて、ベランダの外にあるのは広大な(蟷螂にとって)コンクリートの駐車場である。
……なんとなく、放り出すことに罪悪感なんかを感じてみる。
駐車場でペチャンコに潰れた蟷螂なんて見つけてしまった日には、きっと厭な想いをするに違いない。
蟷螂だって、そんな死に方は厭だろう。
……あ、そうか。
だから此処にいるのか。
ローズマリーは香草なので、葉に少し触れただけでも指先に清々しい香りが移る。(香りがかなり強いので、臭いと謂う人もいるが…)
しかも花言葉は確か「記憶」だったはずだ。(香りが本当に強いので、長い間香りが持続する為、そうなったとか、ならないとか…)
どうせ死ぬなら、良い香りのする場所で。
蟷螂に嗅覚があるのか、そもそも本当にそんな事考えてたかどうか、は定かでは無いのだが。
すっかり蟷螂の美学に共感してしまった私は、この蟷螂を放っておく事にした。
生きてるかどうかを探る為に、割り箸で突っつくのも止めた。
そんな訳で、家のベランダには死にかけの蟷螂がローズマリーの鉢に住んでいる。 多分死ぬまで、其処にいるだろう。
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