凪の日々
■引きこもり専業主婦の子育て愚痴日記■
もくじ|前の日|次の日
夕食が終わるあたりから部屋も静かになっていく。 消灯は10時。 たっぷり眠り続けた自分はなかなか眠れるはずも無く スマホでYoutubeとか見て眠くなるのを待った。
お向かいのベッドの方が寝苦しそうにしていたのは気がついてた。 夜中二時頃、嘔吐する音が聞こえた。 とっさにベッドにかけより、枕もとのティッシュを渡し、背中をさする。 「あぁ起こしてごめんなさいね」 「いえ、寝すぎて眠れず起きてたので。 こうすると楽ですか?さすらない方がいいですか?」 お向かいさんは黙って目を閉じる。 拒否されないから、続けていいんだろう。
大きな点滴は抗癌剤と言っていた。 かぶった帽子はそういう事なんだろう。 嘔吐するにも吐くものが無いのはずっと絶食だからか。 「お水飲みますか?勝手に冷蔵庫開けますよ?」と 冷蔵庫から水を取り出し渡す。 一口湿らす程度に飲み、辛そうに呻く。
隣の窓際のベッドの方が起きて来る。 「あら、変わりますよ」と交代して背中をさすってくれる。 「昨日までは調子良かったのにねぇ 久しぶりにお風呂に入って疲れたのかもねぇ」とささやく。 「かわいそうにねぇ辛いねぇ」とささやきながら背中をさする。 お向かいさんは「ごめんなさいねぇ」と力なく言いながら吐き気を堪える。 「かわいそうにねぇ。換わってあげられたらねぇ」 窓際の方はささやきながらさすり続ける。
吐き気はなかなか治まらない。 「看護士さんから膿盆借りてきますね」と言ってナースセンターへ行く。 夜勤の看護士さんに言うと「持って行きますね」と言われる。
夜中の病室。 看護士さんの小さな「大丈夫ですか」の声。 「疲れが出たんでしょうねぇ」と窓際の方。 小さく呻き、時々嘔吐しようとするも、吐くものが何も無く呻くお向かいさん。
少し落ち着いてきた頃 看護士さんが「皆さん有難うございます。大丈夫ですからもう寝てください。」と言う。 これ以上はお向かいさんも心苦しく思うかも…とベッドへ戻る。
「かわいそうにねぇ」
辛い治療を受けている人に、そんな言葉をかけるのは あまりに酷いと思う。けど。 同じ立場同士なら、その言葉は救いになるんだろうか。 その辛さを知っているもの同士なら、「かわいそうに」も 驕り高ぶった言葉ではなく、傷を舐めあう慰めになるんだろうか。
分からない。私はたかだか二晩入院しただけで退院する健康体だから。 これから死ぬまで人工肛門で「こんな体になってまで生きてなきゃいけないのかしら」と呟いていたお隣さんの言葉に返す言葉もなかったし 二ヶ月前、私が入院していた時もこのベッドにいた (通路側だったので偶然見かけて覚えていた) このお向かいさんの、長い入院生活の辛さも 腸の癒着を繰り返して入退院をし続ける窓際さんの苦労も 糖尿病で食事制限をしながらもどんどん視力が奪われていく 寿司屋のおかみさんの苦労も 全部、他人事なので、その辛さが分からない。
「かわいそうに」なんて、どれだけ人の苦労を見て 自分の幸せをかみしめているんだ、と怒りがわく言葉は言えない。
でも、同じ苦しみを分かち合う人同士なら、違うんだろうか。 「かわいそう」といわれて、救われた気持ちになるんだろうか。
その気持ちは分からない方が幸せなんだと思う。 「かわいそう」と言う事も、言われる事もない幸せ。
私の検査結果は五段階の三。 ほっとくと癌化するタイプだった。 次の検査は二年後。 その時異常なければ更に二年後で、 そこでも異常なければ大丈夫でしょう、との事。
私がこの病室の皆さんの年齢になった頃、 どうなっているんだろう。 私も、皆さんも。
そんなこんなの、二泊三日の入院生活でした。
点滴の腕がどんどん腫れ上がって来たので 右手首あたりに針を差し替えられる。 昨日点滴の針を刺される際、 看護師さんが2人がかりで 血管を探して針を刺してたんだけど。
看護師さんが苦戦しながら 「血管が細いって言われた事ないですか?」と 聞いてきた。 採血の時は「取りやすい血管ね~」と 言われた事はあるけど、 点滴の血管は場所が違うようで。 それでも「細い」とは言われた事ないんだけど。
ベテランっぽい看護師さんが、なんとか成功したようで もう一人の看護師さんが「さすが!」と言っていた。 今までそんなに苦労された事はないけどなぁ。
後から思えば、下剤を飲み続ける部屋が 冷房が効きすぎて、寒くてガタガタ震えながら トイレ往復してたから そのせいかな~とか。
腫れ上がった左腕は血管の形に青あざになって面白かった。 腫れが引くにつれ、青あざが針を刺した箇所から どんどん肘に向けて延びていく。
退院直後は、アユムが「おかーさん♪」と触っても 痛くて、一週間位痛みが消えなかった。
今もうっかり荷物とか下げると 血管が鈍く痛む。
たった二本の点滴だったのに こんな事もあるんだなぁと。
前回は5日間絶食で その間点滴つけっぱなしだったけど 漏れまくりはしたけど 腫れ上がりはしなかった。
今までがこうだったから 今回もこうだろう、とか 軽く考えてたけど、 やっぱりその時にならないと どうなるかわからないものなんだなぁと。
それとも点滴の種類のせいかな。 止血剤だったんだよね確か。
たかが点滴でこんなだったら 尿道カテーテルやらなんやら 色々やるのってどんなに辛い事だろう。
明るく喋りまくる奥さん達は そういう苦痛を少しでも紛らわそうと 必死で話してる風にも見えた。
暁
|