凪の日々
■引きこもり専業主婦の子育て愚痴日記■
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日曜の午前中。 電話の音にディスプレイを見ると登録していない携帯番号。 出ようとする子供を制して受話器を取ると、夫の田舎の友人だった。 高校時代の同級生。つまり、私にとって先輩だ。 「お久しぶりです」と話すも、夫はたまの休みだから好きにさせろといわんばかりに一人さっさと釣りに出かけたまま帰ってこず。 不在の旨をつげ「帰宅したらかけなおさせましょうか?」と言うと「いや、今から寝なきゃいけないからかけられても困るんだ。じゃぁ暁ちゃんと話そうかな」と軽く言う。 明らかに酔った口調。
聞くと、「離婚したんだ」との事。 小さいお店を二店舗経営していたが、傾き、手放し、妻は当時三才の下の子を連れて出て行ったそうだ。 「それで、上の子は俺が育てたんだよ。一年間だけだったけど。俺、ご飯や弁当も作ってさ。そりゃ大変だったけど、幸せな一年だった。」 けれど、子供はやはり、姉妹と一緒にいたい、と言い出し、結局奥さんの所へ引き取られたそうだ。
「かなり酔ってます?」と聞くと「酔わなきゃ寝られないもん。借金一千万あるんだよ。地道に働いて返せると思う?借金返す為にもまた店始めたいわけよ。今度はスーパーしたいな。本当は居酒屋やりたいけど銀行がいくら貸してくれるかわからないからさ」 聞くと、鬱状態か鬱かで通院して薬も貰っているとの事。 「でもさ、俺思うけど、暁ちゃんも鬱でしょ?俺、分かるもん」 え。そう見えるのかな。否定できないけれど。 「いえ、私は診察受けた事ないから分からないけれど、夫は通院してましたよ。」と言うと、「え?あいつが?」と驚きの声。 「でも暁ちゃんも鬱でしょ?」と譲らない。 はたしてこの人は酒に酔っているのか、薬でラリっているのか。 「俺、絵描きになりたいんだ。そのためにてっとりばやい方法は、有名人になる事なんだよ。有名になれば、絵は売れるんだよ」 「それは反対に遠回りなんじゃ」と言うと「それじゃおれ、有名になってみせようか?俺、顔は結構いいし、芸能界とかいけると思うんだ。有名になってみせようか?」 「俺、今細木数子さん凄く信じてるんだ。暁ちゃんも占い信じるよね?あの人の占いすっごくあたっててさ、それでいくと、俺、これから上り調子なんだ」
ご機嫌でしゃべりまくり「いやー暁ちゃんとこんなにしゃべれるなんて思ってもいなかった」としきりに言う。 「なんていうか、近寄りがたかったよね。壁があったというか」 だって嫌いだったもの。 この先輩に私の大事な知り合い二人が泣かされたので。 大事な友人を踏みにじった男という認識でとらえていたし。 でもそれも十代の頃の話。 流石にこの歳になれば、あの頃の身を切るような辛さや、腹の奥から声を出して泣いた夜なんか、今となってはほろ苦く甘酸っぱい思い出だ。 一生懸命頑張ってたよなぁって感じ。 今と背負うものの重さが違いすぎる。 辛さの質が、違いすぎる。 嫌いな人と、嫌いだった人、とじゃ、やっぱり違うしね。
「じゃぁそろそろ寝るワ。仕事行けなくなると大変だし」と電話を終えた。 スーパーの夜間クルーでコツコツ借金を返す為に働いているそうだ。 この前は急に上の子が遊びに来てくれて驚いたけど嬉しかった、もう五年生なんだよ。大きくなってて驚いた。 そうですか。良かったですね。嬉しいですね。親子ですものね。
電話の後ろで騒ぐうちの子供達の声は相手にも聞こえていただろう。 それが、離れて暮らす我が子を思い起こさせたのは必至だろうと思う。 相手の慰めになっていたらいいけれど。 反対にやりきれない思いに包まれ眠る事になったのなら、申し訳なかったなぁと思う。
重い荷物を背負って人生を歩いている一人の人間に、どうか、頑張って歩いていってください、と遠くから手を振る感じ。
人生色々だなぁ…本当に。
ここ三日ほどで二回、盗聴する機会があった。
と、いうと穏やかでないけれど、何のことはない、間違い電話が二度続いたという事。 それが、どちらも偶然リダイアルボタンを押したか短縮ボタンを押したかでかかってきたもの。
一回目は実家からだった。 電話のディスプレイの表示が実家だったので、受話器を取ったけれど、こちらが何度呼べど返事がない。 受話器の向こうからは遠くにTVの声と、義姉の声。 おそらく、TVの前に鎮座して動かない甥っ子か、ソファーにねそべったまま起きない兄に何か話しているのだろう。 そんな感じの様子が聞こえてくる。 「もしもしー」とこちらが何度言っても気づく様子はない。 向こうも用事があってかけたわけでもなさそうだしまぁいいか、と受話器を置いた。
その二日後、今度は携帯に友人からかかってきた。 一度目は運転中で、出られなかった。 帰宅してから携帯を取り出すと、二度、着信履歴があり、留守電にメッセージが残っていた。 聞いてみると、友人が甥っ子と人混みで話している。 花火大会の会場からかな。 大きな音の間に男の子の歓声と、たしなめる友人の声。 旦那様も一緒かな。あれこれ世話を焼く様子が聞こえる。 電話の向こうで甥っ子さんがはしゃいでいて、用件が聞こえないのかな…と聞いていたが、最後まで用件が聞こえる事も無く、人混みのざわめきと歓声と騒音のメッセージは終了した。
とりあえず、電話に出られなかった旨を一言わびておこうとメールしてみたら、やっぱり本人「?」といった感じで、ロックをかけてなかったので勝手にかかっていたらしい、とお詫びメールが返ってきた。
そんな感じで、「先方は聞かれている事をまったく知らないで過ごしている生活の一部を盗み聞きする」という機会があったわけ。
空間ってのは、自分がいるから認識できるもので、自分はその場にいないのに、他人ばかりの空間を一方的に認識しているという違和感。 当然ながら、人と会う時は、その人は自分の存在をちゃんと意識してふるまってくれていて、対、私用の状態になっているのだな、と改めて感じたのは新鮮だったけど。
友人の甥っ子に対する感じは私といる時と違ってたくましくたのもしく、良い叔母さんしてるんだなぁといった感じだったし、義姉は義理の姉というより、兄の奥さんで、男の子の母、だった。 この微妙な違い。実際目の当たりにする(?)まで分からなかった。
時々隠しカメラで家族を見る番組とか見かけるけれど、なるほど、確かに発見はあるなぁとこの偶然の盗聴で感じたわけで。
世の中に偶然はなく、すべて必然だそうだけれど、この二回の偶然から何を感じ取れというのかなぁと考えた。 感じたのは、皆、自分の生活を一生懸命生きているんだなぁといった所か。 それと、携帯はこまめにロックしようということか(←おい) 携帯を通して私の子供をしかる声なんか相手に聞かれてたら次回からその人の顔を見れなくなってしまうものなぁ。 いつ誰に聞かれても大丈夫なように日々改めて生きろって事か。 それも痛い話だなぁううむ。
電話を前に、とりとめもなくあれこれ思ったのでした。
暁
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