道院長の書きたい放題

2004年07月13日(火) ■締め技考・補足 

■私が本山にいた頃、新井庸弘先生から聞いた話です。当時、相当衝撃的な事件だったようです。尚、私はその場に居合わせていませんので、今回、作山先生に確認を取りました。坂東先生からは直接感想をお聞きしています。ただしかなり古い話なので、詳細はアバウトです…。

道院長講習か整法講習で坂東先生が実技講習を担当された時の話です。場所は第一道場。活法を行うので、誰かT先生を締めて落として下さい、となりました。するとある人が手を上げて、「私は締め技が得意ですから」と登壇。締め始めました。「送り襟締めだったかなー。とにかく後ろからの襟締めだった」――作山先生談

ところがなかなか落ちず、バタバタ苦しがって、それでも止めずついに落ちたのですが、手が死んだ時のように内側に反って全身痙攣し、電気ショックを受けたように床から数十センチも飛び上がり、目は白目を剥き、ヨダレも出て酷いことになったようです。あまりの凄惨さに、会場は凍りついたようにシーンとなりました。

すると、坂東先生はすかさず覆い被さって痙攣を抑え(凄いですね)、体を起こして背中を平手=熊手で叩きました。しかしなかなか活が入らず、とにかく背中も引いて、ようやく蘇生させたようです。先生だったからこそ、蘇生が可能だったのでしょう…。

「○○のは力任せの下手な締めで、T君は本当に可哀想なことをした」と苦虫を噛み潰したように述懐されていました。前回、先生の言葉、「慣れたヤツは、数秒で落とせることができる」は、この時に言われたのかもしれません…。

■一昨年でしたか、「書きたい放題」で触れました。万引き犯と格闘になった柔道経験者の店長が犯人を絞め殺してしまった事件。また、次の事件は書きませんでしたが何年か前に起こったものです。

夜中物音がするので目を覚ますと、枕元に(盗み目的の)男が立っいたので驚いて格闘になり、本人はプロレス愛好者?だったようで“チョークスリーパーホールド?=裸締め”を極め、そのままの体勢で警察に通報しました。しかし警察官が駆けつけたところ、恐怖に駆られてか未だ技を解いておらず、男はすでに死んでいた、というものでした。

よく、締められて落ちる時は気持ちが良い?などと言われますが、それは頚動脈を上手に圧迫=締めたからで、下手に締めると危険です。今回、祖母がロープで孫の首を締めるという悲惨な事件が起きました。幸い大事には到りませんでしたが、被害者の少年二人の顔は腫れていた、と報道されました。いずれにせよ、たとえ上手に締めても、相手が戦闘不能となったら素早く締めを解かないと、危険な状態に陥ります。

吉田秀彦選手がホイス・グレーシー選手と行った最初の試合。ホイス側は「落ちてない」と抗議しました。しかし今これを書いていて思うことは、落ちた意識が無いのは吉田選手の締め技が超一流だった証のようです。さらに締め技は、相手が「参った」を意思表示できない場合がある危険な技であることを了解していたので、審判にアピールしたのでしょう。たいしたものです。

■本来武道家は(最低でも応急処置くらいの)医学知識と、危険な技法に充分注意して修練しなければなりません。

坂東先生は活法の講義の為、よく後頭部を叩いて落とすことをされましたが、これは特殊例です。一般の指導者、まして拳士は絶対行ってはなりません。締め技も同様です。このことを補足しておきます。



2004年07月10日(土) ■締め技考 

久しぶり=二ヶ月ぶりになりましたが再開します。

■締め技について開祖が実技指導されたことがあるので、記録の意味もあり記しておきます。

本山で“首締め守法十字投げ”を練習していた時でした。武専か講習会のどちらかだったと思います。道場に来られた開祖が全員に向かって、「お前達の締め技はなっておらん。柔道の経験はないのか。いいか、締めはこうやるんだ」と少し憤慨されて実例を示されました。

右対構え、右手で右襟を掴み「こうして片手で襟を掴み、左手で袖を掴むそぶりから、いきなり左襟を引いて来るんだ」。十字投げを練習していたので前襟締めでした。大きい開祖がかなり低くなり、ぶら下がるようにされ、相手をされた方は記憶にありませんが、一瞬で落ちる寸前になりました。

少林寺拳法の締め技にはいくつかの特徴が伺えます。ひとつは立ち締め攻撃を想定していること。もうひとつは防御の視点から一対の締め技法と反撃技法があることです。前襟締めには、拳締めを含み四種の締め方と反撃法が想定されています。

余談ですが、映画『飛っちょ勘太郎』。開祖の実技指導により主演の森繁久弥氏が、前襟締めに来るヤクザ役を見事に十字投げで投げています。(ホー、あんな風な首締めを想定しているのか)と参考になります。

*教範では「締め」とはなっていません。「締」です。

■故・坂東邦伯先生も締め技を随分と研究されていました。新本堂下にある管理人室では先生の特別講義?が深夜まで行われるのが常で、各種締め技、逃れ方。当然得意技である圧法、活法などを講義して頂きました。先生は良く「慣れたヤツは、数秒で落とせることができる」と締め技の威力を言われていました。

坂東流?では、開祖と同じ握りでクルリと回る“後ろ襟締め”があります。別法もあります。また締法に“足締め”とありますが、先生は足締めは“胴締め”と解されていたらしく、前と後で二種の逃れ方があります。

教範の中、『攻防用器、変手五種』の項に“蟹手”とあります。坂東先生に「これは“片輪締め”に用いるものですか?」と質問したところ、「そうです」と用法共々教えて頂きました。“両輪締め”はこれを両手で行うものです。その場合、仏骨を締めることもできましょう。

犯人逮捕時、相手が凶器を持っていた場合、片手で凶器を押さえ、片輪締めを行いながら「参った」を取り、傷付けず相手に凶器を捨てさせることができましょう。床でも壁に押さえつけても可能です。

面白いのは“仏骨締め”で、映画『少林寺』では少林寺拳法連盟の実技指導により、リー・リンチェン/現ジェット・リー氏が馬乗りになってこの技を行いました(と記憶します…)。それで、『私の主張/活人拳の考察』の中で述べていますが、根岸道院出身のN先生は実際の危険な格闘でこれを用い、馬乗りになって大きい相手から「参った!」を取りました。無意識にこのシーンが頭の中にあったのでしょうか…。

■中野先生からは、“拳締め”以外の締め技を習ったことはありません。少林寺拳法では他にも色々な技法が教範に記述されています。しかし開祖の心の中で、“人間完成の行たる少林寺拳法”から外して良い、と判断が働いた技法があるようです。

姿、形が悪いですね。相手の首を締める技。ですから金的蹴り、目突き=蛇突きと同様に、防御と一対で学ばせたのでしょう。あくまで、防御技法修得という前提に立っての攻撃技なのです。尚、“後ろ腕締め”については“裸締め”でしょうが、相手の順突きを後手で内受けして裏に入り身し、そのまま締めることも可能です。さしずめ、締法の五花拳版?でしょうか…。

*宮田先生の掲示板に羅漢締法に関する質問がありました。解答はできませんが、見聞したことや、若干気が付いたことを記しておきました。技法の詳細は避けました。


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あつみ [MAIL]