井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2010年07月25日(日) 怪談新耳袋・怪奇、TENBATSU、REDLINE、夏の家族、プチ・ニコラ、ソルト+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『怪談新耳袋・怪奇(ツキモノ/ノゾミ)』
怪奇な実話を全国から集めたと称する『新耳袋』は、角川文
庫版全10冊の合計が120万部を突破したという原作からの映
画化。
物語は2つあって、まず「ツキモノ」と題されたその1話目
は、主人公が通学のバスで出会った無気味な女性が、主人公
の学ぶ学園を襲って次々超常的な力で学生や先生を殺して行
くというもの。
その間に犯罪行為者の憑移などは描かれているのだが、肝心
の女性と学園あるいは主人公との因果関係が全く描かれない
ので、作品はただの殺人鬼映画。殺人鬼の行動に脅かされは
するが、例えば後で夢に観るようは恐怖は一切感じられなか
った。
「ノゾミ」と題された2話目は、若い女性が他人には観えな
い幼女の姿を夢の中や現実の世界でも観るようになり、それ
が彼女を追い詰めて行く…という物語。そこには彼女自身の
過去が関わっているようなのだが。
この作品も、恐怖という意味ではかなり疑問に感じる。実際
にこの作品で恐いと言えるのはショックシーンであって、そ
れはホラーの本質ではないし、この作品に背筋がぞくぞくし
てくるような恐怖は感じられなかった。

脚本は、昨年5月紹介『呪怨 白い老女』などの三宅隆太、
監督は2000年『忘れられない人々』や2004年3月紹介『犬と
歩けば』などの篠原誠。因に監督はJホラーの巨匠たちが一
目置く「恐怖映画の最終兵器」だそうだ。
それでなぜ一目置くかと言うと、監督が黒沢清監督との対談
集を出していたりするからのようなのだが、黒沢清監督の恐
怖映画が好きな自分としては、ショックシーンの羅列に過ぎ
ない本作はどうなの?と言いたくなった。
ショックシーンというのはお手本が数多くあって、それを忠
実になぞれば誰にでも演出できる。というかカメラマンやス
タッフキャストにお手本を観せて、こんな風にやりたいと言
えば、監督は何もしなくても出来てしまうようなものだ。
しかし恐怖シーンは、心理描写や状況描写の積み重ねだから
監督に相当の見識と力量が無くては造り出すことが難しい。
ただ本作の篠崎監督にその見識や力量が無いとは思えないの
だが、これはやはり選ばれた題材自体が恐怖映画には向かな
かったのかな。

主演は両作共に真野恵里菜。共演は、それぞれ坂田梨香子、
鈴木かすみ、吉川友、北原沙弥香、伊沢磨紀、秋本奈緒美ら
が出演している。

『TENBATSU』
2008年1月紹介『うた魂♪』や、同年12月紹介『うたかた/
震える月』などに出演の吉川まりあ、手塚治虫原作で2000年
公開の『ガラスの脳』などに出演の吉谷彩子、「2009日テレ
ジェニック」の小泉麻耶らの共演による学園ホラー作品。
学園の開かずの倉庫に仕舞われた過去の学園祭で使われた絵
馬掛けを巡って、そこで他人を呪うとその相手に天罰が落ち
ると共に自分にも仕返しがある…という学園伝説をテーマに
したお話。
主人公はホラー文学研究会に所属する女子生徒。その研究会
の仲間の1人が「ホラー文学賞」の佳作に入選し、そこから
確執が生まれ始める。一方、学園祭に向けて機関誌の企画を
練り始めた主人公たちに、学園七不思議のテーマが提案され
る。
その七不思議とは、過去の学園祭で使われたまま開かずの倉
庫に仕舞われた絵馬掛けを巡るものだったが…。主人公は、
そのときは話を一笑に付したものの、その内容は気掛かりと
なる。そして、文学賞を受賞した生徒に天罰が落ちる。
お話としては多少目新しいところも在ったかな。でも全体と
して学芸会気分というか、恐怖感のちっとも湧かない作品だ
った。でもまあ、出演者たちには経験だろうし、これで将来
伸びてくれれば、それもまた本作の価値になるだろう。
とは言え、恐怖感が全く湧いてこないのは出演者の演技のせ
いばかりとも言えないようで、実際にリズム感の無い編集や
演出には、何か渡された脚本通りに撮って、そのまま編集し
ています…という感じもして、あまり映画らしさが感じられ
なかった。
監督は、『リング』などの助監督を務めて本作で長編監督デ
ビューだそうだが、何かもう一つ映画としての工夫が足りな
い。恐らく単純なコケ脅かしなどの恐怖演出はわざと排除し
たのだろうが、そこから次の段階が観えてこないのだ。
ただ、そのコケ脅かしを排除する考え自体は正しいと思うの
で、今はホラー以外の作品を何本か撮って、それからホラー
に再挑戦してくれたら、その時はきっと良いものが出来そう
な感じもした。その期待値は在りそうだ。


『REDLINE』
2003年に発表された短編9本からなる『アニマトリックス』
の内の1本を手掛けた小池健監督による長編アニメーション
作品。
反重力装置によるエアカーが発達した未来世界を舞台に、そ
れでも4輪に拘わってレースを繰り広げる者たちを描く。
未来のレースというと、実写作品でも『マッハ Go!Go!Go!』
から『デスレース』まで様々作られているが、異惑星の荒野
を背景にしているということでは、『スター・ウォーズ:エ
ピソード1』を思い出すところだ。
そのキャラクターを模したような異星人もいろいろ登場する
作品で、そのパロディというか、オマージュといった感じで
も作られているのかな。でもまあ、主人公が思い寄せる女性
ドライヴァーや裏で糸を引く黒幕なども出てくるから、お話
は違うものだ。
脚本は、『鮫肌男と桃尻女』の石井克人の原作から、石井と
『エヴァンゲリオン』の榎戸洋司、『攻殻機動隊』の櫻井圭
記が共同で執筆したもの。ニトロを使ったりそれより強力な
燃焼剤など、アクセサリーはいろいろ用意されている。
ただ、主人公と女性ドライヴァーの関係などはもう少し描き
込めばもっと面白くできたと思うが、レースとそのアクショ
ンを描くことに力点が置かれて、心理的な点が多少おざなり
なのは残念に感じられるところもあった。

声優は木村拓哉、蒼井優、浅野忠信。木村と浅野はそうだと
思えばそれなりの感じだが、木村は兎も角、浅野のアニメの
キャラクターが本人とかけ離れているのが何となくしっくり
と来なかった。ディズニーが声優は骨格で選ぶという理由が
判ったような気もした。
それに対して蒼井は、『鉄コン筋クリート』のときの抜けた
ような声も見事だったが、今回は木村を相手にしての大人の
女の演技や、その一方で幼い頃のシーンの巧みな声色など、
これもまた聞けるものになっていた。この女優には本当に限
界がないようだ。
毒気満載のキャラクターや途中に挿入されるゲストアニメー
ターによるシーンなど、良くも悪くもマッドハウスのファン
には喜ばれそうな感じの作品で、僕には多少食傷気味なとこ
ろもあったが、多分まだファンは健在なのだろう。


『夏の家族』
フランス在住20年という日本人舞踏家・岩名雅記の脚本監督
主演による作品。
岩名の作品では2007年オランダ・ロッテルダム映画祭などで
公式上映された『朱霊たち』という作品に続く長編第2作と
のことで、本作もブエノスアイレス・インディペンデント映
画祭などで公式上映されているようだ。
異業種の監督の作品というのもいろいろ観させて貰っている
が、大体は自身の日常捉えたセミドキュメンタリーのような
作品が多い。従って、この作品もある程度はドキュメンタリ
ーかなという先入観で観ていた。
その点の本作は、モノクロ16ミリで撮影された作品全体の雰
囲気もそうだが、岩名の舞踏などのパフォーマンスも随所に
挿入されて、それなりのものとしても楽しめた。
それでいてこの作品では、物語の始まりでは画面に登場しな
い子供の声など、何か不思議な雰囲気も持っており、さらに
その子供の存在が途中からいろいろ変化し、それはそれなり
に観客を戸惑わせて、面白い展開になっていた。
ただその展開が、前後の脈絡などがあまり明確に提示されて
おらず、そこら辺が商業映画ではないかなあという感じには
なってしまう。もちろん本作は自主映画なのだし、監督には
商業映画を作るつもりはないのだろうから、それも仕方がな
いとは言えるが…。
でも、作品の全体を通してフィクションの部分には興味を引
かれたし、この方向でもっと進めてくれたら、それは商業映
画としても通用するレヴェルのように感じられた。少なくと
も商業映画として観せられる一部の作品よりは観られる感じ
がした。

ただし、今回の試写で上映されたのは海外の映画祭で上映さ
れたオリジナル版だったが、実は映画に登場する幾つかのシ
ーンは日本の法律にはそぐわないもので、このまま一般上映
をしたら警察の取り締まりは避けられない。
その点に関しては、上映前に挨拶した岩名監督もいろいろと
考えてはいるようだが、10月に予定されている一般公開がど
のようになるか、多少心配になった。
なお画面に登場しない子供の声は、2009年7月紹介『サマー
・ウォーズ』でも声優を務めていた諸星すみれが当てていた
ようだ。他には吉岡由美子、監督の前作にも出演の若松萌野
という人たちが共演している。
一般上映版を観ていないので映画の評価は下し辛いが、作品
としてはそれなりに面白く観られた作品だった。

『プチ・ニコラ』“Le Petit Nicolas”
1959年−1965年にフランスの新聞に連載された人気マンガの
映画化。2004年に出版された単行本は65万部売り上げ、フラ
ンスでは学校の授業でも使われているそうだ。
原作については一応知っていたし、特に昨年からはフランス
の映画情報を観るとやたらに評判が良くて気になっていた作
品。その作品が、日本でも一般公開されることになり試写会
がスタートした。
物語は1960年代のフランス・パリが舞台。ちょっとノスタル
ジックな風景の中で、小学生のニコラとその仲間達が騒動を
巻き起こす。その中心は、同級生に弟が生まれ、その兄は疎
外されるとの情報に、自分にも弟が出来たと思い込んだニコ
ラが…というもの。
そこで弟が誕生しても疎外されることが無いように、仲間達
の協力も得ていろいろな対策が練られるのだが…
その他、学校での授業の様子やニコラの自宅にパパの勤務先
の社長夫妻が訪れる話など、映画では何となく有り勝ちとい
えるエピソードが綴られて行くのだが、それらが何とも微笑
ましくハートウォーミングに描かれている。
そこにはちょっと生意気な学友に対する苛めのようなものも
描かれたりもするが、全体の雰囲気が何とも柔らかくて素晴
らしい作品だった。実際に映画を観ていて、久しぶりに心の
底から屈託なく笑えたような気もした。

出演の子役たちはほとんどが新人と思われるが、ちょっとす
かした感じのニコラを演じるマキシム・ゴラールを始め、原
作にそっくりの個性豊かな子供たちが登場する。
他に、ニコラの父親役は2009年7月紹介『幸せはシャンソニ
ア劇場から』などに出演し、2006年にセザール賞助演男優賞
を受賞したカド・メラッド。母親役は1992年『おかしなおか
しな訪問者』で助演女優賞受賞のヴァレリー・ルメルシュ。
また、1995年新人賞受賞のサンドリーヌ・キベルランがクラ
スの担任役を演じている。
因に、監督を務めたローラン・ティラールはフランスの映画
雑誌STUDIOの元記者で、ジャーナリスト時代にはアレンやリ
ンチ、スコセッシ等へのインタヴューも纏めているそうだ。
映画に対する広範な知識と愛情が、見事に功奏した作品とも
言えそうだ。

『ソルト』“Salt”
1999年の『17歳のカルテ』でオスカー助演賞を受賞した後も
積極的にアクション映画に取り組んできたアンジェリーナ・
ジョリーが、2008年『チェンジリング』でオスカー主演賞に
ノミネートされた後、1年を置いて主演した最新アクション
作品。
米ソ冷戦時代の落とし児とも言うべき旧ソ連KGBの放った
草の組織が、21世紀の今日に突然牙を剥き、世界を破滅の淵
へと追いやる。その中心にいるのはジョリー扮するイヴリン
・ソルト。果たして彼女は敵か味方か。
ソルトは、石油企業を隠蓑にしたCIAの組織で活動してい
た。その彼女に許に、ロシアのスパイを自称する男が送られ
てくる。そして尋問を行った彼女に、男は訪米するロシア大
統領の暗殺計画を告げ、その襲撃者はソルトと名指しする。
それは、アメリカ国内でのロシア大統領暗殺を引鉄として世
界を混乱に陥れんとするソ連時代からの悪魔の計画だった。
そこでソルトは、警備陣を混乱させてその場を脱出、ロシア
大統領が訪れる現場へと向かうのだが…
そのFBIやシークレットサーヴィスが大挙して警備する現
場に見事に潜入した彼女は、自らの目的を着実に果たし始め
る。それは彼女が悪魔の計画を遂行しているかのようにも見
えた。そして彼女が狙う次のターゲットは?
何でもありの最近のハリウッド映画とは言え、スター女優の
ジョリーが旧ソ連の手先はないだろう…と思いながらも、話
はどんどん彼女を追い詰めて行き、もはや絶体絶命という展
開が1時間40分に亙って繰り広げられる。

脚本は、2003年11月紹介『リクルート』などのカート・ウィ
マー。前の作品もかなりトリッキーなCIA内幕ものだった
が、本作はさらにそれを倍加させた感じのもの。虚々実々の
スパイ活動の中で見事なアクションドラマが展開される。
そして主演のジョリーは、2001年、2003年と『トゥームレイ
ダー』に主演。さらに2005年『Mr.&Mrs.スミス』、2008年の
『ウォンテッド』と次々アクションに挑戦してきているが、
その中でも本作は最高のアクションに挑んでいると言える。
しかもこれまでの作品が、『スミス』以外はゲームの映画化
だったり超能力ものだったり、どちらかと言うと二番煎じの
感じもしたものだったが、今回は正に新趣向満載で、彼女が
『ウォンテッド2』のオファーを蹴ってこちらを選んだのも
判る作品だ。
最近のハリウッドアクションは、どれをとっても荒唐無稽の
オンパレードだが、その中でも本作の仕掛けは抜群、しかも
それを生身の人間の設定で行っているのも新機軸と言える。
これなら観客も納得して観ていられる感じだろう。
もちろん生身の人間では絶対に耐えられないと思われるアク
ションの連続ではあるが、それが何故か納得できて仕舞うと
ころが見事だ。

共演は、2005年5月紹介『コレラの時代の愛』に出演のリー
ヴ・シュライバー、昨年11月紹介『2012』などのキウェ
テル・イジョフォー。監督は、1992年『パトリオット・ゲー
ム』、1994年『今そこにある危機』や2002年10月紹介『裸足
の1500マイル』などのフィリップ・ノイスが担当している。
        *         *
 今回の製作ニュースは新規の情報を中心に紹介しよう。
 まずはディズニーから、すでに2008年9月と昨年10月紹介
のアニメーション作品も公開されている妖精=ティンカーベ
ルを主人公にした実写によるロマンティックコメディの計画
“Tink”が発表されている。
 この計画は、『スパイダーマン1〜3』や、昨年4月紹介
『ブッシュ』に出演の女優エリザベス・バンクスが、彼女の
盟友とも言える脚本家エリザベス・ライト・シャピロの脚本
に基づいて進めているもので、その内容は秘密にされている
が、バンクスの主演も計画されているとのことだ。
 そしてこの計画には、製作者として『17アゲイン』などの
ジェニファー・ギボット、『ヘアスプレイ』などのアダム・
シャンクマン、それに『T4』などのMcGの参加も発表され
ており、ディズニーとしてはかなりの体制で計画を進めてい
るものだ。因に、バンクス自身も昨年11月に紹介した『サロ
ゲート』の製作総指揮を担当しており、ディズニーとはしっ
かりしたパイプがあるようだ。
 とは言うものの、幼さが特徴のティンカーベルにローラ・
ブッシュを演じた女優が扮するとは、妖精の国が舞台のアニ
メーションとはかなり違った雰囲気の作品になりそうだ。な
おバンクスがティンクを演じると、実写の女優では、1991年
『フック』でのジュリア・ロバーツ、2003年『ピーター・パ
ン』でのリュディヴィーヌ・サニエに次ぐものになる。
        *         *
 次もディズニーの情報で、ティム・バートン監督がボード
ゲームの“Monsterpocalypse”に基づく映画作品の計画に、
監督を前提として参加していることが報告された。
 オリジナルのゲームはマット・ウィルスンというゲーム作
家が発表しているもので、現代の地球を異次元などからの侵
略で怪獣が襲い始め、すでに大都市などは瓦礫の山となった
世界を背景に、主人公は怪獣を倒しながら生き延びて行く…
というストーリーのようだ。
 そしてこの原作から、2005年の『チャーリーとチョコレー
ト工場』も手掛けたジョン・オーガストがウィルスンの協力
の許で脚本を執筆しており、バートン監督により3Dで映画
化されるとのことだ。因に、計画はドリームワークスの製作
で進められているものだが、同社の作品の配給はディズニー
が担当することになっている。
 なお前回紹介した“Dark Shadows”と本作は、共に脚本家
の決定というよく似た製作状況に在るようだが、これからど
ちらが先行することになるか、それは脚本の上がり方次第に
なりそうだ。
        *         *
 もう1本ディズニーから、すでに2003年に一度映画化した
ディズニーランドのアトラクション“Haunted Mansion”を
再映画化する計画も発表されている。
 2003年の映画化は、ロブ・ミンコフの監督、エディ・マー
フィ主演でコメディタッチで行われたものだが、今回の計画
では監督を『パンズ・ラビリンス』などのギレルモ・デル=
トロが務め、デル=トロの発言によると、「ディズニー自身
が『白雪姫』の邪悪な女王などで描いているようなダークな
イメージで映画化する。我々は、Haunted Mansionを世界一
恐ろしい場所に仕立ててみせる」とのことだ。
 さらにディズニー側の発表では、撮影は3Dで行うことも
表明されており、また『POTC』に続く新たなシリーズ化
も期待されているとのことだ。
 1969年にアナハイムのニューオリンズスクエアで開館した
Haunted Mansionは、オーランド、東京、パリのディズニー
ランドにも建設された人気アトラクションで、2003年の映画
化も全世界で1億8200万ドルを稼ぎ出す大ヒットとなった。
しかしシリーズ化には至らなかったとのことで、今回はデル
=トロ監督が新たなシリーズ化を目指すことになるものだ。
        *         *
 最後はワーナーの情報で、1950年に連載が始まったイギリ
スの少年コミックス“Dan Dare, Pilot of the Future”の
映画化を、『タイタンの戦い』のベイジル・イワニク製作、
サム・ワーシントン主演で進めることが発表された。
 原作はイラストレーターのフランク・ハムプスンが創造し
たもので、物語の背景は1990年代、その時代にすでに宇宙に
進出した人類を襲う脅威と冒険を描いたシリーズのようだ。
一部には『バック・ロジャース』のイギリス版との呼び声も
あり、実際にラジオドラマ化やテレビ化も行われた作品との
こと。イギリス人には懐かしのドラマの再来に期待が集まっ
ている。
 ただしイワニクとワーシントンの間ではすでに“Clash of
the Titans 2”の計画が進められており、本作は進行はその
後になりそうだ。



2010年07月18日(日) 神様ヘルプ、シークレット、花と蛇3、七瀬ふたたび、ルイーサ、nude、魔法使いの弟子、コップ・アウト+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『神様ヘルプ!』
2009年夏に公演された穴吹一朗の原作による舞台劇「Tower
of Sugar」の映画化。廃校をお化け屋敷に作り替えてアミュ
ーズメント化を計画している企画会社のスタッフと、その廃
校で25年前に起きた惨劇の被害者たちの霊魂が交錯する。
物語の舞台は「佐藤学園」、25年前の惨劇で廃校に追い込ま
れた学校だが、事件の犯人は未だに行方不明とされていた。
その校舎を使ってお化け屋敷のアミューズメント化が計画さ
れ、その企画のためのプランナーなどが乗り込んでくる。
さらに少し遅れて企画会社の担当者の女性とその上司が現場
にやってくるが、彼女には何か特別な思いがあるようだ。そ
して校舎のお化け屋敷化が進む中、広告写真の撮影モデルに
呼ばれた制服姿の男女の内の2人が校内を探検し始める。
一方、2人の刑事が現在進行中の連続殺人の捜査でその廃校
を訪れていた。またそこには他にも紛れ込んでいる人物がい
て…。やがてその場所で、25年前の惨劇が再現され始める。
その惨劇は、さらに時代を遡る怨念が引き起こしたものだっ
た。
死者の霊魂が観られる能力者のお話というと、1990年『ゴー
スト』や1999年『シックス・センス』など、お手軽なファン
タシーのジャンルとして数多くの映画化がされているが、本
作もその流れを汲む作品と言える。
ただしこのジャンルは、霊魂が見える見えないの辻褄合わせ
が重要で、『シックス・センス』ではそれを確認するための
リピーターが増えたとも言われているものだが…。その辺で
本作はかなり微妙だったようにも感じた。
試写会は1回しか観られなかったので確認できていないが、
特に霊魂は見えないはずの上司の振舞いなどはちゃんと辻褄
が合っていたのだろうか。
それは兎も角、お話の展開自体は制服姿の男女の行動など、
それなりで悪くはないと思うのだが…。一部の役者のお定ま
りのようなギャグは本作で必要だったか否か。その俳優が悪
いとは思わないが、それしか演出できない監督のセンスは疑
問に感じた。

出演は、2008年6月紹介『ギララの逆襲』などの加藤和樹、
2009年7月紹介『悪夢のエレベーター』などの佐津川愛美、
今年3月紹介『ソフトボーイ』などの賀来賢人、前回紹介の
『GARO』などの小西遼生。他に、佐藤めぐみ、キムラ緑
子、佐藤二郎などが脇を固めている。
また主題歌は、1985年チェッカーズの同名の楽曲を加藤和樹
がカヴァーしたもので、これも物語のヒントになっていたよ
うだ。

『シークレット』“시크릿”
昨年5月紹介『セブンデイズ』の脚本を手掛けて青龍映画賞
脚本賞候補などに挙げられたユン・ジェグが監督デビューを
飾った作品。
『セブンデイズ』に続いて、誰かを救うことをテーマとした
“saving”4部作の第2部を成すものだそうで、この後には
ホラーテイストの『マイ・フレンド』、SFテイストの『マ
イ・アース』という作品が続くそうだ。
本作の主人公は、警察で重要犯罪捜査班に所属する刑事。彼
は同僚刑事の行き過ぎを告発するほどの不正を許さぬ熱血漢
だったが、彼自身には自分が運転していた車の事故で愛娘を
死なせてしまったという重荷がのしかかっていた。
そんな主人公が、闇組織のナンバー2の男が殺された殺人現
場で目にしたのは、その朝の別れしなに彼の妻が付けていた
イヤリングと妻の服に付いていたボタン。それにグラスに付
けられた彼の妻が付けていたのと同じ色の口紅の跡だった。
そこで鑑識班が到着する前に咄嗟にそれらの証拠品をポケッ
トに入れ、グラスを始末することにも成功した主人公だった
が、そこにはさらに目撃者も登場してしまう。しかも何故か
一部が消去された防犯ヴィデオなど妻に不利な証拠は次々挙
がってくるが…
そんな中で、妻を信じて真相の究明に邁進する刑事の姿が描
かれる…と書くと、何だかただの熱血刑事もののようだが、
本作の物語はそんなに単純ではない。前作『セブンデイズ』
もそうだったが、犯人の真の狙いがどこにあるのかなど、そ
の複雑さは見事だ。

出演は刑事夫妻役にチャ・スンウォン、ソン・ユナ。他に、
2008年8月紹介『ファン・ジニ』などのリュ・スンニョン、
今年2月紹介『飛べ、ペンギン!』などのパク・ウォンサン
らが脇を固めている。
新人監督のデビュー作の手腕は、手堅くまとめられている感
じだが、さらにスタッフでは、撮影に2008年『チェイサー』
のイ・ソンジェ、編集に昨年11月紹介『作戦』のシン・ミン
ギョンらのベテランが参加。しっかりと脇を支えているよう
だ。
最初から最後まで緊張感に溢れた見事な作品で、続くホラー
と、SFテイストの作品も期待したくなった。

『花と蛇3』
団鬼六が1961年から発表を続けたSM小説の映画化。1974年
の日活作品からでは8作目の映画化となるものだが、東映製
作では2003年、2005年の杉本彩主演作に続く第3作となって
いる。東映の前2作は試写状を貰えなかったが、今回は送ら
れてきたので観に行った。
本作の主演は、元グラビアアイドルで昨年ストリッパーとし
てのステージデビューが話題になった小向美奈子。この順番
でエロティックな映画への主演は本人的には成功過程という
ことなのかな。
その映画は、物語は…というほどのものはあまりなくて、策
略でとある男のものにならざるを得なかった主人公が、その
男の別荘に拉致され、そこに住まう男女によって「調教」さ
れて行く姿が描かれる。
実は物語では、最初に主人公の前の夫の会社の乗っ取りなど
の話があって、それが最後の落ちに繋がって行く。しかし、
観客の方がそれに目を留めるかどうか。そんな話はなくても
ただ小向を含む女優たちの裸や調教シーンが観られれば良い
という作品ではある。
でもお話をよく観ると、落ちはそれなりに面白いものにもな
っているのだが…

共演は日野正平、本宮泰風。それにテレビ『星獣戦隊ギンガ
マン』の悪女役水谷ケイ、今年2月紹介『後ろから前から』
に出演していた琴乃、現役読者モデルの小松崎真理らが体当
たりの調教シーンを演じている。
監督は、テレビ『あぶない刑事』などを手掛けその劇場版も
担当した成田裕介。脚本は、1996年『岸和田少年愚連隊』や
2007年7月紹介『夢のまにまに』などの我妻正義が担当して
いる。
ということで本編の紹介は以上だが、本作の見所はそれだけ
ではなくて、実はエンディングクレジットに添えられた緊縛
の映像が見事だった。この映像は前2作に登場した緊縛師の
有末剛が手掛けているということだが、ロープや太い竹竿を
使って小向を吊り上げたシーンの数々は見事なもの。
僕は以前に招待されたパーティで、緊縛師によるパフォーマ
ンスを生で観た経験があるが、これはこれで一種の芸術に近
いものにもなっているようだ。その芸術性という意味でも、
ここに登場する映像は注目に値した。できればこれを本編中
でも観たかったものだ。

『七瀬ふたたび』
1972年〜1977年に単行本3冊が出版されている「火田七瀬」
シリーズ第2部の映画化。原作者筒井康隆の作家生活50周年
記念映画。
筒井原作の映画化では『時をかける少女』がアニメ版を含め
て4回あるが、『七瀬』が劇場用に映画化されるのは今回が
初めてのようだ。ただしテレビでは、『七瀬』が4回、他に
『家族八景』が2回と自主映画作品もあるそうで、火田七瀬
の映像化は8回目になる。
もっとも『時かけ』の方も、テレビまで含めると8回になる
ようだが。
そして火田七瀬を演じる女優は、多岐川裕美、水野真紀、渡
辺由紀、蓮佛美沙子、堀ちえみ、及び自主映画作品と来て、
今回の芦名星が7代目。因に多岐川は少年ドラマシリーズと
『芝生は緑(家族八景)』で2度演じている。
その芦名は、2007年11月紹介『シルク』や、2009年2月紹介
『鴨川ホルモー』などにも出演しているが、7人の中では正
にNo.1のクールビューティという感じで、最も原作に近いと
して原作者もお気に入りのようだ。
という『七瀬ふたたび』の初の映画化だが、物語は原作の特
に後半を中心にまとめられており、七瀬らの能力を使うこと
に対する葛藤など、正にSFファンが観たいところを映画化
してくれたという感じの作品だ。それが一般の観客にどのよ
うに理解されるか…、多少心配なくらいにSFファン向けに
作られている。

脚本は、2008年7月紹介『攻殻機動隊』や平成版『ガメラ』
シリーズなどの伊藤和典。監督は、1986年『星空のむこうの
国』や2007年12月紹介『東京少女』の小中和哉。なお2人に
よる企画は10年以上も前からあったそうで、正に日本SF映
画の中心の2人が渾身の力で作った作品になっている。
共演は佐藤江梨子、田中圭、前田愛、ダンテ・カーヴァー、
今井悠貴。他に平泉成、吉田栄作らが出演。
物語の発端となる列車の脱線転覆シーンなどのVFXも丁寧
に描かれ、さらにテレパシーの表現などにも工夫が凝らされ
ている。ただ、原作に忠実な展開はかなり暗い影を持ってい
るもので、その辺がどう作用するか。

一般公開は10月2日からの予定だ。

『ルイーサ』“Luisa”
長年、猫と一緒の1人暮らしだった初老の女性が、ふとした
切っ掛けから社会の波に翻弄される姿を描いたアルゼンチン
の作品。
主人公のルイーサは、毎朝、夜も明けぬ時刻に飼い猫のティ
ノに起こされ、黒い服装に身を包み早朝の路線バスで職場に
向かう。そこは霊園、そこには(1943-1978)(1971-1978)
と記された彼女の家族の墓標もある。
そして午後3時半までの霊園での仕事が終わると、彼女は大
女優の家に行き、そこで掃除やお茶の用意などの家事と、女
優の話し相手や女優が居ない間の留守番の仕事もしているよ
うだ。そんな日々がもう30年近くも続いたある日。
その朝はティノが起しに来なかった。そして赤い靴箱を抱え
て彼女が出勤すると、霊園は事業刷新で彼女の仕事は無くな
ると通告される。また女優の家では、芸能界を引退して田舎
に引っ越すので仕事が無いとも言われてしまう。
さらにペットの火葬を依頼しようとすると、費用は300ペソ
と教えられ、貯金もほとんど無く退職金も出なかった彼女に
は、その費用を捻出することができなかった。そこで、取り
敢えずはティノの遺体を冷凍庫に仕舞って、彼女は行動を開
始するが…
今まではバス通勤で、地下鉄の乗り方も知らなかったような
女性に世間の荒波は容赦なく襲いかかってくる。そんな中で
も彼女は荒波に立ち向かって行こうとする。

僕も、一昨年に長年努めた勤務先から突然馘を言い渡された
経験者だが、アルゼンチンの経済もあまり良いとは聞かない
し、これは本当に大変なことなのだろう。とは言え、この主
人公のやることもかなり飛んでいて、それが可笑しさを醸し
出す作品だ。
出演は、ブエノスアイレス出身の舞台女優でスペインやヨー
ロッパでも受賞しているというレノール・マンソと、カナダ
生まれのジャン・ピエール・レゲラス。素晴らしい演技を見
せるレゲラスは本作が遺作だそうだ。
監督は、ドキュメンタリー出身で本作が長編デビュー作のゴ
ンサロ・カルサーダ。映像にはちょっとファンタスティック
なところもあり興味を引かれた。なお、劇中ブエノスアイレ
スの地下鉄がかなり出てくるが、残念ながら丸の内線塗装の
車両は観られなかった。

『nude』
昨年12月紹介『ランニング・オン・エンプティ』などに出演
の女優みひろが執筆し、講談社から書籍出版された同名の自
伝的小説からの映画化。今年5月にも『結び目』という作品
を紹介している小沼雄一監督の作品で、小沼監督には今年は
他にもう1本あるようだ。
新潟から高卒で恋人共に上京した女性が、女優を目指して頑
張る内にAV女優の道へと足を踏み込んで行く。そんな主人
公は、最初はAVには出演しないと決めていたが、仕事が中
途半端と言われ決意を固める。
昨年の一時期アルバイトしていた先では、この人の作品も観
ているのかな。何せ大半はクレジットも付いていない作品ば
かりだったので判らないが、AV界ではかなりのブランドだ
った人らしい。
そんな若い女性の姿が描かれるものだが、彼女の進路に関し
ての親友や恋人との確執などは有り勝ちなものと言える。で
もこれが、彼女の自伝であり実話に基づくということが本作
の強みだろう。
そんなある意味壮絶な人生ではあるが、彼女自身が常に前向
きで、目標に向かって突き進んで行く姿が同世代の人たちに
は共感を呼んだのだろうし、人間はここまで頑張れるのだと
いうことを伝えられたのなら、それはそれで価値のあること
だ。
ただまあ、みひろ本人が自分の娘と同い年ということでは、
父親の立場としていはいろいろ考えてしまうところもあるの
だが。

出演は、2007年11月紹介『シルク』や今年6月紹介『アウト
レイジ』にも出演していた渡辺奈緒子。「月刊渡辺奈緒子」
なんていう本も出しているから、裸はOKのようだが、さす
がにAVシーンがNGだったようだ。
試写会の舞台挨拶では、そんなAVシーンの撮影の裏話など
も披露されていたが、原作者のみひろ本人が同席している場
所ではかなり微妙な感じもした。みひろ本人はその間も屈託
なく笑顔を見せていたものだが…
共演は、2009年8月紹介『海と夕日と彼女の涙』や昨年9月
紹介『悪夢のエレベーター』などの佐津川愛美。他に、光石
研、永山たかし、山本浩司らが出演している。

『魔法使いの弟子』“The Sorcerer's Apprentice”
1940年に発表されたディズニー/シリーシンフォニーの集大
成『ファンタジア』の中で、その中心をなすとも言えるゲー
テ原作、ポール・デュカス作曲によるミッキー・マウス主演
のアニメーションにインスパイアされた実写作品。
物語の発端は、西暦740年。偉大な魔法使いマーリンが、世
界征服を企む邪悪な魔女モルガナに殺される。しかし、マー
リンの弟子の魔女ヴェロニカが身を挺してその野望を阻止、
2人の魔女はそのまま人形の中に封じ込められる。
以来千数百年、元は共にマーリンの弟子だったバルサザール
とホルヴァートは、マーリニアンズとモルガニアンズに袂を
別ち、それぞれがヴェロニカとモルガナを解放すべくその協
力者となる弟子を探す旅を続けていた。
そしてバルサザールは、ついに現代のニューヨークの街で、
その素質を持つ少年を見付け出すのだが、そのとき襲ってき
たホルヴァートがそれを妨害。それまでは機知に富んだ少年
だった主人公は、その常識では有り得ない体験を周囲に話し
たことで…。
それから10年。少年は物理学の素養で大学教授の助手となっ
てテスラコイルの研究に没頭していた。そんなある日、彼は
少年の頃に好きだった女性が大学の講義を聴きに来ているの
を発見して声をかける。しかし、そこにバルサザールとホル
ヴァートも再び姿を現す。
その間にいろいろと細かいエピソードもあって、現代ニュー
ヨークの街を背景に、少年の初恋の彼女も巻き込んでの壮絶
な魔法合戦が開始される。

出演は、ニコラス・ケイジ、アルフレッド・モリナ、モニカ
・ベルッチ。また2008年11月紹介『無ケーカクの的中男』な
どに出演のジェイ・バルチェルと2007年11月紹介『ディセン
バー・ボーイズ』に出演のテリーサ・パーマーが若いカップ
ルを演じている。
劇中には、ちゃんとアニメーションの再現シーンもあり、そ
こではデュカスの楽曲も流れてくる。ただしアニメーション
ほど派手々々ではないが、その分はテスラコイルの再現や、
魔法使い同士の対決シーンで補われている感じだ。

脚本は、1998年『マイティ・ジョー』などのローレンス・コ
ナーとマーク・ローゼンタール。監督は『ナショナル・トレ
ジャー』のジョン・タートルトーブ。製作もジェリー・ブラ
ッカイマーで、主演のケイジと併せてトリオが復活している
作品だ。

『コップ・アウト 刑事した奴ら』“Cop Out”
ブルース・ウィリスと、2006年3月紹介した『ロンゲスト・
ヤード』などに出演のトレーシー・モーガン共演で、ニュー
ヨーク・ブルックリンの警察署に勤める凸凹刑事コンビを描
いたアクション・コメディ。
コンビを組んで9年目を迎えた白人刑事のジムと黒人刑事の
ポール。今日の取り調べではいつもと違ってポールが悪役、
ジムが善役で容疑者に向かうが、ポールの質問は刑事映画の
ぱくりばかり、それでも麻薬ルートを突き止めて2人はその
張り込みに向かう。
ところがポールは最愛の妻の浮気が心配で家に電話を掛けて
ばかり、その間に麻薬ルートの仲介人が殺され、元締めに繋
がる運び屋の男には逃げられてしまう。しかもそのルートは
麻薬課が2カ月の潜入捜査で突き止めたばかりだった。
そんな訳で刑事は停職、バッジも取り上げられた2人だった
が、ジムには別れた妻の許にいる娘の結婚式が間近で、実の
父親としてその費用を捻出する必要があった。そこでジムは
父親の形見のレア物スポーツカードを売る決意を固めるが…
そこを窃盗団に襲われ、カードも強奪されてしまう。このピ
ンチに2人は処分を無視して捜査を開始し窃盗団を突き止め
…。後は大体が想像通りの展開となるが、その間をヒット映
画の台詞のパロディ満載で綴って行くという作品だ。

監督は、2001年発表の脚本・監督作品『ジェイ&サイレント
・ボブ 帝国の逆襲』などで評判の高いケヴィン・スミス。
ただし本作の脚本は、エミー賞などにもノミネート経験のあ
るロブ&マーク・カレンが製作総指揮と共に担当している。
共演は、2002年の『ザ・リング』などのアダム・ブロディ、
2000年『隣のヒットマン』などのケヴィン・ポラック、2006
年『ナチョ・リブレ』などのアナ・デ・ラ・レゲラ、それに
2000年『ファイナル・デスティネーション』などのショーン
・ウィリアム・スコット。
ギャグにはかなりくどいところもあるし、その点では典型的
なアメリカン・コメディという感じの作品。でもまあそれに
填れば相応に笑えるし、何より映画ファン向けのパロディと
いうかオマージュというか、そんな部分は結構楽しめる作品
だった。
        *         *
 今回は、映画の紹介が多かったので、製作ニュースは1つ
だけ。
 今年5月9日付で紹介したワーナー+IMaxリストにも登場
したジョニー・デップ主演“Dark Shadows”の映画化に、脚
本家の名前が発表された。その名前は、今年3月7日付で紹
介したティム・バートンが計画を進める“Abraham Lincoln:
Vampire Hunter”の原作者のセス・グラハム=スミス。作家
は自作の脚色も契約しているが、今回はテレビシリーズから
の新たな物語の構築も進めることになりそうだ。
 なお、本作の公開日などはまだ公式には発表されていない
が、上記のリストに従えば2013年中の公開が確定のようだ。
ティム・バートンの監督もありそうかな?



2010年07月11日(日) 死刑台のエレベーター×2、ブロンド少女は過激に美しく、フローズン、みつばちハッチ、シャングリラ、インセプション+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『死刑台のエレベーター』“Ascenseur pour l'echafaud”
昨年5月に『地下鉄のザジ』を紹介したルイ・マル監督が、
1957年に発表した監督デビュー作の再公開。ノエル・カレフ
の原作から監督と当時の新進作家ロジャ・ニミエが脚色し、
当時25歳の監督が映画化した。撮影はアンリ・ドカエ。
女性の指図で彼女の夫を殺した主人公。それはほぼ完全犯罪
のように成功するが、最後のちょっとした手違いから、彼は
そのビルのエレベーターに閉じ込められてしまう。彼女との
待ち合わせ場所に行こうと焦る主人公。しかしその間に思わ
ぬ事態が発生して行く。
この作品も若い頃に観ていたはずだが、僕としては『ザジ』
の印象が強烈で、名作と言われる本作にはちょっと肩透かし
だった記憶がある。まあ僕は元々がファンタシー志向の人間
だからそれも仕方ないだろう。
しかし今回作品を見直していて、最後の犯罪が露見するシー
ンなどには、ファンタスティックな興奮も覚えたもので、さ
すがルイ・マルの手腕は確かなものだと納得することもでき
た。それに丁寧に撮られたアクションの演出は今でも通用す
るものだ。

主演はジャンヌ・モロー、モーリス・ロネ。共演は『禁じら
れた遊び』の少年ジョルジュ・プージュリー、本作がほぼデ
ビュー作のヨリ・ベルタン。それにリノ・ヴァンチェラらが
出演している。
特にモローは、若いのも勿論だが何より可愛らしい感じで、
不安と疑念に苛まれながら街をさ迷い歩く姿が見事に演じら
れていた。実際に映画の中ではもっともアクションの少ない
役柄だが、その姿がより印象的に写されているものだ。
マイルス・デイヴィスのトランペットを中心としたモダン・
ジャズのBGMも見事で、物語の印象をより鮮烈なものに高
めている。正にモダン・ジャズを使用した映画のお手本だろ
う。
ガルウィングのメルセデスなど珍しい自動車も登場して、そ
の走行する姿が観られるのもカーマニアには喜ばれそうだ。
それに主人公が乗る自動開閉幌付きのオープンカーも気にな
った。他にもミノックスの小型カメラなど、いろいろマニア
好みのものが登場する。
勿論、50年以上も前の作品だから、そのことは理解して観な
ければいけないが、物語や仕掛けは正に今でも通用する作品
だ。なお、本作は1957年のフランス映画で最高賞と言われる
ルイ・デリュック賞を受賞している。

『ブロンド少女は過激に美しく』
       “Singularidades de uma Rapariga Loura”
今年1月に『コロンブス永遠の海』を紹介したポルトガルの
マノエル・デ・オリヴェイラ監督による2009年、監督100歳
のときの作品。因に監督は、今年のカンヌ映画祭でも新作を
発表しているそうだ。
列車の中で隣に座った男性が、長年に渡って愛を捧げ続けた
女性との破局の顛末を語り始める。それは彼がまだ若かった
頃、叔父の店の2階で経理の仕事をしていた彼の目に、向か
いの家の窓辺で優雅に扇を使う女性の姿が写ったことが発端
だった。
やがて友人の紹介で彼女との交際を始めた主人公は、叔父に
彼女との結婚を認めてくれるよう頼むのだが、叔父は独身者
しか雇わないとして、「言うことが聞けないなら出て行け」
と馘を宣告されてしまう。
こうして路頭に迷うことになった主人公は、遠くの街での仕
事を引き受け、彼女を置いて出稼ぎに向かうことに…。とこ
ろがその出稼ぎ先で彼は成功を納め、資産を作って帰ってく
る。しかし、彼には更なる試練が待ち構えていた。

上映時間は64分という作品だが、とにかく波乱万丈、いろい
ろなことが起きて普通に描いたら2時間を超えるのではない
かと思われる物語が展開する。しかも物語はダイジェストと
いう感じではなく、これは見事な作品だ。
原作はポルトガルの文豪エサ・デ・ケイロスが1873年に発表
した短編。この原作からオリヴェイラ監督自身が舞台を少し
現代に移して脚色しているが、原作の言葉は一言一句改変し
ていないのだそうで、それも見事な作品と言えそうだ。
さらに、撮影は2008年11月下旬に開始されて、ほぼ2カ月後
のベルリン映画祭に完成品が出品されたとのこと、100歳の
監督にしてその驚異的なスピードも賞賛の的になっている。
出演は主人公をオリヴェイラ監督の実の孫が演じている他、
監督の作品に常連の俳優たちで固められているが、主人公を
惑わすブロンド少女役には、ほとんど無名の新人女優が起用
されているようだ。
なお、本作の公開は、本国では1本立てで興行されてヒット
したとのことだが、日本では、オリヴェイラ監督が敬愛する
ジャン・リュック・ゴダール監督による1958年の短編『シャ
ルロットとジュール』(Charlotte et son Jules)が併映さ
れる。14分の作品だが、こちらもいろいろ含蓄があって面白
かった。

『フローズン』“Frozen”
2006年3月紹介『トランスアメリカ』で息子役を演じていた
ケヴィン・ゼガーズと、『X−メン』シリーズにアイスマン
役で出演のショーン・アシュモア、それにテレビやインディ
ペンデス作品などに出演している女優エマ・ベルの共演で、
スキー客を襲う恐怖を描いた作品。
谷間に架かるチェアリフトが停止。そこは地上からかなりの
高さがあり、しかも週末だけ営業されるスキー場のナイトス
キーで、日曜日の最後にリフトに乗った主人公たちには、次
の金曜日の営業再開まで、助けの訪れる可能性はほとんどな
かった。
という、究極のシチュエーションで繰り広げられるサヴァイ
ヴァル・ストーリー。
昨年7月紹介の『ブラック・ウォーター』も、クロコダイル
のいる入り江でマングローブの樹上に取り残される、という
究極のサヴァイヴァルだったが、本作もそれに負けず劣らず
といった感じの作品だ。
しかも、オーストラリアでクロコダイルのいる入り江など、
行く方がそれなりの覚悟を決めているべきだと思われるが、
スキー場のリフトではいつ誰が遭遇しないとも限らない。そ
んな身近にある恐怖が描かれているとも言える。
物語は、幼馴染みの男性2人と、その一方のガールフレンド
の計3人が主人公。彼らは週末のみ営業のスキー場を小旅行
で訪れ、女の魅力でリフト券を手に入れたり、適当に遊んで
いたが、吹雪が来るので早仕舞するというリフトに無理矢理
最後に乗り込んで行く。
ところが、リフトの係員の引き継ぎのミスで、彼らが降車場
に着く前にリフトは停止、しかもそこは谷間に架かる地上を
高く離れた地点だった。こうして取り残された3人は、最初
はすぐに動くだろうとの期待も持って、軽口なども交わして
いたが…
ということで、このシチュエーションからの脱出劇が展開さ
れることになるが、実は映画の中で主人公たちが採る行動が
余りに軽率で、例えば飛び降りるにしたって、まずは衣服を
繋いでロープを作るとか方法はいろいろあるはずのものだ。
でもそんなことはパニクっているから、見境が無くなってい
るという解釈なのかな。
それに本作のシチュエーションでは、主人公たちはリフトに
座っているから行動が制限されて、アクションがほとんど成
立しない。そこで映画は会話劇に仕立てているのだが。これ
がまた緊張感がなくて、正直には「もっと危機感を持て」と
苛々してしまった。
他にも、リフトの座席に刺した赤旗は何のためだったのかと
か、雪山に対する認識の甘さ(素手で金属部分に触ったらそ
の場で貼り付いてしまうはず)など、疑問に感じるところは
いろいろあった。
とはいえ現実はこんなものなのかな? 『ブラック・ウォー
ター』は一応実話に基づいているからそうとしか言いようが
なかったのだが…。それに、観客を苛々させるのも映画のテ
クニックとは言えそうだ。

因に、脚本・監督のアダム・グリーンは、ヒッチコックから
スピルバーグまで王道のハリウッド映画が好きだそうで、良
くも悪くもハリウッド的とは言えそうな作品。観客は苛々、
ハラハラしながらも安心して観ていられる映画だ。

『昆虫物語みつばちハッチ』
1970年4月から翌年12月まで放送され、その後に続編やリメ
イクもされたタツノコプロ製作によるアニメーションシリー
ズの劇場版。
2008年6月紹介の『おくりびと』で脚本を手掛けた小山薫堂
(テレビの『カノッサの屈辱』なども手掛けていた)が、共
同脚本と総合プロデュースも担当し、オリジナルとはちょっ
と違った展開の物語が描かれた。
主人公のハッチは1匹で旅をしているミツバチ。彼の幼いと
き、暮らしていた巣がスズメバチに襲われ、女王蜂を拉致さ
れてしまう。その襲撃から辛くも逃れたハッチは、以来放浪
の旅を続けながら、女王蜂が捕らえられたスズメバチの巣を
探していた。
そんなハッチが辿り着いたのは、人間の住む街も近いとある
草原。そこで横暴なカマキリからイモムシのカップルを救っ
たハッチは、聞こえて来た優しい音色に誘われ1人の少女と
出会う。それはやがて思いも寄らぬ冒険へと、少女とハッチ
を導いて行く。
オリジナルは、昆虫同士は会話もするし社会生活を営んでい
るが、人間の存在がほとんど関与しない(むしろ自然の驚異
の一部のように描かれている)昆虫だけの物語として特徴付
けられていたようだ。
その物語が今回は、ちょっとした細工でオリジナルとは異な
る展開になっている。その変更が、オリジナルのファンにど
のように受け取られるか判らないが、オリジナルを観る世代
ではなかった僕には、納得もできたし面白くも観られたもの
だ。
つまりその細工は、オリジナルとの齟齬が生じないように施
されているのだが、その辺をオリジナルのファンが理解して
受け入れてくれるかどうか。それが本作の評価の境目にもな
りそうだ。

声優は齋藤彩夏、アヤカ・ウィルソン、田中直樹、小森純、
坂東英二、柄本明、有村昆、中村育二、臼田あさみ、中村獅
童、安田成美。他には、ベテランの声優が脇を固めていたよ
うだ。
なお、タレント声優たちにはアニメーション経験者も多かっ
たようで、それぞれあまり聞き苦しい感じはしなかったが、
映画のコメンテーター氏は、自分の関わった作品をどのよう
にコメントするのかな、それは楽しみだ。

『シャングリラ』“這儿是香格里拉”
6月紹介『北京の自転車』と共に、東京は新宿K'sシネマで
今月末に開催される「中国映画の全貌2010」で特別上映され
る作品。
1970年代生まれで中国・台湾・香港出身の女性監督10人が、
中国雲南省を舞台に描いたシリーズ“雲南影響”の1篇で、
本作は台湾出身の女優で、舞台演出家でもあるティン・ナイ
チョンが監督デビュー作として制作した。
物語の発端は台湾。そこでセレブ夫人として優雅に暮らして
いた主人公は、一人息子を眼の前の事故で亡くし、悲嘆の淵
に落とされる。そんな中で彼女は、息子が生前彼女に渡した
宝捜しゲームのヒントのメモを見付けるが…
そのヒントを手に中国雲南省チベット族自治州に向かった主
人公は、彼女を尾行してきた青年と共に山麓を旅し、息子が
描いた霊峰・梅里雪山を見付け出す。それは彼女に、新たな
希望を生み出して行く。
雲南省チベット族自治州中旬県という地域が、2001年に香格
里拉(シャングリラ)県と改称したのだそうで、そのシャン
グリラ県で撮影された作品のようだ。そこは高山地ではある
ようだが、草原の広がっている風景などもあり、それなりに
桃源郷のようにも見えた。
そんな風景を背景に女性の癒しと再生が描かれる。そこには
宝捜しの他にも謎解きの部分があったりもして、興味を引か
れながら観ることができた。ただまあ、幼い息子の出したヒ
ントで中国に飛ぶかな…というところはあるが、それは野暮
というものだろう。

プレス資料に出演者などの情報はあまりなかったが、主人公
を尾行する青年を演じているのは、2007年の『ラスト、コー
ション』で主人公の同級生に扮したチュイ・チーインという
俳優だそうだ。
なお本作は、カイロ映画祭で撮影特別賞を受賞の他、NHK
主催のアジア・フィルム・フェスティバルではアンコール上
映作品にも選ばれている。
また今月末開催の「中国映画の全貌」では、2008年1月紹介
『胡同の理髪師』のドキュメンタリー版などが日本初公開さ
れる他、2007年3月紹介『ルオマの初恋』や、1994年『項羽
と劉邦』、2001年『思い出の夏』などが日本最終上映となる
ようだ。

『インセプション』“Inception”
2005年『バットマン・ビギンズ』、06年『プレステージ』、
08年『ダーク・ナイト』を発表したクリストファー・ノーラ
ン監督の最新作。
他人が就寝中に観る夢に侵入し、その相手が夢の中で構築す
るアイデアを盗み出す。そんな究極の産業スパイを描いた作
品。しかし物語はそれだけでなく、侵入した相手に別のアイ
デアを植え付け、それにより相手の行動をコントロールする
…という展開になる。
因に、題名のinceptionは辞書で引くと「初期の」という訳
語が出てくるが、本作の字幕では「植え付ける」と翻訳され
ていた。物語の中でも、初期の状態がやがて芽を出して行く
というような意味合いで使われていたようだ。
という物語の骨子は至極シンプルなものだが、そこに夢への
侵入を妨害する対抗策が設けられていたり、さらに深く夢に
侵入するための強力な鎮静剤、その鎮静剤の影響下で無理に
目覚めようとすると虚無界に転落するという設定など。
また、夢の中では時間が伸張されて実時間の20倍となり、さ
らに夢の中で夢に侵入するとそれが二乗される…などなど。
そんな設定が見事な映像で表現され、SFファンなら思わず
ニヤリとするシーンが満載の作品だった。
因に本作の予告編では、街路の先が上方に迫り上がって行く
という凄まじい画像が観られたが、これは正にコケ脅かし。
映画の本質では、さらに奥深くの人間の深層心理の問題など
が語られる。そしてそれは究極の選択を迫る問題にもなって
行く。
また本作では、一面では自殺の問題も描いているが、そこで
は自殺が物事の解決に繋がらないというメッセージも示して
いるように見えるものだ。

出演は、レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、エレン・ペイ
ジ、マリオン・コティアール。さらに、マイクル・ケイン、
トム・ベレンジャー。いずれもアカデミー賞を受賞あるいは
ノミネートされた錚々たる顔ぶれが揃えられている。
他には、『ロックローラ』のトム・ハーディ、『(500)日の
サマー』のジョセフ・ゴードン=レヴェット、『アバター』
のディリープ・ラオ、『バットマン・ビギンズ』のキリアン
・マーフィなど、正に曲者揃いの共演者たちだ。
なお、本作の結末はハッピーエンドか否か、議論は分かれる
ものと思われるが、僕はアンハッピーエンドと採る。その答
えは、エンディングクレジットにあると思えるからだ。


『死刑台のエレベーター』
今回の最初に紹介したフランス映画のリメイクが日本映画で
登場した。実は試写会の前に記者会見があって、その際のプ
ロデューサーの説明によると、世界各国でリメイクの計画が
あったが、本作の企画だけがルイ・マル監督の遺族の支援も
あって認められたそうだ。
本作の舞台は現代の横浜に変えられているが、物語の骨子は
ほぼオリジナルの通り、逆に言えば現代であの物語を成立さ
せるためのいろいろな工夫が凝らされている、とも言えそう
だ。そのための舞台が横浜であったりもする。
ただし本作では、オリジナルではほとんど語られていない各
登場人物の背景がそれなりに描かれており、オリジナルでは
刹那的にも見える若者の行動なども、それなりの理由付けが
されていたりもしている。
だが、記者会見で監督が言った「25歳の才気溢れる青年監督
が作り上げた作品を、50歳の中年監督がリメイクするとどう
なるか」という点で言えば、オリジナルの青臭さみたいなも
のがヌーヴェルヴァーグだった訳で、本作がそうでないのは
明かだろう。
そこで本作では、中年監督らしく、もっと人間臭いどろどろ
したものに描いて欲しかった感じもしたが、あまりオリジナ
ルを離れることも躊躇われた感じで、何かそこに思い切りが
足りない感じもしてしまった。
実際に、本作のヒロインの行動では、オリジナルよりさらに
悪女であるかのようにも描かれているのだが。そこまで描く
なら、さらに彼女が男性を利用しただけというような、徹底
ぶりも欲しかったところだ。

出演は安部寛、吉瀬美智子、玉山鉄二、北川景子。他に、平
泉成、りょう、笹野高史、熊谷真実、田中哲司、堀部圭亮、
町田マリー、上田耕一、津川雅彦、柄本明らが脇を固めてい
る。
監督は、昨年6月紹介『のんちゃんのり弁』などの緒方明。
女優は奇麗に撮って貰えている感じだ。脚本は、1993年橋本
以蔵監督の『ドライビング・ハイ!』という作品に参加して
いた木田薫子が担当している。
公開は10月9日に決まっており、オリジナルの再公開と同時
期になりそうだ。
        *         *
 今回の情報は、まずは全世界で27億ドル稼ぎ出して史上最
高の興行収入を記録しているジェームズ・キャメロン監督の
『アバター』に、8分間の未公開映像を追加した“Avatar:
Special Edition”の公開が発表された。
 この公開は8月27日から、ディジタル3D及びIMAX−
3D劇場への限定で行われるもので、その8分間には新しい
生物や、新たなアクションが登場するとのことだ。
 『アバター』関連の情報では、今年4月25日付で続編の計
画について報告しているが、その計画ではパンドラ星の海洋
が舞台になるともされていたもので、今回追加される映像は
それとは別のもののようだ。
 8月からの公開では、観客は追加された8分だけのために
観に行くことになる訳だが、オリジナルのリピーターの状況
から考えるとそれもかなりありそうで、興行収入は一体幾ら
積み上げられるか、それも興味津々という言うところだ。
        *         *
 最後に、『スタートレック:ヴォイジャー』などの脚本を
手掛けたハリー・クルーアという作家が製作プロダクション
を設立し、2008年『スパイダーウィックの謎』などを製作し
たゴッサム・グループとの提携で、ロバート・A・ハインラ
イン原作“Have Space Suit, Will Travel”(邦訳題:スタ
ーファイター)の映画化を進めると発表した。
 因にクルーアは、完成されたシナリオをハインラインの相
続人に提示して映画化権を獲得したとのことで、監督を含む
スタッフ・キャストは未発表だが、ゴッサム・グループとの
提携なら実現の可能性はかなり高そうだ。
 同原作に関しては、2003年5月1日付第38回でも計画を紹
介したことがあるが、今度こそ実現してもらいたいものだ。



2010年07月04日(日) ミレニアム2/3、愛の言霊、シングルマン、GARO、おにいちゃんのハナビ、スプリング・フィーバー、REDLINE+他

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ミレニアム2火と戯れる女』
            “Flickan som lekte med elden”
『ミレニアム3眠れる女と狂卓の騎士』
             “Luftslottet som sprangdes”
昨年10月紹介した『ミレニアム/ドラゴン・タトゥーの女』
に続く3部作の第2弾と第3弾。
前作では、40年前に起きた財閥の令嬢失踪事件に端を発し、
過去の歴史に纏わる巨大な闇が描き出された。その続編とい
うことで、また巨大な闇の歴史が展開するのかと思いきや、
今回は主人公リスベット自身の過去が深く関る物語になって
行く。
物語は、前作の事件が解決した後で海外に行っていたらしい
リスベットがスウェーデンに戻ってくるところから始まる。
そのことは、前作でコンビを組んだミカエルにも伝えられな
かったが、彼女を巡って巨大な陰謀が動き出す。
そしてリスベットは、「ミレニアム」誌に新規に採用された
若手ジャーナリスト殺害の容疑を掛けられ、ミカエルたちと
の関りが再開されるのだが…。その若手ジャーナリストが追
求していた事件は、思わぬ過去の闇を暴き始める。
前作を鑑賞した後、書店に山積みされたスティーグ・ラース
ンの原作本の翻訳にはかなり食指が動いたが、本作を映画と
して純粋に楽しみたいために手に取るのを止めていた。しか
し、その続編が主人公リスベットの過去に関ると言うことは
知ってしまっていた。
という状態で本作を鑑賞したが、正しく予想を超える展開に
思わず息を呑まされ続けた作品だった。しかも前作はかなり
アクティヴに主人公たちが動き回ったのに対し、本作では、
後半に法廷シーンまで用意される緩急の展開で、その構成に
も感服した。
そして暴かれる闇の規模の大きさ。もちろんフィクションで
はあっても、その如何にもありそうな展開がぐいぐいと観客
を引きつけて行く感じの作品だ。これこそがフィクションの
醍醐味というところだろう。

出演は、前作と同じくノオミ・ラパスとミカエル・ニクヴィ
スト。ノオミは前作の奇抜なファッションも魅力だったが、
本作ではそのヘヴィなメイクは封鎖。しかし、ちゃんとその
姿が再現されるシーンがあるのもうまく構成されていた。
上映時間は2時間10分と2時間28分。合計で4時間半を超え
る大作だが、2本立てで行われた試写は、前作同様あっとい
う間に時間が経ってしまった。日本公開は9月の予定だが、
ぜひとも2作続けて観て欲しい作品だ。
それにしても、リスベットは魅力的なヒロイン像。原作者の
ラースンは亡くなっているが、原作には未発表の第4部もあ
るそうで、早くその作品も観てみたい。それに、ハリウッド
ならこの後は自由に続編が作れる条件にもなるはずで、デイ
ヴィット・フィンチャーが進めるリメイクにも期待したいも
のだ。

『愛の言霊』
紺野けい子原作のBLコミックスの映画化。同じ原作からは
2007年にも映画化があるようだが、本作の物語はそれとは独
立しているようだ。
主人公は、広告代理店のIT部門に就職した若者。通勤の都
合から実家を離れ1人生活を始めるが、その引っ越しの最中
に緊急会議で会社に呼び出される。
その会議で待ち受けていたのは、本社からの派遣で、文系出
身者の主人公には意味不明のIT用語を連発する少し年上の
男性だった。しかし、その男性の眼差しに何かを感じた主人
公は、自費でパソコン教室にも通い始め、彼の期待に応えよ
うとして行く。
一方、主人公には幼馴染みの少し年上の女性がいて、彼女は
姉貴面して彼の住まいにも乗り込んでくる。そんな彼女と本
社から来た男性が、実は以前からの知り合いだったことが判
明し、主人公の心が乱れ始める。
まだ自分がゲイと気付いていない男たちの愛の行方が描かれ
て行く。
前作との関りでは、前作の主人公が配役もそのままでパソコ
ン教室の講師役で登場し、主人公にいろいろなアドヴァイス
をしてくれるがその程度。ただ途中でちょっとだけ前作との
絡みは挿入されていたようだが、それが判らなくても問題な
い程度のものだ。
実際、僕は前作を観ていないので、上記の情報はプレス資料
から得たものだが、その資料を読む前に映画を観ていても問
題はなかった。

主演は、TV『笑っていいとも』第13代「いいとも青年隊」
の植野堀まこと、舞台「テニスの王子様」出身で、本作の主
題歌の作詞と歌唱も担当している河合龍之介。他に前作から
引き続きの齋藤ヤスカ。また2003年デビュー作の『蕨野行』
で新人女優賞を受賞した清水美那が共演している。
BL物も、以前は上映時間が70分前後で演技も学芸会程度の
作品が多かったが、本作では90分しっかりと作られていて、
内容もそれなりになってきている。脚本は、2008年2月及び
9月紹介『カフェ代官山シリーズ』などの金杉弘子、監督は
2008年8月紹介『春琴抄』などの金田敬。
因に、金田監督は前作も担当していたとのことで、脚本家の
金杉と共にBL物ではブランドのようだが、僕は2人が組ん
だ作品を観るのは初めてかな。それぞれファンタシー系も作
品も手掛けている人たちだから、次はその方向も期待したい
ものだ。

『シングルマン』“A Single Man”
昨年10月20日付「第22回東京国際映画祭・コンペティション
以外(1)」で紹介した作品が一般公開されることになり、改
めて試写が行われた。
原作は、クリストファー・イシャーウッドが1964年に発表し
た同名の長編小説で、1962年の南カリフォルニアを舞台に、
ロサンゼルスの大学で教授を務めるゲイのイギリス人男性を
主人公とした物語。
その原作を、グッチのデザイナーとしても著名なトム・フォ
ードが自ら脚色し、監督して映画化。その作品はヴェネチア
映画祭に出品されて主演のコリン・ファースが主演男優賞を
受賞。さらに作品はゴールデン・グローブやアカデミー賞の
候補にも挙げられた。
映画は、最初に雪の降り積もる交通事故現場で車から投げ出
された男性の遺体の描写から始まり、そこを訪れた主人公が
遺体に寄り添う姿が写し出される。そして物語は、その衝撃
から立ち直れない主人公が自殺の準備を進めて行く描写へと
繋げられるのだが…
実は映画祭では全く予備知識なしに映画を鑑賞して、そのシ
ーンの積み重ねがなかなか把握できなかった。しかし個々に
描写される映像が素晴らしく、単純に芸術映画として評価す
ることのできる作品だった。
しかし今回は、主人公の置かれた状況などを把握した上で見
直して行くと、その主人公の思いなどが見事に描かれ、ドラ
マとしても素晴らしい作品であることが再確認できた。特に
途中に登場するジュリアン・モーアとのシーンには心が打た
れた。
それに前回の紹介では自殺という観点で映画を観てしまった
が、この作品がそこに帰結させていないことも好ましく思え
る作品だった。その点では余りに皮肉な作品であって、その
意味での悲しみが倍加されているような感じもした。

共演は、『タイタンの戦い』に出演の後、現在撮影準備中の
“Mad Max: Fury Road”には主役級で登場する予定のニコラ
ス・ホルト。他に、2006年6月紹介『マッチ・ポイント』に
出演のマシュー・グードらが出演している。
因に、監督のフォードはゲイをカミングアウトしているとの
ことで、本作はゲイによるゲイの映画といったところだが、
もっと本質的な最愛の人を失った悲しみを描いた作品として
素晴らしかった。
なお、前回の紹介では画質のことを気にしたが、今回の試写
ではそのような問題はなかった。昨年の映画祭では他にも画
質に難のあることが多くて、いくつか指摘したがこれもその
一例だったようだ。ただ他とは傾向が違ったので、製作者の
意図なのかどうかの判断もできなかったが、ディジタル上映
でのこの種の問題は早く解消してもらいたいものだ。

『GARO THE MOVIE 3D:
               RED REQUIEM』
テレビ東京系列の深夜枠で、2005年10月から2006年3月まで
全25話放送された特撮番組『牙狼<GARO>』からの3D
劇場版。
2001年に放送された『鉄甲機ミカヅキ』などの特撮映像クリ
エーター雨宮慶太の原作監督による作品で、ホラーと呼ばれ
る人間の邪心に取り憑く魔獣が蔓延る世界を背景に、その魔
獣を退治する魔界騎士と呼ばれるダークヒーローの活躍を描
く。
先のテレビシリーズで活躍した主人公が再登場し、新たな魔
獣に襲われた港町を巡って、その町を守って来た魔界法師と
呼ばれる者たちと、そこに現れた伝説の魔界騎士の活躍。そ
こに生じる確執などが、CGI・VFXを多用したアクショ
ンドラマで展開される。
魔獣ホラーの気配を追ってその男は港町に現れた。しかしそ
の町には強力なホラーの痕跡はほとんど感知されていなかっ
た。
そんな町中で魔界法師たちが一体のホラーの正体を見破り追
い詰めていた。しかし相手もそこそこに強力で多少手子摺っ
ていたとき、そこに現れた1人の男が伝説の黄金の騎士に変
身してそのホラーを倒してしまうのだったが…
その黄金の騎士の男は、より強力なホラーがその町のどこか
に潜むとして魔界法師たちに協力を求める。しかし3人の法
師の内の1人は、彼との協力を拒否して自らそのホラーを倒
してみせると宣言する。
やがて、怪しげなクラブに潜むホラーの居所が判明するが、
そこには魔界騎士をも危うくする罠が張り巡らされていた。
物語自体はこの手の作品では有り勝ちな展開で、特に目新し
いとは思わなかったが、元々が深夜番組ということで、それ
なりに人間の欲望など大人向けのテーマは取り入れられてい
る。しかも本作はR−12指定ということでそれなりのシーン
も登場する。

主演は、テレビシリーズと同じく小西遼生(番組放送後に改
名)。共演は元新体操選手という松山メアリ、影山ヒロノブ
(声優)、斎藤洋介、倉貫匡弘。また敵役には笠原紳司、江
口ヒロミ。さらに津田寛治、中尾彬らが脇を固めている。
アクション監督をアメリカ版『パワー・レンジャー』などの
横山誠が担当し、実写部分のワイアーアクションからCGI
を駆使したアクションまで見事に描いている。特に、松山の
特技を活かしたアクションはなかなかのものだった。
それに3Dの効果も、妙なケレンもなく的確に描かれていた
ように思えた。R−12指定ということでもあるし、大人の鑑
賞に耐える作品にはなっていたようだ。

『おにいちゃんのハナビ』
毎年9月9日に新潟県小千谷市片貝町で行われ、世界記録の
四尺玉花火が打ち上げられることでも有名な片貝まつり。そ
こで取材されて2005年に放送されたテレビドキュメンタリー
に基づくドラマ作品。
片貝まつりで打ち上げられる花火は、町民たちが子供の誕生
や、その年に逝った家族への追悼、さらに学校の同窓生同士
が成人や還暦を迎えた節目などに、それぞれの思いを込めて
神社に奉納しているものなのだそうだ。
そんな片貝町に住む主人公の一家は、東京から娘の喘息の療
養をかねて引っ越して来た。しかし病身でありながら活発な
妹はすぐに友達もできて新生活に馴染むが、成績優秀だった
兄は馴染めず、妹が退院してきた日も部屋に引き籠もったま
まだった。
そんな兄を心配する妹は、兄を町に誘い出したり、花火を打
ち上げる同窓生の仲間に紹介したり、アルバイトを始めさせ
るなど引き籠りからの脱却を画策するが…。その一方で、妹
の病状は着実に進行していた。

出演は、今年は1月に紹介した『ソラニン』など出演作5本
が公開されるという高良健吾と、2008年6月紹介『コドモの
コドモ』などの谷村美月。他に、大杉蓮、宮崎美子、塩見三
省、佐藤隆太、佐々木蔵之助らが脇を固める。
監督は、テレビ『心療内科医・涼子』で民放連優秀賞を受賞
した国本雅広。脚本はテレビ『怪物くん』などの西田征史。
因に、国本は劇場用映画の監督は初めてだそうだが、演出は
そつなくこなしていた感じだ。
物語自体は難病物だが、そこからの展開が片貝まつりという
背景や、さらに引き籠りなどの要素も加えて見事に描かれて
いる。特に花火との関わり方は、元々がそこから始まった作
品だけに心を打たれるものになっていた。

さらに劇中で紹介される色とりどり、仕掛けも様々な打ち上
げ花火の見事さ。中でも直径800mにも及ぶとされる四尺玉
の豪快さ華麗さには、大画面で観るだけの価値があるとも言
えそうな作品だった。
なお主題歌を、藤井フミヤが書き下ろしで提供。また本作は
今年6月に開催された上海国際映画祭で「日本映画週間」の
オープニングを飾ったそうだ。

『スプリング・フィーバー』“春風沈醉的晩上”
2008年5月紹介した『天安門、恋人たち』のロウ・イエ監督
による2009年作品。
前作の2006年カンヌ映画祭での強行上映から5年間の映画製
作禁止処分を受けた監督が、その解除を待たず、正にゲリラ
的手法で中国の古都南京を舞台に撮影製作した作品。しかも
その内容では中国政府が忌み嫌うゲイの姿が描かれている。
何とも挑戦的な作品だし、それだけで話題性は充分といった
感じだが、物語の展開としては自然だし、特に最近のインデ
ィペンデンス映画の傾向から言えば特別なものではない。む
しろその物語が巧みに作られていたと言える作品だ。
開幕は、雑木林の中の小屋で激しく身体を求め合う2人の男
の姿。その2人が事を終えて帰ろうとしたとき、1人の男が
彼らとすれ違う。その男は町で私立探偵の様なことをしてお
り、彼は学校教師の女性の依頼で彼女の夫の浮気調査をして
いた。
こうして夫の浮気相手が男性だったという事実を知った女性
と、その夫、浮気相手、さらに探偵とその恋人も巻き込み、
様々な人間模様が描かれて行く。それは画一的な社会の中で
翻弄される人々の物語だ。
前作『天安門』の時も、歴史的な事件を背景にしながら、そ
こでの人間の普遍的な営みが描かれていたが、今回もゲイと
いう中国政府には受け入れられないテーマを扱いながら、そ
こに描かれるのは、ある意味、人としては自然な営みなのか
も知れない。
そんな本作は、センセーショナリズムと現実的な事物の捉え
方が巧みに融合された作品とも言えそうだ。脚本は、前作を
監督と共同で手掛け、本作でカンヌ映画祭の脚本賞に輝いた
メイ・フォン。
因に、イエ監督の最初のアイデアでは浮気相手はゲイではな
かったが、脚本家との議論の中でそのテーマが浮かんできた
とのこと。本作の主要な部分はこの脚本家によるところが大
きいようだ。
また脚本家は撮影現場に立ち会い、その場の雰囲気でどんど
ん手直しを行ったとのこと。さらに撮影には家庭用ディジタ
ルヴィデオカメラを使用し、オートフォーカスや自動露出も
利用して自由な撮影を行ったとのことで、そんな自然さが作
品にも現れている感じだ。
なお、出演者は日本に馴染みのない俳優が中心だが、監督は
彼らに、『真夜中のカーボーイ』と『マイ・プライベート・
アイダホ』を観せて作品への理解を求めたそうだ。


『REDLINE』
2003年に発表された短編9本からなる『アニマトリックス』
の内の1本を手掛けた小池健監督による長編アニメーション
作品。反重力装置によるエアカーが発達した未来世界を舞台
に、それでも4輪に拘わってレースを繰り広げる者たちを描
く。
未来のレースというと、実写作品でも『マッハ Go!Go!Go!』
から『デスレース』まで様々作られているが、異惑星の荒野
を背景にしているというところでは、『スター・ウォーズ:
エピソード1』を思い出す。
そのキャラクターを模したような異星人もいろいろ登場する
作品で、そのパロディというか、オマージュといった感じで
も作られている作品のようだ。でもまあ、主人公が思い寄せ
る女性ドライヴァーや、裏で糸を引く黒幕なども出てくるか
ら、お話は違うものだ。
脚本は、『鮫肌男と桃尻女』の石井克人の原作から、石井と
『エヴァンゲリオン』の榎戸洋司、『攻殻機動隊』の櫻井圭
記が共同で執筆したもの。ニトロを使ったりそれより強力な
燃焼剤など、アクセサリーはいろいろ用意されている。
ただ、主人公と女性ドライヴァーの関係などはもう少し描き
込めばもっと面白くできたと思うが、レースとそのアクショ
ンを描くことに力点が置かれて、心理的な点が多少おざなり
なのは残念に感じられるところもあった。

声優は木村拓哉、蒼井優、浅野忠信。木村と浅野はそうだと
思えばそれなりの感じだが、木村は兎も角、浅野のアニメの
キャラクターが本人とかけ離れているのが何となくしっくり
と来なかった。ディズニーが声優は骨格で選ぶという理由が
判ったような気もした。
それに対して蒼井は、『鉄コン筋クリート』のときの抜けた
ような声の演技も見事だったが、今回は木村を相手にしての
大人の女の演技で、これもまた聞けるものになっていた。こ
の女優には本当に限界がないようだ。
毒気満載のキャラクターや途中に挿入されるゲストアニメー
ターによるシーンなど、良くも悪くもマッドハウスのファン
には喜ばれそうな作品で、僕には多少食傷気味なところはあ
ったが、多分まだファンは健在なのだろう。
        *         *
 今回は紹介作品が多かったので、製作ニュースのスペース
が無くなってしまった。代りに今年は10月23日から31日まで
開催される第23回東京国際映画祭の事務局から、コンペティ
ション部門の審査委員長決定のお知らせがあったので報告し
ておこう。
 お知らせによると今年の審査委員長に、アイルランド出身
のニール・ジョーダン監督が決定したとのことだ。
 ジョーダン監督は、本サイトでは2007年9月に『ブレイブ
ワン』を紹介しているだけだが、1992年『クライング・ゲー
ム』でアカデミー脚本賞、1996年『マイケル・コリンズ』で
ヴェネチア映画祭金獅子賞、1997年『ブッチャー・ボーイ』
でベルリン映画祭銀熊賞をそれぞれ受賞という映画祭の審査
委員長には申し分のない名匠。しかも、ファンタシー映画の
ファンにとっては、1984年の監督デビュー作『狼の血族』や
1994年の『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』などでも
忘れられない。因に『狼の血族』は、1985年の第1回東京国
際映画祭にも出品されており、今回は25年ぶりの映画祭への
復帰となるようだ。
 コンペティションのエントリーは4月20日に開始されて、
締め切りは7月15日になっているが、ジョーダン監督の審査
委員長就任で、特にファンタシー系の作品が注目されたら嬉
しいところだ。それに回顧上映があったら、『狼の血族』は
もう一度観てみたい。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二