井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2004年12月31日(金) 火火、隣人13号、火星人メルカーノ、エレニの旅、タッチ・オブ・スパイス、ビヨンドtheシー

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『火火』                       
信楽焼きで最初の女性陶芸家と呼ばれる神山清子と、骨髄性
白血病のために若くしてその生涯を閉じた息子神山賢一の、
病魔との闘いを描いた実話に基づくドラマ。       
高橋伴明の脚本、監督で、清子を田中裕子、賢一をロサンゼ
ルスのリー・ストラスバーグで学んできたという窪塚俊介が
演じ、他に岸辺一徳、池脇千鶴、黒沢あすか、石田えり、遠
山景織子らが脇を固める。               
神山清子は、昭和11年佐世保に生まれるが、長崎を追われる
ようにして関西に流れ着き、滋賀信楽の陶芸家と結婚する。
やがて女性作陶家として名を上げるものの、夫とは陶芸の考
え方で対立。しかし離婚後も、幼い子供2人を抱えながら、
一人で窯を守る。                   
そして女性の窯元を認めない組み合いなどと対立しながら、
古来の信楽自然釉の再現に成功する。だが、その時息子は病
魔に侵され、骨髄ドナー捜しに奔走するが…       
公的骨髄バンク設立以前の物語で、そのドナー捜しの困難さ
や骨髄移植の実際などが、かなり丁寧に描かれる。    
最初に出奔する夫はさらりと描き、対立する組合もカリカチ
ャライズするなど、全体的に悪い面は出来るだけ描かず、善
人によるドラマが展開するように構成されている。テーマ性
から言ってものこのやり方は見事で、さすがベテランの作品
の感じだ。                      
母子家庭の物語だが、実際、高橋監督も母の手一つで育った
環境だそうで、その辺りの思い入れが、この作品に見事に昇
華されている。その上に立って、骨髄ドナー捜しのテーマを
見事に描いている。                  
その一方で、陶芸の実際が、神山清子本人が演技指導したと
いう出演者たちの見事な手捌きで描かれており、特に後半の
力点が闘病に移ってからは、これがアクセントのように描写
される構成も見事だった。               
また、田中裕子を中心とした特に女優陣のアンサンブルも見
事で、中でも前作でも注目した黒沢あすかの体当たりの演技
は、この先どこまで行くのだろうという感じだ。     
骨髄ドナー捜しの映画は、『ロード88』があったばかりだ
が、このような作品が次々に製作され問題意識を高めるのは
良いことだと思う。                  
                           
『隣人13号』                    
井上三太原作のコミックスを、CFやヴィデオクリップで実
績のある井上靖雄が映画化。小学生の頃にイジメラレッ子だ
った主人公が成長して、昔のイジメッ子に復讐する物語。 
主人公の村崎十三は一見穏やかそうな青年だが、その内には
凶暴な隣人13号が潜んでいる。その十三が、とある古びた
安アパートの一階13号室に引っ越してくるところから物語は
始まる。                       
ちょうど同じ頃に二階の23号室には、幼い子供のいる若夫婦
が引っ越してくるが、その若夫婦の夫こそ、小学生の頃に十
三をいじめていたガキ大将の赤井だった。だが、赤井は十三
のことなど憶えていないようだ。            
やがて十三は近所の工務店でアルバイトを始め、その工務店
の先輩赤井の下で働くことになる。しかし、赤井の性格は今
も変っていなかった。そしてそのいじめが激しさを増して行
く中で、十三の内の13号が表に現れ始める。      
この十三を小栗旬、13号を中村獅童が2人一役(?)で演
じ、メリハリの利いた復讐劇が展開する。しかも、心の中の
葛藤が異様な映像感覚で表現されるなど、さすがに実績を積
んだ映像作家の作品という感じで、長編初監督とは思えなか
った。                        
アニメーションやモーフィングなども適所に採用され、多少
過激な描写も退くことなく見ることができた。また盗聴器や
ヴィデオなど、13号の行動も納得できる描写で進行し、結
末も破綻なくうまく描かれていた。           
自分自身、小学校当時のいじめには、多分傍観者の立場だっ
たと思うが、このように今で言うキレテしまう感じは判らな
いでもない。そんな意味でも納得できる作品ではあった。 
ただ、これは現実が後から追いついてきてしまったので仕方
ない面はあるが、幼い子供を誘拐してその映像を両親に見せ
つけるという展開は、今の時期ではかなりきつい。公開予定
は春ということだが、それまでに現実の事件が解決し、切り
離して見られるようになっていることを祈りたいものだ。 
(事件は年末ぎりぎりに解決した。)          
                           
『火星人メルカーノ』“Mercano el Marciano”      
2002年のシッチェス国際映画祭や、アヌシー国際アニメーシ
ョン映画祭でも受賞を記録したアルゼンチン製作の長編アニ
メーション。                     
元々はカナダのテレビ局が放送した音楽番組の中に登場した
2分間の短編作品が始まりのようだが、それを制作したファ
ン・アンティン監督が母国アルゼンチン戻って、同国の映画
大学などの協力を得て制作した長編作品。        
ふとしたことから地球に飛来し、ブエノスアイレスの地下で
暮らしている火星人メルカーノが、寂しさを紛らわすために
作り上げた火星のヴァーチャルワールドを巡って、やがて世
界を破滅の淵に導く大事件を引き起こしてしまう。    
75分の作品の中では、強烈な文明批判や風刺で、アルゼンチ
ンの現状を垣間見せる。それはアルゼンチンの限らず世界中
が直面している問題とも言える。その一方で、登場する火星
人社会の描写などには、何か懐かしさを感じさせる不思議な
雰囲気があった。                   
なお、アニメーションの制作では、手書きのアニメーション
を一旦コンピュータに取り込み、コンピュータ上で編集や合
成、色付けなどを施した上で、モニタ画面を撮影してフィル
ムに変換する方式が採られている。           
このフィルム変換のやり方は、最近のレーザースキャナーな
どによる方法に比べると、安物の手法のようにも感じるが、
昔は皆この方式だった訳だし、今回もいろいろなフィルムの
テストを行うなど研究を重ねて、ほぼ問題のない水準に仕上
げているものだ。                   
また、2D、3Dのアニメーションがうまく組み合わされて
いるなど、これからも期待したい作品だった。      
                           
『エレニの旅』“Trilogia: To Livadhi pou Dhakrisi”  
前作『永遠と一日』で1998年のカンヌ映画祭パルムドールを
受賞したテア・アンゲロプロス監督の6年ぶりの新作。  
1919年から現代までのギリシャの姿を、一人の女性(エレニ
という名前はギリシャの愛称でもある)を通して描く作品。
本作はすでに2時間50分の大作だが、原題通り3部作となる
計画の第1部として、1949年までが描かれている。    
1919年、赤軍のオデッサ侵攻によってその地を追われたギリ
シャ人たちが、逆難民となって母国に戻ってくる。その中に
は両親を戦闘で亡くし、幼なじみの少年の手をしっかりと握
って離そうとしない幼いエレニの姿もあった。      
そして難民の村で、少年の一家と共に成長したエレニは、や
がて少年の子を身籠もる。しかし厳格な父親の怒りを恐れた
母親の手で、生まれた双子は裕福な家の養子とされる。それ
でも愛し合う2人は家を出、少年の弾くアコーディオンの腕
で生活を続けるが…                  
この2人と双子の子供たちが、第2次大戦や、後の内戦など
に翻弄される姿が描かれる。              
主人公の名前が国の愛称であることからも判るように、この
作品はギリシャの国そのものの姿も描いている。そこでは、
ソ連の脅威によって内戦を引き起こされ、やがて敵味方に分
かれて闘わなくてはならない国民の悲劇や、国を去って行く
人々の苦悩が描かれる。                  
なお、アンゲロプロスは、この撮影のための大きな難民村を
含む2つの集落を建設。そこには蒸気機関車の往来する鉄道
も敷かれて、その村を背景に雄大な物語を描き上げる。実際
その村が見事に水没するなど、そのスケールはものすごいも
のだ。                        
物語はまだ中途で、この先どれだけの悲劇が到来するのか。
それを見届けなければならないと思わせる第1部だった。 
                           
『タッチ・オブ・スパイス』“Politiki kouzina”    
1960年代のトルコ・イスタンブールを舞台に、キプロスを巡
って深まるトルコとギリシャの国家間の対立により、強制帰
国を余儀なくされたギリシャ国籍の父を持つ一家の姿を、そ
の一人息子の目を通して描いた物語。          
同じ日に見た『エレニの旅』と同様のギリシャの歴史を描い
た作品だが、本作は第2次大戦後の比較的記憶に新しい時代
の物語だ。とは言うものの、自分の記憶を辿ってキプロス紛
争という名称は憶えているが、その陰でこのような悲劇があ
ったことは記憶になかった。結局、極東の外れにいる国民と
しては、国際情勢への疎さを思い知るところだ。     
ただし映画は、全体としては悲劇だが、物語はその中で成長
した少年が、トルコ人の母方の祖父の営むスパイス店で見聞
きした事柄を中心に、トルコ料理への蘊蓄なども絡めて、心
地よく描かれている。                 
実際に、映画は国際情勢に翻弄されるギリシャ人を描いては
いるが、その一方でトルコ料理に対する愛情が描かれ、国家
と国民の思いの違いなどもうまく描かれている感じだ。  
しかし、ギリシャに帰国した人々がトルコ人と呼ばれ続ける
などのエピソードは、やはり悲劇を描いた作品と言っていい
のだろう。                      
なお、原語のせりふは言葉遊びのような言い換えが頻出し、
字幕がルビだらけになってしまっているが、これは仕方がな
い。ただ、字幕ではギリシャとなっているせりふのいくつか
が、原語ではエレニとなっていたようだった。      
                           
『ビヨンドtheシー』“Beyond the Sea”         
1950年代後半から60年代に活躍した歌手、俳優ボビー・ダー
リンの生涯を、俳優のケヴィン・スペイシーが自らの脚本、
監督、主演で映画化した作品。             
ボビー・ダーリンの名前は、ヒット曲Mack the Knifeの歌声
と共に記憶しているが、映画の題名はシャンソン『ラ・メー
ル』をカヴァーした彼のもう一つのヒット曲の題名によって
いる。                        
ボビー・ダーリン、本名ウォルデン・ロバート・カソットは
1936年ブロンクス生まれ、母親と姉、そして姉の連れ合いの
一家の中で成長するが、子供の頃に重度のリュウマチ熱を患
い、15歳までの命と告げられる。            
しかし家族の献身的な看病のもと、励ますために持ち込まれ
た楽器や、母親の指導によってエンターテイナーの才能を発
揮、歌手の道を目指すことになる。そして芸名ボビー・ダー
リンとしてグラミー賞新人賞などを受賞。        
やがてハリウッドに進出したダーリンは、共演した当時16歳
のサンドラ・ディーと結婚、一人息子のドッドも誕生、1963
年に出演した『ニューマンという男』では、アカデミー賞や
ゴールデン・グローブ賞にもノミネートされるが…    
その一方で、ロバート・ケネディに心酔し、政治活動にのめ
り込む姿なども描かれる。なおそこで歌われるSimple Song
of Freedomには何となく聞き覚えもあった。       
が、やはり圧巻は、クラブ歌手としてはサミー・デイヴィス
Jr.以降で最高と言われたステージの再現だろう。特に映画
の巻頭で、最初の曲が歌い出される直前に、この歌の題名が
判る人は?というMCがあり、それが判った自分としては、
一気に映画に引き摺り込まれた感じがした。       
正直に言って、36歳で亡くなった人物を、40代半ばの俳優が
演じることには無理がある。しかしスペイシーの無理を承知
の渾身の演技には感銘を覚えたし、全曲を吹き替え無しで歌
い踊っている姿にも感動した。また、それにバランスを取る
ように登場する少年時代のダーリンを演じたウィリアム・ウ
ルリッチのパフォーマンスにも感心した。        
                           
ということで、2004年の締め括りとなります。      
ここで去年と同様にベスト10を発表しますが、このベスト10
は、僕が試写で見た洋画作品で今年公開されたものを対象と
しています。しかし今年は、僕が絶対的なベスト1と思う作
品を試写で見せてもらえませんでした。とは言え、この作品
のベスト1は譲れませんでしたので、あえて今年は第1位を
空欄としますが、第1位が無いということではありません。  
ということで、以下のベスト11となりました。      
◎一般映画                      
1.(空欄)                     
2.スパイダーマン2                 
3.Mr.インクレディブル                
4.ドッグヴィル                   
5.コールド・マウンテン               
6.春夏秋冬、そして春                
7.シュレック2                   
8.マイ・ボディ・ガード               
9.ヴィレッジ                    
10.Lovers                   
11.25時                       
◎SF/ファンタシー映画               
1.(空欄)                     
2.スパイダーマン2                 
3.Mr.インクレディブル                
4.シュレック2                   
5.ペイチェック                   
6.タイムライン                   
7.スカイ・キャプテン                
8.パニッシャー                   
9.ヴィレッジ                    
10.Lovers                   
11.ビッグ・フィッシュ                



2004年12月30日(木) Movies−High #5、ザ・キーパー[監禁]、生命(いのち)−希望の贈り物、オーシャンズ12

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『Movies−High #5』           
映画のプロを目指す人たち短編作品を集めたニュー・シネマ
・ワークショップの発表会が今年も行われた。この発表会に
は一昨年の第3回から招待を受けているが、今年も新作14本
を見せて貰ったので、今回は最初にその紹介と、感想から述
べさせていただきます。                
なお、作品はABCの3プログラムに分かれ、僕はB→C→
Aプログラムの順番に見学しましたので、感想もその順で述
べることにします。                  
「ロールキャベツの作り方」              
彼氏の来訪を待ちながら手料理のロールキャベツを作る女性
の物語。元々監督が料理が好きということで、発想は有りが
ちかも知れないが、それなりの捻りもあって面白かった。 
ただ結末はもう一捻りというか、何か一発、落ちが欲しかっ
た感じもする。その後の出演者紹介が洒落ているので見過ご
しやすいところだが、やはり映画の結末はちゃんと欲しいも
のだ。                        
この監督には次回作を期待したい。ただし、くれぐれも料理
シリーズにはしないように、次は別のテーマで見てみたい。
「MANEATER in the woods」               
人食いの出るという森の奥に住む名刀鍛冶。その森に住む人
食いの正体は…監督は北村龍平が目標らしいが、ストレート
な物語で、変に捻る北村作品より好感が持てた。     
ただ俳優のせりふ回しが何ともぎこちなく、興を削がれる。
その辺も北村作品に似ているのが気になるところだ。   
なお、この作品はDVDで商品化されており、TSUTAYAのレ
ンタルで見ることができるようだ。           
「鳩と小石」                     
申し訳ありません。この作品の記憶が飛んでいます。実は数
日前に腰痛を起して、当日は鎮痛剤を飲みながらの出席でし
たが、この作品の時に薬効がピークに達したようです。  
出だしは良い雰囲気で、同じ石フェチを扱った『恋の門』と
の比較もしたかったのですが、申し訳ありません。    
「ただ聞く屋」                    
人の話を聞くだけで金を取る屋台の物語。主人公はそんな商
売を認められず、屋台に文句を言いに行くが…現代の一面を
捉えたような作品で、風刺的な面もあり面白かった。   
ただ客の話す内容には、もう少し捻りが欲しかった感じを持
つ。確かに物語の焦点はそこにはないのだが、これでは観客
の興味を保てない恐れがある。             
観客へのサーヴィスの気持ちで、ここにも何か工夫を入れて
欲しかったところだ。それと題名は、唯聞くのか、只で聞く
のか紛らわしい。僕は最初間違って見ていた。      
「たからばこ」                    
夏休みのある日、たかしは町で同級生のゆかと出会う。彼女
は大事そうにたからばこを抱えていたが…大人の勝手に振り
回される子供たちの姿が、うまく描かれていた。     
現代に有りがちな話かも知れないが、うまく捉えている。た
だ、恐らくゆかとは夏休み後にはもう会えないのだろうが、
その辺りをもう少し明確にして欲しかった感じは持つ。  
もっとウェットな作品にしても良かったのではないかとも思
うが、逆にドライさが良いという見方もあるだろうし、難し
いところだ。この作品は、これで良いとは思うが…    
「サイヴァイ」                    
山奥に死体を埋めに来た若者。埋めた直後に別の男が現れ、
男は茸を差し出し、若者はその茸を食べるが…やがて身体に
変調が起こり始める。                 
非常にそつなく撮られていて、アマチュアの作品としては完
成されていると思うが、背景にあるはずの世界観が見えてこ
ず、何か小さくまとまり過ぎているような印象を持つ。  
内容的には『マタンゴ』を思い出すが、その見方で言うと有
りがちな話にも見える。自業自得みたいな思想が根底にある
ように感じるが、その辺がうまく現れていないと思う。  
「Circle Game」                    
安全圏であるサークルを辿りながら町を駆け抜けるゲーム。
男性の競技者は女性のナビゲーターと共に行動し、彼女の役
割は、ただ次のサークルの位置を指示することだったが… 
今まで出会ったことのない男女に、ゲームの中で人の絆が生
まれて行く。異常なシチュエーションの中で、普遍的な物語
が展開する。判り易い物語で、映像も良かった。     
でも、何かそこでとどまっている感じで、次に突き抜けて行
くものが感じられない。前の作品とは違った意味で、この作
品も小さくまとまり過ぎているような印象を持った。   
「踏み切り」                     
リストラされたことを母親にも言えない男が、ふと知り合っ
た運転手の手引きでインド料理店に行き、自分の殻を破って
行く姿を描く。                    
こういうことの起きるシチュエーションは理解する。でも、
こんなにうまく行くことがどれだけあるか、という話にもな
るし、結局寓話で終ってしまっているような印象を受ける。
それでどうなるという話でもないし、言っても仕方のないこ
とを言っているような空しさがある。監督の意図がどこにあ
るかは別として、そんなことを感じてしまった。     
「コンビニエンス」                  
日本のコンビニエンスストアの多くが家族経営によっている
という。そんなコンビニを経営する家族を描いた作品。  
監督自身がコンビニ経営の両親の下で育ったそうで、本作の
制作意図はコンビニを裏側を見せるとしているが、作品では
そこに見事なホームドラマを展開してみせている。    
何故に父親は安定した職を辞してコンビニ経営を始めたか、
などの物語が、ちょっとしたせりふや小道具から見事に浮き
彫りにされる。                    
このままコンビニエンスストアの経営者募集のキャンペーン
にでも使えそうな、完成された作品だった。       
「この窓、むこうがわ」                
登校拒否で2階の自室に引きこもっている少女と、その窓に
向かい合う部屋に住む女性。女性は、いつも少女が部屋を見
張ってくれていることで防犯になると感謝していたが…  
この作品も前の作品と同様、実にコンパクトに見事にまとめ
られていた。後半の展開も見事だし、何しろこの作品では、
展開が始まってからの反応の描き方が素晴らしい。    
ただの引きこもりの問題だけでなく、何かを成し遂げること
の素晴らしさなどもうまく描かれていた。        
「暁の花」                      
短編映画と称されるものの中で、時折見かけるのが、長編の
中の1エピソードを描いたような作品だ。この作品もそのよ
うな印象を受けるものだった。             
今年はプロの短編もいろいろ見る機会があり、その中にもそ
ういう作品はあるのだから、これも一つの表現形式かも知れ
ないが、やはり見ていてフラストレーションが起きる。  
この作品で言えば、曼珠沙華の根元に埋めた指輪はどうなっ
てしまったのかというようなことだ。この作品は、そこまで
描いてこそ完成されるもののような気がする。      
「ストロングワールド」                
ちょっと過激な若者の生態を描いた作品。無いと思うが、も
しかすると有るかもしれない物語が、うまく描かれていた。
ブラジル映画の『シティ・オブ・ゴッド』を思い出した。規
模もレベルもまるで次元が違う話だが、あの作品を日本の風
景に合わせると、こうなるのかも知れない。       
写し方にも躍動感があるし、倫理的には不道徳なことを描い
ているのに、納得できてしまうところも良かった。この感性
を大事に育てて行って貰いたいものだ。         
「ブラボー!」                    
カメラマンを目指しているが挫折しかかっている若者が、昔
のアルバイト先のペンキ塗りに応援を求められて、自分を取
り戻して行く物語。                  
有りがちな話だと思うし、今までにも同じような作品は沢山
作られていると思う。でもそれは新人作家にとって登竜門の
様なもので、一度は作っておくべきものかも知れない。  
いろいろな実体験に基づいて、それぞれの個人的な青春物語
がある、そんな感じがした。こういう作品が毎年1本ぐらい
あると良いなあという感じだった。           
「TOILET」                   
ある日突然、父親が家族をトイレに押し込め、外から鍵を掛
ける。そして母親が、一緒に閉じ込められた息子と娘に向か
って驚愕の真実を話し始める。             
今回上映された14本の中では、唯一のSF作品。怪奇や未来
感覚の作品は他にもあるが、SFと呼べるのはこの作品だけ
だった。                       
SF作品では、その中で展開する物語がどれだけ納得できる
かが勝負になるが、その意味でもしっかりとした作品に思え
た。携帯電話を使ったシチュエーションの説明がうまい。 
この種の終末ものでは、『ミステリーゾーン』などにも秀作
があったが、そういった作品も勉強して貰って、次の作品に
期待したいところだ。                 
                           
以上で『Movies−High #5』の紹介を終ります
が、初めて出席したときには正直に言ってアマチュア然とし
た作品も多かったのに、年々作品の内容も向上し、今では毎
回が楽しみです。今後も期待しています。        
                           
以下は、通常通りの試写会で見た作品の紹介です。    
                           
『ザ・キーパー[監禁]』“The Keeper”        
『XXX』のアーシア・アルジェントと、怪優デニス・ホッ
パーの共演で、『スター・トレック/DS9』を手掛けたこ
ともあるジェラルド・サンフォードの脚本を、『プロム・ナ
イト』のポール・リンチが監督したサスペンス作品。   
アルジェントが演じるのはストリップダンサー。ある日、ボ
ーイフレンドといたモーテルの部屋が襲われ、ボーイフレン
ドは殺害、ぎりぎり難を逃れた彼女は警察に保護される。と
ころが、負傷の癒えた彼女を、今度はホッパー扮する警部が
拉致し、自宅に監禁してしまう。            
警部の目的は一つ。彼女を更生させようという気持ちからだ
ったが、そのやり方は、彼女を地下室の檻に閉じ込め、正し
い行いをしたときにポイントを与え、悪いときには奪い、そ
のポイントによって彼女に褒美を与えるという過激なもの。
そのやり方に、最初は反発していた彼女だったが、日が経つ
内に、徐々にその生活に慣らされて行く。そして、ポイント
が溜まって檻から出ることを許され、階上の部屋でワインを
飲ませてもらうまでになって行くが…          
配給会社の宣伝文句は、エロティック・スリラーということ
で、監禁だの陵辱だのという言葉が並ぶが、映画の描写は余
り過激なものではない。むしろ真面目に、サスペンスを展開
している感じだ。                   
また、彼女の行方を捜す若い警官や、警部をストーカーまが
いに追い掛けるテレビ番組の女プロデューサーなども登場し
て、そこそこ複雑というか、それなりに変化を付けた展開に
はなっている。                    
と言っても、この展開に余りメリハリが感じられず、見終っ
て悪い気分ではないが、取り立てて良いというほどの作品で
もない。折角のアルジェントとホッパーの共演の割には、ち
ょっと中途半端な感じの作品だった。          
何かもう一捻りあれば良かったのだが、脚本も演出も、ちょ
っと生真面目すぎる感じがした。ホッパーの怪演はさすがだ
し、アルジェントのファンなら見ても良いと思うが、それを
楽しめない人には、ちょっと…かも知れない。      
なおアルジェントとホッパーは、現在撮影中のジョージ・A
・ロメロ監督による久々のゾンビ映画“Land of the Dead”
で再共演しているはずで、その作品も楽しみだ。     
                           
『生命(いのち)−希望の贈り物』“生命”       
1999年9月21日に台湾南部で発生した大震災を題材としたド
キュメンタリー作品。マグニチュード7.3といわれるこの
地震では、台湾全土で2500人以上が死亡したり、行方不明に
なっている。                     
カメラはその被災地の一つ、九扮二山(扮は正しくは人遍)
に入る。その被災地の様子にまず息を呑む。ここでは2つの
山が崩れ、家屋9階分の厚さと言われる土砂によって谷間の
村が完全に埋め尽くされている。そしてその下に20数名が行
方不明となっている。                 
その捜索は重機を使って行われているが、山の姿が変ってし
まったために、元の家屋の位置も特定できず、ここと思う場
所を掘り下げ、何も見つからなければ他の場所で同じことを
繰り返すという状態。遺体はおろか何の手掛かりも発見でき
ないことの方が多い。                 
そして偶然に難を逃れた遺族(日本の報道では使えない言葉
だが、そう表現されていた)たちは、被災地の一角に設けら
れた貨物コンテナを改造した仮設の住居で寝起きしながら、
家族の痕跡を捜している。カメラはそんな遺族4組7人の姿
を追う。                       
彼らは、2人の子供を親許に残して日本に出稼ぎに来ていた
夫婦や、多額の借金を背負う父親のため働きに出ていた姉妹
など、いずれも、なぜ自分たちだけが家族と離れて難を逃れ
たのか、自責の念に駆られる人たちだ。         
阪神淡路の震災から10年が経ち、今年また新潟県中越の大地
震が起きたところだが、この作品では、地震そのものの物理
的な被害を描くのではなく、そこに残された人々の心の被害
を描いている。そこには描かれるべきドラマがある。   
しかし、それはただお涙頂戴のドラマではなく、あるときは
監督が声を荒げて叱咤してしまうような事態も登場する。そ
してそれは、その人たちが苦しみ抜いた結論であることも理
解できるものなのだ。                 
遺族という言葉が使われるなどの国民性の違いや、社会環境
の違いなどはあるし、日本の被災地で同じようなことが起き
ているかというと、決してそうではないと思うが、描かれる
悲しみは同じように感じられた。            
なお一般公開は2005年1月下旬からだが、その前の1月14日
には、監督の呉乙峰を招いての中越地震救援チャリティ試写
会が、新宿紀伊國屋サザンシアターで開催されることになっ
ているようだ。                    
                           
『オーシャンズ12』“Ocean's 12”          
1960年作品『オーシャンと11人の仲間』をリメイクした2001
年作品の続編。01年作品からは、敵役のアンディ・ガルシア
を含めてメムバー全員が再登場し、今回はさらにキャサリン
・ゼタ=ジョーンズ、ヴァンサン・カッセルらが新登場して
いる。                        
物語は、前作でカジノから強奪した分け前を使って優雅に暮
らす仲間たちに、前作の被害者ベネディクトの手が伸びるこ
とから始まる。次々に居場所が突き止められ、ついには、2
週間で全額に利子を付けて返さなければ、命を奪うという宣
告が下される。                    
しかし前作で得た金の大半はすでに使われた後、やむなくオ
ーシャンたちは新たな標的を捜すことになるが…ヨーロッパ
で始めた仕事は、ナイト・フォックスと名乗る怪盗に次々に
先を越されてしまう。                 
さらにオーシャンたちの動きは、ユーロポールの敏腕刑事イ
ザベル・ラヒリの知るところとなり、彼女の執拗な追跡も受
けることに…そしてオーシャンたちに絶対のピンチが…  
製作は、主演のジョージ・クルーニーと、監督のスティーヴ
ン・ソダーバーグが主宰するセクション8。       
1960年の作品もラット・パックと呼ばれた当時のシナトラ一
家が集まったものだが、今回のブラッド・ピット、マット・
デイモン、ジュリア・ロバーツらは、差し詰めクルーニー一
家とでも呼べそうな雰囲気だ。             
物語自体は、前作のような大仕掛けは余り無く、替って本作
では、ヨーロッパの街角を背景に出演者たちが演技を見せあ
う形となっている。その背景はアムステルダムからパリ、モ
ンテカルロ、コモ湖、ローマ、シチリア島まで観光旅行の雰
囲気だ。                       
実際、映画の雰囲気は、クルーニー一家の観光旅行に観客も
相乗りしているという感じで、物語自体もそれほど複雑では
ないし、アメリカではクリスマスシーズンをお気楽に楽しみ
たいというタイプの作品だろう。            
勢揃いの豪華メムバーの顔を見ているだけでも楽しいが、さ
らに、このメムバーだけではないスペシャルゲストも登場す
るしで、そういったところを楽しみたい作品だ。     



2004年12月15日(水) 第77回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はこの話題から。
 ロバート・デ・ニーロの製作監督出演、レオナルド・ディ
カプリオの主演で期待されていた“The Good Shepherd”の
映画化で、ディカプリオの降板と、替ってマット・デイモン
に出演交渉されていることが報告された。
 この作品については、2002年12月15日付の第29回で一度紹
介しているが、アメリカ中央情報局(CIA)を作り上げた
ジェイムズ・ウィルスンという主人公の40年に亙る半生を描
くもの。といってもこの主人公は架空の人物で、現実には複
数のエージェントが行った作戦の実話を、『フォレスト・ガ
ンプ』や『アリ』の脚本家エリック・ロスが、一人の主人公
にまとめて描いたものと言われている。
 そしてこの計画は、10数年前からフランシス・フォード・
コッポラ主宰のアメリカン・ゾーイトロープで進められてい
たものだが、前回の報告では、この計画にデ・ニーロ主宰の
トライベカが参加、デ・ニーロの監督に、ユニヴァーサルの
配給も決定して、『マイ・ルーム』などで共演したディカプ
リオの主演で進められることになっていたものだ。
 ところが、トライベカとユニヴァーサルでのプレプロダク
ションが進められ、2005年3月7日からの撮影が発表された
矢先にディカプリオが降板を表明、一転して実現が危ぶまれ
る事態になった。さらに、総製作費が1億1000万ドルに達す
る見込みということも問題になっていたようだ。
 しかし、この製作費の問題には、モーガン・クリークが海
外配給権と引き換えに参加を表明、さらにデイモンの出演が
決まれば、予定通りの撮影が行われることになりそうだ。
 なおデイモンは、アメリカでは『オーシャンズ12』の公開
が始まったところだが、今年の夏公開された『ボーン・アイ
デンティティー』の続編は1億ドル突破の大ヒットを記録、
さらに現在は、やはりCIA絡みの“Syriana”(第65回参
照)を撮影中ということで、一躍、新たなスパイアクション
スターの誕生ということにもなりそうだ。
 またデイモンには、この他にワーナーで、マーティン・ス
コセッシ監督作品“The Depearted”への出演も予定されて
いる。
        *         *
 お次は、2003年9月15日付の第47回で紹介したロマン・ポ
ランスキー監督によるチャールズ・ディケンズ原作“Oliver
Twist”の再映画化で、6000万ドルの製作費と、4カ月間を
費やした撮影が完了し、2005年10月の全米公開に向けてポス
トプロダクションに入った。
 この映画化は、1968年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞
など4部門に輝いたキャロル・リード監督によるミュージカ
ル作品『オリバー!』以来のリメイクとなるもので、今回は
脚色を『戦場のピアニスト』のローランド・ハーウッドが担
当し、チェコ・プラハの撮影所に、全長1/4マイルに及ぶ
19世紀のロンドンを完璧に再現したオープンセットを建設。
ベン・キングズレーらの出演で撮影が行われていた。
 しかしポランスキー監督は、撮影終了に当って「二度とこ
のような撮影は行えないだろう」と語っているようだ。それ
はチェコがEU加盟に向けて労働法を改正したためで、それ
によると、今後は年少者の労働時間が1日4時間に制限され
るということだ。実際、本作では主人公のオリヴァを初め、
多数の子役が登場するが、同様の法律のためにフランスでの
撮影ができなかった。そして今回のチェコでの撮影は、法律
の改正直前でぎりぎりセーフだったのだそうだ。
 ポランスキーは、「僕らは子供を炭鉱や塩山鉱で働かせて
いる訳ではないし、それにこんなにファンタスティックで楽
しい場所から、時間が来たからと言って、彼らを追い出すこ
となんかできないよ」と言っているが…因にアメリカでは、
9歳以下の子供に対しても、学校の無い日であれば1日6時
間の労働が認められているそうだ。
 なお、前回の紹介で完成後に決めるとしていた配給権は、
アメリカに関してはソニー・クラシックス、南北アメリカは
トライスターなど、順調に決まり始めているようだ。
        *         *
 ジェームズ・エルロイの脚本を、スパイク・リー監督で映
画化する“The Night Watchman”というワーナー作品に、キ
アヌ・リーヴスの主演が発表された。
 この作品は、『L.A.コンフィデンシャル』などの原作
者のエルロイが書き下ろした脚本に基づくもので、内容は、
クリーンとは見られていない主人公の警官が、自分の勤務す
る警察署内の汚職を発見し、自らの名誉回復と生命をも掛け
て、その摘発に乗り出すというもの。『L.A.…』でも汚
職絡みの警官たちを描いたエルロイには、お得意のテーマと
いう感じの内容で、さらに『マルコムX』などのリー監督で
はかなり社会派の作品を期待できそうだ。
 なお撮影は、ワーナーから2005年2月18日に全米公開され
るDCコミックスの映画化で、リーヴスがサタンとも対決す
る究極のトラブルシューター=ジョン・コンスタンティンを
演じる“Constantine”のプロモーション活動が終り次第、
開始される予定になっている。
 因に、リーヴスの主演作では、すでに“Thumbsucker”と
いう作品が完成されて、年明けのサンダンス映画祭に出品の
予定になっている。また、2004年5月15日付の第63回で紹介
したフィリップ・K・ディック原作、リチャード・リンクレ
イター監督による“A Scanner Darkly”は、2005年秋に公開
予定となっているが、この作品は、前にも紹介したように、
一旦撮影された実写をアニメーションに写し替えるというも
ので、その実写の撮影はすでに完了しているようだ。
        *         *
 ブライアン・シンガー監督で進められている“Superman”
の新作に、ケヴィン・スペイシーのレックス・ルーサー役が
噂されている。
 シンガー監督とスペイシーの関係は、1995年の『ユージュ
アル・サスペクツ』以来の顔合せとなるものだが、このオフ
ァーに対してスペイシー本人は、高製作費の大型作品より、
もっとインディペンデントな作品に出続けていたいというの
が希望のようだ。しかし、前の顔合せではオスカーの獲得に
つながった監督からの要請は、そう無碍には断れないという
ところ。そして本人も、最近は「バランスを取る上で、この
ような作品に出てもいいかな」と思い始めているようだ。
 因にこの役は、以前の監督の時にはジョニー・デップにも
オファーされていたものだが、昔のシリーズではジーン・ハ
ックマンが演じており、役に不足はない。それにスペイシー
は、風貌的にもハックマンに似ているから、昔のシリーズの
第2作の続きからになると言われている今回の作品には、ぜ
ひとも出演してもらいたいところだ。
 なお、同様の発言は、ナタリー・ポートマンが、『スター
・ウォーズ:エピソード1』のアミダラ役をオファーされた
ときにもしていたように記憶しているが、インディーズ系の
俳優がメイジャーの、それも大型予算の作品に出演すること
には、それなりのリスクが伴うということのようだ。
        *         *
 デニス・クエイドが、自らの脚本監督主演で、1940年代に
活躍した西部劇スター、スペード・クーリーの伝記映画の製
作を進めている。
 この作品の題名は“Shame on You”というもので、これは
クーリーが歌ってヒットさせた主題歌の題名とのこと。因に
クーリーは、紹介記事によると、1939年から50年に掛けて3
ダース近い西部劇映画に主演、一時はロイ・ロジャースの再
来とも言われたそうだ。
 ところが、家庭内では妻とのいさかいが絶えず、1961年に
10代の娘の目前で妻を殺害して服役。しかし69年に刑が終了
して、その後は警察主催の巡回ショウなどに出演していたよ
うだが、そのショウの最中に心臓発作に見舞われ、そのまま
亡くなったということだ。
 という紹介記事だったが、実はスペード・クーリーの名前
をネットで検索しても、ウェスタン歌手としての名声はある
ようだが、3ダース近いという映画関係の情報はほとんど出
てこなかった。
 中でかろうじて6本ほど映画のタイトルの紹介されていた
ものがあり、その題名でも調べたのだが、実際に彼が主演し
たという記録はなく、単に映画の中で歌を披露しているとい
った程度。これでロイ・ロジャースと比較されるというのも
不思議な感じだが、取り敢えずクエイドの映画が完成すれば
その辺の事情も判ることになりそうだ。
 共演者に、『エイプリルの七面鳥』や“Batman Begins”
にも出ているケイティ・ホームズが、クーリーの妻役で出演
することも発表されている。
 それにしても、一時は奇矯な監督の行状を映画化するのが
ブームだったが、最近は悲劇で終わる俳優の足跡を検証する
作品が流行のようになっている。すでに、ボブ・クレインの
伝記映画は先日公開されたが、テレビのスーパーマン役者の
ジョージ・リーブスの生涯を描く計画も発表されているし、
それに加えて今回の作品ということになるが、正直余り明る
い作品になるとも思えず、ちょっと気になるところだ。
        *         *
 またまた、往年のテレビシリーズの映画化で、1964年から
68年まで放送されたパロディ調のスパイシリーズ“The Man
from U.N.C.L.E.”(0011ナポレオン・ソロ)の映画化の計
画が進み始めた。
 シリーズの内容は、United Network Command for Low and
Enforcement(略称U.N.C.L.E.)と呼ばれるニューヨークの
下町に秘密本部を持つ国際諜報機関のエージェントで、アメ
リカ人のナポレオン・ソロ(ロバート・ヴォーン)と、ロシ
ア人のイリア・クリアキン(デイヴィット・マッカラム)を
主人公に、彼らが悪の組織=The Technological Hierarchy
for the Removal of Undesirables and the Subjugation of
Humanity(THRUSH)などと闘う姿を描いたもの。 
 007などのスパイ映画ブームに目を付けたアメリカNB
Cで放送された作品だが、企画の初期には007の原作者イ
アン・フレミングにも相談が持ちかけられたということで、
それなりに正統派で企画された作品。ただしテレビシリーズ
ではセクシャルな表現などが制限されるために、それに替っ
てユーモアタッチが強調され、結果パロディ調の作品になっ
てはいるが、基本的な路線はかなりまともなスパイアクショ
ンだった。
 また、アメリカ人らしくちょっといい加減で女に目が無い
ソロと、生真面目なクリアキンのキャラクターのコントラス
トも絶妙で、さらには万年筆型の通信機器(衛星回線を使用
する)などのテクニカルな設定も面白く、日本でもすでに洋
画ブームの去ったこの時期に、視聴率が連続して20位以内に
入るほどの人気番組だった。
 そして、このシリーズの映画化については、以前からいろ
いろ情報が流されていたものだが、今回はついにと言うか、
ようやく映画化の監督の名前が報道されたもので、その監督
にイギリスのマシュー・ヴォーンの起用が発表されている。
 ヴォーンは、ガイ・リッチー監督の盟友で、同監督の『ロ
ック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』などの
プロデューサーを務めていた人物だが、2004年10月にアメリ
カ公開された“Layer Cake”という作品で監督業に進出。そ
れに続く作品として、今回の起用が発表されているものだ。
因にヴォーンは、子供の頃からのオリジナルシリーズのファ
ンを自称しており、昔は主役のロバート・ヴォーンと同姓で
あることから、血の繋がりがあると思い込んでいたそうだ。
 と言うことで、こういう思い入れのある監督がこの種の作
品に起用されるのは大歓迎だが、監督のデビュー作はロンド
ン暗黒街が舞台の麻薬絡みのクライム・スリラーのようで、
オリジナルシリーズの雰囲気とは少し違う。その辺で監督自
身の資質がどのようなものか、ちょっと気になるところだ。
 なお、オリジナルシリーズからは、実はその放送中に8本
の劇場版がMGMから公開されている。その作品は、1966年
公開の“To Trap a Spy”(罠を張れ)に始まって、同年に
“Spy With My Face”(消された顔)、“One Spy Too Many”
(地獄へ道連れ)、“One of Our Spies Is Missing”(消え
た相棒)、1967年に“The Spy in the Green Hat”(ナポレ
オン・ソロ対シカゴ・ギャング)、“The Karate Killers”
(ミニコプター作戦)、1968年に“The Helicopter Spies”
(スラッシュの要塞)、“How to Steal the World”(地球
を盗む男)と続くものだが、これらの内、3作目辺りからは
シリーズで2回に分けて放送された作品を、ただ繋いだだけ
のものだったように記憶している。
 しかし第1作と第2作に関しては、シリーズで放送された
エピソードではあるが、60分番組1回の作品にさらに追加撮
影を行って長編作品にしたもの。しかも、シリーズの最初の
シーズンは白黒放送だったが、劇場版はカラーで上映された
ものだった。このため、当時劇場で見ていた僕らは、劇場用
に全て撮り直された作品だと思っていたのだが、今回当時の
文献を調べていたら、実はこのシリーズはカラーで撮影され
ていたが、放送環境が整っていないために白黒で配給された
ものだったのだそうだ。最初のシーズンの全作がそうかどう
かは判らないが、ここぞと思われる作品には、そういう手段
が講じられていたようだ。
        *         *
 お次は、DCコミックスの映画化だが、これもテレビシリ
ーズで人気のあった“Wonder Woman”の映画化に新たな展開
が出てきたようだ。
 “Wonder Woman”は、紀元200年以来、絶海の孤島で男性
世界から隔絶して文明を築き上げてきた女族が、第2次大戦
中に不時着した米軍パイロットによって発見され、そのプリ
ンセスがアメリカに留学して、そこで現代文化を学びながら
正義のために闘うというもの。見えない飛行機など女族が開
発した不思議な機器を駆使する一方、女族伝来の格闘技など
の特技を活かして悪者を倒して行くというお話だ。
 そしてテレビでは、最初にABCで2本のTVムーヴィが
製作され、その2作目に主演したリンダ・カーターの主演で
1976年にシリーズ化。ただしこのシリーズは翌76年にキャン
セルされるが、主な登場人物もそのままにCBSに移動して
1979年まで放送されたものだ。なおABCでのシリーズは、
原作の設定まま第2次大戦中が背景だったが、CBSでは現
代を舞台にし、後半では妹分のWonder Girlとして、デブラ
・ウィンガーが出演していたことでも知られている。
 この“Wonder Woman”に関して、今回報告された情報は、
今年4月1日付の第60回で紹介した“Firefly/Serenity”の
クリエーターのジョス・ウェドンに、脚本と監督のオファー
があったというもの。ただしウェドンには、8月15日付け第
69回で紹介したように“X-Men 3”の監督もオファーされて
おり、そのどちらが選ばれるかは、まだ未定ということだ。
 なお、今回の情報では、当然キャスティングなどは未定の
状態だが、最近『オペラ座の怪人』で圧倒的な演技を見せた
女優のミニー・ドライヴァーが、ぜひこの役をやりたいと、
自らのウェブサイトで宣言しているそうで、企画が本格的に
動き出したら、また面白いことになりそうだ。
        *         *
 続いては、前の記事でタイトルが登場した“X-Men 3”に
関連した話題で、製作会社のフォックスから次々にスピンオ
フの計画が発表されている。
 その1本目は、映画シリーズでヒュー・ジャックマンが演
じた金属の爪を移植された狼男ウルヴァリンのキャラクター
を独立の主人公にした作品で、題名は“Wolverine”。シリ
ーズの中でも単独行動の多い主人公の単独での冒険を描くこ
とになるものだが、この脚本の執筆に『25時』や『トロイ』
のデイヴィッド・ベニオフの契約が発表されている。
 そしてこの計画では、1980年代にフランク・ミラーによっ
て発表された“Wolverine”のミニシリーズに基づいて、彼
が日本に現れ、忍者の娘マリコ・ヨシダと恋に落ちる物語が
検討されているそうだ。また、ヒュー・ジャックマンは主演
する方向ということで、さらにプロデューサーのローレン・
シュラー・ドナーからは、“Wolverine 2”を進めてシリー
ズ化する意向も表明されているようだ。
 この“Wolverine”の計画は、状況からなるほどと思える
ものだったが、それに続いて今度は、シリーズの敵役でサー
・イアン・マッケランが演じたマグニトーの生涯を映画化す
る計画も発表された。
 マグニトーは、シリーズの中ではナチの強制収容所でその
能力を発現したと設定されているということで、今回の計画
は、その時代を描くもの。ここでは、シリーズでパトリック
・スチュアートが演じたプロフェッサーXとの交流も主要な
テーマとなるということだが、2人が友情を育みながらも、
ミュータントの将来への展望の違いから、敵対して行く姿が
描かれるということだ。
 題名は“Magneto”。若い頃を描くということで、マッケ
ラン、スチュアートの出演は未定だが、この脚本の執筆を、
“The Longest Yard”のリメイクを手掛けたシェルドン・タ
ーナーが契約したことが発表されている。因にターナーは、
先に“The Texas Chainsaw Massacre”のリメイク版の続編
のストーリーを執筆したということで、ここでは殺人鬼の生
い立ちを描いたということだが、本作でも同じような生い立
ち記を描くことになりそうだ。また、ターナーは、本作では
『戦場のピアニスト』meets“X-men”のような展開を考えて
いるということだ。
 前の記事でも書いたように、“X-Men 3”の実現はかなり
流動的なようで、勿論製作者たちは本編の製作が第一という
発言を繰り返してはいるのだが、そろそろサイドストーリー
で繋いでおこうという考えも強くなり始めているのだろう。
これで良い時期に本編が再開できれば最高なのだが。
        *         *
 最後のパラマウントから、またもやトリロジーの計画で、
“The Anybodies”という児童図書の映画化権を獲得したこ
とが発表されている。
 この原作はN・E・ボーデの文とピーター・ファーグスン
の挿絵による作品で、お話は、主人公の少女は誕生の時に取
り違えられて普通の家庭で育つが、11歳の時に自分が変身能
力を持った一族の一員であることに気付くというもの。それ
から彼女の冒険が始まるという展開のようだが、すでに続編
で、“The Nobodies”と“The Sombodies”という2作も発
表されているということだ。
 ハリー・ポッターが、やはり11歳で自分の出自に気が付く
というのと良く似た展開のようにも思えるが、まあ児童向け
のファンタシーでは、こういう展開も定石ということなのだ
ろう。因に作者のボーデは、“Girl Talk”などのベストセ
ラーで知られるヤング向け小説の作家ジュリアナ・バゴット
のペンネームだそうだ。



2004年12月14日(火) サスペクト・ゼロ、ナショナル・トレジャー、コーヒー&シガレッツ、カナリア、MAKOTO、清風明月、失われた龍の系譜

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『サスペクト・ゼロ』“Suspect Zero”         
題名の意味は、連続して犯罪を犯しながら証拠を残さず、手
口などにも一貫性が無いために、捜査上でも連続犯罪と見做
されていない犯罪者のこと。日本で言えば、通り魔的な連続
犯ということになりそうだ。              
年間何万もの殺人や誘拐が起こり、その多くが未解決のアメ
リカでは、このサスペクト・ゼロの存在が囁かれている。 
そんな事実を背景に、この作品では、そのサスペクト・ゼロ
の一人を捕えながら、手続き上のミスで放免せざるを得なく
なり、結果自らも半年間の停職と、地方への左遷を余儀なく
されたFBI捜査官が主人公となる。          
そしてその捜査官が赴任したニューメキシコの片田舎で、一
件の殺人事件が起きる。それはFBIの登場を誘うように州
境で発生していた。                  
この捜査官に、『ザ・コア』などのアアロン・エッカートが
扮し、その同僚にキャリー・アン=モス、さらに事件の鍵を
握る謎の人物にベン・キングズレー。このキングズレーが過
去に関わったという“イカロス計画”なる国家計画が全ての
キーとなる。                     
脚本は、『X−メン2』を手掛けたザック・ペンと、『ニュ
ースの天才』では脚本と監督も務めているビリー・レイ。そ
して本作の監督は、2000年公開の『シャドウ・オブ・ヴァン
パイア』でオスカーノミネートされたE・エリアス・マーヒ
ッジ。                        
何しろ、物語の全てが最後の一点に帰着する脚本が見事だっ
た。主人公達のいろいろな苦しみや思いが全て、3人の登場
人物によって一点で結末を迎える。全く無駄の無い脚本で、
演出もその一点に向けて素晴らしい集中力を見せる。   
実は、試写会の帰り際に謎解きのプリントが配布されたが、
恐らくSFファンならこのようなプリントは不要だろう。実
はそういう物語でもある。               
この脚本には、シルヴェスター・スタローンやマット・デイ
モンらも興味を示し、さらにトム・クルーズが主演を希望し
て映画化権を獲得。結果クルーズの主演はならなかったが、
製作はクルーズの右腕、C/Wのポーラ・ワグナーが担当し
ている。                       
ただし、このクルーズが関わったという事実には、彼の最近
の作品の中で、成程と思わせるものもあるところだ。   
この種の作品で、これだけの満足感が得られたのは、昨年の
『“アイデンティティー”』以来のように感じた。    
                           
『ナショナル・トレジャー』“National Treasure”    
今の時期に、この題名、しかも3週連続興行トップを飾るほ
どにアメリカ人が熱狂した。先々週に『戦争のはじめかた』
を見たすぐ後にこの試写状が届いたときには、何かきな臭さ
を禁じ得なかったものだ。               
でもそれは全くの杞憂で、映画は全くそういうところの無い
アドヴェンチャー・アクション作品。とは言うものの、舞台
はワシントンDCからフィラデルフィア、アメリカ建国の英
雄たちの名前が次々登場するところには、今のアメリカで受
ける理由が判る気もした。               
背景は現代。解くべき謎は、200年前のアメリカ建国に大い
に力を発揮したとも言われるフリーメイソンの隠し財宝。そ
の後、行方不明になったと言われる財宝の在り処を巡って、
代々その謎を追ってきた一家の末裔が、ついに最大の手掛か
りを見つけるが…                   
エジプト・ファラオの時代から、アレキサンダー大王、十字
軍のテンプル騎士団などを経て、フリーメイソンがアメリカ
に持ち込んだと言われる隠し財宝の話は、日本で言えば徳川
の埋蔵金のようなもので、アメリカで今も追い続けている人
たちはいるようだ。                  
そんな隠し財宝の話だが、背景は現代、このセキュリティ万
全の時代に、その裏をかきながらの謎解きの展開は、成程う
まい話を思いついたものだ。しかも、冒険からアクションま
でてんこ盛りのストーリーが繰り広げられるのだ。    
『インディ・ジョーンズ』だって、背景を少し前の時代にし
なければならなかったのに、この作品では、堂々と現代を舞
台にそれをやってのけている。その点にまず喝采したいとこ
ろだ。                        
その上で、次々登場する謎には全てアメリカ建国の秘話が絡
まり、一方、三つ巴となる追跡劇には、現代アクション映画
の見所が詰め込まれている。今のアメリカ人が熱狂する全て
が納められた作品と言うところだろう。         
当然、日本人の僕らにはアメリカ建国の歴史などピンと来な
い部分もあるが、それを差し引いてもと言うか、そんなこと
は気にしなくても、存分に楽しめるアドヴェンチャー・アク
ション作品になっているところも見事だった。      
また、独立記念館やリンカーン記念館、国立公文書館、アメ
リカ議会図書館などの内部が現地ロケで納められているのも
素晴らしい。                     
製作はジェリー・ブッラカイマー、監督はジョン・タートル
トーブ。主演はニコラス・ケイジ、相手役に『トロイ』のヘ
レン役のダイアン・クルガー。他に、ショーン・ビーン、ハ
ーヴェイ・カイテル、クリストファー・プラマー、ジョン・
ヴォイトらが共演する。                
因にヴォイトは、『トゥームレイダー』に続いて、トレジャ
ー・ハンターの父親役というのも面白いところだ。    
アドヴェンチャー・アクション作品では“Indy 4”の登場も
待たれるところだが、こんな作品が登場してしまうと、また
踏ん切りを着けるのが大変になってしまいそうだ。    
                           
『コーヒー&シガレッツ』“Coffee and Cigarettes”   
ジム・ジャームッシュ監督が、1986年から撮り始めた短編連
作。上映時間1時間37分の中で11の物語が綴られる。   
元々は『サタデー・ナイト・ライヴ』からの依頼で第1作を
撮ったもののようだが、その時点でシリーズ化を思いつき、
以来20年近い歳月を費やして撮られたというもの。    
内容は、題名の通りコーヒーとタバコに因んだもので、登場
人物たちはコーヒーを飲み、タバコを吸いながら会話を進め
るが、それが徐々に紅茶になったり、タバコの吸い過ぎは良
くないというせりふが出てくるなど、変化して行くところも
面白かった。                     
出演は、第1作は『ダウン・バイ・ロー』の頃らしくロベル
ト・ベニーニと、相手役が俳優監督のスティーヴン・ライト
に始まって、撮影順では最後がケイト・ブランシェットが2
役を演じる作品と、スティーヴ・クーガンとアルフレッド・
モリーナのエピソードになるようだ。          
他にも、スティーヴ・ブシェミ、ビル・マーレイといった俳
優から、イギー・ポップ、トム・ウェイツらのミュージシャ
ンまで多彩な顔ぶれが登場する。            
中でも、ブランシェットが演じる2役は、合成で互いに対話
をするというもので、その間の取り方などは、編集のテクニ
ックもあるのだろうが見事だった。           
また、クーガンとモリーナは、ちょうど『24アワー・パーテ
ィ・ピープル』の頃らしく、モリーナがクーガンを立てる形
になっているが、『フリーダ』『スパイダーマン2』が出た
今では、立場は逆転だろう。そんなことを思って見るのもま
た面白いところだ。                  
世間話のようなものや、珍妙な機械が登場したり、いろいろ
なシチュエーションが登場するが、一部には前の話が登場し
たり、微妙に脈絡があったりするところも面白く構成されて
いる。                        
ただ基本的には、コーヒーとタバコでのんびりとした時間が
流れて行く。ふと入った喫茶店で隣の席の会話が聞こえてく
る。そんな生活の休み時間を描いたような作品集で、映画館
でもそんな気分で楽しみたいものだ。          
                           
『カナリア』                     
オウム真理教を思わせるカルト集団に親と共に入信し、事件
によって児童相談所に収容され、親戚などに引き取られて行
った子供たち。しかし、そのほとんどの子供たちが現実に引
き戻される中で、ただ一人教えに留まった少年がいた。  
物語は、その少年が収容所を脱走し、祖父に引き取られた妹
を探して旅をする姿を中心に描かれる。         
現実の事件が起きたのが1995年、あれから10年が過ぎようと
している。今までにもオウムを扱った映画は作られているの
かも知れないが、僕自身がこの種の題材の作品を見るのは今
回が初めてだった。                  
映画では、教団内での生活の様子なども再現されており、あ
る意味、事件を見つめ直す仕組みにもなっている。現実の事
件では、どうしても被害者に目が行きがちなのだが、あれだ
けの集団の中には、当然このような子供たちもいた訳で、そ
れを描くことには意味がある。             
しかしこの作品では、主人公を演じる2人の子役、特に少年
と行動を共にする少女の演技がうま過ぎて、どうもそちらに
目を奪われがちなのが痛し痒しだった。         
それに、今も教団が生き残って事件を起こし続けている現実
を考えると、この作品の結末はちょっと甘いと言わざるを得
ない。実際に、逃亡犯も未だに捕まっていない訳で…でも、
この映画のように希望を持たせることが、作品として最善の
結末であろうことは理解する。             
また、物語の背景も田園から都会、さらに元信者たちが更生
する姿なども織り込んで変化に富ませており、その見せる努
力を買う。ただし、主人公の少年の心理的な変化を、あのよ
うに唐突ではなく、もう少し丁寧に描いて欲しかったという
感じは持った。                    
ただ、今の時点で事件を見つめ直すことは必要に思うし、こ
のような作品がもっと出てくる必要性は感じるものだ。  
                           
『MAKOTO』                   
霊の見える監察医を主人公にした郷田マモラ原作のコミック
スの映画化。監督は『踊る大捜査線』などの脚本家として知
られる君塚良一(初監督)、主演は1991年の東映やくざ映画
『本気<マジ>!』以来の映画出演となる東山紀之。   
霊が見えると言う設定の映画は、『シックス・センス』の成
功のお陰で五万と作られているが、本編もその1作。一応、
いろいろな捻りどころはあるが、それが本筋の物語と余り関
ってこないのが本編では残念なところと言うか、不満足なと
ころだ。                       
その本筋の物語は、主人公の妻の死を巡るもの。本来は伝え
なければならないことを残した霊だけが見えてくるはずの主
人公の前に、いつまでも妻の霊が見えるところに謎が隠され
ている。                       
という謎解きが本筋のはずなのだが、主人公の設定の説明が
不充分なのか、どうもその辺の緊張感がうまく描かれていな
い。これでは、ただ妻の思慕のようにも思えてしまう訳で、
そうではないことを、もっと前面に出すべきだったようにも
感じる。                       
巻頭の海面に浮かぶ霊の姿などは、無気味さがあり、上記し
たその意味が判るにつれ納得できてくる訳だが、その辺の巧
さをもっと本筋の物語で発揮して欲しかった。      
主人公の設定を説明するための2つのエピソードと、それか
ら本来の物語に入って行く筋立ては、定石通りで問題はない
が、やはり主人公がもっと早く妻の思いに気付き、悩み苦し
む姿があった方が良かったのではないかという感じだ。  
特に、最初の幼児の霊のエピソードが、短い中にいろいろな
要素が巧みに織り込まれて上手く作られていただけに、この
畳み掛けるような構成演出の力を、本筋の物語でも再現して
欲しかったところだ。                 
哀川翔、ベッキーら脇役のキャラクターも良く、全体的には
好ましい作品であるだけに、歯痒さを感じるものだった。 
                           
『清風明月』“清風明月”               
『MUSA』『アウトライブ』などに続く韓国製の武侠映画
(韓国では武術映画と呼ぶようだ)。          
コメディ映画を多く発表しているキム・イソク監督の作品だ
が、元々監督は本編のような武侠映画を撮りたかったのだそ
うで、その思いが叶っての作品。本来なら上の2作より早く
作られるはずだったが、諸般の事情で遅れたもののようだ。
ただ早くに企画されたものであることは、この作品が全て韓
国国内で撮影されたという事実から明らかになる。上記の2
作はいずれも中国で撮影されており、本作はその流れに抗し
ている感じだが、実はそれ以前から準備された作品であるこ
とを物語っているもののようだ。            
そして、その丁寧なロケーションハンティングで再現された
時代背景となる韓国の風景は見事なものだった。     
物語は、戦乱の続く朝鮮王朝時代。同じ将軍の許に修業を積
み、「いつも清らかに、明るい月を愛でることのできる平和
を願う」という意味の銘の彫られた剣を授けられた2人の剣
士が、心ならずも敵味方に分かれて戦う姿を描く。    
この剣の由来も2人の剣士の存在も、全てこの映画のために
作られたフィクションだそうで、全くの映画のための物語と
いうことだが、その意味ではかなり大掛りな作品をよく作り
上げたものだと思う。                 
しかもこの2人の剣士を、『ユリョン』のチェ・ミンスと、
『悪い男』のチョ・ジェヒョンという韓国を代表する男優が
見事に演じており、まさに映画という感じの作品だ。   
さらに建設に2年掛けたという川面に25隻の船を並べた延長
250mの浮き橋と、総勢1450人のエキストラによるラストシー
ンは、なかなかの出来映えだった。           
自分の目からすると、事情があるとは言え敵側に寝返り、そ
の上層部まで登り詰める主人公にはちょっと違和感があり、
他方の刺客となって高官を襲う剣士の側に感情移入がしやす
く感じる。                      
しかし、映画は寝返らざるを得なかった側を中心に描くこと
でドラマを作っており、その点の理解はするが、やはり重く
なりすぎた感じは持つ。やはり、両者のバランスをもう少し
平等にしてくれた方が、もっと楽しめたのではないかという
感じがした。                     
主人公の葛藤もそれなりに理解できるし、何より円熟した男
優2人のぶつかり合いには見応えがあったが、折角の『友へ
/チング』キム・ボギョンのヒロイン役が、見せ場も余りな
く、役不足のようにも感じた。             
なお本作では、最近の韓国映画には珍しく、最初の題名及び
キャスティングの紹介にハングルだけでなく、漢字も振られ
ていた。これは監督の意向なのだろうか。        
                           
『失われた龍の系譜』“龍的深處−失落的垪圖”(垪は正し
くは手遍)                      
ジャッキー・チェンのプロダクションの製作で、チェンの父
親の足跡を追ったドキュメンタリー。          
映画は、独りっ子だと思っていたチェンが、両親がそれぞれ
事情を持っての再婚で、父と先妻との間に2人の兄と、母と
先夫との間に2人の姉がいること、さらにチェンの本当の苗
字が、陳ではなく扇(ファン)であることなどを知らされる
ところから始まる。                  
そこから、父親の思い出話とその映像による検証、さらに口
が不自由になっている母親に代っての2人の姉の証言や、2
人の兄の証言も加えて、第2次大戦前からの中国の人々が辿
った苦難の道が描かれる。               
実際、国民党の支持者だった父親の証言は、今でも共産中国
という言い方を変えない辺りに、その苦難の跡が忍ばれる。
ただし最初の内がかなりの大言壮語気味で、まあ昔の人の話
は皆こんなものだという感じではあるが、少し心配になると
ころはあった。                    
ところが、それに続く日本軍の空爆から南京大虐殺に至る証
言は、検証の映像も含めたかなりリアルなもので、これはい
ろいろの意味での論議を呼びそうな感じだ。       
一方、大陸に残された2人の兄はその後行方不明となり、年
月を経て探し当てられるが、その間の苦労も忍ばれる。しか
し、それらの苦労は中国人のほとんどが多かれ少なかれ味わ
ったものだと言い切られてしまうと、もはや我々には何も言
えない。                       
勿論これは、日本だけでなく、北京政府も絡む問題だが… 
上海で知り合った男女が別々に行動しながらも香港で巡り会
うなど、まさに事実は小説より奇なりといった感じの物語。
ただ、香港へ渡る下りはさすがに映像での検証はないが…と
いうことで、現在この物語をドラマ化する計画も進んでいる
ようだ。                       



2004年12月01日(水) 第76回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずはこの話題から、アメリカでは2005年12月、日本では
06年3月に公開が予定されているC・S・ルイス原作『ナル
ニア国ものがたり』(The Chromicles of Narnia)の映画化
について、ディズニー映画の配給会社ブエナ・ヴィスタと、
原作本の発行元の岩波書店による共同記者発表が11月30日に
行われた。通常映画の記者会見というのは、公開間際に宣伝
で行うもので、製作国でもない場所でこのように早くから記
者発表が行われるのは異例のようにも思えるが、実はディズ
ニーの宣伝活動は、公開の2年前から始められるのが通例な
のだそうで、今回はその意味では遅れ気味とのこと、多少焦
りも感じられる記者発表だったようだ。
 といっても、この記者発表の出席者はいずれも日本の会社
の代表者で、映画化を行っている本人ではない。従って突っ
込んだ話は聞けなかったが、僕がした質問で、2作目以降の
映画化のスケジュールについては一応の回答が得られた。そ
れによると、第2作の脚色はすでに作業に入ってはいるが、
その製作は第1作の様子を見ながらになるとのこと。少なく
とも第2作までは作られるが、第3作を作るかどうかは第1
作のヒットの具合によるということだった。
 つまり今回の映画化では、全7巻の原作を7本の映画にす
る計画ではないようで、2作目以降はまとめた形での映画化
が予定されているようだ。実は、僕は原作の第1巻は学生時
代に原書で読んだものだが、それ以降の巻はまだちゃんとは
読んでいない。従って正確なことは言えないが、このシリー
ズでは、第1巻をプロローグとして、第2巻以降ではナルニ
ア国の成立から最後までが描かれているということだ。だと
すると、第1巻は単独で映画化して、それ以降はまとめて何
本かに再構成するというのは、無茶な計画ではない。
 それに、この映画化がヒットしないとはまず思えないもの
で、少なくとも2〜3部作、うまくすれば4部作になる可能
性もありそうな雰囲気だった。なお、第1作の“The Lion,
the Witch and the Wardrobe”(ライオンと魔女)の撮影は
現在ニュージーランドで進行中で、本編の撮影は年内に完了
の予定。その後に“Lord of the Rings”を手掛けたWetaの
スタッフによる視覚効果などのポストプロダクションが行わ
れ、初号完成は来年8月頃になるだろうということだった。
 なお、この記者発表は、ワーナー配給の『僕の彼女を紹介
します』の出演者・監督の来日記者会見とぶつかっており、
僕もどちらに行こうか迷ったものだが、恐らくは女優も来て
いるワーナーの方が混むだろうと考えてこちらに来ていた。
しかしこちらの会場も立ち見が出るほどの盛況ぶりで、本作
への関心の高さが伺えたものだ。
        *         *
 以下はいつもの製作ニュースで、最初はこの話題から。
 『マトリックス』の完結から1年、ウォシャウスキー兄弟
の再始動が発表された。
 今回発表された計画は、ワーナーが製作を進める“V for
Vendetta”という作品で、1980年代のDCコミックスに期間
限定で発表されたアラン・モーア原作のグラフィック・ノヴ
ェルを映画化するもの。内容は、ドイツが第2次大戦に勝利
した後のイギリスを舞台に、全体主義に走る体制に反抗する
仮面を付けた謎の怪人を主人公とした物語ということだ。
 この計画、実は数年前から兄弟が脚色を依頼されていたも
のだが、彼らが『マトリックス』を提案したために中断して
いた作品とも言われている。また今回の計画で、兄弟は監督
にはタッチせず、監督は、『マトリックス』シリーズの第1
助監督を務め、“Star Wars: Episode III”でも第1助監督
を務めているジェームズ・マクティーグが担当、本作で監督
デビューすることになっている。つまり本作では、兄弟は製
作のみの担当だが、この製作にはジョール・シルヴァも加わ
っており、『マトリックス』と同様の体制になるようだ。
 因に原作者のモーアは、1980年代の前半にDCコミックス
に加わった初めてのイギリス出身のライターということで、
当時すでにウェス・クレイヴン監督の映画化などで人気のあ
った“Swamp Thing”を、異形でありながら人間味のある怪
人として成功させ、さらに1988年にはシリーズの中では最も
人気が高いという“Batman: The Killing Joke”のグラフィ
ック・ノヴェルの原作も担当している。
 また、モーア原作のグラフィック・ノヴェルからは、ジョ
ニー・デップの主演で、2001年に公開された“From Hell”
(フロム・ヘル)や、昨年ショーン・コネリー主演で公開さ
れた“The League of Extraordinary Gentlemen”(リーグ
・オブ・レジェンド)などが映画化されているものだ。
        *         *
 そして、このモーア原作によるグラフィック・ノヴェルか
らはもう1本、パラマウントで“The Watchman”という作品
の映画化も進められている。
 この原作は、1986年11月から87年10月まで、月刊で12巻の
みが発表された作品だが、モーアの原作の中でも最も成功し
た作品とも言われている。内容は、こちらも第2次世界大戦
後の1950年代を背景にした作品で、普通の人間が変身するタ
イプのスーパーヒーローもの。現実とはちょっと違う世界を
舞台に、仮面を着けるとスーパーパワーを発揮する主人公が
活躍する物語のようだ。
 そしてこの計画も、実は以前から進められていたもので、
3年ほど前にはユニヴァーサルで、『X−メン』のデイヴィ
ッド・ハイターの脚本が契約されていた。しかしユニヴァー
サルでの映画化は実現せず、その後、権利はパラマウントに
移転され、同社では1998年に公開された“Pi”(π)などの
ダーレン・アロモフキーの監督で進めることになっていた。
ところがアロモフスキーは、このページでも以前から紹介し
ている自らの企画の“The Fountain”を進めたいという意向
が強く、10月に正式に降板を表明してしまったものだ。
 そこで後任の監督が検討されていた訳だが、この監督に、
この夏公開の“The Bourne Supremacy”が1億7500万ドルの
大ヒットを記録したポール・グリーングラスの起用が発表さ
れた。なお、グリーングラスはイギリス出身で、以前の作品
では1998年にヘレナ・ボナム=カーターとケネス・ブラナー
の共演で製作された“The Tehory of Flight”(ヴァージン
・フライト)が知られているが、この作品では難しいテーマ
を見事な手際で演出したと記憶している。今夏の新作は未見
だが、この監督なら本作も期待が持てるという感じだ。
        *         *
 お次は、前回“The Fantastic Mr.Fox”を紹介したロアル
ド・ダール原作の映画化の計画が、その後も続々と発表され
ている。
 まずは続報で、前回報告した“The Fantastic Mr.Fox”に
関連して、その後『ジャイアント・ピーチ』のヘンリー・セ
レックによる共同監督が発表された。前回は、ストップモー
ションアニメーションということで危惧を書いたが、これな
ら鬼に金棒どころか、万全の体制と言えそうだ。
 続いて新たに発表された計画で、1本目は“The Twits”
という作品。これは余り上品とは言えないカップルと、彼ら
が所有する動物たちの不幸な音楽隊の物語ということだが、
その映画化が、元モンティ・パイソンのジョン・クリーズの
脚色、主演により、実写とアニメーションの合成で計画され
ている。監督には“Ali G Indahouse”のマーク・マイロッ
ドが起用され、製作は『シュレック』のジョン・ウィリアム
ス、製作会社はディズニーということだ。
 2本目は“The B.F.G.”。このタイトルは、Big Friendly
Giantの略称ということで、内容もその通りの優しい巨人が
活躍するお話のようだが、この映画化の脚色を、『メン・イ
ン・ブラック』のエド・ソロモンが担当している。なお、こ
の計画は、元アムブリンのヒットメーカー、キャスリーン・
ケネディとフランク・マーシャル夫妻がパラマウントで進め
ているものだ。
 この他にも、ロバート・アルトマンがダールの大人向けの
短編集をテレビシリーズ化する計画も進められており、この
計画では、全6話のシリーズの全てをアルトマンが製作し、
内3話は監督も担当するということだ。
 さらに、直接映画の話ではないが、ダールが晩年を過ごし
たイギリスのバッキンガムシャーには彼の記念ミュージアム
も開館する予定。そしてその入り口の扉は、来年夏の公開予
定の映画“Charlie and the Chocolate Factory”に因み、
チョコレート色に塗られるということで、没後15年を迎えた
ダールの再評価はますます盛んなようだ。
        *         *
 現在、シリーズ第4作の“Harry Potter and the Goblet
of Fire”が製作中の『ハリー・ポッター』で、第5弾とな
る“Harry Potter and the Order of the Phoenix”の映画
化を担当する脚本家と監督が発表された。
 このシリーズの脚本は、第4作まではスティーヴ・クロヴ
スが担当していたが、彼は同じくワーナーが製作する“The
Curious Incident of the Dog in the Night-Time”という
マーク・ハッドン原作のベストセラー小説の映画化の脚本、
監督のために降板。替って、1997年にジョディ・フォスター
主演、ロバート・ゼメキスの監督で映画化された『コンタク
ト』や、日本では今春公開された実写版『ピーター・パン』
の脚色を手掛けたマイクル・ゴールデンバーグの起用が発表
されている。
 一方、監督にはいろいろな名前が噂されていたものだが、
結局イギリス人のデイヴィッド・イェイツが担当することに
なった。イェイツはテレビのミニシリーズなどの演出で授賞
の経験もあるようだが、映画は1998年に1作品あるのみ。た
だし現在は、1981年に一度映画化されたイヴィン・ウォー原
作の“Brideshead Revisited”(ブライズヘッドふたたび)
という作品を、ジェニファー・コネリーとポール・ベタニー
の共演でリメイクした作品が待機中だそうだ。
 『ハリー・ポッター』シリーズも後半に入って、物語も急
展開を迎える第5巻だが、新しい血の導入で作品がさらに面
白くなることを期待したい。
        *         *
 ヌ・イメージというプロダクションは、かなり前からSF
やアクション映画を専門に作り続けてきている独立系の映画
会社だが、この会社が先月開催されたAmerican Film Market
(AFM)で発表した新作に配給契約の申し込みが殺到し、
製作予定を早める事態になっている。
 この作品は、“Black Hole”と題されているもので、ロン
グアイランドにあるブルックヘヴンという国立研究所の研究
者が、実験の暴走から、地上にブラックホールを造り出して
しまうという内容。当然このブラックホールは全てのものを
飲み込んで行く訳で、一種のデザスタームーヴィということ
になりそうだ。主演は、“Buffy the Vampire Slayer”のテ
レビシリーズになる前の映画版で最初のバフィーを演じたク
リスティ・スワンスンと、“Breakfast Club”のジャド・ネ
ルス。総製作費は350万ドルとされている。
 そしてこの計画がAFMで発表され、これにヨーロッパの
各国やアジアの配給会社が殺到したというもので、事前には
2005年の前半に開始予定だった撮影が、2004年11月28日に繰
り上げられたといわれている。因みにAFMというのは、元
来がこのように製作を希望する映画会社が企画を出品し、海
外の配給権を契約してその契約金で映画を実現させる資金集
めの場所ということだが、それにしても今回のような反響が
集まったのは珍しいようだ。よほど上手いプレゼンテーショ
ンが行われたのだろう。なお、日本の配給権はアートポート
が獲得したようだ。
 実は手元の資料では、監督や脚本などが判らないのだが、
それにしても突然の撮影開始の繰り上げで、スタッフやキャ
ストの対応は大丈夫なのだろうか。それから発表されている
題名は、1979年にディズニーが製作した宇宙もののSF映画
のタイトルと同じもの(ディズニー作品は最初にTheが付い
ているのが違うと言えば違う)だが、このままの題名で認め
られるのだろうか。
        *         *
 日本では昨年公開された“28 Days Later”(28日後…)
や、2000年にレオナルド・ディカプリオ主演で映画化された
“The Beach”(ザ・ビーチ)の原作者としても知られるア
レックス・ガーランドが発表した新作の脚本に、6桁($)
の契約が公表された。
 この脚本は“Time Keeper”と題されたもので、2人の少
年が、実はこの世では魔法が本当に使えることを発見し、そ
の魔法を使って世界の歴史の中で、普通でない役割を演じる
ことになるというお話。最近流行りの若年向けファンタシー
ということになりそうだが、Variety紙の記事では、1985年
にリチャード・ドナーが監督した『グーニーズ』を、より薄
気味悪く、現代化したような作品と紹介されていた。
 契約を結んだのは、イギリスの映画会社のワーキング・タ
イトルと製作者のバリー・メンデル。因みにメンデルは、年
末に全米公開が予定されているウェス・アンダースン監督の
海洋SF“The Life Acquatic”や、ジョディ・フォスター
が監督する計画で長らく滞っている“Flora Plum”なども手
掛けている。
 “The Beach”は見ていないが“28 Days Later”にはイギ
リスの小説で伝統的な終末ものの味を感じた。今度はイギリ
スのもう一つの伝統のファンタシーということで、ガーラン
ドという作家の持味が本当はどの辺にあるのか判らないが、
期待したくなる作品というところだ。
 なおワーキング・タイトルは、アメリカ配給はユニヴァー
サルと優先契約を結んでいるようだが他の国は不明。日本は
どこが配給するのかも気になるところだ。
        *         *
 トム・クルーズ主演、スティーヴン・スピルバーグ監督に
よる“War of the World”の撮影は、11月7日にニュージャ
ージー州でのロケーションから開始されたが、これから来年
6月29日の全米公開に向けての、文字通りの時間との競争が
スタートしたようだ。
 因みに、スピルバーグの計画では、今回は75日間の撮影期
間を予定しているということ、また大掛りなものから先に撮
影するスケジュールになっているということだ。そして12月
初旬にはニューヨーク州で1000人のエキストラを使った撮影
が計画されているようだ。
 しかし今回製作を担当しているキャスリーン・ケネディの
記録によると、スピルバーグは通常70日以内で撮影を完了し
ているということで、例えば2002年の『キャッチ・ミー・イ
フ・ユー・キャン』では、ロサンゼルスからニューヨーク、
モントリオール、クェベックまで移動した撮影を56日間で行
っている。それに比べると、今回の撮影が如何に大変なもの
になるか想像が出来るというものだ。
 また、VFXに関しては、今回はILMが全て担当するも
のだが、その総数は500ショットが予定されている。そして
その製作は、本編撮影の終了までに少なくとも半数が完了、
または製作中になっていることが期待されているそうだ。 
 実際、このスケジュールはかなり大変なもののようだが、
このためスピルバーグは、撮影監督のジャヌーシュ・カミン
スキーから視覚効果のデニス・ミューレンまで、最も気心の
知れたスタッフを招集しており、ケネディの言葉によれば、
「これが出来る人がいるとすれば、それはスピルバーグ。彼
は、多分それが出来る唯一の監督だ」ということだ。
 なお、パラマウントとドリームワークスが計上した共同製
作の資金は1億2800万ドル。ただしこの中には、クルーズと
スピルバーグの契約金は入っていないということで、2人は
興行収入に対する歩合のみの契約で今回の映画化を行ってい
るそうだ。
        *         *
 『スパイダーマン』の大ヒットで一躍トップ監督の仲間入
りを果たしたサム・ライミ監督が、原点に戻って彼自身の出
世作である1983年の“The Evil Dead”(死霊のはらわた)
をリメイクする計画を発表した。
 この計画は、ライミとオリジナルを製作して以来のパート
ナーのロブ・タペート、それにオリジナルに主演したブルー
ス・キャンベルが進めているもので、ライミとタペートが設
立したゴースト・ハウス・ピクチャーズが主体となり、キャ
ンベルも含めた3人で製作するというもの。因に、この会社
は設立されたばかりだが、第1作として手掛けた『呪怨』の
アメリカ版リメイク“The Grudge”が全米で1億ドル突破の
大ヒットを記録したものだ。
 ライミが製作、脚本、監督を手掛けた“The Evil Dead”
では、その後の1987年に“The Evil Dead II”(死霊のはら
わたII)が発表され、さらに1993年に“Army of Darkness”
(キャプテン・スーパーマーケット)が発表されているが、
今回の計画はシリーズの続きを作るのではなく、第1作のリ
メイクをするというもの。当時は低予算で充分なVFXも使
えなかったものを、今の技術と予算を掛けて完全版を作りた
いという意向のようだ。また、改めてシリーズ化も進めたい
としている。
 ただし今回の計画では、ライミは監督にはタッチしない予
定で、このため最初にシリーズ化も念頭に置いた新監督の選
考が行われ、その監督が決まった段階で新たな脚本が執筆さ
れることになっている。また、キャンベルに代る新たな主役
も選考されることになっているが、キャンベル自身も出演は
したい意向だそうだ。
 なおオリジナルの物語は、人里離れた山小屋に遊びに来た
若者たちが、その山小屋に隠された『死者の本』を発見し、
その記述を読み解いて太古の殺人鬼を甦らせてしまうという
もの。そこから始まるスプラッターの強烈さで話題になった
ものだが、単なるスプラッター描写だけでなく、物語もちゃ
んとしていたところが、今にして思えばさすがライミと思わ
せる作品だった。
 そしてこの主人公の殺人鬼は、一時“Freddy vs.Jason”
の続編に登場させる計画もあったということで、その計画は
立ち消えになってしまったようだが、その計画に絡めたライ
ミらの検討から、今回のリメイクのアイデアが生まれたとい
う可能性はあるようだ。
 いずれにしても、“The Texas Chainsaw Massacre”や、
“Dawn of the Dead”、さらに“Amityville Horror”など
往年のホラームーヴィが次々リメイクされる流れの中で、ま
た1本期待のリメイクが発表されたというところだ。
 さらにゴースト・ハウスの計画では、『The Eye』
のパン兄弟が監督する“Dibbuk Box”、“Scarecrow”、
コロムビア配給の“30 Days of Night”、スクリーンジェ
ムズから2月に全米公開される“Boogeyman”などが予定さ
れているそうだ。


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井口健二