井口健二のOn the Production
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2001年11月18日(日) 第3回+ロードオブザリング(特)、美女と野獣、快盗ブラックT、プリティプリンセス、ハリーポッター賢者、ぼくの神様、オーシャンズ11

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは国内での試写も始まった『ハリー・ポッターと賢者
の石』の最終報告から。                
 前回の記事で上映時間が最終的に2時間半を超えることを
報告し、子供向けには長すぎるのではないかと心配したが、
これについてクリス・コロンバス監督曰く、「我々の観客の
子供たちは、700ページの本を読む能力があるのだから、
2時間半ぐらい劇場の椅子に座っているのは大丈夫だ」との
ことで、自信は満々のようだ。             
 また、公開版の上映時間は2時間32分になっているが、実
はこれでもリック・メイオールが演じたポルターガイスト・
ピーヴスの登場シーンが全てカットされていたり、他にも予
告編に登場したシーンがないなど、撮影されながら最終編集
でカットされた部分はかなりありそうなので、やはりヴィデ
オでもいいから完全版が見たいということにはなるようだ。
 なお、11月18日に撮影開始された第2作“Harry Potter 
and the Chamber of Secrets”の公開は、02年11月15日と発
表された。(試写の感想は下のページを見てください)  
         *       *         
 お次は、9月11日にニューヨークで起きた連続テロ事件関
連の情報で、この事件に関連しては、公開の延期や、製作の
延期、中断などいろいろあるが、この事件で最も大きな影響
を受けたと思われる作品が報告された。         
 それはフランシス・フォード・コッポラが計画を進めてい
る “Megalopolis”という作品で、この計画はコッポラが15
年近く前から温めていたということだ。内容は、近未来のニ
ューヨーク市を舞台に、災害に襲われた大都市が再興して行
く姿を描いたもの。その再興計画を巡っていろいろな階層の
人々が織りなすセシル・B・デミル調の物語だそうだ。  
 そしてコッポラはこの映画の撮影を来年の秋に予定してい
るが、すでにその準備としてニューヨークの実景が9月11日
以前から撮影されており、その撮影は事件後も続けられてい
るということだ。しかし物語の方は事件を踏まえたものにせ
ざるをえず、その物語の再構築に苦慮しているという状況の
ようだ。                       
 事件の直後にコッポラは、「歴史が自宅の玄関口に来たよ
うな気持ちだ」と印象を語っていたということだが、紹介文
を読んだ感じでは、映画自体はかなり明るい未来を展望した
作品だったようで、逆に事件の衝撃が大きく覆い被さってい
るようだ。                      
 なお撮影は、『スター・ウォーズ:エピソード2』の撮影
にも使用されたHD−24Pのディジタルカメラで行われてお
り、ジョージ・ルーカスに続くコッポラの採用で、このカメ
ラの定着が一気に進みそうだ。             
         *       *         
 9月11日関連の情報では逆に、計画通りに製作が進むこと
になったという話題も入ってきている。         
 この計画は、ジェニファ・ロペスとベン・アフレックの主
演、レヴォルーション製作による“Gigli ”という作品で、
この作品の12月からの撮影が発表されている。      
 実は、この計画では当初からロペスの主演が期待されてい
たものだったが、同じくロペスが主演する“Tick Tock”と
いう作品の撮影と重なるために、一時はハーラ・ベリーの主
演で準備が進められていた。ところが9月11日の影響で、爆
弾事件を扱った“Tick Tock”の撮影が延期になり、一方の
ベリーは“X-Men 2”の撮影が決まって降板ということにな
って、めでたくロペスの主演が実現したということだ。  
 お話は、ロペス扮する名うての女性拳銃使いが、アフレッ
ク扮するさえない殺し屋の手助けをするというもので、その
過程で2人の間に愛が芽生えるという展開。この2人でこの
役柄というのは面白くなりそうだ。脚本、監督は、『セント
・オブ・ウーマン』のマーティン・ブレスト。      
 この他に9月11日の関連では、事件直後に公開延期が発表
されたアーノルド・シュワルツェネッガー主演“Collateral
Damage”の公開は、02年2月8日と発表されている。   
 また、クライマックスシーンが世界貿易センタービルで撮
影されていたため撮り直しが決定された“Men in Black 2”
では、事件には直接関係ないがマイクル・ジャクソンのカメ
オ出演が発表されている。ジャクソンは前作で、「実はエイ
リアンが変身している」として名指しされていたものだが、
今度は本人が登場するということだ。          
         *       *         
 続いては久々に復活した話題で、日本製のテレビアニメー
ション『マッハ Go!Go!Go!』をワーナーが実写で映画化する
計画に新たな展開が出てきた。             
 この計画は、アメリカで放送されたときのシリーズ名“Sp
eed Racer”の題名で進められているもので、この計画には
過去、ジュリアン・テンプルやガス・ヴァン・サント、アル
フォンソ・クアロンらの監督が名を連ね、一時はかなり大掛
かりな作品になるという情報もあった。しかしその時点で計
画の見直しが発表され、その後は音沙汰が無かった。   
 その計画に再び動きが出てきたもので、今回発表されたの
は、脚本を最高120万ドルの金額でクリスチャン・グーデ
ガストとポール・ショイリングという2人が契約したという
もの。この2人はニュー・ラインで計画中の“El Diablo”
の脚本も手掛けているが、他にも“Black Flag”という脚本
がワーナーと契約されており、この作品はサイモン・ウエス
ト監督で製作される予定とのことだ。          
 お話は、マッハ5と名付けられたレーシングカーを駆る主
人公が、ガールフレンドや幼い弟、ペットの猿など共にいろ
いろな悪漢と戦うというもの。しかも主人公が乗る車は、水
陸はおろか、水中や森の中も自在に走り抜ける性能を持って
いるというものだ。                  
 製作はジョール・シルヴァとドナー・カンパニー。監督に
は、ミュージックヴィデオやトヨタのコマーシャルなども手
掛けているハイプ・ウィリアムスの抜擢が発表されている。
         *       *         
 お次も久々の話題で、ベストセラー作家のスティーヴン・
キングが99年に交通事故被害に遭って以後に執筆した最初の
長編で、01年3月に発行された小説“Dreamcatcher”の映画
化を、キャッスルロックの製作で行うことが発表された。 
 キャッスルロックとキングは、過去に『スタンド・バイ・
ミー』『ショーシャンクの空に』『ミザリー』『グリーン・
マイル』の映画化を行っており、最も多くの成功作を生み出
している。そして今回はさらに、『ミザリー』と、キング映
画化の最新作“Hearts of Atlantis”を手掛けたウィリアム
・ゴールドマンがオリジナルの脚色を担当。これをさらにロ
ーレンス・カスダンがリライトして、カスダンの製作、監督
で映画化するというものだ。              
 物語は、幼なじみの4人の男達が、毎年同じ時期に少年時
代を思い出しながらの山での狩りを続けているが、中年に差
し掛かった彼らは一様に人生に疲れ始めていた。しかしある
年、同じように山に向かった彼らの前に、全く未知の敵が現
れる。その強力な敵に立ち向かう彼らに残された手段は、少
年時代に培った正義感と勇気しかなかった…、というもの。
『スタンド・バイ・ミー』と『エイリアン』を合わせたよう
な作品だということだ。                
 そして02年1月に開始予定の撮影には、モーガン・フリー
マンとトム・サイズモア、それにトーマス・ジェーンの出演
が発表されている。なお、フリーマンは4人に対抗する陸軍
の将校役で、サイズモアはその下士官。4人の内の1人がジ
ェーンだということだ。                
 また、未知の敵の視覚効果をILMが担当することになっ
ている。                       
         *       *         
 最後に前回の記事の続報で、キャスティングの情報を2つ
紹介しておこう。                   
 まずはパラマウント製作のSF映画“The Core”で、アー
ロン・エッカートの相手役として、オスカー女優のヒラリー
・スワンクの出演が発表された。スワンクが演じるのは、本
来は宇宙パイロットだが、緊急事態のためにエッカート演じ
る科学者の要請で急遽地底探検に駆り出されるパイロットの
役。女優だから何でもできるとは思うが、それにしても思い
切った役柄を選んだものだ。              
 またこの作品には、新人のD・J・クェイルズの出演も発
表されている。クェイルズはテネシー出身、00年に“Road
Trip”という作品でデビュー以来、1年間で5本の作品に連
続で主演しているということで、今注目の新人だそうだ。 
 もう1本はジョージ・クルーニーの監督デビュー作“Conf
essions of a Dangerous Mind”で、『オーシャンズ11』で
共演したばかりのジュリア・ロバーツの出演が発表された。
クルーニーとロバーツは、前回紹介したコーエン兄弟の作品
にも共演が期待されているが、本当に仲が良いということな
のだろうか。                     
 また、主人公のチャック・バーリス役をサム・ロックウェ
ルが演じていることが判明した。ロックウェルは前回出演を
紹介したドリュー・バリモアの公私に渡るパートナーとして
知られるが、実はバリモアが演じる役は元々ニコール・キッ
ドマンにオファーされていたもので、それが突然バリモアに
変更になった理由がこれで判ったというところだ。    
 お話は、ゲームショウのプロデューサーのチャック・バー
リスが実はCIAの捜査官で、そうとは知らないガールフレ
ンド(バリモア)と、CIAの同僚(ロバーツ)の2人の女
性の間を上手く切り抜けるというもの。これにCIAの担当
官(クルーニー)が絡むのだそうだ。つまり、バリモアとロ
ックウェルの関係は、『チャーリーズ・エンジェル』のとき
の逆ということになるようだ。             
                           
                           
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『ロード・オブ・ザ・リング(26分特別版)』      
12月に世界公開(日本は3月)される“The Lord of the
Rings”の、今年のカンヌ映画祭で上映された26分の特別版
が上映された。これから3年に亙って公開される本編のプレ
ヴュー版だが、これだけでも製作にどれだけの手間暇が掛か
っているかが窺えた。                 
実は主演にイライジャ・ウッドが決まったときには、主人公
を敢えてホビットにしなくても、普通の若者の成長物語でも
描けると想像したのだが、何とちゃんとホビットになってお
り、イアン・マッケラン扮するガンダルフとの身長差などが
そのまま映画になっている。              
この他にも特別版では、戦闘場面や危機一髪の脱出場面など
も紹介されたが、どこも全く手を抜かずに原作の雰囲気を出
しており、今から公開が楽しみになった。        
日本では、敢えて『ハリー・ポッター』の後を狙う作戦が功
を奏することを期待したい。              
                           
『美女と野獣』“Beauty and the Beast”        
『ファンタジア2000』に続いて、ディズニーがアイマッ
クス用に再製作したアニメーション。          
オリジナルは91年に製作されたが、当時の製作段階でカット
され、その後のステージ公演で復活した楽曲『ヒューマン・
アゲイン』のシーンが新たに加えられており、上映時間はオ
リジナルの85分から90分になっている。         
基本的にはオリジナルと同じ作品だが、新たに加えられた楽
曲のシーンはステージでも評判になっただけあって素晴らし
い。それに視野一杯に拡がるアイマックスの効果は臨場感に
あふれ、奥行き感も活かされて、全体の完成度は高まったと
言って良いだろう。                  
                           
『快盗ブラック・タイガー』(タイ映画)        
早打ちガンマンが登場する西部劇のようでありながら、恋人
達のデートの場所が蓮池で、少女は水牛に乗って登場すると
いうタイ映画。                    
タイ映画は今年の東京国際映画祭でもコンペと特別招待が1
本ずつ上映されているが、実はこの作品も、今年のカンヌ映
画祭の「ある視点部門」で上映されたということで、カンヌ
で公式上映された初めてのタイ映画だそうだ。      
お話は、農夫の息子と知事令嬢の悲恋というメロドラマで、
そんなものを今時恥ずかしげもなくやれるものかと思われる
だろうが、実は監督の狙いは伝統的なタイ映画を再現したい
ということで、人工着色を思わせる色使いなど工夫が凝らさ
れている。                      
本作の脚本も手掛ける監督は、『ナン・ナーク』の脚本家で
もあり、無茶な展開の割に物語に破綻が無いのは良い。監督
も万人向きではないと言っているが、伝統的なタイ映画を知
る上では貴重な1本だろう。              
                           
『プリティ・プリンセス』“The Princess Diaries”   
メグ・キャボット原作のヤングアダルト小説の映画化。サン
フランシスコに住む15歳の少女が、実はヨーロッパの王国の
王女であることが判り、普通の高校生の生活をあきらめて王
女になるかどうかの決断を迫られる。          
まあ典型的なシンデレラストーリーでありますが、アメリカ
の少女向けのヤングアダルト小説というのは、つまりハーレ
クィンということなので、こういうお話もありということの
ようだ。                       
かといってお話が古臭いと言うようなこともなく、いかにも
ありそうな感じに作られているところが、アメリカでもヒッ
トした要因なのだろう。祖母の女王役でジュリー・アンドリ
ューズが久しぶりにスクリーンに登場、雰囲気を造り出して
いる。                        
                           
『ハリー・ポッターと賢者の石』            
     “Harry Potter and the Philosopher's Stone”
この正月の最大の期待作の試写を観てきた。観た感想は、一
言で言えば、上手いというか、見事な映画に仕上がってた。
もちろん原作を知る者にとっては、もっと観たかったシーン
は沢山あるし、アメリカの覆面試写会での「もっと観ていた
かった」という反応は多いに頷けるところ。2時間32分の上
映時間は、本当にあっという間に過ぎたという感じだった。
映画は、原作を見事にダイジェストしてあって、必要なシー
ンは全部入っている。原作を知っていればその間を補うこと
ができるし、原作を読んでいなくてもちゃんと判るという実
に見事なバランスで作られている。           
しかも原作にはなかったプロローグや、原作では会話に出て
くるだけのシーンが映像化されていたりで、原作の読者に対
するサーヴィスも満点というところ。この辺は映画の作り手
達のセンスが光っている。               
ワイド画面で、ドルビーサラウンドEX、あるいはSDDS
8チャンネルの音響は、やはり映画館で観て欲しい作品だ。
なお、試写会は丸の内ピカデリーの1、2を同時に使って行
われたが、その間に設けられて入口を9・3/4入口と称し
ていた。良いアイデアなので、本番の公開でも、ぜひともシ
ネコン辺りでやって欲しいものだ。           
                           
『ぼくの神さま』“Edges of the Lord”         
ハーレイ・ジョエル・オスメントが『A.I.』の前に主演し
た作品。                       
1942年、ナチス占領下のポーランド。ユダヤ人の教授を父に
持つ主人公の幼い少年は、ナチスの目を逃れるため、カソリ
ックの教えを叩き込まれてポーランド人の農夫の元に預けら
れる。農村地帯のそこには、一見平和でのどかの風景が拡が
っていた。                      
その場所で繰り広げられる子供同士の冒険や喧嘩、淡い恋。
しかしその上にも、戦争のナチスの影は着実に落ちていた。
そして少年の暮らす一家の弟がキリストになって世界を救う
と言い出し…。                    
ユダヤ人の少年が生き残るためには決して綺麗ごとだけでは
すまなかったという現実や、ポーランド人の住民同士の裏で
行われていたことなど、本当の意味での戦争の悲惨さが見事
に描かれていた。                   
                           
『オーシャンズ11』“Ocean's Eleven”         
シナトラ一家が揃った最初の作品と言われる60年の『オーシ
ャンと11人の仲間』を、ジョージ・クルーニー、ブラッド・
ピット、マット・デイモン、ジュリア・ロバーツ、アンディ
・ガルシアのオールスターキャストでリメイクした作品。 
ラス・ヴェガスのカジノの資金を盗み出すという展開は同じ
だが、その手口は最近のアクション映画の流れを受けてかな
りトリッキー。といっても『M:I2』ほどではないが。 
オールスターキャストなので、それぞれに見せ場を作るなど
苦労はあったのだろうし、2月に行われた撮影は俳優ストを
控えてかなり厳しい状況だったようだが、そんな中で、出演
者が結構楽しんでやっているのが伝わってくるのが楽しい。
いろいろと遊びもあるようだが、何せアメリカでもまだ試写
は行われておらず、今回が世界初の外部向けの上映というこ
となので、プレス資料もほとんど無い。これから徐々に楽屋
落ちなどの情報も出てくることだろうし、そうなってからも
う一度見直したい。                  
それにしても、突然「ビンラディン」ネタが出てきたのには
驚いた。                     



2001年11月04日(日) 特集:東京国際映画祭(コンペティション14作品+レイン、遊園驚夢、ヴィドック)

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※このページでは、東京国際映画祭の上映映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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コンペティション部門                 
                           
『ワンダーボーイ』“Malunde”        
ヨハネスブルグの黒人のストリートチルドレンと初老の白人
の元英雄との、ケープタウンまでの旅を描いたロードムーヴ
ィ。南アフリカ出身でドイツ在住の女流監督の作品。   
少年の名前はワンダーボーイ。麻薬に絡んでギャングから追
われることになった彼は、元英雄の車に逃げ込み、自分の故
郷でもあるケープタウンに向かうことになる。元英雄は国家
に尽くした功績で勲章を貰っているが、それは黒人迫害の結
果でもあったらしい。                 
こんな2人の関係は、最初の内はギクシャクしたものであっ
たが、やがて少年が意外な商才を発揮したことから、徐々に
打ち解けて行くことになる。しかし今も根強く残る黒人差別
の現実は、一朝一夕に消えて行くものではない。     
映画祭の最初に見た作品は、こんな辛い現実を、暖かい心と
素晴らしいユーモアで包んでみせた見事な作品だった。コン
ペティション部門はまだ1本しか見ていないのに個人的には
グランプリを決めてしまいそうになった。        
                           
『羊のうた』                     
冬目景原作のコミックスを、助監督出身の花堂純次が脚色監
督した。奇病に侵された少年を巡る純愛ストーリー。   
大学進学に揺れる高校生の一砂は、籍を置く美術部の八重樫
に思いを寄せている。その一方で、最近物事に集中できなく
なっている自分に不安を抱いていた。          
子供のころに養父母に預けられた一砂は知らなかったが、彼
の母方には吸血を願望する遺伝子病があり、母親の病と闘っ
た医師でもある父親は、母親の死を看取って自殺。生家には
同じ病を発病した姉が一人暮らしていた。        
そして発病した一砂は、病の意味を知り、人との接触を避け
て残りの人生を送ることを決意、しかしそれは八重樫との別
れも意味していた。                  
原作は連載中だそうだが、映画では結末を持たなければなら
ず、その映画オリジナルな部分は上手くできている。また映
画は、おどろおどろしさを上手くミックスしながらも、それ
にだけに陥ることを極力避け、純愛というテーマを活かして
いた。                        
                           
『ヒューマンネイチュア』“Human Nature”       
『マルコビッチの穴』のチャーリー・カウフマンの脚本の映
画化。ナイキ、コカコーラのコマーシャルやビヨークのミュ
ージックヴィデオなどで知られるマイクル・ゴンドリーが監
督した。                       
厳格な躾の下に育てられた行動学者の男と、余りに毛深いた
めに人目を避けて森の中で暮らし、結果自然主義作家として
成功した女、そして類人猿に育てられた男を父親に持ち、自
分も野性児に育てられた若者、さらに行動学者の助手のフラ
ンス女を巡る男女関係に託した社会風刺ドラマ。     
落ちも秀逸で、実に上手くできた脚本。東京映画祭のコンペ
ティションは長編3作目までの監督に資格があるが、この作
品は脚本2作目のカウフマンの成果だろう。       
                           
『春の日は過ぎゆく』“One Fine Spring Day” 
『八月のクリスマス』のホ・ジノ監督の韓国映画。    
離婚経験のある地方ラジオ局の女性ディレクターと、彼女が
仕事を頼んだ田舎出で純朴な録音技師の青年との出会いと別
れ描いた恋愛映画。2人は相思相愛だが、女性は結婚に踏み
切れない。その思いは、多分男性より女性の観客に受け入れ
られるのだろう。                   
映画の中で若者の祖母が語る「行ってしまったバスと女は追
いかけてはいけない」というのは名言だとは思うが。   
オーチャードホールの上映では、多分在日の韓国の人たちが
大勢観客席を埋めていて、舞台挨拶でも通訳の前に歓声が上
がるのが素晴らしかった。               
エンディングテーマ曲を松任谷由美が提供している。   
                           
『ゴール・クラブ』“Goal Club”       
社会問題でもある、タイ国のサッカー賭博を扱った作品。 
主人公の仲間たちは高校でサッカー部に所属し、卒業するが
簡単には職に就けない。そんな中で主人公は自動車登録の代
行業に就くが、テレビ中継のサッカーの結果を言い当てたこ
とから、サッカー賭博の胴元に気に入られ、その世界に踏み
込んで行く。                     
監督は元々コメディが専門で、この作品も当初はコメディの
予定だったが、取材をして行く内にシリアスな部分が増えて
いったと語っていた。コメディの調子が徐々に問題提起につ
ながって行く展開は図らずも生み出されたもののようだ。 
タイの映画は一昨年のコンペティション部門に『ナン・ナー
ク』が出品され、僕は好きな作品だ。今年は特別招待作品で
『レイン』も上映されているが、最近注目される映画の国と
言える。                       
                           
『化粧師−KEWAISHI−』            
 石ノ森章太郎原作のコミックスを、CM監督出身の田中光
敏が映画化。大正初期の日本。女性が自立して行く社会情勢
の中で、化粧をすることで女たちを導いていった化粧師の物
語。                         
化粧師というのは本来は遺体に死に化粧をする仕事のようだ
が、この主人公は生者を相手にする。そこには貧しさの中か
ら希望を見いだそうとするものや、自分の本来の姿に気付か
ないものもいた。                   
今年の日本からの出品は2作共にコミックスの映画化になっ
た。どちらもストーリーがしっかりあるので、その分見てい
て気持ちが良い。特にこの作品については、時代設定も面白
い時期で、テーマが良く生きていた。          
時代背景を出すvfxも決まっていたし、近江八幡で撮影さ
れた日本の原風景のような自然の背景も良かった。    
                           
『アナム』“Anam”                  
主人公は、ドイツで掃除婦として働くトルコ人女性。外出の
時はスカーフを忘れることの無い保守的な彼女だったが、夫
の浮気が発覚し、息子は麻薬中毒で家を出てしまう。そんな
悲惨な状況でも、彼女は常に前向きに進もうとするが。  
いろいろ問題の多いドイツのトルコ人だが、健気に子供を守
ろうとする母親の心は変わらないというところか。彼女の仲
間のドイツ人女性とアフリカ出身の女性、それに息子の恋人
と自分の娘、女ばかりドラマは監督もトルコ出身でドイツで
学んだ女性の作品。                  
『ワンダーボーイ』もそうだったが、こういう人材の育つド
イツ映画界が素晴らしい。               
                           
『殺し屋の掟』“Mr.In-Between”       
謎の男の命令の下、理由も聞かず精確に人殺しを遂行する殺
し屋。しかし彼自身は振り払うことのできない殺しの回想に
精神はずたずただった。そんな彼が街で学生時代の仲間に会
い、訪れた家で昔恋した女性に再会する。それは束の間の安
らぎを彼に与えるはずだったが、やがて恐ろしい殺しの連鎖
を引き起こしてしまう。                
原作はあるようだが、愛すらも殺しでしか表現できない男と
いう設定は余りに壮絶。テーマを肯定はしないが、視覚的な
アクションに落とさずに描き切った点は評価したい。   
                           
『月の光の下に』“Under the Moonlight”   
優れた僧侶を祖父に持つイスラム教神学生の主人公は、僧の
証であるターバンを巻く日が近づいているが、彼自身は自分
に僧になる資格があるかどうか迷っている。       
しかし故郷の父親から僧服とターバンを購入する資金を送ら
れ、バザールへと買いに行った帰り道、親しげに近寄ってき
たガム売りの少年に買ってきたものを盗まれてしまう。  
そして主人公は、品物を取り戻すために少年がいるという高
速道路の陸橋下のホームレスの溜まり場に行き、そこに暮ら
す人々の生活を目の当りにする。            
繁栄の象徴の高速道路とその下のホームレス達。今やどこの
国にもありそうな風景だが、これをイスラム革命の元祖のよ
うなイランの映画で描かれるとは…。          
物語はイスラム教が堕落したとかいうようなことを描いてい
る訳ではないが、原理主義とアフガニスタンの現状を考え合
わせると、複雑な気分になる。             
                           
『スローガン』“Slogans”          
70年代後半のアルバニア。山里の小学校に赴任した主人公は
着任早々政治スローガンを選ばされる。彼は同席した先輩教
師の指図で短い方を選ぶが、それは生徒たちが労働奉仕で山
腹に石を並べて形作るためのものだった。        
この他、生徒が中国を修正主義と言ったばかりに、生徒から
教師までもが懲罰を受けるといった共産主義末期のあきれる
ような教条主義や権威主義の不条理な実体が描き出される。
見ていると馬鹿々々しい限りだが、これが当時本当に行われ
ていたことなのだ。                  
そして国家体制の変化が、ようやくそれを描くことを許した
訳だが、本国内では賛否両論があるという。結末らしい結末
の無い物語は傷の深さを表わしているようだ。      
                           
『週末の出来事』“秘語拾■小時”           
北京から友人を連れて故郷に遊びに来た女性と、地元に残り
結婚して子供もいる同窓生で警官になった男性。彼らを含む
男女6人のグループは船で渓谷に行き、水遊びをするが、そ
こで「死ぬまで愛し続ける」と書かれた1枚の紙片が見つか
る。                         
夕刻、警官は勤務のために町に戻り、彼以外の5人は突然の
雨に川辺から近くの鍾乳洞の管理所に移動して一夜を明かす
ことになる。そして誰が書いたか判らない1枚の紙片がさざ
なみを立てて行く。                  
何でもないことが人々の心理に影響し、いろいろなことが起
きて行くという物語だが、それなりに面白く描かれていた。
特に中国特有の物語ではないが、やはり中国の現状は垣間見
えるようだ。                     
内蒙古で製作された映画は、英語と日本語の他に北京語の字
幕も添えられていた。                 
                           
『反抗』“Das Fahnlein der Sieben Aufrechten”    
ゴッドフリード・ケラーの原作を映画化した作品。1850年代
のスイスを舞台に、男女同権や民主主義を目指す人々の動き
を、若い男女の恋愛を織り込みながら描く。       
主人公の男女をスノーボーダーの世界チャンピオンとポップ
シンガーの歌手にやらせるなど、完全に商業主義を狙った作
品のようだ。お話は軽く、人物設定も明確で判りやすい。本
来俳優でない2人の演技も、台詞廻しなどは判らないが、良
くやっている感じがした。               
一種の時代劇なので時代考証などが重要になるのだろうが、
その辺は判断できない。ただし音楽にポップ調のものを使用
するなど、考証などの重要性は余り感知していないのかも知
れない。まあ僕のイメージするスイスの田舎ではあったが。
内戦が終った直後という設定の物語だが、 150年前の闘いを
最後の闘いと呼ぶ前説には、60年足らずの不戦を威張ってい
るどこかの国との歴史の違いを感じた。         
                           
『O〔オー〕』“O”             
『オセロー』を題材に、高校のバスケットボールチームの選
手達を描いた作品。                  
元々がシェークスピアだから物語が良くできているのは当然
だが、これを上手く現代の高校生に移し変えたものだと感心
する。嫉妬心などの『オセロー』の世界は不滅だということ
だろう。                       
日本でも人気の高まっている若手俳優ジョシュ・ハートネッ
トの主演だが、今までの作品とまるで違う役柄は、彼を目当
てに観に来る若い女性達に衝撃を与えそうだ。多分お父さん
が悪いということで納得するのだろうが。        
                           
『The Chimp』“Maimyl”           
『あの娘と自転車に乗って』などの監督の自伝的3部作の完
結編。キルギスの自然と風土を背景に、酒飲みの父親に苦労
する若者の青春を描く。                
主人公は兵役を前に、最後の青春を過ごしているが、父親は
いつも酔っ払って、主人公の行動の邪魔をする。そしてつい
に耐えられなくなった母親が妹を連れて家を出てしまう。 
この不況の時代の日本でも、兵役ということは別にしてどこ
にでも起こりそうな物語が、キルギスという全く違う風土の
中で起こっている。                  
                           
特別招待作品                     
                           
『レイン』“Bangkok Dangerous”       
香港出身の双子兄弟の監督が、タイで制作したアクション映
画。                         
生まれつき耳の聞こえない主人公は、殺し屋の男に拾われ彼
の跡を継ぐよう育てられる。やがて一人前に育った主人公は
国を揺るがすような仕事を任されるようになるが、同時にド
ラッグストアの女性に恋心を抱く。一方、殺し屋の男は恋人
を陵辱された復讐でマフィアの男を殺害し、仕返しで殺され
てしまう。主人公は女性に全てを告白した手紙を残し、育て
の親の復讐へと向かう。                
どうも僕はこういう作品が苦手だ。しかしエンターテインメ
ントとしては優れていると思うし、たぶん日本の映画ファン
にはこういう作品を持て囃す連中も多そうだ。      
                           
『遊園驚夢』“遊園驚夢”               
宮沢りえがモスクワ映画祭で主演女優賞に輝いた中国歴史映
画。                         
崑曲の歌手だった主人公は名家に第5夫人として嫁ぐが、出
自の違う他の夫人たちとの折り合いが着かない。そこでの慰
めは、阿片と、夫の従姉妹でかつての自分のファンだった男
装の麗人との蓬瀬。しかし名家は没落し、主人公はかつての
ファンの女性と暮らすことになるが、女性には男性の恋人が
できてしまう。                    
元歌手役の宮沢の演技は、確かに美しさと儚さは良く表現さ
れていた。歌は多分吹き替えだと思うが、中国語の台詞がす
べて本人だとすると、アフレコとはいえこれは大変な努力の
結果だろう。主演賞に値したということは、多分そうなのだ
ろうが。                       
撮影は、宮沢の台詞だけ日本語のヴァージョンも同時に行わ
れたそうだ。                     
                           
『ヴィドック』“Vidocq”               
前世紀のフランスに実在した犯罪者上がりの探偵を主人公に
した活劇映画。                    
すでに何度も映画化やテレビ化のある人気ヒーローを、ジェ
ラール・ドパルデューをタイトルロールに据えて映画化。し
かも監督や美術には、『エイリアン4』でジャン=ピエール
・ジュネを支えた人材を配した大型映画だ。       
お話は、2人の大物が連続して落雷に打たれて炎上死すると
いう事件が発生し、ヴィドックがその解明に乗り出すが、犯
人との格闘に末に燃え盛る炉に落ちて死ぬ、という衝撃の事
件から始まる。そして残された助手と伝記作家がその真相を
探り始めるが…。                   
お話や美術も素晴らしいが、今回の注目は何と言っても『ス
ター・ウォーズ:エピソード2』の撮影にも使われているHD
-24Pの実力。僕はすでに3本のHD-24P映画を観ているが、今
までの作品はフィルム撮影の代替えという感じだったのに対
して、この作品で初めてその実力が発揮されたともいえる。
その実力は、フィルムに比べても画質の点では大画面でもほ
とんど遜色が無いばかりでなく、撮影感度が極めて高くて、
この作品ではロウソクのカンテラ1個の明かりだけで撮影さ
れているシーンなど驚きの連続だった。         
実は上映の前日に技術セミナーもあって、そこでは撮影シー
ンなども紹介されて、本当にロウソク1本の明かりだけで十
分な撮影ができていた。『バリー・リンドン』の撮影でスタ
ンリー・クーブリックの苦労などを考えて、感慨深いものだ
った。                        



2001年11月03日(土) 第2回+地獄の黙示録、ノーマンズランド、寵愛、シュレック

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はちょっと残念なこの話題から。         
 ジョエル&イーサン・コーエン兄弟の製作監督、ブラッド
・ピットの主演で計画されていた第2次世界大戦ドラマ“To
the White Sea”の映画化が、資金難などの理由で中止とな
ってしまった。                    
 この作品は、ジェームズ・ディッキーが93年に発表した小
説を映画化するもので、第2次世界大戦での東京空襲の遂行
中に撃墜されたB−29の爆撃手が、平和時にはアラスカでハ
ンターをしているという智恵を活かしながら、北海道を目指
して日本国内をさ迷い、北方への脱出を図るというもの。つ
まり主人公は言葉も通じない異国の中、周囲の人間は全て敵
で発見されれば死は免れないという、究極の状況での脱出行
が描かれるものだ。                  
 そしてこの主人公を、見るからに西洋人の風貌のピットが
演じ、日本国内でのロケーションも準備されていたというこ
とだったのだが、日本でのロケーション経費が予想以上に高
くなることが判明し、結局アメリカ配給権を契約して主な資
金源となるはずだった映画会社との間で製作費の折り合いが
着かなかったようだ。                 
 ということで、この計画は一応中止ということになってし
まったが、コーエン兄弟には早くも次の計画が発表されてい
る。その計画は、ユニヴァーサル製作による“Intolerable
Cruelty”という作品で、主演は『オー・ブラザー!』のジ
ョージ・クルーニーが再び兄弟と組むというものだ。   
 お話は、クルーニー演じるハリウッドを本拠にする離婚専
門の弁護士が、ある日、自分が依頼者のもと妻の復讐の標的
にされていることに気付くというブラックコメディ。そして
相手役には、クルーニー本人が“Ocean's Eleven”で共演し
たジュリア・ロバーツを口説いているということだ。   
 実はこの計画は、ユニヴァーサルでは4年以上も前から準
備されていたもので、その間にはロン・ハワードやアンドリ
ュー・バーグマンらの監督が名を連ね、最近ではジョナサン
・デミの監督、ヒュー・グラント、テア・レオーニとウィル
・スミスの共演でかなり進んでいたということだが、この計
画はデミの突然の降板でキャンセルされていた。     
 一方、コーエン兄弟も数年前から計画に参加。ロバート・
ラムゼイとマシュー・ストーンによるオリジナル脚本のリラ
イトなどを行っていたが、兄弟の脚本がちょっと過激なため
に躊躇されていたところもあったようだ。しかし今回は、ク
ルーニーの出演ということも踏まえて彼らの計画にゴーサイ
ンが出たもので、ちょうど先の計画が中止されたこともあっ
て、元々は脚本だけの契約から一挙に監督も行うということ
になったというものだ。                
 なお、コーエン兄弟とクルーニーはこの計画以前から再び
組む計画を探していたのだそうで、これにロバーツも加わる
となると、ユニヴァーサルには願ってもない作品になりそう
だ。そういえば“Ocean's Eleven”にはブラッド・ピットも
出ていたはずだが、そこまでは上手く行かないかな。   
 ただしクルーニーは、現在は自らの監督デビュー作となる
“Confessions of a Dangerous Mind”を進めており、コー
エン兄弟の作品に参加するのはその後になりそうだ。因にこ
の作品は、『ゴング・ショー』で有名な司会者チャック・バ
ーリスが書き下ろした自伝的小説を映画化するもので、脚色
は『マルコビッチの穴』や、東京国際映画祭にも出品された
『ヒューマンネイチュア』のチャーリー・カウフマン。ミラ
マックスで進められているこの計画には、一時はマイク・マ
イヤーズを始め、ジョニー・デップやショーン・ペンなどの
名前が挙がっていたが、これを最終的にクルーニーの監督・
主演で映画化することになったものだ。共演はドリュー・バ
リモアの他、バーリス本人のカメオ出演も予定されている。
またバーリスは、すでに続編も書き上げているそうだ。  
         *       *         
 お次は新しい話題を3本紹介しよう。         
 まずは、久しぶりの本格ミュージカルの映画化で、77年に
ボブ・フォッシーがオリジナルを手掛け、2つのトニー賞に
輝いた後に、20年間で6度の再上演が行われた名作ミュージ
カル“Chicago ”を映画化する計画に、リチャード・ギアの
出演が発表された。                  
 この作品は、「狂乱の20年代」と呼ばれたギャング華やか
な頃のシカゴを舞台に、威勢は良いがちょっと胡散くさい弁
護士ビリー・フリンと、彼に仕事を依頼した2人の女性を巡
る物語。そしてこの2人の女性ヴェルマとロキシー役には、
キャサリン・ゼタ=ジョーンズとレニー(本当はルネだそう
だが)・ゼルウィガーの主演が先に発表されていた。   
 実はこの作品は、元々女性がリードする物語で、この映画
化が発表されるやヴェルマとロキシーの役には数多くの女優
が立候補していたようだ。そしてその中からは、ゼタ=ジョ
ーンズとゼルウィガーの出演が先に発表されていたものが、
その彼女らに対抗できる男優ということで、フリンの配役が
注目されていた。                   
 その配役にギアが発表されたものだが、ミュージカル(彼
は3曲歌う)にギアというのはちょっと奇異に感じる人も多
いだろう。しかし彼は元々演技と共に音楽も学んでいて、ブ
ロードウェイとロンドンのウエストエンドで『グリース』に
主演していたこともあるということで、まったく問題はない
ようだ。それより『ブリジット・ジョーンズ』を見た後では
ゼルウィガーの方がよほど気になるところだ。      
 『ゴッド・アンド・モンスター』のビル・コンドンが脚色
を担当し、テレビ出身でこの作品がデビュー作となるロブ・
マーシャルの監督、ミラマックスが製作する。なお、マーシ
ャル監督はテレビスペシャルでフォッシー作品の『キャバレ
ー』を手掛けたことがあるそうだ。           
 続いてはビーコンピクチャーズの製作で、“Children of
Men”という作品の計画が発表されている。       
 この計画は、「女探偵コーデリア・グレイ」シリーズや、
3度の英国推理作家クラブ賞に輝くイギリスの女流推理作家
P・D・ジェイムズが93年に発表した長編小説(邦訳題・人
類の子供たち)を映画化するもので、とある未来の時代、人
類は生殖能力を失い絶滅寸前になっている。そんなときに、
27年ぶりに1人の女性が妊娠していることが発見されて…、
というお話。                     
 そしてこの原作を、今年のヴェネチア映画祭で脚本賞を獲
得した“And Your Mother Too”のアルフォンソ・クアロン
の脚色、監督で映画化するものだ。なおクアロンはメキシコ
出身で、先の受賞作は10月上旬のニューヨーク映画祭でも上
映されているが、今回の映画化に当って彼は、原作を「暗い
時代に希望を描く作品」と捉えて進めるとしている。   
 もう1本はSF映画で、パラマウントから“The Core”と
いう計画が発表されている。              
 この作品は、地球の中心を目指して進む地底探索者の冒険
を描くものだが、物語の中では地球破裂の危機が生じ、その
原因となる磁場を修正するために、地底深くの所定の場所で
原子力エネルギーの注入を図るというものだそうだ。地球破
裂というと、65年に同じパラマウントで製作された『地球は
壊滅する』(Crack in the World:アンドリュー・マートン
監督)なんて作品を思い出すが、関係はどうなっているのだ
ろうか。                       
 なお新作は、『エリン・ブロコビッチ』でジュリア・ロバ
ーツと共演したアーロン・エッカートの主演、『エントラッ
プメント』のジョン・アミエル監督で、年内の撮影開始が予
定されている。                    
          *     *          
 最後にその他のニュースを2つ報告しておこう。    
 前回紹介した『ハリー・ポッターと賢者の石』で、2時間
23分からは短縮されるだろうと予想した上映時間は、その後
に行われたスニークプレヴューでは何と2時間32分13秒に伸
びていたそうだ。スニークプレヴューというのは一応の完成
品ということなので、これが最終的な上映ヴァージョンにな
りそうだが、2時間半を超えると確か1日の上映回数にも影
響を与えるはずで、これはかなりの賭けになりそうだ。しか
し観客の反応は「もっと観ていたかった」だったそうだ。 
 ついでに第2作の『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(Ha
rry Potter and the Chamber of Secrets)の準備も11月18
日の撮影開始に向けて進んでいるが、第2話のゲストキャラ
クターとなるギルデロイ・ロックハート役にケネス・ブラナ
ーが交渉されていることが報告された。この役は、「週刊魔
法使い」誌選出の「最もチャーミングな笑顔の持ち主に賞」
に5回も優勝しているというのが売りの人物で、魔女達の憧
れの的という設定。一時はヒュー・グラントが噂に上ってい
たこともあったが、グラントの引退宣言などで宙に浮いてい
たものだ。なお他の配役は前作通りとされている。    
 もう一つは再映の情報で、来年の公開20周年を記念してス
ペシャルエディションの上映が計画されている『E.T.』に
ついて、その全容が明らかになってきている。      
 報告によると、まず題名は“E.T.Alteration”と呼ばれて
おり、この作品には、オリジナルの公開ではカットされたハ
リスン・フォードの登場シーン(エリオットの通う小学校の
校長役)が復活する他、最新のCGI技術を使ってETの表
情がよりリアルに生物らしくされるということだ。オリジナ
ルの撮影ではメカニカルな手段で表情が作られたが、それを
さらに修正するということだ。             
 そしてもう一つの目玉は、映画の中の拳銃を全て消し去る
ということで、例えばオリジナルでは逃げる子供たちに警官
が拳銃を振り上げるシーンなどがあるが、これらをの拳銃を
全てCGIで消去したそうだ。その結果がどうなったかは、
再公開のときのお楽しみということにしておこう。    
                           
                           
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『地獄の黙示録・特別完全版』“Apocalypse Now Redux” 
79年公開のコッポラ40歳の時の作品を、62歳にして再編集し
たヴェトナム戦争映画。オリジナルの上映時間150分は、今
回は203分に拡大されている。             
主な追加部分は、プレイメイトの2度目の登場シーンと、主
人公がフランス人の農園を訪れるシーン。どちらも物語の背
景を語る上では重要なシーンで、この追加によって戦争の狂
気を描く物語は非常に判り易くなったと言える。     
映画の評判はいまさら言うまでもないことだが、今またアフ
ガニスタンにアメリカ軍が進攻しているこの時期に、この作
品が再登場するのは余りにも皮肉なことのようにも感じられ
た。なおこの作品が拡大ロードショウされるのは、世界中で
日本だけだそうだ。                  
                           
『ノー・マンズ・ランド』“No Man's Land”      
92年のボスニア紛争を、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ生まれ
で、紛争中はサラエヴォの最前線でカメラを廻し続けたドキ
ュメンタリー作家のダニス・タノヴィッチ監督が描いた長編
劇映画。戦争の愚かしさを描き切り今年のカンヌ映画祭では
脚本賞を受賞している。                
ボスニア軍とセルビア軍が対峙する中間の無人地帯の塹壕に
それぞれの兵士が迷い込み、2人は疑心暗鬼の中でも自らが
助かるために協力を余儀なくされるが…。これに国連防護軍
や報道陣が絡んで、話は思わぬ方向に進んでしまう。   
物語はコメディタッチでスピーディーに進むが、思わぬ落と
し穴が待ち構えている。戦争の愚かしさを描く点では、『地
獄の黙示録』に勝とも劣らない。映画が終ったときには語る
言葉を失った。                    
なお台詞の中に、「デウス・エクス・マキナ」という言葉が
出てきた。言葉としては知っていたが、会話の中で普通に使
われるのは初めて聞いた。               
                           
『寵愛』“La Belle”                 
ちょっと特別なシチュエーションの男女の愛を描いた韓国映
画。                         
作家の男性主人公はヌードモデルの女性にインタヴューし、
その後、彼女は彼の家に泊まりに来るようになる。2人は肉
体関係を持ち、そして彼は彼女に純愛を捧げるが、彼女には
彼女自身が愛していると語る別の男性がいた。      
韓国の法律がどうなっているかは知らないが、韓国映画のセ
ックスシーンはかなり際く描かれていていつも驚かされる。
従って話題もそちらに行きがちだが、この作品に描かれた男
女の関係はユニークな中にも丁寧に描かれていて、物語も良
くできていた。                    
映画はほとんど2人の登場人物だけで進められるが、全編に
亙って緊張感を保った演出も見事だった。        
                           
『シュレック』“Shrek”               
アメリカでは今年最高のヒットとなっているDreamWorks製作
のCGIアニメーション。               
主人公オーガ(鬼と訳すのが正しい)のシュレックは人食い
だと恐れられ、人目を避けて沼地に住んでいるが、完全な王
国を目指す領主の命令で童話のキャラクターたちがその沼地
に追い込まれてくる。このため安住を妨げられたシュレック
は沼地を返すように領主に申し入れに行く。ところが領主は
沼地を返す条件として、火を吹くドラゴンの守る城に暮らす
姫を連れてくるように命じ、シュレックはドンキーと共に城
に向かい、見事に姫を救出するのだが…。        
映画は最初から、7人の小人が白雪姫の棺を担いで右往左往
していたり、人間だと言い張るピノキオの鼻が伸びたりと、
パロディのオンパレードで始まるが、描かれている物語の本
質はそんなところにはなくて、現代に忘れられたものが見事
に描かれている。                   
オリジナルのヴォイスキャストの一人ジョン・リスゴーは、
「メッセージのある映画は嫌いだ」と言っているが、ここに
描かれたメッセージは普遍的なもので、この作品がアメリカ
で大ヒットを続けた理由はよく判る気がした。      


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井口健二