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2001年10月29日(月) メール2(タケルの逆襲)

中間テストが終わってほっとしたのも束の間、今日から一週間またびっしり授業がある。テスト中に出来なかったバンドの練習も、今週は毎日詰めてやる予定なので、週末までは最愛の弟に会えない。
はあ・・・と、何気にぼんやり窓の外を眺めていると出てくるのは溜息ばかりだ。そんな時。
ヤマトのポケットの中で、ケイタイがメールの着信を小さく告げた。
「おい、誰だ? 授業中はケイタイの電源切っておけよ!」
先生の声に慌ててケイタイを机の中に隠しながら、こっそりとメールを読む。
「タケル・・・」
思わず呟くように呼んでしまい、フシギそうに見る隣の席の女の子に、ヤマトは何でもないというように愛想笑いを浮かべて見せた。

『お兄ちゃんへ
 さっきはメールありがとう。
 今、先生がちょっと教室を出ていったので、その隙に書いてます。
 昨日は、ポトフごちそうさま。とてもおいしかったよ。
 それから、土曜の夜は・・・』
 
土曜の夜。という言葉にドキリとする。さっき送ったメールの返事か?
そう思って先を読んで、思わず赤面してしまった。

『土曜の夜は、
 すっごぉく、
 キモチよかったよ。』

・・・・ぼた、ぼた、ぼた。

「おい、ヤマト! ちょっと定規貸し・・! うわああ」
前の席から振り返った太一が、思わず立ち上がって叫んだ。
「い、石田くん、大丈夫!?」
「ティッシュ、誰か、ティッシュ!!」
「せんせー、石田がケイタイでエロサイト見てて鼻血出しましたー」
「うるせえ!!違う!!」
あちこちから差し出された山のようなティッシュで、ぼたぼた落ちる鼻血を押さえていると、男子生徒らが“イヤラシイ事考えてたろー”と口々に冷やかす。
それをムスっとした顔で睨みつけると、呆れたような口調で先生が言った。
「おい、八神。ちょっと石田を保健室つれていってこい」
「は〜い」
授業が公然とサボれて嬉しい太一は、ヤマトの腕を取ると教室を出、廊下を1階の保健室に向かって歩き出す。
「ったく、しょうがねえなー なんでまたおまえ、授業中にエロサイトなんか見てんだよ」
「見てねえって!・・・タケルからメールが来ただけだ・・」
「・・・おまえな、弟からメールもらって鼻血出すか。フツー」
呆れたような、疲れたような言い方にヤマトがむっとする。
「うるせえな、おまえの方こそ・・!・・・あ?」
「何だ?」
「いや、別に」
片手でティッシュを押さえ、もう片方の手にケイタイを握り締めていたヤマトは、ふと、さっきのメッセージのあとに続きがあるのを発見した。そして、思わずがっくりと肩を落とす。
(そーいや、アイツ、バスバブル初めて使ったって言ってはしゃいで、いつまでも風呂から上がってこなかったっけ・・・)
いきなり落ち込んで廊下の壁になつくヤマトを、太一が“大丈夫か、おまえ”心底あきれたような声で言う。

石田ヤマト。
クールで口数少なくて、けどやさしくてカッコイイ。と女子生徒に絶対の人気を誇るお台場中学一モテる男。
けど実態は、まだまだ血気盛んな純情一直線の、中学2年生であった。


『土曜の夜は・・
 すっごぉく、キモチよかった。


 ・・・泡のお風呂v 』


(チクショー・・・ タケルの奴・・・)


2001年10月27日(土) 運動会2

6年生のリレーは大変な盛り上がりようだった。
この競技で紅白大接戦の決着がつくのだから、盛り上がるのも当然なのだが。
6年の子供たちにとっては、これが最後の運動会。
負けたくない気持ちはどの顔も同じだ。
赤組3チームと白組3チームの計6人ずつで、走りを競う。
大方の予想通り、大輔のいるチームとタケルのいるチームが1,2位を争っている。
「すげー、大接戦!」
抜きつ、抜かれつの接戦に、自然と異様なほど応援も白熱していく。
「アンカーまで持ち越されるんじゃねえの、この勝負! 
よぉし、はりきっていいトコみせねえとなあ! ヒカリちゃんにアッピールする最高のチャンスじゃねえかぁ〜 なあ、タケル!」
ばし!と背中を叩かれ“そうだね、頑張らないとね”と少し生返事をして、タケルは観客席に視線を泳がせた。
(やっぱり。来てないのかな・・・それとも騒がれて帰っちゃったのかな・・)
白熱するレースとは裏腹に、心は少し沈み気味。そんな表情だ。
バンドのライブの日と運動会が重なってしまい、最後のリレーにはなんとか間に合うようにライブを切り上げるからと兄は言ってくれたけど、客席に自分を見守ってくれるあの蒼い眼差しがないことが、タケルの心に影を落としていた。
せっかく、いいトコ見せたくてもその人がいないんじゃ・・・
「おい、頼むぜ! タケル!」
同じチームの子に言われてハッとなる。もうすぐ自分の番だ。
とにかく最後の運動会なんだから、頑張って走らなきゃ。
お兄ちゃんのことばかり考えてる場合じゃない。後悔のないように頑張らないと!
自分自身に気合を入れて、女子のアンカーの順を確かめ、白線の中に入る。
タケルが最後の女子からバトンを受け取るのと、大輔がヒカリから受け取るのと、ほぼ同時に近かったが、ほんの僅かに大輔のチームの方が早かった。
タケルと大輔が走り出すと同時に大きな歓声が沸き起こる。
アンカーは広いトラックを一周だ。場内アナウンスの声も興奮して裏返っている。
ほぼ互角の戦いとはいえ、日頃サッカーで鍛えている大輔はやっぱり走りが違う。
短距離なら負けないのに!と、タケルが胸中で悔しげに呟く。
(でも、負けたくないっ!)
力いっぱい心の中でそう叫んだ瞬間、コーナーに差し掛かったタケルの足にズキンと鋭い痛みが走った。
黄色い歓声が、一瞬消えてシン・・となり、次の瞬間悲鳴に変わった。
振り返る大輔の驚いた顔が、スローモーションのように見えた。
(あ・・・・?)
「タケル!」
その声の洪水の中、たった一人の声がタケルの耳に届いた。
それが誰か、頭が考えるより早く、身体が驚く速さで反応する。
自分が転倒したんだと気づくより早く、猫のような俊敏さで一瞬にして起き上がると、瞬間的に怯んだ大輔を猛然と追い上げた。
その気迫に驚きながらも、あと僅かのゴールまで、大輔も歯を食いしばり全身の力を振り絞って走る。
ほぼ同時にテープを切ると、ピストルの音がゴールを告げた。
歓声が一際大きくグランドに響き渡る。
「同着?!」
本部席から声が上がった。
少し遅れて、残りの4人もゴールする。
それを横目で見ながら、身をかがめるようにして息を整えていた大輔がふとタケルの姿を目で探した。そして、それを見つけるや、ぎょっとしたような顔になる。
ゴールを通り越した20メートルくらい先で、タケルは兄の腕の中で息を整えていた。
「よく頑張ったな」
「もう・・・来てくんないのかと・・思った」
「来ないわけないだろ? これでもアンコール無視して一人抜け出してきたんだぞ」
「そうなんだ・・・ありがと、お兄ちゃん・・」
抱き合う、しかも人気者同士の兄弟に(兄弟と知らない生徒も多いだろうから、周囲は余計大騒ぎだ)女のコたちの黄色い声が飛びかい、タケルと大輔が同着だったことがアナウンスで告げられると、さらに大きな歓声となった。
「同着だってさ」
ヤマトの腕の中にいるタケルに大輔が、ふてくされたように声をかけた。
「絶対勝ったと思ったんだけどなぁ! チクショ〜、いいとこでコケっからだぞ、おまえが!」
「ゴメン。カッコ悪かったよね☆」
本当にそう思ってんのか?と大輔でなくても聞きたくなるような、とろけるような笑みに大輔がどっと疲れて溜息をつく。
「整列!」と声がかかり、タケルは名残惜しそうにヤマトの腕を離れた。
「一緒に帰れる?」
「ああ、母さんに夕飯さそわれたからな」
「本当! じゃあ待っててね!」
言って走ってくるタケルを待っていたかのような大輔が、あきれたように言う。
「おまえのブラコンは中学にも持ち越し決定だな!」
「大きなお世話です! けど、君との勝負も中学に持ち越しだね!」
「ああ、受けてたってやらあ」
「今度こそ、負けないからね」
「そりゃ、こっちのセリフだぜ!」
じゃれあうようにして走り去る大輔とタケルを、ヤマトが笑いながら見送る。

結局、紅白の勝敗は1,2位が同着だったため、3位以降の着順で決定し、僅かな差でタケルのいる白組優勝となった。
肝心なところで転んでしまったのは実際カッコ悪かったけど、クラスの女子はそれがまた可愛い〜vなどと盛り上がり、タケルの人気はなお一層不動のものとなって男子たちのブーイングを買った。

あの時。ヤマトの声が頭の中に響いた。
そして、無我夢中で立ち上がったその先に、ゴールの向こうで片手を差し伸べて待っているヤマトの姿が見えた。
まるで、そこだけ、しろいもやの中からくっきりと浮かび上がっているかのように。
だから、何も考えずに、そこだけに向かって走れたんだ。
お兄ちゃんの胸めざして。
さわぐ教室の中でタケルはひとりぼんやりと、シアワセそうに窓の外を眺めていた。






続き書くのを忘れてました。
そうそう、このお話では、タケルは6年生で大輔ともヒカリとも違うクラスということになってます。ちょっとダイタケっぽくもあり、でも結局はヤマタケv
兄弟ということを知らない人の方が多いだろうから、公衆の面前でひし!と抱きあう2人を見て、周りはどう思ったことでしょう?
ナツコさんはきっと、またやってるわ、あのコたち、と思ってたに違いない(笑)
ま、それすらも、2人にはどうでもいいことなんでしょうね、シアワセだからv




2001年10月24日(水) 彼と彼と僕と。

「な・・・なんだよ?」
「なんだよ、って・・?」
チャイムを押して、玄関のドアが開くなり、ぎょっとしたように固まってそう言った大輔に、タケルが眉をひそめて問い返す。
玄関でドアを開いたまま、止まっている2人に、大輔の後ろから賢が声をかけた。
「やあ、久しぶり」
「一乗寺くん、来てたんだ」
お互いにっこりするタケルと賢に、大輔が仕方ないというように、親指でくいと奥を指差す。
「ま、入れよ。今、誰もいないからさ。たいして何も出せねえけど」
「あ、別にお構いなく。昨日貸したままになってたノート、返してもらったらすぐ帰るから」
言いながら、大輔の部屋に通されて小さなテーブルを囲んで賢と向かい合って坐る。台所ではなにか2人をもてなさなければと思うのか、大輔が食器と格闘している。それを聞きながら、くすっと顔を見合わせて笑った。
「よく遊びにくるんだ?」
「というか、大輔んちのお母さんに勉強教えてやってくれって頼まれて」
「大輔くんに? それは、大役だね」
「そう思う? 実は本当に苦労してるんだ」
タケルが、はははっと笑うのと同時に、台所ではガッチャンガッチャンと凄まじい音がして、2人は思わず肩をすくめた。
「おいタケル!ぼさっと坐ってねえで手伝えよ!!」
「はいはい。ヒト使い粗いなあ」
「あ、僕も手伝うよ」
「あ、賢はいいって。坐っててくれよ」
「あ・・・でも」
戸惑う賢を置いて、タケルが慣れた手つきでさっさと割れた皿を片付け、掃除機をかけて、スナック菓子などを広めの皿にセッティングする。
「そうだ。賢、何飲む? タケルは何でもいいよな!」
「何ソレ。僕にも聞いてよ」
「おまえ、いつ聞いても“何でもいい”って言うじゃん」
「そうだけど・・」
少しむくれた顔をして、お菓子の皿を運んでくるタケルと賢が、大輔の部屋に戻って腰を降ろすなり、同時にハモった。
「「君たちって仲いいよね」」
「えっ?」
「それは一乗寺くんでしょ?」
「タケルくんの方がそうだと思うけど」
「だって、あの態度だよ? なんかヒトの顔見ては怒るしさ。君には、あの大輔くんがあんなに甲斐甲斐しく動いてるじゃない」
「そうかな。だけど、怒るっていうのも好きな証拠じゃないのかな。大輔の場合」
「あ、ソレって、もしかしてヤキモチ?」
「ヤ・・! ど、ど、ど、どうして僕が・・・」
「僕もヤキモチ妬きだから。わかるんだ。2人で勉強ばっかりしてないでどこかに遊びにでもいけばいいのに」
「そう言われても・・」
「僕はノート返してもらったらすぐ帰るし、それに、あ・・!」
ピピピ・・・とDターミナルが音をたて、タケルが言葉を切って慌てたようにそれを開く。そのメールを読むなり、ぱっと明るい顔になって頬を染めた。
「ヤマトさん?」
間髪をいれずに聞かれて、余計、正直に赤くなる。大好きなヒトからだと、その顔に書いてある。
「あ、じゃあ、僕帰るから。ごゆっくり」
そう言うと、大輔の机の上にあった自分のノートを取ると部屋を出て、大輔が運んできたジュースをトレーから手にとり一気に飲み干すと、にこりと笑った。
「ごちそうさま!」
「え、え、え、もう帰るのかよ!」
「ノート、返してもらったから! じゃあね」
言うなり、スニーカーを履くのももどかしげに、ドアを開いて外に出て行く。
・・・と、出て行きかけて、顔だけ戻すとニコリと笑って言った。
「どうも、お邪魔さま」
「なんだよ、てめー!」
赤くなって怒鳴る大輔に、ぺろっと舌を出して、タケルがあわてて退散する。
それを呆然と見送ると、賢が部屋から出てきて大輔の持つトレーの上からジュースを取り、タケルのマネをして一気に飲み干した。
「おいおい」
「さて、と。勉強はもういいから、どこかに遊びにでも行く?」
「え・・? お、おう」
らしくない賢の言葉に、何気に赤くなって大輔が頷く。賢がふふっと笑った。
そして、あれくらい素直じゃなきゃ、誰も好きになんかなれないのかもしれないとタケルの事を考えて、心の中でこっそり思った。



<ナオミさんに捧ぐv> すげー楽しかったvこの3人また書きたいv
私の感じでは、大輔にとって賢ちゃんはコイビト候補。タケルは異性の親友。
たとえるならね。すごく気のおけない異性なんだけどトモダチで、恋愛関係になることなんか金輪際有り得ない。と本人たちは思っていてもそこはオトコとオンナ。
でもずっとトモダチのままかどうかはわからない。って、そういう男女関係あるじゃないですか。なんか、私のなかでは大輔とタケルってそうゆうのに似てる・・
ま、しかし、オンナの方に恋人がいりゃ、それは絶対友情のままと思うけどね。


2001年10月22日(月) フツーの兄弟の定義

今日は、父は休日出勤だったため、いつもより早く帰宅している。
そこで、ひょっこりやってきたタケルと一緒に鍋を囲むことになった。
オトコ3人でおでんをつつく。
なんだか色気のない図だけれど、父は、日ごろ一緒に食事をすることがないタケルが一緒なので、酒の量もついつい増えて上機嫌だ。
「やー、でもタケルが一緒だとなんか食卓がぱっと明るいつーか、なあ。
ヤマトと2人だとどうも陰気臭くてなあ、こいつ、ほら、愛想がないから」
「悪かったな!」
「まあまあ、お兄ちゃん。あ、お父さん、僕がついであげるよ」
「おう、ありがとうな。いや、酒もうまいよなあ」
「オヤジ、呑みすぎだって」
「いいじゃねえか。たまのことだし。けどなー、おまえがウチに来た日はちゃんと父さん、わかるんだぞー」
「そうなの? どうして?」
「だってなあ、ヤマトの奴がやたら機嫌がいいし、飯もおかずの品数がいつもより3品くらい多いし、それになあ」
「・・・オヤジ!!」
上機嫌に真っ赤になる父と、酒を飲んでも無いのに真っ赤になるヤマトを見比べて、タケルが嬉しそうにくすくす笑う。
そして、ふと、ここにお母さんもいたらいいのにな、と心の中で呟きながら、鍋からタマゴを取り、少しぼんやりしながらそれをパクと口に入れる。
「タマゴ、中が熱いから気をつけろよ」
と、ヤマトが言うが早いか、たちまちタケルが口を押さえて立ち上がり、真っ赤になって涙目になる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「ば、馬鹿! だから気をつけろって!」
「熱ぅ・・・」
それでもなんとかハフハフ噛んで飲み込んで、タケルが心配して傍にきてくれた兄を見上げて、舌を出す。
「やけどしちゃった・・」
「見せてみな」
「痛い〜」
「ああ、赤くなってら。じっとしてろよ」
「うん」
タケルが答えるなり、その頬を両手で包み込むようにして、そっとその舌の赤くなったところを、自分の舌でそっと舐める。
「すぐ直るからな・・・」
「うん、ありがと。お兄ちゃん・・・」
見つめあって2人の世界に入っていた兄弟は、ふと、それを凝視する目に気がつき、ハッとした。
「あ・・・オヤジ」
「あ・・・固まってる」
「あ・・・はは。こんなの舐めときゃ治るからな! 舐めるのが一番だよな。ははは・・・」
「う、うん。獣っぽいけど」
「そうゆうの好きだろ」
「え? やだな。そういうことじゃないでしょ」
・・・・・・・・またしても墓穴を掘ったと2人して気がついたとき。
やおら、父が顔を真っ赤にして立ち上がった。
「ヤ〜〜〜マ〜〜〜〜ト〜〜〜」
「あ、あの、これは、オヤジ、別に俺たちは、だな」
苦しい弁解をしようとするヤマトをよそに、父はヤマトを通り過ぎると、いきなりタケルに抱きついた。
「ずるいぞ、ヤマト〜! タケル、父さんともチュウしよう! なっ、なっ」
「え?ええええ?」
「いいじゃないかあ、父さんもタケルにチュウしたいんだ〜」
「ちょちょっっと、ちょっと待ってよ、お父さん!やめてったら!」
「・・・・・・・完全によっぱらってんな、オヤジ・・・」
なおもタケルに抱きついてキスしようとする父に、怒りに拳をふるふるさせながらヤマトが呟く。
「てめえ、オヤジ、オレのタケルに・・・!」
「やめてって言ってんでしょうが!!」
思わず手近にあった本で張り飛ばそうとヤマトがするより一瞬早く、タケルが父を拳でゴンと殴り飛ばした。父はどたーっと倒れ、ぐおーっとイビキをかいて寝てしまった。その姿と弟を交互に見つめ、ヤマトがは〜っと溜息をつく。
「あ、ゴメン、父さん」
「今頃あやまっても遅いって」
呆れたようなヤマトの言葉に、タケルがちょっと怒ったような顔になる。
「だいたい、お兄ちゃんが舌なめるからでしょ。フツーしないよ兄弟で」
「けど、俺たち、フツーにしてるじゃん」
「僕たちにとってフツーでもフツーの兄弟にとってはフツー・・・?あれ」
ま、いいか、どうだって。とあっさり考えるのをやめて、それから困った顔で父を見下ろす。気持ちよく寝ているが、さてどうしたものか。
“起きるまで寝かしておいてやろう。それから、せっかくだし3人で飯食い直そうぜ”とヤマトが言い、タケルは結構父思いのそんな兄に、なんだか嬉しくてにっこりした。それから“母さんも呼ぶか。鍋は囲む人間の多いほうが美味いから”と言う。タケルが驚いて瞳を見開いた。さっき考えてたこと、わかってくれてたんだと
思うと、余計に嬉しい。
「お兄ちゃん・・・」
呼んで、その胸にそっと凭れる。
「電話してみろよ」
「うん!」
言ってタケルにケイタイを渡し、それを手に母と話すタケルが明るい顔をしているのを確かめると、床に寝る父に毛布をかけてやり、もう一度、タケルを振り返る。その声が弾んでいることを思うと、どうやら母がくるらしい。
よかったな。
しかし、母は父のようにはいくまい。きっと、ささいなコトでも気がついてしまうに違いない。母にバレた日には何が起こるかわからない。
とにかく、フツーにしなければ。いやでも、あれだって、フツーなんだ。俺たちにとっては。いや、だから、フツーの兄弟のフツーさでいいんだ。フツーの兄弟の。まてよ、フツーの兄弟ってどんなだよ? 
“じゃあ、何時頃来れる?”と楽しそうに話しているタケルを尻目に、既に普通の兄弟の定義がわからなくなっているヤマトは、一人パニックに陥っていた。
(ともかく、舌舐めるのはなしだな! 箸でア〜ンとかもダメだよな。それから、熱いからフーフーしてやるのは・・・コレはオッケーか?<チガウ!> えーとそれから・・・・・・)

混乱するヤマトをよそに、父は、元妻が来るのも知らず、ひたすら安眠を貪っていた・・・・。


2001年10月18日(木) いつもいつでも

「あれ?お兄ちゃん、キーボード買ったんだ?」
部屋に入るなり言うタケルに、ヤマトが笑って肩をすくめる。
「目ざといな」
「目につくもん。すごいね、キーボードも弾けるんだ」
「そんな得意でもねえけど。しかも、小遣い貯めて買った安物だし」
「ふうん。ね、ピアノの音も出る?」
「出るけど?」
「今度さ、音楽発表会があるんだよね。今、練習中なんだ」
「何、唄うんだ?」
「いつも何度でも」
「いつもいつでも?」
「ほら、千と千尋の・・・夏休み、一緒に観たでしょ、映画」
「ああ、あれか」
「面白かったね」
「そうだな」
「ちゃんと見てた?」
「見てたさ。すっげえ顔で驚いたり、笑ったりしてるおまえの顔」
「・・・もう」
そんなヤマトの冗談に、素直に真っ赤になるタケルが嬉しくて、
からかうのはやめられないなと、ヤマトが小さな声で呟く。
それは聞かなかったことにして、タケルはさっさと話題を戻す。
「でね。それ唄うから。・・・お兄ちゃん、弾ける?」
「ん? なんとかな」
答えて、キーボードの前に行くと、あっさりと両手で弾き始めた。
それに合わせて、タケルが唄い出す。
   

   呼んでいる―胸ーのどこか奥で
   いつも―心踊るー夢を見たいー
 
   かなしみは数えきれないけれど
   その向こうできっと あなたに会える


タケルの澄んだきれいな声に、ヤマトが驚いたように振り返る。
そして、タケルの声に合わせて一緒に唄い出す。


   海の彼方には もう探さない
   輝くものは いつもここに
   わたしのなかに 見つけられたから


唄い終わるなり、タケルが嬉しそうに拍手する。
「すっごい、お兄ちゃんとハモっちゃった」
「キー、高ぇ」
ちょっと苦しそうに笑うヤマトにタケルが頬を染めて、にっこりする。
片目をつぶって、悪戯っぽく言った。
「ティーンエイジウルブスの石田ヤマトさんと唄ってもらえて光栄デス」
「こら、そういうこと言うな」
人気者の兄を持つことと、それを独り占めしきれない自分の淋しさを茶化す
ように言うタケルに、ちょっと怒ったようにヤマトがタケルを背中から抱き
寄せる。
「いっそ、兄弟デュオで、デビューする?」
「駄目」
「どうして」
「おまえに悪い虫がついたら困るから」
速攻で答えられて、なんだか笑ってしまう。
独り占めしたい気持ちは自分だけのものではないのだろうか?
だったら、嬉しいんだけど。
「もっかい唄えよ。一回じゃ練習になんないだろ?」
「うん」
「合唱するんだよな」
「そうだけど」
「一人じゃ唄うなよ」
「どうして? そんなにヘタ?」
「ちがうよ」
「だったら、どうして?」
「・・・すっげえきれいな声だから。他のヤツに聞かせるのもったいない」
耳元で囁かれて、真っ赤になる。
「俺の前だけで唄えよ、な?」
口説き文句のように言われて、思わず笑ってしまう。
「じゃ、お兄ちゃんも、僕のためだけに唄ってよね」
タケルの言葉に、ヤマトは“ああ、わかってる”と言うと、
部屋の隅にあるベースを振り返りながら笑った。
「ってか、いつも俺は、おまえのためにしか唄ってないんだけどな」






2001年10月17日(水) 運動会

今日は、秋空の雲ひとつない晴天で、絶好の運動会日和だ。
日曜日ということもあって、観客席は家族の姿でにぎわっている。
縦割りで、紅白チームに分かれての対抗戦は、今のところほぼ互角と言う感じだ。
僅差で、大輔たちがいる赤組がやや優勢になっているが、最後の最後までわからない。目が離せない状況だ。
午後のプログラムも残す所2つほど、見せ場である6年生の紅白リレーの時間も近づいて、そんな状況なだけについつい子供たちの緊張も高まってしまう。
入場門のところで出番を待つ6年生たちは、整列するように言われて、走者順に並び始めた。
「げ〜っ! 青バトンのアンカーはやっぱりてめえかっ、タケル!」
「そっちこそ、赤組赤バトンのアンカーなんだ?やっぱりね」
「なんだよ、その余裕はよ〜!」
「タイムは大輔くんの方が早いじゃない。余裕ないよ」
さらりと言って、それから待ち時間のあいだに足首を回したりちょっとウォーミングアップに身体を動かすタケルを”カッコつけちゃってよ”と大輔が横目で睨む。ふと、その体操ズボンの下からスラリと伸びた細くて長い脚に目が止まると慌てたように視線をそらせた。
「? どうしたの?」
「どうもしねえよ!」
「何怒ってるのさ、もう。なんかクラス変わってから、僕の顔見るたびに怒ってない? 大輔くん」
「・・・そうか?ってか、そんなことねえよ!」
「ほら、怒ってんじゃん」
言いながら、小さく肩で息をついて、それからふっと観客席の方に視線を巡らせる。ふと、ビデオを構えて手をふる母と目が合って、笑ってカメラに向かってVサインを出す。母もそれに答えてVサインを返してくる。その周辺をチラリと見て、タケルは小さく溜息をついた。
「なんだ?」
「ん?ううん。なんでもない」
「なんだよ!」
「また怒る。ああ、大輔くんちは賑やかだね。応援」
「姉貴か? ったく、アイツ来るなって言ってんのに」
「一乗寺くんも来てるね。いいとこ見せないと」
「ななななんで、一乗寺が来てっといいとこ見せねえとってことになんだよ」
「だって。サッカーのライバルでしょ? ヘタな走り見せられないじゃない」
「・・・・・あ、そういう意味か」
「他にどういう意味があるの?」
「いや、どういう意味って、おまえなあ・・」
なぜか真っ赤になってタケルに掴みかかる大輔に、ヒカリがにっこりとその肩を叩いて笑う。
「あ、赤バトンアンカー、大輔くんなんだ。ちゃんと受け取ってねv」
「えええ、ってことはヒカリちゃんが女子のアンカー? ってことは、オレ、ヒカリちゃんからバトンをもらうんだ〜 えへへ、ってことは、その瞬間に手がふれあったりしてええぇ・・vvv」
一人でうるさい大輔は放っておいて、なんとなく今日は元気のないタケルに(それでも相当点数に貢献はしている大活躍だが)ヒカリが、小さく耳打ちした。
「よかったね」
「え? 何?」
「さっき、6年の女子が騒いでたよ、ヤマトさんが来てるって」
「え・・・」
「ライブ終わるの予定より早かったみたい」
タケルの顔がぱっと明るくなって、頬が少し紅潮する。
「ありがと、ヒカリちゃん」
「お互い、がんばろうね」
「うん」
その横で、一人騒いでうるさいと先生に注意された大輔が、やっと2人に気づいて焦り出す。
「なんで見つめあって、しかもタケルが赤くなってんだよ!」
喚く大輔に、タケルはにっこり笑むと、大輔を真っ直ぐに見つめて言った。
「絶対に負けないからね」
「お、おう! こっちだって、おまえにだけは負けないからな!」
「おまえにだけじゃなくて、他のヒトにも負けないでよね、大輔くん」
ヒカリの言葉に、大輔ははっとなると、“おう、絶対一番になってやらあ”と宣言して、ヒカリに拍手を貰って大いに照れまくった。

『最後は、6年生のリレーです。応援をお願いします』
その放送を合図に、タケルたちは整列したまま入場門を出、トラックへと向かった。(つづく?・・かな)


2001年10月16日(火) メール

今日は秋晴れで天気がいい。
そのうえ、窓際の席だから、ついつい授業よりも頭がよそに行ってしまう。
(でも・・・まいったなあ・・・体育あるなんて忘れてた・・・)
時間割の変更があったことをうっかりしていた自分に、こそっと溜息をつく。
しかも跳び箱だなんて。
(足のつけ根が、まだ痛いよ・・・
 もう、お兄ちゃん、無茶苦茶広げるから・・・)
考えてハッとなる。
今、すごいこと言わなかった? いや、言ってないか。
考えただけ。でも考えるだけでも恥ずかしいよね。
クラスの中に超能力があるとかいう人間はいないと思ってるけど、
今、頭の中を覗かれたりしたら、大変だよ。
・・・と、机の中で、Dターミナルが小さく音をたて、先生に気づかれないよう、あわてて開いてメールを確認する。
噂の、兄だ。
『タケル。
 きのうは無理させて悪かったな』
そうだよ、まったく悪すぎ・・・
胸中でツッコミを入れつつ、何行か改行された後に出てきた言葉にぎょっとする。
『けど、気持ちよかったろ・・・?』
「き・・・!」
「じゃあ、高石。次、読んで」
(授業中だとわかってて、も〜っ! お兄ちゃん!)
「高石?」
真っ赤になって俯いたまま聞いちゃいないタケルに、後ろの席の子がちょんと肩をつつく。
「高石!!」
席のすぐ後ろまで来て轟いた先生の怒号に、タケルが驚いて反射的に立ち上がった。思わず、大声で返事を返してしまう。

「はい!!気持ちよかったです!!」

教室はどっと笑いにつつまれて、タケルは茹であがったタコのように真っ赤になってしまった。

・・・こんなこと、教室で発表してどうするんだよ。
   もう、お兄ちゃんのバカバカ!


2001年10月15日(月) このページの説明。

ホントに作ってしまいました。
このページは、小説ページの載せ損ねたというか。
小説モドキのさらにモドキ(?)というか。
とにかく、思いついたままの前後なしの1シーンだけとか、
ヤマタケベースだけど、なぜかダイタケ(でも友情よ!)とか、
なんかよくわかんない文章の切り抜きだらけのページなのです。
スクラップノベルという言葉はないよね、きっと。


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