フルートさんの日記
フルート奏者 齊藤佐智江



 舩後靖彦さんと寮美千子さん

2月になって、よくも悪くも心が揺らされるようなことが多い。個人的に忘れられないことをいくつか・・。

舩後靖彦さんは、千葉在住のALS(筋萎縮側索硬化症)の患者さんなのだが、尊敬する作家の寮美千子さんからそのお名前は何度か伺っていた。寮さんは小説「楽園の鳥」で昨年の第33回泉鏡花賞を受賞された詩人、作家で、初めて寮さんの作品に出会ったとき、これも心から感動した。
(・・・その作品は「父は空、母は大地」。またいずれ、ゆっくり。ちなみに寮さんのサイトは、http://ryomichico.net/

おもえば、寮さんも高校時代までを千葉で過ごされたと知り、より親しみを感じたのだった。作品のすばらしさはもとより、知的でシャープな切り口を持つ方なのにちっとも偉ぶらない、逆にあたりはまーるくて親しみやすい素敵な方で、その人間的魅力にぐいぐい吸引されるばかりだ。その魅力で人を引き寄せるだけでなく、周りの人にパワーを与えている。その寮さんから、舩後さんの短歌の指導をしている、という話を聞いた。

舩後さんは5年前(42才)以来、(今のところ)治療薬が見つからない難病のひとつである、ALSとともに生きていらっしゃる。ALSといえば、ずいぶん前に「モーリー先生と火曜日」という映画にもなった本を読んだ。大学時代の恩師モーリー先生に、毎週人生に関する話をしてもらうという内容だったが、それによって主人公(作者)の人生観や人間関係が良い方向に変わっていくのが興味深かった。
そのALSとともに人生を送る方が身近にいるのだ。そしてそのかたの講演会が、市立千葉高で行われ、寮さんが舩後さんの短歌を代読すると聞き、どうしても行きたくなった。

ALSの物理学者のホーキング博士の名前は知っていたが、どのようにコミュニケーションをとるのかを、この日初めて目の当たりにした。透明の下敷きのような文字盤をボランティアの方が指で順に指して行き、該当する文字になると舩後さんは額の皮膚を使ってYesを告げる・・。また、講演会はあらかじめ用意された原稿がスクリーンに映し出され、コンピューターの人工音声によって読み上げられていく。舩後さんの文章は静かなたたずまいとはうらはらに、ユーモアたっぷりで楽しく、破天荒とも言えそうなエネルギッシュな行動力には、聞いていた高校生たちも笑いをこらえれずにおもわず噴出す場面も多かった。

舩後さんは今もロックの作詞活動もしていらっしゃるだけあって、ミュージシャンだ。そして寮さんも文章が音楽のフレーズのようで、BGMが聞えてきそうな文を書く方。寮さん以外の誰が舩後さんの短歌をこれだけ豊かに表現できるだろう、というくらいのリズム感で、微笑を生みながら言葉の世界が広がる。
(舩後さんの短歌は次のサイトで楽しむことが出来ます。
http://funago.seesaa.net/ )

舩後さんはサポートやボランティアについても語られた。同じ目線に立って、その人が望む方向を見ることが大切で、上から自分のいるところに引き上げようとしなくていい、と。そしてご自身は今、メールによって、同じ病気を持つ方たちに笑いを届けようと、短歌を作っていらっしゃる。そして、人の役に立てるということが、今の生き甲斐である、と。

”短歌読み同胞吹けば幸せぞ こんな俺でも福をはこべて  舩後靖彦”

あの場に偶然行くことができて、本当に多くのことを学ばせていただいた。
発病されたときのこと・・今は生徒の笑いと大拍手に笑みを浮かべる幸せそうな舩後さんにも当然絶望の時期があったのだ・・。最後に奥様の家族としてのメッセージも紹介されたが、舩後さんから奥様への深い感謝と尊敬がこめられていてとても印象的だった。

本当に楽しい講演会だった。以前、テレビで、プロジェリアというやはり難病のアシュリーちゃんという女の子のドキュメンタリーを見た。体が早く老いてしまうという病気だ。平均寿命の14歳を迎え、同じ病気を持つ自分より年下の人たちにメッセージを録画したのだそうだ。そのひとコマ。「辛かったり悲しかったりした時には、人の役にたつことや人の喜ぶことを考えるといいわよ!」と明るく語りかけていた。

寮さんの本で「マザー・テレサへの旅」という著書がある。ボランティアとは何かについてとてもわかりやすく書かれた本だ。
この日もたくさんのボランティアの方がいらしていた。人はこうして支えあっているのだと、あらためて「人」の文字を思った。人は一人では生きられないのだ。支えてもらうことのほうが多い私だが、自分のできることで、人の役にたてることがあるはずだ、それも楽しみながら・・。支えてもらうこと、迷惑をかけることを申し訳ないと思う必要はないのだ。誰が舩後さんをサポートすることを迷惑だと思うだろう?みな喜んでサポートしているのだ。舩後さん、すばらしい講演会をありがとうございました。人はそこにいるだけですばらしいことなのだ・・。

寮さんを通して、少しずつ社会を違った角度で見られるようになったように思う。寮さんのますますの活躍を祈りつつ、その出会いに心から感謝したいと思う。そして舩後さんから発信された笑いの波がどんどん波及して広がりますように!お二人の創作がますます冴えますように!

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
いつも長くてすみません・・。
ではまた。

A bientot !









2006年02月23日(木)
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