加藤のメモ的日記
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2012年12月30日(日) 猪瀬直樹

サラ金で一世を風靡した武富士の旧本社ビル(西新宿8丁目)は大理石の豪華な作りで、バブル時代の栄華を偲ばせる建物だ。武富士の破たん後、不動産会社の手に渡り、今はその広大な1階フロアが都知事候補・猪瀬直樹氏の選挙事務所に使われている。

そこに4日午後、小泉純一郎元首相がやってくるという情報を耳にした。猪瀬氏が都知事選の最有力候補にまでのし上がったのは、もとはといえば2002年、小泉元首相から道路公団民営化推進委員に指名されたからだ。猪瀬氏は公団民営化の立役者として活躍した。その実績を買われて2007年、副知事となり、石原慎太郎知事の国政復帰に伴って、彼の後継者に指名された。かって並ぶものなき権勢を誇った元首相が、みずから政界に引き入れた人気作家をさらにグレードアップさせようと叱咤激励する。その場面を一目見ようと支持者が押し寄せ、大いに盛り上がるだろうと思っていったら、当てが外れた。

集まった支持者は30人足らず。その後ろにテレビ局のカメラが5〜6台並んだが、まるで局の上司に資料映像として使えるだろうから撮ってこいと言われたような、気のない取材ふりである。演壇に立った小泉元首相も冴えなかった。気のせいか顔がくすんで小さくなり、首相時代に発していた強烈なオーラは見る影もない。政治家が引退して毒気が抜けると、こうも変わるものか。

「道路公団の民営化ができたのは猪瀬さんのおかげ。猪瀬さんだから行政の非効率を改革し、東京を輝く世界の大都市にしてくれるんじゃないかと期待しています」元首相は張のない声で型どおりに挨拶を終えると、さっさと車に乗り込んで引き揚げていった。猪瀬氏は元首相の激励を受け「元気が出た。元気が出た」と言っていたが、ほんとだろうか?、むしろ当選確実といわれながら、盛り上がらない選挙戦に戸惑っているように私には見えた。

だいたいこの選挙事務所は広すぎて人の温もりや熱気が感じられない。1票でも多くかき集めようと血眼で動き回るスタッフの姿も見えない。私は何十回も選挙を取材してきたが、こんなに閑散とした選挙事務所は初めてだ。しかし、それでも自公両党と維新の会がバックについているから猪瀬氏の優位は揺るがない。都知事になったら、彼は石原以上に強くて決断力のある指導者役を演じようとするだろう。うまくすれば将来、首相になるチャンスが巡ってこないとも限らないから。

佐高信さんの新刊『自分を売る男・猪瀬直樹』(七つ森書館)の冒頭にこんな場面が出てくる。《小泉に重用されていた頃、猪瀬は講演で演壇に携帯を置き、「総理から連絡があるかもしれませんから」と断って話をはじめ、途中で電話が鳴ると、それに出て「今、総理から相談がありました」と語ったという。笑い話にしかならないことを本気でやる人間なのである》佐高さんの言う通りだ。猪瀬氏は権力のためなら「笑い話」にしかならないことを本気でやる人間だ。だからこそ怖いのである。例えば、佐高さんも指摘するように、石原氏が今年4月、米国講演で尖閣諸島買い上げ計画を公表した時、寄付で資金を集めようと言い出したのは猪瀬氏だった。

それだけではない。尖閣諸島を所管する沖縄県石垣市の中山市長と石原知事の間をつないだのも猪瀬氏である。都が寄付口座を開いたら、予想を超える約15億円が集まった。さらに中山市長が漁民の緊急避難用の舟だまりや電波塔、灯台をつくってほしいと石原都知事に要請したことが、都による買い上げを正当化した。猪瀬氏の発想と人脈があったからこそ尖閣買い上げ計画が急進展したのである。問題はこれからだ。安倍内閣が誕生すれば尖閣諸島問題は新たな局面を迎える。野田政権が国有化で封印した船だまりなどのインフラ整備問題が再浮上し、日中関係は緊迫する。その火種となるのが、約15億円の寄付金だ。

猪瀬氏が都知事になれば寄付金をインフラ整備に使えと政府に求める。政府が応じると、中国はそれを阻止するために軍事行動を発動させ、武力衝突が起きるだろう。この最悪のシナリオが現実になる恐れは十二分にある。なぜなら猪瀬氏は『解決する力』で、東京都が自民党総裁選のとき各候補者に尖閣問題に関する考えと、船だまりなどをつくるのかと問う公開質問状を出したことに触れ、次のように語っているからだ。

「安倍さんも石破さんも東京都の条件に理解を示してくれた。/政権が交代するまでは、東京都が何らかの行動を起こすのは無理だろう。政権交代を待って、政権が代わってから、その時こそ、寄付金を使って石垣の漁民が安全に漁をできるように、ヤギを駆除して尖閣諸島の自然が守られるように、当初の目的を達成すればよい」石原氏の影に隠れて目立たなかったが、実は猪瀬氏は石原氏顔負けの対中国強硬論者である。

今年8月15日、香港の活動家らが尖閣諸島に上陸して沖縄県警に逮捕された数日後には彼はツイッターでこんな発言をしている。「泳いで来るのだから、こちら側から蹴りを入れれば一発だよ。水に顔を突っ込み、参ったかとやりグロッキーにして上陸させず来た船に帰してやればよかっただけのことだよ。こんなもん、ケンカのイロハだ」「尖閣諸島、香港の活動家をなぜ水際で阻止しなかったのか。旗を立てさせたのか。上陸する間際、空手や柔道で気絶させ自分たちの船に担いで送り返すぐらいの『親切』が守る側の気迫だろう。民主党政府の安易さは史上最低だ」

この発言に対し、経営コンサルタントの宋分州さんはツイッターでこう嘆いた。「民間人に対して『蹴りを入れれば一発だよ。水に顔を突っ込み』を警察に要求するとはとても民主主義や人道主義を標榜する日本の首都の副知事と、日本を代表する作家の言葉に思えない。猪瀬さん、私は悲しいです」私も昔ちょっと憧れた作家が排外主義の虜になるさまを見るのは悲しい。猪瀬さん、東シナ海を火の海にしないでほしい。それが作家の義務ではないか。


『週刊現代』12.22


2012年12月29日(土) 1986年

三井不動産がエクソンビルを買収・ジャパンマネーが大爆発

1986年は”爆発”の年だ。チェルノヴィリ原発事故が起こった。三原山が大爆発した。スペースシャトル、チャレンジャー号は打ち上げ直後に大破した。ハレー彗星が接近して、岡田有紀子が若い命を散らし、石原真理子がプッツンと呼ばれ、ビートたけしが「フライデー」編集部に突っこんだ。衆参同日選挙で中曽根自民党は爆発的勝利を得る。しかし、ある出来事が後により大きな爆発の予兆になろうとは…。

その年の暮れ、三井不動産がニューヨークのエクソンビルを買収した。正直、あまりピンとこなかった。6憶1000万ドルという買収額も雲をつかむような価格だ。エクソンビルはアメリカの大企業スタンダード・オイルの本社で、マンハッタン6番街にそびえ立っている。ほど近いセントラルパークを望むプラザ・ホテルの一室で、1985年9月、爆発の導火線は引かれていた。先進5カ国蔵相会議、いわゆるプラザ合意だ。ドル高是正の協調介入、結果、日本は爆発的な円高と内需拡大の好景気へと突っ走る。あり余った金は海外の投資に向けられた。

1986年末の三井不動産によるエクソンビル買収はその発端にすぎない。1987年、ソニーがCBSレコードを、青木建設がウェスタンホテルを、1988年セゾンがインター・コンチネンタルホテルを買収する。そうして1989年、ソニーがコロンビアピクチャーズを、三菱地所がなんとロックフェラーセンターを2200億円で買い上げたのだ。偉人ジョン・ロックフェラーが大恐慌後の1930年代に打ち建てたその超高層ビルは、マンハッタン5番街にそびえ建つアメリカの富の象徴とも呼べるモニュメントだ。それを極東の島国の成り金どもにジャパンマネーで買い叩かれた。米国民は怒り爆発、ジャパン。バッシングに火がついた。

今となっては件の爆発の正体はわかっている。…バブルだ。が、当時の日本国民はその豊かさが泡とはじけて、その後まさか20余年も不景気が続くなんて知る故もない。1986年、日本の不動産屋が買い上げたニューヨークのビル、爆発の導火線に火をつけたのが、エクソンというオイル企業だったのはあまりにもでき過ぎた話だ。



『週刊現代』12.22


2012年12月28日(金) 小泉純一郎

まあ、恥知らずの人間をいろいろ見てきたが、本人が世襲のボンクラなのに、さんざん郵便局長の世襲を非難していた小泉純一郎ほど見事なクサレは見たことがない。「自民党をブッ壊す」と言っておきながら、その実この日本国民の多くの生活を破壊し、ボンクラ息子を自分の後釜に据えるあさましさ。純一郎そっくりの吊りあがった糸くずのような目を持つ息子の進次郎たるや何の社会的経験もなく、四流大学を出してもらい、履歴書粉飾のためにコネでアメリカの大学やシンクタンクにちょっとだけ在席させてもらっただけ。

それがいきなり、親父の跡を継いで代議士になるというんだから大したもんだ。大仰なものの言い方をし、今では青年局長とかなんとか言われている。昔から、こういう親馬鹿とアホボンの話はごろごろ転がっている。「売り家と唐様で書く三代目」という川柳がある。初代が苦労して築き上げた財産も三代目となると食いつぶす。その代り、趣味に明け暮れて「唐様」という中国の書法で字を書くだけの洒落たことはできるようになる。財産を食いつぶして、どうしようもなくなり、初代が建てた屋敷にその洒落た「唐様」で「売り家」と書いた札を下げる、という意味である。

小泉純一郎は、政治屋として三代目だが、運よく選挙区を手放さず、森派の後押しと当時人気だった田中真紀子の応援で首相まで上り詰めた。これが、日本にとって戦後最大の厄介となった。政治屋が陣笠代議士から大臣に成り上がるまでのことを表現して昔の自民党の政治家がこういった。「ボウフラも、人の血を吸うような蚊になるまでは、泥水飲み飲み浮き沈み」自分たちのことをありのままに表現してうまいことを言うもんだと感心したが、みごと、人の血を吸う蚊、寄生虫が小泉家だ。

小泉元首相の私怨論

これは割とよく知られている話で、小泉家というのは神奈川で代々、郵政族だった。特に祖父の小泉又次郎は浜田雄幸内閣の通信大臣を務めたこともあり、小泉元首相が、目の敵にしている特定郵便局長のネットワークをつくった人で、北朝鮮への帰国運動を推進した一人である。防衛長官をやった父・小泉純也も選挙では特定郵便局にも協力してもらった。

ところが、父急死で当時、ロンドンに留学していた若き純一郎は、急きょ選挙に出ることになった。1969年のことだ。ところが、選挙区の神奈川2区(旧中選挙区)で後に新自由クラブ代表を務めた田川誠一に、特定郵便局は支持にまわってしまう。それで純一郎は、次点で落選してしまう。これで特定郵便局を恨み、アンチ郵政となり、郵政選挙を行ない郵便局の民営化を行なった。崇高な理念などはなく、単なる私情による行動であった。



『週刊朝日』


2012年12月27日(木) 政治家の利権

当選を重ねると次第に豪邸に住み、高級車を乗り回し…という事実を見ると政治資金を私的に使っているのではと思うが、政治資金として集めた金を私的に使うということは昔ほどにはないようだ。それは当選を重ねるとまず、地元の企業や団体に顔が利くようになるにつれ全国的規模の団体や企業から『顧問』就任の依頼が殺到し、仕事などしなくても給与・報酬というかたちで議員個人の口座に支払われるのである。この金は政治資金ではないので、ちゃんと税金を払いさえすれば何に使おうと自由である。この金がバカにならない。

かって某野党議員から、当選したとたんに顧問就任依頼が10数件も来て、月数万円から数10万円の顧問料を提示されたと聞いた。彼は「野党の俺のところに、聞いたこともないような会社からこれだけ来るんだから、与党議員はすごいだろうな」と言っていた。

利権を追及すると、その業界に深く食い込むもとができ、同時に金が懐に飛び込んでくる。金を手にすることで力の源泉になる。陳情を受け、さまざまな業界の資金面や選挙応援を得ることになる。派閥は金を配ることとポストを提供することが存在価値である。配られる金を使い議員は選挙活動をし当選回数を重ねる。そして、ポストに就くことでさらに金を生み、企業からの献金を増大させる。




『週刊朝日』


2012年12月26日(水) 安倍晋三さんへの手紙

政治家の「家業」はいい商売ですか

拝啓 安倍晋三様

あなたの祖父の岸信介を尊敬しているらしいが、この元首相が戦争犯罪人であり、石橋湛山内閣で外相に就任した時には、明治天皇までが岸の欄を指さして、、「これは大丈夫か?」と心配したこのなどをどう思うかと尋ねました。そして鳩山一郎が岸について、湛山の側近だった宇都宮徳馬に、「君、岸君は悪いねえ、総理大臣が金儲けしちゃいかんよ」と語った話なども紹介しましたが、読んでもらえましたか。

あなたは、ダーティなタカ派である側面を含めて、祖父の岸を尊敬するというのでしょうか。あるいは、ダーティなタカ派の岸をこそ目指すというのですか。しかし、あなたの発言を聞いていると、タカ派とハト派の区別もついていないみたいですね。祖父も父もタカ派だったから、自分もタカ派というぐらいの幼稚なタカ、もしくは無知あるいは無恥なタカ派なのでしょう。いわゆる刷り込みというやつで、祖父や父がハト派だったらハトになっていたかもしれません。

私はあなたの父親の安倍晋太郎をリクルート疑惑の主役的政治家として記憶しています。ウシオ電気の牛尾治朗(あなたの兄弟の義父ですね)がつないだのでしょうが、リクルートの創業者、江副浩正が最も頼りにしていたのが安倍晋太郎でした。リクルート疑惑は安倍疑惑でもあったのです。それかあらぬか、疑惑が発覚した時、自民党幹事長だった安倍晋太郎は、総務会で鯨岡兵衛が、「恥ずかしくて表を歩けない」と批判するや、「私は堂々と歩いている。恥ずかしいことでもなく、法律違反でもない」と開き直りました。

この破廉恥な反論に、数少ない良識あるハト派だった鯨岡は、こう嘆いたのです。「政治家は常に自分をつねらなくてはいけないよ。先憂後楽というじゃないか。今は先楽後楽だ。先にも楽しみ、後からも楽しんでいる。国民は政治家を羨ましく思っているよ。政治家は自分でも、こんないい商売はないと思っているんだろう。税金の所得申告以上の生活ができる。だからせがれにやらせるんだろう。政治家は本当はこんな苦しい仕事はせがれにやらせたくない、というのが親心であるべきだ。

ところが、死んだらせがれにやらせたがる。この頃は死ななくてもやらせている奴がいるよ。親子で国会議員をやっているんだからね」最後は中曽根康弘、弘文の親子議員批判でしょうが、エッセイストの青木雨彦がこんなことを書いていました。自分の長兄が、「オレがなめてきた苦労を、あいつに味わわせるのは忍びない」といって、長男に家業の金物屋を継がせるのを諦めたという話に触れて、しかし、世の中には子供に継がせることに熱心な職業もある、と次のように怒っていたのです。

「その職業は、政治家と医師と芸能人。はっきりひがんで申し上げるが、これらの家業には、よっぽどいいことがあるに違いない。私が二世の政治家や医師や芸能人とその親たちが好きになれない所以である」自民党の数少ないハト派だった石橋湛山や松村謙三、そして宇都宮徳馬や鯨岡兵衛は政治家を家業として息子に継がせていないことを、あなたはどう思いますか?



『佐高信の政経外科』


2012年12月25日(火) 財務省の裏メッセージ

安倍晋三総裁の誕生で自民党は急速に支持率を回復した。一方で消費税の地方税化、地方交付税制度の廃止を掲げる日本維新会。そして石原慎太郎も政局の今後を左右しそうで、永田町は今にも大きな政界再編が起こりそうな混沌期に入った。そうした中で、財務省が興味深い動きに出ていることはほとんど気付かれていない。来年度予算をどの政権が仕切るかは政治的な大問題だが、したたかな財務省は今のうちからそこに「暗号」を忍ばせたのだ。

もちろんあからさまなことはしない。舞台は財務省の支配下にある財政制度等審議会という「御用審議会」である。財政制度等審議会財政制度分科会が11月1日に開かれた。これは財務省が学者などへ来年度予算などの状況を「レク」して応援団になってもらうための会議である。資料は財務省が用意し、予算査定の現場にいる役人が説明するので、財務省の考えがよくわかる。1日の会合で注目されたのが、公立小中学校で1学級の生徒数を35人以下にす櫓という少人数学級を実現するためには教職員を5年間で2万7800人増やす必要があるとして、来年度予算の概算要求でそれに必要な予算を要求しているが、これに財務省が噛みついた。

子供が減少するので教職員は必要はない。学級担任ではない「担任外」の教員が16.5万人と教員数65万人の約3割もいる。少人数学級の実現は必ずしも教育の向上にはつながらない、などの理由から、公立の小中学校の教職員を5年間で1万人削減できるという対案を出したのだ。教職員の定数は現在70.3万人。文部科学省の主張する施策(定数改善)を実現すれば5年後に71.2万人となり、その分追加事業費が1800億円かかる。一方、財務省の対案では教員1人当たり生徒数を維持しながらも、定数改善を行なわない状態がら支出を5年間で650億円減らせるので、財政再建にも効果があるという論理だ。

そもそも文化省の予算は年間5兆4057億円で、そのうち文教関係費が4兆1115億円を占める。定数改善を行なわなければ教職員定位数は減っていき、その自然減で事業費は5年間で1200億円程度減少する。つまり、仮に今回の文科省の要求を半分認めたとしても、事業費は300億円減少する計算になる(5年間)教職員定数は民主党の支持母体である日教組(日本教職員組合)の関心事項である。ほどほどの予算をつけて相手の顔を立て、政治的な”火中の栗”を拾わずに穏便に済ますことも可能だが、財務省はより厳しい案を出してきたというわけだ。

これを単なる「予算カット」の話だと考えると現実を見誤る。野田民主党政権は支持率が下がり、どんどん力を失っている。財務省は野田政権を誕生させ支えてきたが、ついに見限ったという政治的なメッセージと捉えたほうがいい。教育は国民的な話題になりやすい。とくに「少人数学級」は国民に親しみのあるテーマだ。それをあえて持ち出すのは、教育を次期衆院選の争点にしたいという安倍自民党へのエールともいえる。

同じく教育改革を標榜する橋下日本維新の会向けの話は全くないところが、財務省の現実的な政治家選びの表れでもあるのだ。いずれにしても、国民ではなく財務省が政治家を選ぶのは、好ましいことではない。



『週刊現代』11.24


2012年12月24日(月) 官僚の天下り25000人

国家の病巣である天下り、その禁止法制化は壮絶な官僚の抵抗により事実上の廃案となった。官僚が起草した「退職管理基本方針」原案は旧来通りどころか、さらに天下りが自由化されるものである。結局140年間連綿と存続する官僚支配は想像を凌駕するほど絶対的に強固であり、政権交代程度では微動だにしなかったということである。天下り先となる公益法人、特殊法人、独立行政法人は制法人は4504。同法人に再就職している国家公務員は25.245人。国庫からの補助金は12兆6047億円。つまり1法人当たり約27億円、天下り役人1人当たり約5億円が税金から拠出されているわけである。これには民間部門への天下りが含まれていないので、実際には3万人規模と推定される。

国家公安委員会(警察庁)270人
文部科学省 2980人
農林水産省 2009人
経済産業省 2124人
国土交通省 6929人
厚生労働省 3643人
金融庁   160人
総務省   1317人
法務省   1224人
外務省   348人
財務省   792人
環境省   256人
防衛省   2834人
宮内庁   359人
(合計 25.245人)

このように検察、裁判所や警察OB連中もこぞって天下りしているわけなので、国家の最高権力を敵に回して勝てるはずががない。冤罪だろうが、自殺に見せかけた不審死だろうが政治暗殺を私怨の殺人として処理しようが、結託すれば簡単なことだから、天下り禁止などと言い出す輩が何をされるかは想像するに難くない。マニュフェストの枢軸に唾棄するような「亡国の天下り容認法案」を民主党が受け入れる背景には、「その筋」からすさまじい恫喝、脅迫、圧力があったのだろう。実際、石井こうき議員を刺殺した伊藤白水は獄中で「実は、依頼されてやった」と声明を出しているが、法曹界は無視している。

ちなみに公益・特殊・独立行政法人のほか、地方自治体にも傘下の外郭団体があり、合算すると総数は約2万6000社となる。センター、機構、公社、連盟、会館、協会とか名のつく、いったい何をやっているのかわからない団体である。国と同じ構図で地方役人が天下り、利権の温床と化しているわけである。こうした団体は公益を立て前にしているので事実上何らの生産活動も営利活動もしていない。

また統一されたバランスシートがなく資産状況すらわからない。国の外郭団体同様、多くは自主財源を持たない法人なので、運営経費は郵貯、年金、簡保の積立金と公債(国債、地方債)の流用、つまり「財政投融資に頼っているわけである。今後、天文学的債務により消費税はじめ各種租税、社会保険料の引き上げは必定となる。「権力が腐敗するのではなく、権力そのものが腐敗である」との至言通り、この国の政治は強力な拝金主義が貫徹し、そこに道徳律が入り込む余地は全くない。


『週刊新潮』


2012年12月22日(土) 原発は自民党政権の失敗

いよいよ総選挙が始まった。立候補者が1504人は史上最高で、政党が12もあるというのもおそらく史上最多ではないか。要するに空前の乱戦選挙になると思う。というのも、これは正直な国民の気持ちを反映しているからなのだ。つまり「民主党政権は失敗した。といってまたあの自民党政治に戻るのも考えものだ」である。要するに政権の枠組みがまったく流動的なので、選ぶ方、選ばれる方、双方に迷いがこの乱戦を生んでいると思う。

もしこれが中選挙区制だったら、思いもかけぬ枠組みが生まれる可能性が高った。ただし今回はまだ中選挙区制なので、選挙区ではやはり大きな政党の候補者が強いだろう。確かに無党派層がマジョリティーを占めてはいるが、これが現れるのは、主として比例区だと考える。選挙区では依然として、後援会とか、宗教とか、組合とか企業とか、いわゆる組織票の力がモノを言う。おそらくフタを開けてみれば、選挙区の7割は自民、民主の候補者が勝つのだろうと思う。

問題は比例区で、この3年の間にともに「ノー」を突きつけた自民・民主の名を、はたして大多数の国民は書くのか?僕は大いに疑問で、ここに中小政党が浮上する余地が、大いに残されていると考えている。政党で選ぶとなれば、やはり政策の違いになり、最大の争点は何かが、結果を左右するはずだ。日本人はいつも「景気」を重視してきた。しかし今回だけは違う気がする。各党とも「デフレ克服」とか言っているが、そんなことできやしない。

今回のデフレは、まったく世界的な要因によるもので、極東の一国の政策で左右できるものではない。その点「インフレ・ターゲット」で克服なんて言っている安倍・自民は的外れも甚だしい。TPP論議もそれに繋がるもので、現在の争点にはなりにくい。ズバリ「原発」だろう。「脱原発なんてセンチメント(感傷・心情)」などという石原慎太郎氏率いる「日本維新の会」とは書きたくない。相棒の橋本徹は、もともと脱原発だったのに、石原と組みたいばかりに変節してしまった。その上選挙で不利と思ったか、再び変身して「脱原発」なんて言い出した。全く信用できない政党であり。ボクはとっくに見放している。

自民党も同罪だ。石原氏同様「経済を考えない脱原発は無責任だ」と主張している。冗談じゃない。脱原発はセンチメントでもなければ、経済や景気と天秤にかけるものでもない。脱原発は”理念”なのだ。電力が不足して不便することくらい日本人は我慢できる。そもそも地震列島である日本に、原発をつくったのが間違いだったのだ。だから多少の我慢をしても、1日も早く原発をなくす。これしかないのだ。 

アメリカに初めて原発ができたのが1957年だから約半世紀前だ。スリーマイル島の事故が1979年でそれ以来、昨年まで30数年間、1基も承認されていない。一時ブッシュが税金優遇策などで推進しようとしたが、結局住民の反対や、コスト高などで1基もできなかった。それがオバマ政権下で34年ぶりに覆り、2基の建設が承認されたが、福島の事故を受けて建設は危ぶまれている。

そのアメリカに技術や濃縮ウランを買わされて、日本の自民党政府が東海村に最初の原発を建てたのが1966年だから、日本でも半世紀近い。その間に自民党政府と電力会社は、インチキの「安全神話」をと巨大なバラマキで、日本中に原発をつくってしまった。「安い電力」というが、そのために売られたのが国民の命t健康だったのである。もし、今回の福島原発の事故を防ぐだけの防災費用をかけていたら、原発は決して安価な電力源ではない。前述のように、アメリカでは、コスト高も脱原発の一つの理由だったのだ。日本で広めたのだから、自民党は脱原発とはいいにくいだろうが、我々は「自民党」とは書きにくい。

他はおおむね「脱原発」だが、やはり10年でと区切っている。「日本未来の党」が一番信頼できそうだ。嘉田由紀子さんは存じ上げないが、経歴を見るとぶれない姿勢が目立つ。知事選でも一度だけ社民党の支持を得たが、政党色もない。福島の事故は100年、1000年単位で起きるものではないのだ。地球温暖化で海水温が上がり、秋になっても台風が続々と日本に近づくようになった。アメリカ東海岸のハリケーン災害も毎年のこととなっている。もともとが地震多発地帯である日本に原発をつくったことが大失敗で、その上に強風、大雨、台風と天災は避けられない。これ以上の事故が起こる前に、全力を尽くして原発をなくす。それが今回の選挙にかかっていると信じている。




『週刊現代』12.22


2012年12月21日(金) 小選挙区制の危機

小選挙区制が今回見せつけた恐ろしさは、前々回、前回と比べても格別だった。民主党はおよそ2大政党の一翼とはいい難い規模まで縮んだ。自民、公明両党を「1強」とすればその他「8弱」の筆頭にすぎない。「2大政党を軸とする政権交代のある政治」政治改革の目標は前回ひとまず成就したかにみえたが、わずか3年で危機に陥った。

政党政治の形をこれからどうしていくのか。また、それを考えるときに欠かせないのが選挙制度の設計を変えるのか、かえないのか。衆院選後の日本政治が直面する難題である。衆院での再可決が可能になる3分の2超の議席を獲得した自公両党は、数のうえでは衆参両院のねじれを克服した。新首相となる安倍晋三総裁は、この強力な足場の使い方が問われる。1回目の首相のときに臨んだ2007年参院選敗北の悪夢を安倍氏は忘れてはいない。しばらくは「安全運転」を心掛けるだろう。来夏の参院選に打ち勝って、悲願の憲法改正に展望を見出すという筋書きである。

改憲勢力の結集を進めるなかで、かってのような1党優位の半ば半永久与党化を目論む。そんな筋書きも描きうるだろうが、今の段階では先走りにすぎよう。一方、民主党は苦い教訓を得たはずである。2大政党の一翼たるもの、ばらけていては戦えない。党を純化するのはいいが、戦力も大きくそがれる。その復活は懸案の綱領づくりなど、党の原点を踏み固め直すことができるかどうかにかかる。

2大政党か、第3極を含む多党制か。それは自公民3党が来年取り組むとしている選挙制度の「抜本的な見直し」にも左右される。小選挙区区制のもとではもともと不利な中小政党だけでなく、自民党内でも中選挙区制への回帰論が熱心に語られる。あまりに極端、あまりに不安定という批判は的外れではない。小選挙区制のものでは、新党が乱立してもいずれは2大政党に収斂する力学が働くが、中選挙区制や比例代表中心の制度に変えれば他党化が促進される。

それは単に政党政治の在り方が変わるだけではない。小選挙区制は事実上、次の首相を有権者が直接に選ぶ仕組みである。私たちは今回「安倍首相」を指名したに等しい。多党制のもとでは首相選びは政党間の交渉に委ねられる場合が多い。そのどちらを選ぶのか。政党や政治家だけに任せておける判断ではない。



『朝日新聞』12.18


2012年12月20日(木) 日本郵政の新社長に天下り

また財務省OBか

日本郵政が19日に臨時取締役会で決めた社長人事に、自民党が異議を唱えた。退任する斎藤次郎社長(76)、後任の坂篤朗副社長(65)と2代続けて大蔵省(現財務省)OBがトップに就くことに対し、第2次安倍政権の官房長官に内定した菅自民党幹事長代行らが強く反発した。「100%株主」として人事の見直し要求も辞さない姿勢だ。

自民党執行部には寝耳に水の交代劇だった。斎藤氏と坂氏が日本郵政本社で会見に臨む頃、菅氏は国会内で記者団に対し怒りをあらわにした。「財務省出身者によるたらい回し人事をした。官僚が自分たちの権益を守るような人事は許せない」日本郵政の株式は政府が100%持ち、安倍政権は来年6月の株主総会で新社長を解任することもできる。菅氏は、坂氏の自発的な辞退を求めるようこう言い放った。

今は、26日の安倍政権発足に向けた移行期間だ。この「権力の空白期」を狙ったかのような人事。石破幹事長も19日夕方、記者団に対し「政権移行の時期に、このような大変重要な人事を行なうことは許されない」 と不快感を示した。安倍晋三総裁も事前に聞かされていなかったという。民主党は野党時代に、官僚OBだからという理由で、自民党政権が提案する国会同意人事案を次々と葬ってきた。ところが政権交代間もない2009年10月、鳩山政権は、日本郵政の西川社長を辞任に追い込むと、後任に元大蔵次官の斎藤氏を起用した。財務OBの坂氏昇格を聞いた自民党の郵政族議員は、「民主党政権が、最後にまたやった」と批判した。

日本郵政、政治空白狙う?

社長交代会見の坂氏は表情がこわばり、自民への配慮の言葉を何度も口にした。「安倍総裁は大変素晴らしい政治家です」「私が自民党さんとの反対勢力だったことは全くない」隣に座った斎藤氏は、社内の正当な手続きで決まった人事であることを強調した。「臨時取締役会で満場一致で決まった。労働組合も郵便局長会も坂さんにお願いしたい、となった。グループの管理職と従業員の共通の認識だ」

しかし、日本郵政は政権交代の合間を狙って人事を決めたふしがある。衆院解散の直前、幹部の一人は周囲にこう語った。「政権交代の混乱の中で社長を交代すれば、坂氏が後任になれるだろう」と。旧大蔵省の「大物次官」と呼ばれた斎藤氏は小沢一郎氏に近く、民主党政権で郵政改革担当相だった亀井氏の後押しで社長に就任した。自民が政権復帰すれば、遅かれ早かれ目をつけられるのは明らかだった。一方、坂氏は大蔵省主計局などを経て、第1次安倍政権で官房副長官を務めた。坂氏と自民の関係が悪くないと見た斎藤氏は、社長交代のタイミングをうかがっていた。

18日には、政府の郵政民営化委員会が、日本郵政傘下のゆうちょ銀行が住宅ローンや企業向け融資などの新規事業に参入するのを条件付きで認める答申をまとめた。斎藤氏らの「悲願」が実現に向けて近づいたのを見届けると、その翌日には臨時取締役会を開いた。だが、この戦略は、選挙で圧勝した自民の力にねじ伏せられそうだ。解任する権限を握られ、坂氏は「まな板のコイ」になった。

小泉政権が完全民営化路線を打ち出してから、日本郵政は政治の混乱に巻き込まれ続けた。今年4月、民主、自民、公明3党が共同提出した「郵政民営化見直し法」が成立し、混乱から解き放たれるとみられた矢先の新たな火種。政治との距離をどうとるか、再び難題を突き付けられた。




『朝日新聞』12.20


2012年12月19日(水) 猪瀬初当選

やっと俺の時代が来た

首都東京の新しい顔には、猪瀬直樹氏(66)が決まった。石原慎太郎氏(80)の辞職にともなう都知事選の投票が16日に行なわれ、前副知事の猪瀬氏が初当選を確実にした。5年5カ月にわたり副知事として都政を支えた実績をアピール。4期務めた石原氏に後継指名されたことに加え、公明、維新の支持、、自民の支援を受け、選挙戦を優位に進めていた。故青島幸男氏石原氏に続き、3代連続の作家知事が誕生した。

13年半ぶり
NHKテレビは午後8時、猪瀬氏の当選確実を文字情報で流した。投票が8時で締め切られた後、わずか1分後の速報。共同通信も8時4分に当選確実を報じた。猪瀬氏の圧勝ぶりを物語っていた。

13年半ぶりに首都のリーダーが交代した。猪瀬氏は先月29日の告示後、石原都政の継承をアピール。地下鉄の一元化や、都が株主になっている東京電力の経営改革など、副知事としての実績を訴えてきた。10月31日付で石原氏が辞職した後、知事の職務代理者を務め、都政に空白をつくらないことにも尽力した。前日15日の街頭演説では「東京が日本の心臓。国そのものを東京が動かしていく。皆さん一緒にやりましょう。」と呼びかけ、都民1300万人をけん引きする意欲を示していた。

有利な展開

知事の仕事を意識したのは、昨年3月の東日本大震災だったという。非常事態になると、役所で定めたルールが役に立たない。いつ起きるかわからない首都直下地震に備え、早急の準備が必要だ。「発想力、決断力のあるリーダーでないと務まらない」告示後「決断、突破、解決力」をキーワードに設定。「決断する力」「解決する力」などの著書で実行してきたノウハウを都民に説明した。

参院選と重なった影響で有力な顔ぶれが出そろわず、都知事選は盛り上がりを欠いた。民主、自民両党が衆院選を優先し、独自候補を擁立せず猪瀬有利に動いた。世論を背景に独自の施策をおし進めてきた猪瀬氏のスタイルには、反発する都議会関係者が少なくない。作家の発想を副知事の仕事に生かしてきたと自認する新副知事は今後、政治家としての調整力も試されることになる。


猪瀬氏アラカルト

1946年(昭和21)長野県長野市生まれ。3歳のとき小学校教師の父親を狭心症で亡くす。歌人の母親に育てられ、世界文学全集など、数多くの本を与えられる。医学部を目指したが失敗し、信州大学文学部に進学。全共闘の学生運動に参加する。大学卒業後出版社に勤務する。

作家活動

日本の近代史を学ぶため、‘72年に明大大学院政治経済学研究科に入学、政治学者の橋川文三氏に師事、日本思想史を研究する。‘75年に大学院卒業後、作家を目指す。‘83年大正天皇崩御後に起きた元号誤報事件を掘り下げた「天皇の影法師」で作家デビュー。‘87年、西武鉄道グループと皇族の関係を描いた「ミカドの肖像」で大宅壮一ノンフィック賞を受賞した。


国政参加

‘96年に雑誌で連載した「日本国の研究」で日本の権力構造の実態を詳述。特殊法人改革の機運を起こした。これをきっかけに‘01年、政府の税制調査会委員と行政改革断行評議会委員に就任する。小泉純一郎首相(当時)に依頼されて、02〜05年に道路関係4公団民営化推進委員会委員を務め、公団の分割民営化を達成した。健康維持のため、2年前にジョギングを始める。65歳の今年2月26日、東京マラソンでフルマラソンに初挑戦。制限時間の7時間に間に合い、6時間40分でゴールした。現在も月間80キロを自らに課している「最近、運転免許の更新に行ったら、5年前の写真よりも若かった。すごいね」




『日刊スポーツ』12.17


2012年12月18日(火) 解散は予想外

解散は「予想外」パーティー開けず、小沢一郎でも選挙資金不足

「選挙と言ったって、こんな準備不足の中でどうやって戦えばいいんだ…」
小沢一郎氏率いる「国民の生活が第一」の山崎議員は、しきりにこうほやいている。100人を擁立することを目標としていた「国民の生活」だが、立候補者は60名程度にとどまるとみられている。足りないのは候補者だけではない。「候補者不足以上に小沢さんの頭を悩ませているのが、資金不足です」こう明かすのは、小沢氏の後援会幹部だ。7月に「国民の生活」を結党する際、小沢氏らは民主党から”分党”ではなく、”離党”したため、政党交付金の分割を受け取れなかった。そのため「国民の生活」は当初から資金不足に悩まされていた。

「そこで小沢さんは12月13日に、政治資金パーティーを開く予定でした。これまでにも7月と10月に大規模な政治資金パーティーを開いて、数億円を集めたと聞きます。それでも選挙資金は不足気味なので、もう一度パーティーを開くことになっていた。ところが会場も押さえているというのに、16日に総選挙が行なわれるため、パーティーなんかやってる場合ではなくなりました」

「国民の生活」にとって12月選挙は最も避けたいシナリオだった、と同幹部は話す。「資金パーティーを潰されるだけではありません。来年1月1日を迎えれば、4月には政党交付金が交付されることが約束されるので、これで銀行から借金できると当てにしてましたが、この望みも断たれてしまった。つまり、ダブルパンチを喰らったのです」なぜ12月選挙なのかと疑問の声が上がっているが、大の小沢嫌いの野田総理が、小沢氏の息の根を断つために仕掛けた「最後の賭け」なのかもしれない。



『週刊現代』12.1


2012年12月17日(月) 安倍自民独り勝ち

政権奪取

第46回衆院選は16にtに投票、即日開票された。共同通信社が全国で実施した出口調査で、自民、公明両党の獲得議席は合わせて過半数(241議席)を上回り、約3年3カ月ぶりに政権奪取するのが確実な情勢となった。自民党の安倍晋三総裁は26日にも特別国会で再び首相(第96代)に指名され、公明党との連立政権が発足する運びだ。民主党は選挙前の230議席を大幅に減らし惨敗となる方向である。政府筋は野田佳彦首相(民主党代表)が退陣するとの見方を示した。第三局では日本維新の会が議席を増やし、日本未来の党は選挙前から後退する見通しだ。

政権投げ出しを乗り越え復活

5年前の突然の首相辞任で「政権投げ出し」と批判を浴びた挫折を乗り越え、国のかじ取りに改めて挑む。1955年の自民党結党以来初の首相再登板となる。タカ派の論客として知られ、自衛隊を国防軍ち位置付ける憲法改正や集団的自衛権の行使容認に意欲を示していることから、右傾化を懸念する声も出ている。

小泉純一郎元首相の後継として2006年9月、52歳で戦後生まれ初の首相に選ばれた。祖父が岸信介、大叔父が佐藤栄作両首相、父は晋太郎元外相という政治家一家で育った。小泉政権で自民党幹事長、官房長官の要職を歴任した。首相時代は「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げて改憲手続きを定めた国民投票法、改正教育基本法を成立させたが「消えた年金」問題や閣僚の相次ぐ不祥事によって2007年7月の参院選で惨敗した。

衆院と参院で多数派が異なる「ねじれ国会」の中、持病の潰瘍性大腸炎が悪化し、9月の臨時国会で所信表明演説を行なった2日後に辞任表明した。在任期間は1年だった。2009年の政権交代後、保守系議員の勉強会「創生日本」を中心に改憲や領土問題を議論し、表舞台に復帰する機会を待った。首相の座から降りる要因となった持病は「画期的な新薬で回復した」とアピール。首相在任中に批判された「お友達」重宝の政治から脱皮し、指導力を発揮できるか問われることになる。



200兆円公共事業 米従属外交 圧勝自民の批判政党がいない

世論調査や選挙中の情勢調査の結果だけ見れば選挙結果は「当たった」ことになるが、その中身は検証すべきこと多しだ。自民党は過去の反省を踏まえて「もう、前の自民党ではありません」と党総裁・安倍晋三が訴えたが、政策の軸にしながらさして前面に出さなかったのが国土強靭化計画という名の公共事業政策だ。それも持って景気回復を実現しようというものだが、高度成長期につくられた橋やトンネルなど、老朽化した公共インフラを整備するという大義のもと、年間20兆円、10年間で200兆円を突っ込もうというのだから驚く。

また自民党は「民主党が壊した日米関係を修復する」と各幹部が口々に訴えたが、それは日米同盟でありながら、アジアに軸足を動かそうとした外交戦略に米サイドが不信感や危惧を持ったことで、崩れかけたのは信頼関係だ。この先に待つのは、修復のためと米国のさまざまな強硬な要求を鵜呑みにする外交という名の従属だ。まして国防軍やら憲法改正と、この動きを米国が評価するとも思えない。自民党は政権に復帰したと同時に選挙戦で訴えてきた政策を大幅に軌道修正せねばならないだろう。また強引に推し進めようとすれば、連立の相手を「公明党から日本維新の会への入れ替えもありうる」(政界関係者)など混乱も予想される。

さて民主党は、政権交代という55年体制から09年体制を構築したにもかかわらず、いくつか手法こそ変わったものの、政権維持のためには官僚とタッグを組まざるを得ないと気付き、結果、霞が関に籠絡され最終的には自民党政治に近づいた。政権運営の稚拙さから霞が関の言い分を丸のみという最悪の結果に国民は期待した分、反動が大きくがっかりしたのだろう。

今後、再度2009年体制は再構築できるのだろうか。2大政党制の実現を持って小選挙区制を変えようという動きが活発になるだろう。来夏の参院選には多くの民主党落選組が鞍替えして挑戦するだろうが、参院を主導する興石幹事長が誰を野田首相の後継にして選挙に挑むのか。党はただちに代表選挙に入るだろう。ただねじれ状態が続く政界に活路を見出そうとするようでは、09年体制や民主党復活には程遠い。解党的出直しどころの騒ぎではない。

さて日本未来の党は国民の生活が第一を吸収して戦ったが浸透度にかけ、惨敗となった。合併せずにこのまま国民の生活が第一として選挙に臨んだ方が支持を得られたのではないか。小沢一郎の判断に陰りが見えたのか。一方。日本維新の会はなりふり構わわぬ選挙戦で近畿では善戦したものの、東日本では厳しい戦いを強いられた。ここでも党代表・石原慎太郎と太陽の党合併が相乗効果になったとはいえない。政党の浸透度は国民への信頼とするならば、時間切れは否めない。これから各党建てなおいを始めるだろうが、自民党圧勝を批判し、チェックする政党が皆無なことが心配だ。



松本元復興相も 福岡1区

元復興対策担当相で民主党前職の松本龍氏が、自民党新人の井上貴博氏に敗れ、96年から守ってきた小選挙区の議席を明け渡した。昨年7月、東日本大震災の震災地で、「知恵を出さない奴は助けない」などと放言し、復興担当大臣を辞任した。その後、体調を崩して一時入院した。民主党政権への批判にもさらされる厳しい選挙戦。初代参院副議長で「部落解放の父」と呼ばれた祖父冶一郎氏から代々受け継いできた「松本党」と呼ばれる厚い地盤が崩される中、あえて「東北の復興」を熱心に訴えたが有権者の心をとらえられなかった。



『日刊スポーツ』12.17


2012年12月16日(日) 自助・自立の流れ加速

自民党政権では、税・社会保障の基本的な考え方は、できるだけ自分の責任で暮らすよう求める「自助」を重視しており、生活保護は削減されるおそれがある。一方、医療や介護などの改革を進めるかどうかははっきりしていない。

生活保護の行方焦点

毎年1兆円の社会保障費の自然増を容認した民主党政権と対照的に、「自助・自立」を強調する自民党・安倍晋三総裁は、抑制に意欲を示す。選挙戦では「生活保護費を数千億円は削減可能と考えている」と訴え、公約・政策集に「生活保護の給付水準を10%引き下げ」「(価格の安い)後発医薬品の使用義務付け」などを揚げた。

新政権がさっそく取りかかる来年度予算編成では、生活保護への対応が焦点だ。保護基準の引き下げは、経済的に苦しい家庭の児童のための就学援助や最低賃金、非課税世帯の扱いなど、生活保護を受けていない国民の生活にも影響は及ぶ。連立を組む予定の公明党は福祉重視の姿勢で、対応が注目される。一方、社会保障費の中で今後、年金を上回って増える医療・介護費用への対応は、自公両党とも明確ではない。まず、特例で1割に据え置いている70〜74歳の医療費窓口負担を2割にするかどうかの判断が求められる。公明党などには、「消費増税や年金引き下げをお願いするときに、さらなる負担増は難しい」と、慎重な声が根強い。来年夏の参院選を控え、先送りムードが広がる可能性がある。厚生労働省の審議会などでは「要介護度の低い人へのサービスや原則1割の利用者負担を見直す」「風邪などの軽度の医療は保険の対象から外す」といった議論もくすぶる。これら給付抑制につながる議論は、民自公の3党が設置した社会保障国民会議での検討課題だ。参院選前にどこまで踏み込んだ議論ができるのか、不透明感が漂う。

自公が圧倒的多数を得たことで、民主党カラーの強い政策を見直す動きも強まりそうだ。 民主党が国民会議で議論するとしていた「最低保障年金」「後期高齢者医療制度の廃止」は見送られる公算が大だ。AIJ投資顧問による年金消失事件で財政難が表面化した厚生年金基金をめぐっては、民主党政権は制度自体の「廃止」を打ち出していた。対して自民党は財政が健全な基金まで一律廃止とすることに慎重な姿勢だ。今後、廃止方針が見直される可能性も出てきた。




『朝日新聞』12.20


2012年12月15日(土) 安倍晋三の振付師は

「安倍総裁は、尖閣諸島や竹島問題で民主党の稚拙な対応が問題になる中で台頭し、自民党総裁を掴んだ。そして今総理再登板を目前にしていますが、この間、安倍氏の「振り付け師」となっている外務省の大物OBが、省内で耳目を集めています」こう語るのは、ある外務省幹部だ。「そのOBとは、谷内次官(68歳)です。かっての安倍政権時に外務次官を務めた大物外交官です。来る安倍政権で、外務大臣となってカムバックするのではという噂まで飛び交うほどです」霞が関では今、谷内元外務次官のような、いわゆる「安倍銘柄」に注目が集まっている。

安倍氏はブレーンから教えてもらった政策を丸暗記して演説することが多いという。「安倍さんは見かけによらず努力家で、党首討論の前などは部屋に引きこもって必死で勉強しています」(財務相関係者)

だから、安倍氏の政治活動には優秀な「振付師」が必要なのだという。このように復権を果たす「振付師」はかって「拉致の安倍」と言われた拉致問題に関しても、安倍氏が絶対的な信頼を置く「振付師」が存在する。「それは安倍政権時に内閣情報官を務めていた三谷内閣官房拉致問題対策本部事務局長代理です。還暦でいったん退職した後も再雇用で居座っていて、民主党政権時代は『いつまで経っても、“代理”が取れない』とぼやいていました。それが安倍政権近しということで、今や元気いっぱいです。l実際、周囲の三谷氏を見る目も一変しました」(々)

安倍氏と30年来の付き合いがあるマスコミ関係者も解説する。「安倍氏と昼間雑談していて、そこで私が何げなく話したことを、その晩にテレビで、さも持論のように語っているもの見て驚いたことが何度かあります。安倍氏が今、舌鋒鋭く語っている内容も、その30分前に『振付師』たちに電話して聞いたことなんだろうなと想像しています。いまや、自民党本部には連日、霞が関の官僚が門前市をなしている。



『週刊現代』12.22


2012年12月14日(金) 日本企業はもう勝てない

スピード感が違いすぎる

「日本の製造業淵で死にあえぐのは、感情としては忸怩たるものがあるが、産業史の必然だ。ソニーの今回の決算にしてもシャープやパナソニックよりましだと言われているが、黒字を出しているのは映画、音楽、金融部門であり、モノづくり企業としては惨憺たるものである。イギリスの繊維産業は見る影もなく、アメリカのGM(ゼネラルモーターズ)は2009年に破綻した。パナソニック、シャープ、ソニーが”かっての姿”に戻ることは不可能だ。日本の電機メーカーはもう中国、韓国勢に勝てない。(元ソニー幹部)

三義要革命を世界で先駆けて繊維や鉄道産業を起こしたイギリス。なかでもマンチェスターはその中心地のひとつで、巨大な繊維工場が立ち並ぶ一大工業地帯として世界に名を馳せた。大西洋を越えると現れるのはアメリカだ。大量生産方式を武器に高性能な車を世界中にばらまいたGMが象徴するようにこの国が第二次産業革命の覇者であった。さらに太平洋を渡ると、日本にたどり着く。ソニーのウォークマンが全世界で大ヒットし、松下電器が米タイム誌に巻頭特集され、トヨタの「カンバン方式」を真似しようと世界中の企業が殺到した。アメリカに果敢に挑戦を挑み勝利を勝ち取ったのは、ジャパン・アズ・ナンバーワンと称された日本の製造業だった。

そして今、無情にもモノ作りの中心は西へと回り、韓国のサムスンやLGがテレビや携帯電話、家電を世界中で売り歩き、日本の株をすっかり奪ってしまった。さらに後ろにはインドが控えている。日本の企業を相手に商談すると、必ず最後に『持ち帰ります』と言う。社内で何個もハンコをもらって決裁してからじゃないとビジネスが進められない。中国や台湾、韓国の、メーカは、プライベートでトップが世界を飛び回って、トップ同士で直接交渉する。

その場で納品の量から価格、時期まで社長がすべて決定するのだからスピード感が違う。それに彼らは日本企業みたいに中間管理職が何人もいる組織じゃなくて、ほぼ全員がプレイヤー。かってサムスンが海外に人材を送り出すとき、片道切符で行かせ、業績が上がればその分は給料を与えるというスタイルで、”一攫千金”を狙う猛者たちが次々に新興国を開拓していったそうだ。海外駐在といっても中心都市にしか人を送り込まず、借り上げ住宅で優雅な生活を送らせている日本企業が勝てるわけがない。

見て見ぬふりはもうできない

世界中に張り廻られたマーケティング拠点から売り上げデータを集積し、最新の需要がどこにあるのかを見つけたら即座に商品化し、トップダウンでカネと人員を集中投下して一気に市場を制覇していく。市場は秒単位で変化していくのだから、トップの指示は朝礼暮改どころか「朝令朝改」。これがグローバル時代の常識だが日本企業のサラリーマン社長は大胆な決断も改革もできず、ダラダラと赤字を垂れ流し続けている。

「勝負はずっと前についていた。日本人が見て見ぬふりをしていただけです」電機業界の取材を長く続ける経営学者でジャーナリストの長田氏は言う。「2007年に欧州を回って電器産業の実態を取材したとき、パリの家電量販店をのぞくとシャープのテレビは1台ぐらいしか置いてなかった。パナソニックもちょこちょことある程度。一方で売り場の中心にドカンと展示されていたのがサムスンで、圧倒的な存在感でした。サムスンは当時すでにフランスでのテレビ販売シェアの4割ほどを握っていたから当然といえば当然。パリの街角でシャープはどこの国の会社かと尋ねると『韓国かな』との答えが返ってくるほど、日本企業の存在感は薄かった。

同じ時期、日本ではサムスンが日本の家電市場から撤退するとのニュースが流れていた。これを見て多くの日本人は『やっぱり韓国製品は安かろう悪かろうでダメなんだ』と思っていたが、現実はそうではなかった。サムスンはこんな効率の悪い日本に資本投下するよりも、世界で勝負したほうがよっぽど未来があると考えていたわけです。そして実際、欧州市場はサムスンが次々に支配していった」

日本企業が「まだまだ優位性がある」と“慢心”していた技術力でも中国・韓国勢に追い抜かれている。象徴的だったのが、今年1月、米国ラスベガスで開かれた国際家電見本市で、来場客が殺到したのが、韓国の両雄サムスンとLGのブースだった。お目当ては両社が初めてお披露目した55インチの有機ELテレビ。厚さ数mmと極薄なうえ画像は極めて美しく、しかも液晶より省エネ。初めて間近に見た観客たちはカメラのシャッターを押し続けた。

「有機ELテレビは次世代テレビの本丸で、日本勢も開発部隊をつくってやって来たが、完全に出遅れた。今やサムスンが世界の有機EL市場の8割を独占している。中国最大大手の京東方科技集団(BOE)でさえ、来年から中小型の有機ELパネルの量産に入るといわれている。パナソニックとソニーが今年、有機ELの共同開発をすると発表したが、いまさら何ができるというのか。日本のメーカーは『技術で勝ってビジネスで負ける』といわれてきたが、今は違う。『技術でもビジネスでも負ける』時代に入った。(経営コンサルタント)


『週刊現代』11.24


2012年12月13日(木) TPP

野田首相が、いよいよ衆院の解散に追い込まれた。消費税を増税しないとマニュフェストで謳っていたのに、財務省の掌の上で転がされて増税法案の採決を断行した。さらに谷垣自民党総裁(当時)との会談で「消費税増税法案が成立した暁には『近いうちに』国民に信を問う」を約束したものの、3カ月たっても一向に解散する気配すらなかった。2回連続で「ウソ」をつくことに世論は想像以上に反発を高め、それが応えたのか、野田首相は追い込まれて解散に踏み切らざるを得ない状況になった。

そんな野田首相が、突如として選挙の争点にもってきたのが「TPP」(環太平洋戦略経済連携協定)である。解散する”名目”の一つとして強引にTPPをもってきたのだろうが、これで一時沈静化していたTPP論議が過熱することになりそうだ。「経済産業省は推進、農林水産省は反対」と是非が二分されているTPP問題をどう理解したらいいのか整理しておこう。

TPPとはざっくり言えば参加国間で関税などが取り払われて「自由貿易になる」ということ。国民は安い輸入品の恩恵を受けてプラス、、国内生産者は輸入品に食われてマイナス、輸出業者は市場が広がるためプラスと、プレイヤーごとにプラス・マイナスはあるものの、合算すると国益として「プラス」になることは歴史が証明済みである。普段は意見の一致をみない経済学者の間でさえ、この結論にはほとんど異論がない。

ただこれはあくまで理想論である。実際には交渉に参加する国々が自国に有利になる項目を協定にいれ込もうとするため、交渉の結果次第では国益にとってプラスにもマイナスにもなり得る。だとすれば、ひとまず交渉に参加してみて、交渉の結果、日本にとってマイナスになるようだったら降りればいい。交渉の最終段階にもなってくるとTPPの成果はすべて国内法に反映されるので、その段階で国全体としてのプラス・マイナスのそろばんを詳細に弾くことができるからだ。

TPPの交渉に参加するのは美男美女が集まるという噂の「合コン」に出かける四なものといえる。好みの相手がいれば、アタックして付き合いが始まり、場合によっては結婚までいくかもしれない。とにかく合コンに行かなければという人がいるかどうかさえ分からない。それなのに日本は今のところTPPの「交渉」に参加するかどうかで争っている。参加が遅れるほど美男美女は他の参加者に取られる危険性が高まるので、今すぐにでも参加は表明したほうがいいのだ。

実は日本が関係する「合コン」はTPP以外にも日中韓FTA(自由貿易協定)日EUのEPA(経済連携協定)、さらにASEANから発展したRCEP(東アジア地域包括経済連携)などたくさんある。通商政策では、二股、三股は当たり前。実はそのほうが国際交渉力が増す。日本は中国が入っているものにも米国が入っているものにも両方の交渉に参加して、両国を天秤にかけて国益を追求することができる立場にある。これからの日本を強くするためには、二股でも三股でも仕掛けて、国益を追及していく通商政策が必要だといえる。



『週刊現代』12.1


2012年12月12日(水) 誰が生命の暗号を書いたのか

サムシング・グレートの存在を感じるとき

ヒトの遺伝情報を読んでいて、不思議な気持ちにさせられることが少なくありません。これだけ精巧な生命の設計図を、いったい誰がどのようにして書いたのか。もし何の目的もなく自然にできあがったのだとしたら、これだけ意味のある情報にはなり得ない。まさに奇跡というしかなく、人間業をはるかに超えている。そうなると、どうしても人間を超えた存在を想定しないわけにはいかない。そういう存在を私は「偉大なる何者か」という意味で10年くらい前からサムシンググレートと呼んできました。

このことに関して私には印象深い思い出があります。以前にラッセル・シュワイカートさんという宇宙飛行士の方にお目にかかったことがあります。数日間ホテルでご一緒し、いろいろな話をしたのですが、その時シュワイカートさんは次のようなことを話してくれました。「宇宙から地球を見ていると、地球はただ美しいだけでなく、まさに生きていると感じられる。その時自分は地球の生命とつながっていると感じた。地球のおかげで生かされていると思った。それは言葉でいい尽せない感動的な一瞬だった」

地球は生きているということを、私たちは言葉のうえでは知っていいますが、日常生活の中ではなかなか実感できるものではありません。彼も遠く離れた宇宙空間に出てみて初めてそれを肌で感じたのです。彼は地球を離れるというマクロの視点から見て感じたわけですが、私の場合はどうかというと、遺伝子という超ミクロの世界に降り立って、シュワイカートさんと同じ感動を味わうことができたのです。

実際に遺伝子の世界は、ふれればふれるほどすごいと感じてしまいます。目に見えない小さな細胞。その中の核という部分に収められている遺伝子には、たった4つの科学の文字の組み合わせで表される30億もの膨大な情報が書かれている。その文字もAとTとCとGというふうに、きれに対をなしている。この情報によって私たちは生かされているのです。しかも人間だけではない。地球上に存在するあらゆる生き物、カビなどの微生物から植物、動物、人間まで含めると、少なく見積もっても200万種、多く見積もると2.000万種といわれている、これらすべてが同じ遺伝子暗号によって生かされている。

こんなことがあってもいいものか。しかし現実にあるのですから否定のしようがありません。そうなると、どうしてもサムシング・グレートのような存在を想定しないわけにはいかなくなる。シュワイカートさんは宇宙から帰還後、自分の経験、感動を世界中の人に伝えたいと講演して歩いておられるのですが、それは彼がサムシング・グレートの存在を感じ、それをどうしても伝えたいという気持ちにかられているからで、私も今、同じような気持ちをもっているわけです。

サムシング・グレートとは「こういうものである」とはっきり断言できる存在ではありません。大自然の偉大な力ともいえますが、ある人は神様といい、別の人は仏様というかもしれません。どのように思われてもそれは自由です。ただ、私たちの大もとには何か不思議な力が働いていて私たちは生かされている、という気持ちを忘れてはいけないと思うのです。いくら自分で「生きるぞ」と気力をふりしぼってみても、遺伝子の働きが止まれば、私たちは一分、一秒たりとも生きてはいられません。その私たちが100年前後も生きられるのは、大自然から計り知れない贈り物をいただいているからなのです。

今の科学者は生命について、いろいろなことを知るようになりました。それでも一番単純な、わずか細胞一個の生命体である大腸菌一つもつくることはできません。ノーベル賞学者が束になってかかっても、世界中の富を集めてきても、これだけ科学が進歩しても、たった一つの大腸菌すらつくれないのです。だとすれば、大腸菌に比べたら60兆という天文学的数値の細胞からなる一人の人間の値打ちというものは、世界中の富、世界中の英知をはるかに上回るといっていい。私たちはサムシング・グレートから、それだけすごい贈り物をいただいているのです。

私たちはよく「親に感謝せよ」といいます。親は自分を生んで育ててくれた。そのことに感謝せよという。これは割に納得がいくことなので私たちは親に感謝します。しかし、親にはその親がいて、その親にはまた親がいてと、さかのぼっていけばその先の親の元、「生命の親」のような存在があっても不思議ではありません。自分の親に感謝するということは、そのずっとさかのぼった先にいる親にも感謝することに繋がらないか。それは目には見えないけれど、生命の連続性からいって、存在することは確かです。そういう人間を超えた大きな存在によって、私たちは生かされているという事実を、まずしっかりと見つめることが大切ではないか。私は研究現場で遺伝子と付き合ううちに、そういうことが少しずつわかってきたのです。



『生命の暗号』


2012年12月09日(日) まるで閣僚製造機

国民の期待はあっという間に冷めていった

原発事故は民主党による人災でもあった


「16日衆議院解散」宣言が飛び出した今回の党首討論会で一番印象的だったのは、野田でも安倍晋三でもない。結党の立役者であり、現「国民の生活が第一」代表・小沢一郎でした。ボソボソと独り言のように話す小沢からは、3年3ヶ月前の政権交代で、シナリオライター兼演出家として、剛腕を振るった面影はありませんでした。短い政権下で翻弄され、総理大臣の椅子に座ることなく、表舞台を去った名優のようでした。

外交を鳩山由紀夫に任せたことが、小沢の最初のミステイクでした。”宇宙人”の無軌道でKYな振る舞いと発言が、盤石だった傀儡政権をほころばせていきました。なかでも、周囲を唖然とさせたのは、‘09年11月14日に、来日中のオバマ米大統領が都内で行なったアジア政策についての演説を欠席したことです。すでに鳩山は東アジア共同体発言でホワイトハウスの不評を買っていただけに、これはアメリカを軽んじる致命的な行動でした。それが翌2010年5月のの米軍普天間基地をめぐる大迷走へ繋がっていったことは言うまでもありません。それにしても首相辞任を勧められた鳩山が小沢を幹事長辞職という道連れにするとは小沢も予想できなかったはずです。小沢は転がる石のように、落下をはじめました。

鳩山と小沢がセットで消えたおかげで、総理大臣の座を射止めた菅直人は、最初に高いハードルを越えることが長期政権につながると思い込んだのでしょう。2010年7月の参院選前に突然、消費税10%を打ち出し、自民に大敗しました。さらに菅は小沢を悪役に仕立てることで党内運営を図るという賭けに出ました。しかし核を失った民主党の政権基盤は弱体化の一途を辿りました。外国人献金問題が発覚して、菅政権崩壊目前のところで東日本大震災が発生しました。菅のドタバタぶりは目を覆うばかりでしたが、結果的に震災が瀕死状態だった菅政権を延命させてしまいました。

そして想定外の野田どじょう政権が誕生します。久しぶりに総理大臣の器が登場したと思いました。野田は愚直に消費税増税法案を成立させましたが、尖閣諸島、竹島問題では関係諸国に足元をみられ、挙げ句の果てに尖閣国有化宣言で反日感情を徒に高めることになりました。この間に小沢はついに民主党を離れます。聞こえのいいマニュフェストや仕分けなどが象徴するように、中学生の学芸会のような政権でしたが、役者不足で配役下手。民主党はわずか3年3カ月の政権で、首相は3人を数え、改造内閣を含めれば8回も組閣をしています。この先民主党政権が成立することになってもこんな”閣僚製造機”のような政権にならないことを祈るばかりです。



『週刊現代』12.1


2012年12月07日(金) 外務官僚の素顔

「闇権力」に近づきすぎた自分との決別

小泉純一郎総理は、平成17年(2005年)9月に行なわれた総選挙で郵政民営化だけを争点にして与党大勝利に導いた。しかし、これから具体化してくる国民生活に直結した政策は、郵政民営化などではない。サラリーマンに狙いを定めた大増税への政策転換なのである。

サラリーマンに狙いを定めた大増税への政策転換なのである。平成18年(2006年)9月の自民党総裁任期満了まで消費税の増税はしない、と小泉首相は明言した。しかし、定率減税の廃止も含め、消費税以外の増税路線はすでに始まっている。事実上のサラリーマン増税は間違いないなくなやってくる。小泉政権はこの増税路線を隠すために、「小さな政府」を掲げて行財政改革を唱えている。しかし、本来は「小さな政府」も「大きな政府」もないのだ。今の日本が目指すべきは「効率的な政府」だからである。

硬直した組織の中で特権階級意識に凝り固まった高級官僚が、自己の栄達と蓄財のためにだけ築き上げた官僚天国。ここにメスを入れることが行政の無駄を根本的に削り取る最短ルートであり、行財政改革の王道のはずだ。すべてのスタートは、官僚組織の無駄遣いをなくすことからはじまるのだ。しかし、小泉首相のいう「小さな政府」では、官僚の無駄遣いを止めさせることはできない。むしろ、官僚天国を助長することになる。

その典型的な事例が外務省だ。当時、川口順子外相は「外務省のウミをすべて出し切った」と胸を張って宣言した。しかし、「外務省改革」の実態はどうだったのか。外務省官僚は相変わらず官僚天国を謳歌している。そのことは、私が平成17年(2005年)10月に国会に提出した28通の質問主意書で明らかになった。外務省在外職員の住居手当を見ても明らかだ。一人平均1年間で、なんと290万円の手当がついている。月100万円を超える住居手当を受けている外務官僚も少なくない。

では、外務省改革は不十分だったと片づければいいのか。そうではない。そもそも、川口外相、竹内事務次官には、最初から外務省改革など実行するつもりはなかったのである。国民は外務官僚のレトリックに騙されたのだ。そして、その脚本を書き、陰で演出していたのが永田町、霞が関の「闇権力」なのである。私自身は外務官僚がつくる「闇権力」の実態を知るおそらく唯一の国会議員であったが、これまで自らが知った真実を述べてこなかった。このことに対する反省の気持ちを込めて本書を書いた。

日本をダメにする小泉改革

今の日本が第一に取り組まなければならないのは改革である。私自身も改革に向かって全力で取り組む覚悟だ。しかし、この改革を拒んでいるものがある、小泉改革の知恵袋である竹中平蔵総務相が推し進める新自由主義政策だ。私は新自由主義政策は最終的に、日本の国力を衰退させると考えている。確かに国民の小泉総理に対する期待は大きい。しかし、国民の多くが日本の国力が弱体化し始めているという強い危機感を持っているために、目の前にある危機から抜け出したいという願いを込め、小泉総理を支持しているという面が大きいを私は見ている。

「聖域なき構造改革」「小さな政府」と言うスローガンを掲げる小泉総理の改革路線は、弱者を切り捨て、強いものをより強くすることによって経済を活性化し、日本の国力を上げようというものである。これが新自由主義政策の本質だ。

では、新自由主義をおし進めるとどうなるのか。都市部の富裕層だけがより豊かになる一方、中小企業や地方在住者、年金生活者、低所得者、少数民族といった弱い立場の人たちはますます弱くなるのだ。その結果、経済格差が進むのは間違いない。そして、一番影響を受けるのは、次世代の子供たちだ。どんなに能力があっても、豊かな家庭に生まれない限り、その能力を十分に発揮することのできない社会になるからだ。親の製材状態や住んでいる場所に関わらず、子供たちには平等なチャンスが与えられなければならない。その中でこともたちは競争すべきだ。

ところが小泉改革では、親の所得の差が子供の教育を受ける機会に差をつけることになる。そしてそれは、子供が大人になった時の所得格差につながっていく。これでは日本人の大多数がやる気を失うのは目に見えている。

サラリーマン減税を行なう前に

今の日本の改革では、あらゆる権利が公平に配分される社会を基本とすべきだ。「機会の均等」が担保されなくてはならない。それによって「公平配分」の社会をつくる。それしか日本国の「基礎体力」を強化する方法はないと私は思っている。一方、小泉型の改革が目指すのは「傾斜配分」の社会である。私が考える理想の政府の姿は、「大きな政府」や「小さな政府」という表現では表せない。今日本人が目指すべきなのは、「効率的な政府」であろう。政府のあらゆる無駄をなくし、効率的で機動的な仕組みを完成し、豊かな社会を実現するのである。

現在の官僚制にはたくさんの無駄がある。例えば、外務省のキャリア官僚は入省間もない20代でも海外で勤務するならば、年収が1000万円を楽々と超えてくる。表向きにはそうならないが、さまざまな手当てをつけるというカラクリで優遇されている。他にも無駄はある。在モスクワ大使館に勤務する幹部の住居手当の限度額は月間114万円というのだから驚く。ロシア人の平均給与は月3万円ほどであることを考えると、宮殿のような邸宅に住むことができるわけだ。しかも、メイドや運転手も官費で雇っているのだから、まさに王侯貴族の生活である。こうした生活をしていると人間はどうなるか。特権意識が芽生え、「外交官は自国民を守ることを最優先しなければならない」という基本中の基本をどこかに置き去りにしてしまうようになるのだ。

私は、外務省の在外職員の給与制度をすべて国民の前に明らかにし、その金額が適正であるか再検討することこそが、「効率的な政府」実現の第一歩だと考えている。それは、日本国民が額に汗水たらして働き、世界第2位の経済力をつくりだしたということを、特権意識に慣れてしまった外務省官僚に再認識させる必要があるからだ。国内外で働く多くの日本人のおかげで、いうなればその力を背景にしてのみ外交を行なうことが可能になる。別の言葉で語るならば、日本人すべての税金が外務省在外職員の仕事と生活を支えているのだ。サラリーマン増税を行なうならば、まず公務員自らの襟を正して無駄をなくすのが財務再建のスタートだろう。そうでなければ国民の理解を得ることなど、到底不可能だ。外務省在外職員に支払われている金には、多くの無駄がある。

役人が政治家をコントロールするシステム

まず、「論ありき」というアプローチを私はとらない。論よりも事実を積み上げていこうと考えている。官僚制度の知られざる暗部を明らかにし、どれだけ無駄な税金が浪費されているかを白日のもとに晒す。それが私に与えられた使命だと自覚している。

もう一つ指摘しておきたいのは、議員年金と政党助成金の問題だ、無駄をなくして効率的な政府にするためには、議員年金を直ちに廃止すべきと考える。また。大きな問題点を抱える政党助成金という制度にも手を入れるべきだ。政治家は政治資金規正法で政治資金を集めることができる。また、パーティーを開いてその収益を政治資金にすることができる。これらの金には税金がかからない。これだけの優遇措置があるのだから、それでやりくりするすべきだ。政党助成金のような政治家自身が努力しないで手に入れる金に頼るべきではない。

そもそも。政党助成金は矛盾を抱え込んでいる。政党とは私的な組織であり。国家が有する組織ではない。私的な組織である政党に対して、国家のために使うべき税金が投入されているのは原理的におかしい。

また、政府が政党に不当な干渉を行なう危険性が政党助成金制度にはある。国は税金の使いみちを正しく把握するために、政党に対して積極的に関与できる。国=政府であり、政府を実質的に支えているのは官僚組織であることを考えると、役人が政治家をコントロールできるシステムになっているわけだ。政党助成金には320億円にも上る税金が支払われているが、以上の理由から、即刻廃止すべきだと考えている。こうしたシステムのもとでは健全な民主主義は成立しない。



『闇権力の執行人』


2012年12月06日(木) 石原都政にサラバ

母の介護でわかったこと

湯島の旅館街と、浅草の浅草寺付近を視察に回ってきました。以前はどちらも全国から来る観光客で賑わっていたのもですが、今や頼りは中国人観光客なんですね。ところが周知のように、4月に石原慎太郎前東京都知事(80歳)が、「尖閣購入」をブチ上げたことがきっかけとなって、政府が尖閣諸島を国有化し、中国人観光客が激減しました。そのため、湯島と浅草の観光業の方々は、大変な思いをしています。湯島と浅草ばかりか、中国とビジネスをしている都内の企業も総崩れ状態です。

石原氏はこうした都民の生活については全く考慮せず、勝手に尖閣危機を煽っておいて、自分はポイと職場放棄してしまった。あれだけ躍起になって集めていた、尖閣購入のための14億円の募金はどうするのでしょう。そもそも外交と防衛は政府の専権事項というのが万国共通です。そんなに外交に興味があるなら、姉妹都市との交流事業を促進するとか、都下の中小企業の貿易を拡大させるといった政策に心を砕けばいい。都知事は基本的に、都民の生活向上に尽力することに専念すべきです。

ちなみに東京都の姉妹都市のひとつは、中国の首都・北京市です。東京と北京との交流は、石原都政下の13年半で、大いに停滞しました。北京市からさまざまな代表団が東京都を訪れても、石原氏はほとんど、面会にすら応じません。北京市のトップは郭金龍という胡錦涛主席の側近で、日本との交流に積極的な政治家です。国同士の関係がギクシャクしていたら、東京と北京から両国の改善を促していく。それが石原氏が唱える「東京から日本を変える」ということではないでしょうか。

それなのに石原氏は、中国を「シナ」と呼び、中国人を「シナ人」と呼んで蔑んでいる。相手が呼んでほしくない呼称で呼ばないというのは、現代の文明人としての「いろはのい」でしょう。石原都政というのは、一言でいえば、常に仮想敵をつくり、「敵と戦う正義の味方」の面をする典型的なポピュリズム政治でした。例えば、銀行を敵にして外形標準課税を導入し、分が悪くなると新銀行東京を創設しました。ところが1500億円もの損失を出しても、全く責任を取ろうとしない。

私が厚労相を務めていた時代には、都の社会保障を「税金の無駄遣い」と一刀両断して大幅カットし、社会保障の現場を大混乱に陥れた。私は個人的にも母親を介護した経験がありますが、単純な利害得失で図れないのが社会保障というものです。それなのに石原都知事は、弱者の視点に立つことができない政治家でした。そして最後は「悪の中国」という世論を喚起し、都の経済をメチャメチャにした。それにまんまと煽られた野田政権も問題ですが、問題の発端は石原前都知事です。

なぜダメな候補ばかりなのか

石原氏は、10月25日に1時間にわたって行なった都知事辞任の記者会見で、延々と官僚批判をブチました。これもお得意の、「敵」をつくって正義の味方面をする論法です。私は、今の民主党政権ができる以前、安倍首相、福田首相、麻生首相と3人の首相を下で厚労大臣を務めました。その時、厚労省には57.000人もの官僚がいました。

官僚も人間ですから、個人的にはいろんな人がいますし、社会保険庁の官僚に対して怒ったこともありました。しかし、彼らを敵に回してはどんな立派な政策を掲げても、何も動きません。官僚を敵視する政治がうまくいかず、結局役人に牛耳られてしまうことは、民主党政権のこの3年余りの失政で証明されたようなものではないでしょうか。私は官僚というのは敵ではなくて、国民生活向上のために一体となって戦う味方だと考えています。政治家が本気で国民のために政治を行なおうとすれば、敵は他にいることがわかるはずです。

例えば私は、自民党が族議員たちの私利私欲にがんじがらめにされている状況を嘆いて、自民党を離党したわけです。自民党はこの3年間は、野党で利権がないので、こうした旧態以然とした体質を浄化する絶好のチャンスでした。しかし、安倍新総裁が誕生した9月の総裁選を見ていると、以前と何も変わっていない事がわかりました。

さて、石原前都知事の辞任会見でもう一つ気になった点がありました。それは、「次は猪瀬さん(副知事)がふさわしいと思う」などと言って、勝手に後継者を指名したことです。私は思わず、「あなたは独裁国家の将軍様ですか?」と聞いてやりたくなりました。前述のように、厚労大臣を務めたわずか2年余りでも、当時の総理大臣も含めて、私が在任期間最長の大臣でした。すると周囲の官僚たちは、だんだんぺこぺこと私におもねってきます。そんな姿を目にするたびに私は、気をつけないと自分を見失ってしまうと自戒したものです。

このたびオバマ大統領が再選されましたが、アメリカの大統領も、規定で2期8年までしかできません。ところが石原氏は、4期13年半も都知事をやっていたのですから、すっかり”将軍様状態”に陥ってしまったのでしょう。だから平気で1300万都民を犠牲にできる。まったく無責任の極みです。無責任と言えば、自分が任期半ばで職を投げ出してしまうことによって、どんな悪影響が出るかということにも無頓着なのには呆れました。公職選挙法の規定によれば、都知事が任期途中で辞任した場合、50日以内に都知事選挙を行ない新たな都知事を選出することになっています。

ところがこの規定は、病気や不慮の事故など、緊急事態を想定したもので、石原氏のような無責任な知事のためにある規定ではありません。そのため、非常に中途半端な都知事選にならざるをえません。本来なら、石原都知事の人気は2015年4月までなので、次の都知事選を目指す候補者たちは、少なくともその半年前から1年くらい前から、様々な立場の人の意見に耳を傾けながら、じっくりと自己の政策マニュフェストを練り込んでいきます。ところがたった50日間では、落選中の政治家くらいしか手を上げられません。都知事を目指しているような人たちは皆、それぞれの要職に就いているからです。これは、このような中途半端な形で都知事を選ばざるを得ない有権者に対しても、大変失礼なことです。

こうした無責任さが露呈したため、都知事を辞任した石原氏は「新党を創る」と意気軒高ですが、すっかり空回りしています。永田町では石原氏に対する冷めたムードが充満していて、誰かの名言ではありませんが、「晩節を汚した暴走老人」扱いです。これは政党によらず、国会議員たちにほぼ共通した見解です。

昨年4月の都知事選挙のとき、かっての石原氏の盟友である森元首相が、石原都知事に再出馬の要請をしました。その時、石原氏は、次の自民党総裁選で長男の伸晃(のぶあき)前幹事長を推すことを条件に承諾したと、『産経新聞』が書いています。これが事実なら、言語道断です。政治は公のものなのに、これでは完全に政治の私物化ではありませんか。だが、さもありなんとな思います。もし仮に伸晃氏が9月の自民党総裁選に勝利していたなら、石原氏は都知事をやめなかったことでしょう。そんなに息子が可愛いなら、伸晃氏と、落選中の3男・宏高前代議士とを、自民党から離党させて、自分の「新党」に入れたらよいではありませんか。

革命は成し遂げられるか

9月に中国各地で反日暴動を起こした中国の若者たちに「文明の作法」が欠如しているのは自明の理です。しかし、その騒乱のタネを作ったのは、石原慎太郎というポピュリズム政治家なわけで、石原前都知事の責任が問われてしかるべきです。尖閣諸島はそもそも、日本が実効支配しています。「尖閣に領土問題は存在しない」というのが日本政府の公式見解ならば、黙ってそのまま実効支配を続けていればよかったわけです。それを石原前都知事が「東京都が購入する」などと「越権行為」を始めたことで、”日中冷戦”となってしまいました。国士を気取るのであれば、「和をもって尊しと為す」と説いた聖徳太子の教えから勉強し直すべきでしょう。

私は、厚労相時代に、新型インフルエンザの対策を講じた際、TVを厚労省に入れました。そしてある時は午前6時に、またある時は深夜1時に大臣の私が記者会見をやって、この対策に厚労省が全力を挙げて取り組んでいるという姿勢を、国民に理解してもらったのです。それによって、新型インフルエンザによる死亡率を、世界最低に抑え込むことに成功しました。

石原氏のように、意見が異なる人は皆敵だという発想に立てば、民主党や自民党のような大政党では、内ゲバが起こってしまいます。敵を作るのではなく、なるべく多くの人を味方につけ、文明の作法に則って、風格ある政治を行なう。行なう。それが私の志す政治です。私は自民党を飛び出して「新党改革」を作り、少数政党の悲哀も味わってきました。何せ国会では、議員が5人に満たない政党は、質問にさえ立てないのです。国会議員になって11年余、余命の続く限り、この日本をもっと素晴らしい国にしたい、そのために自分の微力を生かしたい、そう考えるだけです。


『週刊現代』11.24 舛添要一


2012年12月03日(月) 橋下徹はなぜ大メディアに嫌われるのか

「橋下氏に関していえば、政府機関によって直接、『スキャンダルがあるからつつけ』というサインが出されていました。政府与党にとっても、総選挙において脅威となる橋本氏はなんとしてもつぶしたい相手で、リークや”誘導”が最も激しかったのは、大飯原発の再稼働に橋本氏が反対しいていた頃ですね。こうした情報が大手マスコミから他に流れ、どこかで記事になる。政治家や官僚たちが”敵”を潰す時に使う常套手段です」(全国紙政治部記者)

言ってみれば橋本氏は、虎の尾を踏んだのだ。橋下氏は旧システムの「すべてをぶち壊す」と宣言した。その「すべて」の中には、既成の大政党や霞が関の官僚機構、財界、そして大手新聞社を中心とした大メディアも含まれる。彼らは普段、表向きは理想や社会正義を唱えているエリート層でもある。しかし、実際には橋下氏に対して拭いきれない差別意識を抱いており、既成システムの巻き返しに伴い、ここぞとばかりに潰しに入ったのではないか。

橋下氏は短文投稿サイトのツイッターや、日々の会見を通じて、大メディアとも対決姿勢を露わにしてきた。ツイッターでは読売、朝日、毎日といった新聞社の報道に噛みついたことは一度や二度ではなく、読売新聞グループの渡辺会長ら大幹部から、個別の現場記者まで名指しで糾弾してきた。今回の朝日との悶着も、直前に朝日新聞社の女性記者と純軍慰安婦問題や教育問題をめぐって激突した。

少し勢いが落ちたとみるや、とたんに続出する批判報道、スキャンダル報道の裏には、こうした根深い既存システム側の抵抗や反発があることは否めない。先の自民党幹部の発言からもわかるように、「水に落ちた犬は叩け」とばかりに、橋本・維新の会への批判はこれからさらに強まっていくと思われる。だが、そうした圧力をはねのけてこその「維新」の看板だ。ジャーナリストの鈴木氏はこう語る。「改革者は大手メディアに限らず、常に抵抗勢力から叩かれるが宿命。人気がある者、権威ある者を叩くのはメディアの習性でもあり、それで潰される人も多い。ただ橋本氏には、ちょっとやそっとでは潰されないしたたかさがあります。女性スキャンダルや出自の問題を取り上げられることは、多くの場合致命傷になりかねませんが、橋下氏は潰れない。叩かれるのは、それだけ改革者としての橋本氏の存在が大きいということです」

民主党や自民党が維新の会への攻撃を強めているのも、つまりは次の総選挙に向け、自分たちに自身がないことへの裏返しにすぎない。「民主党が9月に行なった調査によれば、今総選挙踏み切ったら、現有議席の3分の1となる80議席程度に激減するという衝撃的な結果が出ました。あまりに深刻なので、党はこの数字を所属議員に秘密にしていた。ショックのあまり、離党者が続出するのを恐れたのです。選対幹部のもとには「どうなっているのか」という議員の問い合わせが殺到しているそうです」(鈴木氏)

民主党はあと6人離党者が出ると衆院での過半数を維持できなくなり、ほぼ自動的に解散総選挙に追い込まれる。維新の会に人材が流出しないよう、必死でネガティブキャンペーンを仕掛けざるを得ない。これに対し、次期総選挙では大躍進の可能性があるとされる自民党だが、そう簡単にはいかない。「私は次の選挙で民主党は100議席程度に沈み、別に約100議席を公明党など他政党が占め、残りの280議席を自民党と日本維新の会が争う形になると考えています。●

失速によって維新の会の議席数は60議席程度になるという見方が永田町の主流ですが、もしも挽回して80議席ぐらい獲得できれば、自民党+公明党30では過半数に届かず、維新の会がキャスティングボードを握る。そうなれば、橋下氏のほうに、今後の選択肢が広がります」(政治ジャーナリスト・山田氏)それを見越したうえで、橋下氏はいったん関係が悪化したみんなの党・渡辺代表との関係修復に取り掛かった。永田町に事務所を開く2日前には、新党結成がいまだ囁かれる石原都知事とも会談した。

「一部の政策面で詰めなければならない部分は残りましたが、むしろ石原氏の方が連携に積極的で、『旬を逃したら次はない』と、自分自身に衆院選出馬の用意があること、さらには、橋下氏自身も出馬する覚悟を持つよう促したそうです」(橋下氏周辺)また、各党あいさつ回りで、最も熱心に橋本氏へ共闘を呼びかけたのは、「維新の会の目玉候補になる可能性も」と本誌も報じた、舛添・新党改革代表だ。「力を合わせて政界再編をしたい。橋下さんのパワーをもってすれば何でもできる。とはいえ選挙協力をしないと厳しいだろう」と、連携を決断するよう強く促した。そして、一部で「内紛」などと報じられている大阪維新の会本拠地でも、「大いくさ」のっ準備は着実に進められている。

維新の会所属の大阪府議・青野氏はこう話す。「10月20日の鹿児島・熊本・福岡を皮切りに、橋本代表らによる全国遊説が始まります。支持率低下は全く気にしていません。これから何をやるか、国民の皆さんにお伝えする作業を繰り返していくのみです。国会議員と府議・市議間の温度差なんてありません。今は協力しあって、遊説の準備をしています。何のつながりもない場所にいきなり飛びこみ、有権者の人達と接触を持つ。維新らしい戦いだと思います」かって自民党がこの国を腐らせ、大風呂敷を広げた民主党は、なすすべもなくそれを放置した。今度こそ、その流れを断ち切らなければならない。



『週刊現代』11.3


2012年12月02日(日) 糖質を摂り過ぎる危ない

「高齢者が寝たきりになる原因は、5人に1人が認知症だといわれています。その認知症のうち、約7割がアルツハイマー病によるもの。自宅介護などで、統計的に出ていない人数を数えれば、アルツハイマーによる寝たきりはこれよりずっと多いはずです。(湘南長寿病院松川医師)原因も治療法も研究の途上であるアルツハイマー病。軽い物忘れからはじまり、記憶障害、うつ症状、運動能力の低下などを経て、5〜8年で多くの患者が寝たきりになる。一人で近所を徘徊、転んで怪我を負ってしまい、二度と自分の足で立てなくなるばかりか、急速にボケが進んでゆくケースも少なくない。心と体の両方を蝕む病なのだ。

「認知症?まだ自分は大丈夫」「ボケるかボケないかは運次第」と考える読者も多いかもしれない。だが、浴風会認知症介護研究東京センターの須貝医師はこう警告する。「脳の委縮など、アルツハイマー病につながる変調は、発症の10年前、20年前からはじまっています。定年退職などで暮らしのリズムが崩れることが、認知症発祥の引き金となることも多い。団塊の世代が後期高齢者になると、300万人以上、つまり高齢者全体の10人に1人が認知症という未曽有の時代がやってくる。これが”2025年問題”です。本気で策を講じないと、大変な事態になってしまう」

全国の認知症患者はすでに200万人を超える。日本をこれ以上「認知症大国」にしないためにも、まずはその予防法を見ていこう。近年の研究では、アルツハイマー病と食生活が大きく関係することがわかってきている。アルツハイマー病というと、遺伝や性格など、自力ではどうにもできない病というイメージが強い。だが実際は、遺伝要因はわずか1割にも満たない。

「ジュースや菓子パンが好きで、ラーメンには必ずチャーハンを頼み、おまけに運動不足。10代20代からこんな生活を続けていた人は、、アルツハイマー病の原因物質とされるβアミロイドが脳に溜まっているかもしれない。しかも一度溜まったβアミロイドを取り除くことは、現段階では難しい。糖尿病治療に詳しく、『就職をやめると健康になる』などで糖質制限食を提唱する高津病院理事長、江部医師が驚くべき研究結果を語る。

「九州大学が、福岡県の久山町の65歳以上の高齢者826人を15年間にわたり追跡調査しました。その結果、糖尿病とその予備軍の方は、通常の人と比べアルツハイマー病発症の確立が実に4.6倍にもなることがわかった。オランダのアムステルダムで行なわれた同様の調査でも、1.9倍という数値が出ています」アルツハイマー病は「脳の糖尿病」とも呼ばれる。血糖値を下げる物質・インスリンを分解する”インスリン分解酵素”は、βアミロイドを分解する働きも併せ持つ。血糖値が高いとこの酵素は本業であるインスリンの分解で手いっぱいになり、βアミロイドの分解まで手が回らない。そのため、脳にβアミロイドが溜まりやすくなるのだ。さらに、高血糖だと、脳の血管の壁がボロボロになって詰まるために起こる「脳血管性認知症」のリスクも高い。

「ボケて寝たきり」を避けるには、どんな食生活を送るべきか。自治医科大学埼玉医療センター元教授の植木医師に聞いた。「まず大前提として、当たり前のことですが、バランスのとれたメニューをしっかりと食べることです。パンや菓子など、炭水化物と脂肪だけでカロリーを取るような食事を続けると、糖尿病もアルツハイマーのリスクも高くなる。よく噛み歯を健康に保つことも、脳に刺激をを与えるので大切です。和食の栄養バランスも脳にはよいですが、塩分過多になりがち。そこで注目されているのが、パエリアに代表されるスペイン料理など、地中海型の食事です。魚と野菜を中心に、トマトやオリーブオイルを使い、肉と乳製品が少ない。この地中海型メニューは、アルツハイマー予防に役立つことが科学的にも証明されています」

薬の実用化まであと5年

今まで何十年も不節制を続けてきたという人も諦めてはいけない。まずは、1日1食、魚を食べる生活を2〜3カ月続けてみる。そうすれば、全身の組織が「ボケに強い」ものにだんだんと入れ替わってゆくのだ。何事も継続が肝心である。また、ボケ防止には、趣味を持ち他人とのコミュニケーションをとることが大事だともいわれる。例えば友人と一緒に脳に良い料理をつくれば一石二鳥だ。「料理は段取りを考えて手先を動かすため、認知症予防に最適である。歌を歌ったり、楽器を弾いたりといった、体と脳を連動させなければできない行為も有効です。最近は、定年を迎えて初めて『よし、何か趣味を見つけるぞ』と意気込む人が多いですが、だいたいうまくいかず、結局ボケまっしぐら。40代、50代のうちから何か仕事以外に打ち込めるものを見つけておくのが得策です」(松川医師)

早いうちから心がければ、ボケは防げる。だが、それでももし、ボケてしまったら…。心強いことに、最新医学は今まさに、アルツハイマー病に立ち向かう術を着々と編み出している。「昨年、3種類の新しい薬が認可されましたが、その一つは肌に塗るタイプの薬で、治療の選択肢が一挙に増えました。劇的に回復させることは難しくとも、認知症の進行を食い止めることはできるようになってきている。投薬治療を受け始めてから、記憶力などが改善した患者さんも中にはいます」(植木医師)

さらに、脳細胞が死滅する原因と目される、βアミロイドを取り除くための「アルツハイマーワクチン」も急ピッチで開発が進められている。今年に入り、数千人規模で臨床実験が行なわれた米・イーライリリー社のワクチン”ソラネズマブ”は、βアミロイドを減少させ、一部の患者でアルツハイマー病の進行を30%以上遅らせた実績を持つという。まだ副作用などの問題が残っているため、実用化まではあと5年前後かかる見通しだが、完成すれば画期的な特効薬となるかもしれない。



『週刊現代』11.3


加藤  |MAIL