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2004年07月31日(土)
『ウォルター少年と、夏の休日』は65点

『ウォルター少年と、夏の休日』
 短評:決して悪い話ではない。
    『ビッグ・フィッシュ』に感動した私はもっとこの話に
    高得点をつけてもいいような気がするのだが、
    『だめだ』ともう一人の私が言う。
    話があまりにもまとまりすぎている、という点がひとつ。
    冒険談の中身が私にはどうでもいいことであった、のがひとつ。
H・J・オスメント、M・ケイン、R・デュヴァルともに
    持ち味を出してそれはそれでよかった



2004年07月30日(金)
「白いカラス」は70点

「白いカラス」アンソニーホプキンス 
題材的にはもっと感動してもいいようなものだし、出演者の演技になんの不満もないのですが、なぜか何の心も動かされないのです。でもあとで本の少し、じわりとあのときの気持ちはこうだったのかと考えさせられるものがありました。よって少し評価は高めです。



2004年07月29日(木)
「ハリー・ポッター アズカバンの囚人」は60点

「ハリー・ポッター アズカバンの囚人」
3作続けて途中で寝てしまった。今回途中まで面白く見ていたので大丈夫だと思っていたのだが、ゲイリ−オールドマンの登場が遅すぎた。その直前で意識がなくなり、気が付いたときは狼男の変身のとき。よって一番大事な部分をおそらく見ていないことになる。何もいう事はありません。ただ、これほど続くという事はやはりこの映画は私には合わないということなのではないかと思います。(今ごろ気が付く私です)



2004年07月28日(水)
「スパイダーマン2」は80点

「スパイダーマン2」サム・ライミ監督 トビー・マグワイヤ キルスティン・ダンスト アルフレッド・モリーナ ジェームズ・フランコ
アメリカ人はどうしてこうも「正義」という言葉が好きなんだろう。そして、その言葉に対して今という時代ほど思い悩む事はないのだろう。スパイダーマンの悩みはそのまま現代アメリカ人の悩みでもある。でもやはりアメリカ人は「正義」を選ぶのである。今作はその「過程」の物語である。「正義は自分を犠牲にしなくてはならない。」メイ叔母さんのこの言葉が重要なのではない。その前の「子どもには正義(ヒーロー)が必要なのよ」という事実が大事なのだ。アメリカよ、悩め、悩め、もっと悩め。
しかして、正義を必要としない(はず)の日本でこの作品は果たして受けるだろうか。

ところでここの登場人物たちはみんな単純な人たちばかりなのだが、一人だけよく分からん人間がいる。あれだけ世間がスパイダーマンをヒーローとして認めつつある中で、どうして彼を、事実を無視してまで、悪役に仕立てようとするのか。デイリー・ビューグル紙の編集長は。



2004年07月26日(月)
「69」は80点 

「69」李相日監督 妻夫木聡 安藤政信 金井勇太  宮藤官九郎脚本 
大いに笑わせてもろた。まあ大体高校生ってもんは、きっかけさえつかめばこんなもんでしょう。
この数作のクドカン脚本の中では一番よかった。
「下妻物語」とテイストは似ているが、決定的に違うのは、
男が主人公か女が主人公かということ。
男の行動のきっかけはいつも社会(あるいは女)に対してであり、
男がいつも怖れているのは退学(失恋)であり、
そのために男は社会的な行動をする(連れだって動く)。
女は社会的に行動しない代わりに何も怖れるものはない(かもしれない)。
私は男であるから、「69」の男たちの気持ちはよく分かる。
金井勇太がいい味出しているのが収穫。
けれどもどっちを支持するかと言うと「下妻物語」なのである。

不満なのは後半があまりにも駆け足で進んだ事。
これによって、それまでリアルな物語だったのが、一挙にファンタジーになった。



2004年07月25日(日)
「エレファント」は60点

「エレファント」ガス・ヴァン・サント監督・脚本・編集
噂には聞いていたが、高校生達の退屈な日常、私は耐えきれず、途中意識が飛んでいました。よって正当な評価は出来ません。しかし約70%見たうちで何かを言わんとするなら、カンヌも格が落ちたなあ、という事です。



2004年07月24日(土)
『ブラザーフッド』は80点

『ブラザーフッド』カン・ジェギュ監督チャン・ドンゴン ウォンビン イ・ウンジュ コン・ヒョンジン チェ・ミンスク
大きな悲劇的な事件を描くとき、その事件の全貌を描くよりも、二人のキャラクターを中心に描いて、事件を背景として描くほうが、よりその事件の悲劇性が浮き上がる事がある。「タイタニック」はまさにそうやって成功した事例であるが、この作品もそれと同じような作品として長く記憶されるかもしれない。「タイタニック」でも二人の別れの場面では全然泣けずに他の場面で大泣きした私であるが、今回も「これでもか」という「泣き」の場面がうっとおしくて、それがマイナスではあるのだが、それにも増して、同じ民族通しの肉弾戦の「朝鮮戦争」という悲劇に時の経つのを忘れた。すごい戦争映画が出来あがった。
それにしても「プライベートライアン」をなんとか超えようとする意思は凄いものがある。良くも悪くもあの映画はそれ以降の戦争映画を変えてしまった、改めて歴史的な映画だったのだと再確認した。



2004年07月23日(金)
『ロスト・イン・トランスレーション』は60点

『ロスト・イン・トランスレーション』
 短評:たぶん題名から勝手に想像していたんだろうけど、
    二人はいつ東京の中で迷子になって、
    高級ホテルに戻れなくて、
    どこかのラブホテルに泊まる羽目に陥るのだろうか、
    とずーと待っていたら、
    いつの間にか終わっていた。
    別に本当に迷子にならなくても、
    きちんと心が迷子になればいいんだけど、
    私には単なる金持ちの迷いにしか思えなかった。
    そりゃああんなかわいい娘から
    相談されれば、親切にしてあげようと思うわな。
    中年男の悩みも別にたいしたものではない。
    今回各賞総なめにしたのも、
    結局映画関係のおじさんたちが、
    「あの大監督の娘のかわいい女の子だった彼女が
    とりあえずまともな作品を作ったのね。
    魂は震えないけど、よしよし、賞はあげるよ」
    という感じなのではないでしょうか。
 
ハリウッドスターのボブ・ハリス(ビル・マーレー)は、CM撮
影のために日本へやって来た。だが慣れない異国の地、コミニュケ
ーションがうまく取れない現地スタッフに戸惑い、神経をすり減ら
していく。そんなある日、やはり日本の生活に馴染めない若妻のシ
ャーロット(スカーレット・ヨハンソン)と出会う……。

『ヴァージン・スーサイズ』で父親譲りの才能を発揮し、世界中の
注目を浴びたソフィア・コッポラ。彼女の新作は東京を舞台にした
異邦人たちの切なく、ハートウォーミングなラブ・ストーリー。本
年度のアカデミー賞最優秀脚本賞をはじめとして、ゴールデン・グ
ローブ賞等々の主要映画賞を総なめにした話題作。


シネマライズほか、全国順次ロードショー公開
 
 
 公開日=4月17日
 製作国=アメリカ/日本
 配給=東北新社/ファントム・フィルム
 上映時間=1時間42分






2004年07月22日(木)
『ドーン・オブ・ザ・デッド』は60点

『ドーン・オブ・ザ・デッド』

 短評:疲れた〜というのが正直な感想。
    突然クライマックスから始ったみたいな筋書き。
    この世界はどうなっているのだ、
    と、どきどきしていたら
    それ以上話は進まず、
    何でも揃っているデパートでの話になる。
    まあ、そういう話なんだと気がついたのは半分ぐらい進んでから。
    そうか、ゾンビ射撃を使ったゲームをしようと
    人の死とは何か、なんて深刻に考えるような作品ではないのだ。
    これはゲームなのだ、
    ゲームを一切しない私にとってはかえって新鮮。
    でも疲れた〜
    途中席を立った人が何人かいたけど、
    あのエンドロール、さすがに誰も席を立たなかったですね。
    (04.06)






2004年07月21日(水)
『世界の中心で、愛をさけぶ』は55点

『世界の中心で、愛をさけぶ』
 短評:思ったとおりだめ映画でしたね。
    どうして亜紀と朔太郎との恋愛話に絞らなかったのだろう。
    若い二人では客を呼べないから、という製作側の判断で
    余分に40分ほど時間を無駄にしたとしか思えない。
    
    長澤まさみ、偶然にもデビュー作の「クロスファイア」から
    見てきたのだが、この作品奇跡のように存在感が出ている。
    前作の「ロボコン」と比べると月とすっぽん。
    若いというのはいいことだ。
    ちょっと見ぬ間に飛躍する。




2004年07月20日(火)
『シルミド』は65点

『シルミド』
『男の友情』扱えば、
韓国ほどうまく描く国はないだろうという
昨今なので、
さすがにうまく作ってあり、
それなりに退屈せずに見ることが出来る。
ただ、個人的には最終版の作り方は気に入らなかった。
ほとんどの人はこのあたりで泣いていたみたいなので、
私だけかもしれませんが



2004年07月19日(月)
『デイ・アフター・トゥモロー』は70点

『デイ・アフター・トゥモロー』
いやー、突っ込みどころ満載ですね。
ところが変に感動するのです。
感動というより恐怖といったほうがいいのでしょうか。
こんなことは絵空事だ、
だってあれも科学的ではないし、
この人たちの行動も不自然だ、と思うことは思うのですが、
ふと空を見上げるとこの天候不順、
本当に絵空事なんだろうか……。と(^^;)
たぶん大統領選挙がらみの映画なんだろうけど、
日本人のほうにもっとインパクトがあったりして……。
ともかく心動かされました。





2004年07月18日(日)
「戦争が遺したもの」新曜社 鶴見俊輔 上野千鶴子 小熊英二

「戦争が遺したもの」新曜社 鶴見俊輔 上野千鶴子 小熊英二
今年前半期では、この本がベストワンである。
鶴見俊輔の得がたいキャラクターと数奇な運命。そして戦争がいかに日本の知識人に大きな影響を与えていたかということ。「従軍慰安婦」問題、「思想の科学」創刊、60年安保、ベ平連、等々で語られる「秘話」。丸山真男、竹内好、桑原武夫、都留重人、鶴見和子、鶴見良行、武谷三男、谷川雁、藤田省三、小田実、吉本隆明、等々の豊富な人間関係。鶴見俊輔評伝でもあり戦後日本思想史にもなっている。
しかしそれだけではない。聞き手の二人が単なる聞き手になっていない。「一日目」の最終近く、上野千鶴子は自らの運動の責任を背負うかのごとく鶴見の「従軍慰安婦」保証問題への関わりを「追い詰めて」行く。こんな対談は初めて読んだ。小熊英二も所々で鶴見の「これはヤクザの仁義なんだよ」という一種の決まり文句に鋭く突っ込んでいく。全然慣れあいでは無い。だからこそ臨場感溢れる「戦後の再現」が実現できている。そこまで突っ込んでも読後感がすがすがしいのは二人が間違い無くこの戦後の日本を代表する思想家を尊敬している事が随所に見られるからである。私もこの本を読んで鶴見俊輔が単なるプラグマティズムを輸入した知識人だったという印象を変更した。もっと複雑で魅力的な編集者であり、行動家であり、日本の戦後に大きな影響を与えた人物なのである。
唯一困ったなあ、と思ったのは、この本を読むとどうしてもあの分厚くて高い小熊英二の「〈民主〉と〈愛国〉」を読みたくなること。(04.05)



2004年07月17日(土)
「夜消える」文春文庫 藤沢周平

「夜消える」文春文庫 藤沢周平
男と女は駆け引きである。騙そうとする。騙されまいとする。ー「誠実」のみが最後に勝利する、などとは決して言わない。「夜消える」で最後に誠実を示した飲んだくれの父親のその後を、私は決して幸せだとは思わない。
男も女も、もともとたいしたものではないのだ。愛息子を見殺しにしてしまった「永代橋」の夫婦。ー「救い」は?あり得るかもしれない。ない、などと誰が言えるだろう。
「初つばめ」では中年女の「酔い」を見事に描く。「遠ざかる声」では新作落語を聞いているみたいだった。愛しい市井短編集。(04.05)



2004年07月16日(金)
ウズベック・クロアチア・ケララ紀行  岩波新書 加藤周一

ウズベック・クロアチア・ケララ紀行  岩波新書 加藤周一
1958年から59年にかけて、加藤周一はソ連成立40年後のウズベック共和国を訪問し、ユーゴ建国15年後のクロアチア、選挙で初めて共産党政権が成立して2年後のインドケララ州を訪れる。その紀行文を書いたあと「あとがき」において氏は、社会主義諸国の経済的発展は後戻りしないだろう、いっぽう米英は社会主義的政策を強めるだろう、よって「冷戦は現実によっていつか追い越されるほかは無いだろう」と予測する。59年に出版されたこの本の予測は、少し修正を加えてその30年後に実現した。

氏は文学者であり、文明批評家であり、旅人である。決して国際政治学者でもなければ、哲学者でもない。「非専門の専門家」として50年代のこの三つの社会主義政権を厳しく暖かく紹介している。できるだけ客観的な叙述には気を付けながら、この三つの政権には基本的には好意的だ。この三つの政権はやがて崩壊する。しかしそれは氏の見方が甘かったからではない。この当時の専門家の誰がその後の「崩壊」を予測できただろうか。一連の出来事は基本的にはあの小さな地域の責任ではなく、もっと大きな「流れ」のせいだったのだろう。

社会主義政権の中の意外とも思える「自由」の大きさ、日本の実態とあまりかけ離れてはいない「貧乏」の状態、一方で「教育の充実」、「飛躍的な経済の発展」。氏が見たのは、あり得たかもしれない社会主義諸国のもう一つの「未来」だったのかもしれない。

この作品の大部分は氏の著作集には収録されれていない文章である。しかもこの本自体は長い事絶版状態であった。私はこの本に初めて触れ、青年加藤周一のみずみずしい感覚に感心した。(04.05)



2004年07月15日(木)
「宿命」講談社文庫 東野圭吾

「宿命」講談社文庫 東野圭吾
最新の帯にこうある。『のちの名作「秘密」「白夜行」そして「幻夜」へとつながる重要なテーマを秘めた原点ともいえる小説』。これにひかれて読んで見たのだが、果たして『テーマ』といっていいものか。

さて、確かに、最後の10Pに真の主題らしきものが現れるのだが、それほど意外でも感動的でもなく、私には失敗作の様に思えた。本格推理物としてトリックに本腰を入れるのでもなく、松本清長みたいに社会派推理を目指すのでもない。しかし『謎』だけは提示する(今回は宿命)といのは確かに「秘密」や「百夜行」と構造上は似ている。しかしそれは「テーマ」ではなく、書き方の問題だろう。

問題はいくつもあるが、最大の問題は各人物像がすべて中途半端に終わっているという点にあるのだろう。人物造形に成功した例として「百夜行」の桐原亮司と西本雪穂では、私はやっと桐原だけそれを達成したと思っている。「幻夜」はまだ読んでいないので分からない。人間を描くというのは最大の「謎」を描くということなのだと、つくづく思う。(04.06)



2004年07月14日(水)
「プチ哲学」中公文庫 佐藤雅彦

「プチ哲学」中公文庫 佐藤雅彦
1P目はタイトルが書かれてある。2P目と3P目には可愛いマンガが書かれてある。4P目はマンガからなにが考えられるか、解説が書かれてある。

この本をより楽しむ方法を「考えて」みた。マンガを見た時点で次ぎのページの解説の中身を当てるのである。例えばエレベーターの絵がある。「急いでいるときには一番あとに乗る。」「すると一番先に出る事ができる。」なるほどー、今回のテーマはなんだろう。「逆転の発想」という事かしら。などと考えてみる。ページをめくってみる。「逆算という考え方」でした。最終結果がはっきりイメージできているとそこから逆算してスタート時点でなにをしておけばいいのかおのずとはっきりしてくる、ということらしい。まあ確かにその通りだけどね。

私はこういう読み方でずっと読んでいったけど、結局きちんと当てたのは一割も満たなかった。それは私の考え方が浅かったからかもしれないし、この著者の考え方が私と合わなかったからかもしれない。ただ私は面白かった。それは「楽しく考える時間」が持てたからである。マンガも解説も「哲学」と銘打つほど考え抜かれてはいないと私は思う。けれどもそれでいい。まあ、そういう本である。(04.05)



2004年07月13日(火)
「巴里妖都変」講談社文庫 田中芳樹

「巴里妖都変」講談社文庫 田中芳樹
だんだんと、このシリーズの私なりの楽しみ方が定まってきた。これは愛すべき女性の「とてつもない我がまま」に耐えるにはどういう「心構え」でいればいいのか、絶好のテキストなのだ。
決してその女性より優位にたたない事、
時々は女性の先回りをして思いやりを示す事、
一応目立たないほどかっこいい男であること、
いざというときは命がけで女性を守る事。
大変困難な「心構え」ではある。泉田準一郎警部補はそれをなんなくやってのける才能を持っている。うらやましいことだ。たぶんその努力に対する報いもいつかあるに違いない、あればいいな、無いとかわいそ過ぎる、という読者の思いを知ってか知らずか、涼子様は今回ガラにも無く「本音」をチラチラ出している。泉田氏は全然気がついていないが…。(04.05)



2004年07月12日(月)
「朝霧」創元推理文庫 北村薫

「朝霧」創元推理文庫 北村薫
「山眠る」の真相を隠したエピソードの描き方が好きだ。このシリーズはこれまで日常のふとした出来事を推理仕立てにして私たちにミステリーの醍醐味を味わせてくれていた。しかしこの作品では推理の結論は読者である私たちに委ねられている。そして主人公たる〈私〉は、円紫師匠の助けを借りなくても、その謎を解き、その謎に適切な行動を取る、一歩手前まで来ている。一巻目から考えると明かな成長である。

私は、本郷先生親子の行く末と同時に、〈私〉の行く末についても暖かい未来を「推理」せざるを得ない。(04.05)



2004年07月11日(日)
「ぼんくら」講談社文庫 宮部みゆき

「ぼんくら」(上)講談社文庫 宮部みゆき
現代は推理小説の成立が非常に難しい時代である。捜査方法はますます分業化、複雑化してきており、犯罪方法は非常に残酷化、犯罪動機は「サイコパス」に代表されるように、「分からなく」なってきている。

そういう現代にあえて宮部みゆきは挑戦しているのではないかと私は推測している。江戸・深川の鉄瓶長屋という「閉じられた社会」を舞台に、ぼんくら同心平四郎という「探偵」を主人公に、「謎」を提示して解決に向かわせている。典型的な昔の探偵小説である。そこに描かれるのは今は失われているかもしれない下町の「人情」、そして登場人物たちのさりげない「知性」である。現代という時代はもはや江戸時代まで辿っていくことでしか、探偵小説がもたらせてくれる癒し感は得られないのかもしれない。

上巻はいわば謎提示編。一息で読めるだけにここでいったん休憩を入れて下巻に向かうのも良いかもしれない。「伏線」はたくさん見つかった。でも私はまだ謎解決までいたっていない。もう一度読みなおそうかしら。


「ぼんくら(下)」講談社文庫 宮部みゆき
うーむ、こういう結論だったか…。

時代推理小説として、際立った傑作とは言いがたいが、キャラクター造詣の妙とあいまって充分楽しめる作品にはなっている。特に後半異彩を放つ美小年探偵弓之助、人間テープレコーダーおでこ、そして岡っ引きの政五郎。

全てが「ふ」に落ちたわけではない。特に冒頭の殺人事件の処理の仕方は納得がいかない。

ただ、短編小説集と思わせて、ひとつの長編に仕立てた宮部みゆきの今回の「仕掛け」は気に入った。(04.05)



2004年07月10日(土)
「本所しぐれ町物語」新潮文庫 藤沢周平

「本所しぐれ町物語」新潮文庫 藤沢周平
藤沢「市井物」の大傑作である。「市井物」の傑作で短編集というとまずは「橋ものがたり」があげられるが、これはまたそれとは一味違う。本所深川、架空の町「しぐれ町」を舞台に、気のいい大家、情報通の書役、夫婦仲が醒めてしまった中堅商人、大人ぶる少女、浮気妻を許してしまう職人、浮気の虫を抑えきれない若旦那、等々。ときには主役に、ときには脇役で出てくる町の人々を描いている。私たちは読んでいる間はしぐれ町の住人になる。そして、「切ない」人生を共に「楽しむ」のである。

たとえば、胸の小さい若奥さんの話「乳房」が私にはとても切ない。おさよは夫に浮気をされてどうしても許す事ができない。飲み屋の主人おろくはそのおさよにこういう。「男なんてものは、土台そんなにりっぱなものじゃないんだよ。あんたが考えるほどにはね。そして今にわかるが…」「女だって、そんなにりっぱなものじゃないのさ。」おさよのくるくる回る感情が切なくて楽しい。(04.04)



2004年07月09日(金)
「東電OL症候群」新潮文庫 佐野眞一

「東電OL症候群」新潮文庫 佐野眞一
「疑わしきは罰す」方式でマイノリティであるネパール外国人労働者を犯人に仕立てあげるこの国の司法の闇は相変わらず酷い。

日本よりも外国のほうがこの事件を深く報道しているというのも、この国のマスコミのムラ社会体質を感じて嫌になる。

著者の努力は買う。しかし後半、売春判事の故郷まで行って執拗にそのプライバシーを暴いているのは事件との関連性が非常に薄いと思わせるだけに疑問を感じた。もちろん、疑わしきは徹底的に取材はすべきだったろう。しかし、「あえて書かない事」それも良質のルポの条件ではないだろうか。(04.04)



2004年07月08日(木)
「家計から見る日本経済」岩波新書 橘木俊昭

「家計から見る日本経済」岩波新書 橘木俊昭
日本経済に元気が戻らない。なぜか。一番の稼ぎどころの「消費」に元気が無いからである。なぜか。年金、福祉、共稼ぎ、サービス残業、幾つかの要因があり説得力持つ「数字」でもって説明される。あるいは学者からの指摘で、あらためて、ああなるほどな、ということも多かった。消費行動にはデモストレーション効果(「3種の神器」とか)がおおきいとか、魅力的な商品の開発が必要であるとか。元気に戻す対策では幾つかはっきりしないところはあったが、分析部分は数字に疎い私でもなんとか付いて行けるレベルだった。

家計というのは日本経済の土台部分である。上から下を見るよりは、下から上を見たほうが物事の本質ははっきり見えるようになる。(04.04)



2004年07月07日(水)
「ひとりぐらしも5年め」メディアファクトリー たかぎなおこ

「ひとりぐらしも5年め」メディアファクトリー たかぎなおこ
独身女の子のひとりぐらしの部屋というのは、TVでは絶対リアルな実態は写さないし、映画になるこも無いし、案外ずっと「謎」だったりする。どんな風な小物があって、どこが片付いていて、どこが片付いていないのか。ひとり暮らしの買いものはどうしていて、どんな料理を日々作っていて、外食はどうしているのか。お風呂に入るとき、どんな格好をして入って、やっぱり歌なんか歌うのかなあなど。一種、覗き見の楽しみ。
この女の子は恥ずかしがり家だ。スーパーの袋が半透明なので入れかたにも気をつかっているという。半額シールとかカップラーメンとか人に見られたくないから、野菜を外側にして隠しているという。または、女の子は女の子なりに防犯の心得を持っていたりして、私は見ていて「ニコニコ」してしまう。(中年男のいやらしさだと言えば言え)もちろん独身女性が自分の生活を見なおすのにもうってつけ。(04.04)



2004年07月06日(火)
「できるかなリターンズ」角川文庫 西原理恵子

「できるかなリターンズ」角川文庫 西原理恵子
サイバラという特異なマンガ家が居ることは知っていた。とはいっても全然威張る事ではない。去年上映された「ぼくんち」(阪本順治監督)でおそらく初めてその作品世界に触れたのだから。今回その生マンガを初めて「見る」。

私のマンガ暦は長い。初めてマンガ雑誌を読んだときの号が、星飛雄馬と花形満が小学時代初めて勝負したときというのだから推して知るべきであろう。そして深い(はずだ)。ここでは詳しく記せないがありとうらゆるタイプのマンガに出合って来た。そしてサイバラなのだが…。

確かにこれはマンガなのだ。絵はへたくそだろうと、途中で異様に夫が撮った写真が載ろうと、ストーリーとギャグを無視して、体験エッセイという体裁を取ろうと、確かにマンガはあらゆることから自由ではあるべきだ。出てくる登場人物たちの異様に立った「キャラ」、誰も真似できないかもしれない「体験」(だってマルコス政権崩壊のさなか、暴動中のインドネシアに行って「観光旅行」をするのだから)、そしてその異様に際立った「毒」、誰も真似できないマンガを彼女は書いている。ジョージ秋山が「アシュラ」を書き始めたときと同じようなインパクトを今回感じた。(04.04)



2004年07月05日(月)
「謎物語あるいは物語の謎」中公文庫 北村薫

「謎物語あるいは物語の謎」中公文庫 北村薫
ミステリーについてのエッセイである。トリックについて、先例について、解説について、解釈について。避けて通れない話題を通りながらも、北村薫はやはり独特の道を通る。ずいぶんと遠い回り道をしながら、いいたい事は一章につきたいてい一つ。

トリックについて、作家はいつも手品の種明かしを見た子どものように「なあんだ。馬鹿みたい。」といわれる危険を携えている。「しかし、友よ。それは犯す値打ちのある冒険なのだ。」と自らの覚悟を語る。いや、それは作家の「愉しみ」なのである。

見巧者としての解説者の文章を見てミステリーを読むほうがよっぽど作品世界を味わえる、場合がある事を北村薫は「解説」してみせる。なるほど「ニコラスクインの静かな世界」を読んでみたい気になった。

ミステリーについて、本格推理について、氏のまがう事無き「愛情溢れた文章」を浴びて、まずはまたミステリーの荒野に赴かん。(04.04)



2004年07月04日(日)
「口笛吹いて」文春文庫 重松清

「口笛吹いて」文春文庫 重松清
負けてしまう事に慣れてしまうことは、寂しい事だけど、小説の主人公にはなかなかなり難いけど、現実では非常にしばしばある事だろう。そして、そんな自分が嫌で、明日から人が変わったように頑張り始め貫き通す、ってことは、現実的にはめったにある事ではない。たとえ心の中では何度でも決心したとしても。そういう難しい登場人物たちを小説に登場させて、なおかつ、エンターテイメントとして読ませるというのが、重松清の凄いところなのだ。

子どもたちは簡単に「負け組」「勝ち組」なんて言う。親たちはそんな「組」なんて存在しない、と一応は言う。けれども本当は親たちがこの10年間でその言葉を作ったのであり、決して子どもが作ったわけではない。なんということだろう。親たちも子どもたちも辛い現実を生きているのだ。ただ人生どんなときでも「希望」だけはパンドラの箱の片隅には残っている。それが「口笛」だったり、「参考書」だったり、「カタツムリ」だったり、「雪合戦」だったり、「アジサイの花」だったりするのだ。(04.04)



2004年07月03日(土)
「茶色の朝」フランク・パヴロフ物語  藤本一勇 訳  大月書店

「茶色の朝」フランク・パヴロフ物語 ヴィセント・ギャロ絵 高橋哲哉メッセージ 藤本一勇 訳  大月書店
物語自体は大して新鮮ではない。「全体主義」的なこと、「反動」的な事は最初は小さなことからやってくる。それを「やり過ごしている」と、やがては自分の事として振りかかる。昔から良くいわれている事である。私が興味を覚えたのは、そういう「ありふれた」物語が、フランスでベストセラーになっているという宣伝の文句である。

物語は絵本形式を採っているので、ひどく簡単である。あのヴィセント・ギャロ監督の絵も彼の力強いペンタッチと優しいペンタッチが交互に現れ、面白いが、魅力的ではない。私を驚かせたのはこの本の出来た経緯である。1980年代末ごろからフランスでは極右政党が出てくる。98年の統一地方選挙で、この政党が躍進するに至り、パヴロフはこの本を出版する。そして2002年の大統領選挙でなんと決戦投票にこの政党の党首が最終候補に残るのである。ここに至りやっと大衆はこの本を発見し、ベストセラーに成るのである。あの選挙は私も注目していた。そしてシラクが勝利し、正直ほっとした。しかし一方ではよその国の出来事であると思っていた。しかし私はひるがえって考える。この本にかかれている事は果たして過去の出来事を寓話で現した事なのだろうか、あるいはよその国のことなのだろうか。この本が売れた経緯を知り、私は「あの」フランスでさえ気が付くのが決戦投票まで行ったのだ、いわんや、日本をや、と思ったものである。そう思ってもう一度読み返すとこの物語が生々しく現実的なお話に読めてしまうから不思議である。(04.04)



2004年07月02日(金)
「さぬきうどん決定録」

「さぬきうどん決定録」
以前のさぬきうどんツアーは一万円かけて瀬戸大橋を渡るという無謀な旅だったので、今回は電車を使った。費用は約1/4になった。しかし行けるところは高松駅周辺のみ。今回の有力な武器はこの本。うどんの名店を厳選している(らしい)ところと、地図と開店している時間帯が非常に具体的なところが「役に立つ」。

腹が空いたので先ず1件目は駅前のM店。汁は美味しい。2件目は今回の目玉、巻頭特集に載っているS店だ。凄い人出だ。麺の腰、だしとも美味しい。しかも安くて量が多い。うーむ満足。3件目はたくさん歩いて、琴平電鉄にも乗って、以前の旅の時閉まっていた「製麺所」タイプの店に行く。このしなびた雰囲気が素晴らしい。味は…素晴らしい!!単なる腰ではない、この延びるコシ、しかもS店より一回り安い。喫茶店で気分を静めて、次ぎのG店へ。これも巻頭特集に載っていた店だ。この味でなぜこの値段で出せるのか不思議なほどだ。思わずお代わり。常連さんとの世間話を聞くのも楽しい。最後は割烹店みたいな店。梅うどんを頼んだら、なんとうどんの付きだしまで出て550円。体中がうどんのようになった幸福な一日でした。



2004年07月01日(木)
「秘太刀馬の骨」文春文庫 藤沢周平

「秘太刀馬の骨」文春文庫 藤沢周平
藤沢周平の随想を読んでいる読者には良く知られている事なのだが、藤沢氏は大の海外ミステリー好きである。ミステリーの一つの分野に「犯人探し」ものがある。犯人は誰か、容易周到な読者はむろん気が付くかもしれないが、多くの読者は騙される。しかし一つだけ原則がある。社会派推理物とは違い、犯人は必ず「意外な人物」であるという事だ。

さて、この作品は先ずは「剣客小説」といっていいだろう。氏の真剣勝負の描写には定評がある。今年の秋にもまた、氏の剣客小説の一つが映画化されるそうで私は大いに楽しみなのだが、映像で見るのとはまた違い、文章で読むと「目にも止まらぬ速さ」とは想像の世界では本当に目にも止まらぬ速さとなり、楽しい事この上ない。

一方で犯人探し物としてもまた面白かった。秘剣継承者ははもちろん「意外な人物」であった。ただし、本来のミステリーファンは不満を抱くであろう。「きちんとした」伏線は張られていないからである。もちろん伏線は張られている。その微妙な伏線を私は大いに楽しんだ。そしてそれが氏の「奥ゆかしさ」なのだ。氏はこれが「本格推理物」として見られる事を避けたのである。というのが私の推理である。

この作品なによりも「時代小説」である。下城の太鼓の音で自宅に帰っていく武士たちの生活、北の国の四季の移り変わりを丁寧になぞっていく描写、その中での武士の「覚悟」、現代に通じる派閥の暗躍、氏が一番描きたかったものを読者は見落としてはならない。(04.04)