甘えた関係




甘えた関係
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2004年05月31日(月)
plasters
生きていけばいくほど、身体はどんどん汚くなる。
足首のキズも、ヒザコゾウにある削れた肉痕の、ヒジにあるやけどの痕も、眉下の釘にひっかけた痕も、ハスキー犬に噛まれた手のひらの痕も、包丁で切り落としそうになった痕のユビのも、胸のいきなり斬られた痕も、最初は無かった。
キズひとつない身体で生まれてきたのに、生きていけばいくほど、どんどん醜くなっていく。
かなしい。
けれど、かなしいだけじゃないから、きっと大丈夫。

2004年05月27日(木)
2002/05/11(土) 10:18

『こんなの弾けるの?学校の音楽知識なんて、全然だ。』
楽譜をパラパラを開きながら、このあたしが聞いているとでも確信しているように背を向けたままあなたは言う。
そう言いながら不器用に打たれたピアノの音が、溜められたように甘いだなんて、知りたくなかった。
あたしを大人扱いしないで。
《おまえは、他じゃなくて相手にもっと甘える必要があると思うよ。》
いつか貰った助言を思い出して顔をあげる。
けれど、あたしは実行できない。
怖いんじゃない。厭だからだ。
あたしというものの背景を説明する作業を、別にしなくてもいいと思いたい。
でも、早くしなくちゃ無くなってしまう。
このまましなかったあとの答えと、したあとの答えは解かっている。
したあとの答えをあたしは望んでいるのに、今しているのはしなかったときの式。
式は留まらない時間にどんどん解かれていって、形は答えが同じのまま解かれる度に変化をしていくだけ。
「何か弾ける?」
『いいえ。』
「じゃぁね、今あたしが弾いたげる。」
なるべく譜面が黒くて楽譜が厚いのを選ぶ。
「横に立たないで。あっちにでも座っていて。」
弾き終えて間があいて、それをほうっておいたら、口を開いた。
『なんて感想を言えばいいんだろう?』
「別になんでも。好きなように言って。」
『じゃぁ、すごいと思った。』
「他には?」
何でもいいから、背を向けているあたしへもっと誉めてそれを聞かせて。
全て、解かれていくのを感じながら。

2004年05月24日(月)
2001/11/22(木) 23:31

「付き合ってみたいです」
と、4月22日18時に呼び出してあたしがあなたに告白したとき。
あたしはあなたの名字の音しか知りませんでした。
だからって。
「ありがとうございます」
と、4月22日18時に呼び出されたあなたがあたしに告白されたとき。
よっしゃ、勝った。と思っていたなんて。
あたしは昨日知らされたばかりです。
電話で。
しかも、電話じゃんけんにあたしがグーだして勝って。
確かにあの時期は、もうどっちが告白するか、ていう雰囲気でしたが。
だからって、あのときにそんな心んなかでガッツ決めるコトはないでしょう。
ったく。
まぁ、コレを書くためにワザワザ去年の手帳を探して開いているあたしも人のコトは言えないけれど。
ったく。
はじめて会ったとき、あたしに名刺をさしだしました。
両手で。
あたしはそれを、受け取りました。
指2本で。
そうしたら、
「もう一回。」
また、あたしに両手で名刺をさしだしました。
全員普段着なセーターとかトレーナーとか着ているなかで、1人だけ背広。
第一印象、「何ヤツ」。
まさか、こんなことになるとはあたしも。
去年の手帳から、名刺が2枚、手の甲にあたってから床に落ちました。
拾います。あとで。

2004年05月22日(土)
1999/07/19 (月) 10:08

『ずっとココにいれるよ。』
そう、あたしが動かなければ。
あなたが動かなければ。
みんな動かなくて、だれも動かなければ。
ずっとココにいれる。
時は、やっぱり流れていくけれど、それはしずかだ。
音なんてしない。
しずかなせかい。
だれも動かず。
雨が降って、晴れて、空にひとつの雲が浮かび、まっくらな黒になって、結晶が落ちてくる。
風が吹き木々がそよぎ、花が開きそして閉じ、虫が飛んで死んでいって。
あたしは怒らない。
あなたは笑わない。泣かない。悲しまない。
声をださない。なにもはじまらない。つづかない。おわらない。
『ずっとココにいれるよ。』
あたしの頭を抱いて、あたしの身体にシャツをかぶせて、あなたは教えてくれた。
「でも、それって良いコト?正しい?逃げていない?」
上を向いて、腰をひねり、あなたの鎖骨にカオをうずめ、問う。
傍から見たら、そこは平和な、どこかに置かれたプラモデルの世界だ。
狂っているのかもしれない。
けれど。
だれが傍から見るのだろう?
プラモデルの人形がなにも思っていないですって?
ぜんぶ、割ったら見えるよ。
自分の目が全てならば。
壊したらみんな解かるよ。
その日初めて、その人の部屋に入った。

2004年05月21日(金)
2000/01/29 (水) 03:57

隣りの部屋でいつのまにか眠ってしまっていて、起きました。
あたしの上に、何故か薄い布団みたいのがかけてありました。
さて、犯人は誰なのでしょう。
戸が、隣りの部屋へと続く戸が、少しだけ開いていました。
戸の隙間の奥は、光にあふれていて、戸の隙間からは、台形に光がもれてきていました。
パチンパチン
戸の隙間から、聞こえてきました。
お布団ごと、ずずずいと移動して、覗いて見てみました。
その人は、背を丸めて、
パチンパチン
指の爪を切っているところでした。
その人は横顔で、手をパーに開いていて、長い指で、裸足で、真剣な目をして、ちっちゃい爪きりで、お父さん座りをしていました。
パチンパチン
足の爪も切って、やがて終わって、そして立ちあがりました。
ゴミ箱に、爪を捨てるためです。
「ねー、見せて。」
スキありまくりな姿だったので、あたしはためらわずに、声をかけました。
「はぃ?て、君、起きてたん?いつのまに?で、見てたの?」
うつ伏せになったまま息を吸って、答えようとしたら、
「いい、答えなくていい。」
見せに、あたしの寝転がっているところまできてくれました。
逆光。
あたしは彼の首に手をまわし、吸った息を吹きこみました。
「・・・なにしたんです。」
「だって、せっかく吸ったのに。」
とてもとても解かり易くって、あたしはそれがとてもとても好きになりました。
明日の誕生日にはこれがほしいなぁって、そう思いました。

2004年05月19日(水)
あるひ

ぎゅって、したことない?
遺骨を
ある?
あたしはね、ぎゅっていうか、抱いたっていうか、手の平にのせたことがあるよ。
ホントは、ぎゅってしたかったんだけれど、折れたらどうしよーっておもって、粉々になったらどうしよーっておもって、
指まげてそーっとつつんで、で、はなして、箱にかえしたの。
ほんとは、ぎゅっとしたかったし、ゆっくりとしたかったんだけれど、隣のふすまからは人の動く気配がしているから、そそくさとしかできなくってね。
もっと、ゆっくりとさわって、ゆっくりと、ゆっくりとしたかった。
ほんのりあったかかったよ。
生きてたらさわれなかったところに、やっとさわれた、そんな気がしたよ。
ちょっとうれしかった。
でも、やっぱりかなしかった。
なんでさわれちゃうんだろうって。
底のほうにあった灰の方が、あたしやっぱりほしかったのかな。

2004年05月18日(火)
スナーク

夢をみたの
明け方にね
あなたの出てくる、夢をみたの
好きっていう感情が、どういうものなのか、あたしにはやっぱりわからなくって
夜中、ふと不安になっては、「好き」という単語がでてくる本たちを広げて、理屈じゃなくて本能的なものなのかしらという見当をたてるくらいしかできなくって
だから、「好き」って言われたくらいじゃ駄目で、「好きって言ってよ」って催促されてから、数回目に、やっと、「好き」って言ってみる
そんなあたしなのに
その「好き」も、あたしにとっては、ただの二酸化炭素
それどころか、言わされたことに少し憤る
そんなあたしなのに
夢にでてきたあなたにね、彼女がいたの
あたしではなくて、
新しい彼女で、
それで、結婚するんだって、嬉しそうな顔で、あたしに、あなた言ったのよ
あたしの結婚願望なんて、「60歳過ぎたら茶飲み友達と」ってくらいで、
その理由も、「最期に一人は怖いから」っていうもので、
だから、あなたがその新しい彼女と「結婚」っていうものをどうしようが、あたしは全くなんとも思わないのだけれど、
あなたが、彼女に向けてしたその顔
許せないと思ったの
でもそれ以上に、とても怖かった
あたしにいつも向けてする、嬉しそうなその顔を、彼女に対してそそいでいる光景を
夢からさめても、まだ覚えている
起きたのは、朝だったのに
今は、困惑している
この残滓を、どう利用すれば、「好き」に加工できるのか
そもそも、加工したいのか、どうか
あたしのことだから、たぶんこのまま、放置しておいて、
この気持ちは、無くなっていくのでしょう
そうわかっていても、今は、ただ困惑している
夢のなかで湧いた怖いという感情が、まだ残っていることに

2004年05月12日(水)
チルド

誰としていても、何も感じない
くすぐったさが続くだけ
声なんてでない
理性なんてとばない
どこを見ていればいいんだろうなんて思いつつ、時々、ちらりと冷静に、滑稽だなと相手を見つめてしまう
相手の匂いを、好きだなんて思えない
むしろ、不快で避けてしまうくらい
だから、虐めるの
ごまかすために、知られないために
微かながら愉しんで、微かながら興奮するために
「後ろ手に縛られてると思って動いて」
「足開いて」
「甘えないで、ちゃんと言って」
そして、微かに仰け反る相手をみて、元通りに冷める
なんでこんなふうになれちゃうんだろう
なんであたしはなれないんだろう
色んな人の手記を眺めては思う
なんであたしはこうなんだろう
とろけなんてしない
力なんてぬけない
相手だけ熱い
抱きしめられるのしかすきじゃない
「好き」と言われる現実に、いつまで経ってもなれない
「嫌い」と言われる方が、安心すると思っている
けれど実際言われると、体中がざぁっと凍り付いて、耳がぼわっと、汗がでてきて
どこまでしたら嫌われないのか、わからないのが、とても不安で
どうしてここまで好かれたのか、わからないのが、とても怖くて
降りてきたコールタールみたいな現実感を、どうしたらいいのかわからない
どういう気持ちが好きなのか知らない
嫌いという気持ちしか知らない
みんなどんどん進んでいって、あたしだけまだ、初めの交差点で、途方に暮れている
誰にも嫌われたくはない
誰かに好かれるだなんてこと、考えたことがない


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