甘えた関係




甘えた関係
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2002年12月31日(火)
リラックス・ラベンダー

「でー、今から家を出るから」
『うん』
「絶対駅居てよね。絶対だからね。人多いとこで迷ったりするのヤだ」
『えーと、じゃー、一時間前から周辺で待機します』
「よし」
『んじゃー、お待ちしていますー』
「はいー」
「あ、あとひとつ。」
『なに?』
「あのさー・・・、日にちズレもほとんどなしでピタっとくるっていうあたしなのですが、3週間くらい遅れてるのよね」
「こーいうの言うのヤなんだけれど、だって、でも、いちおー。ほら、告ればくるっていうジンクスあるじゃん」
「・・・」
『・・・』
『・・・お待ちしていまーすー』
「わーい」

直前電話完了。
とゆーわけで、来年は、東京に転勤した恋人くんのとこで迎え撃つことになりました。

2002年12月30日(月)
上と外

子育てに集中したいから、という理由で3年間母方の祖父母宅へ預けられていたあたしは、5歳半のときに、3年ぶりに自分の親と新しい家族である妹に、対面をした。
3年間世話をしていてくれた祖父母とあたしとはどうしても人間的に合わなかったというのと、充分な説得も説明も受けずに3年間ほとんど親と接触がなかったというのとで、親へ引き渡される日、祖父の運転する車に乗りながら、あたしはずっと泣いていた。
親に自分は待たれているという自信がなかった。
このまま捨てられるんだと思った。
それは、車窓から見える風景が、3年前連れていかれるときに眺めたものと違っていたというのもある。
それは子供の錯覚ではなかった。
実際、祖父は、全く違う道を走らせていた。
後から聞いたハナシでは、それは、あたしと離れるのがイヤだったかららしいのだけれど。
そのときのあたしは、ただ、車のなかで泣き喚いてパニックになっていた。
「お家に帰りたいの」「帰らせて」「こんなとこもういたくない」
助手席から身を乗り出して運転席にいる祖父に訴えると、
『お家なんて行ったって、誰がいるんだ?』
祖父は、横顔でにやりと笑いながらあたしに聞いた。
後から聞いたハナシでは、それは、ろくに会いもしていないヘタしたら自分よりも今まであたしと接してもいない初孫の家族に嫉妬したかららしいのだけれど。
その言葉は、あたしに深く刺さって、涙は止まり泣き喚く気力も無くなった。
夕刻、着いた家は、あたしの知っていた家ではなかった。
あたしのいない間に、引っ越していたらしい。
頭のなかでずっと思い浮かべていた前の家の風景とは、全く重ならない、新しい、見知らぬ家。
初めて見る妹という人間の顔。
久しぶりに見た両親という人間の顔。
背後に立っていた祖父が、一歩下がった。
3人の方に、あたしは歩いていった。
後方から感じる祖父の視線、前方から感じる3人の視線。
緊張のあまりぐらぐらするアタマをなんとか騙しながら、階段をのぼった。
母からの第一声は、『なにしてるの?早くはいって』だった。
教育用として祖母から貰った本のページが、脳裏にひらりとよぎった。
「1+3=4」、そう、「4」にはなるんだけれど、だけれど、「1」と「3」は別々なんだ。

2002年12月29日(日)
おとつひも昨日もけふも見つれども 明日さへみまく欲しき君かも

あたしにとってとても大切な人間であったその人は、知り合った時点で、そのうち病気で死ぬということがわかっていた。
そもそも、病院で知り合いなんてつくるべきなんかじゃなかったのかもしれない。
人間としてとてもお気に入りで、打ちのされるように思っていた。
誰かに屈服をするということが、こんなに気持ちいいだなんて。
高校2年生だったあたしは、そんなことただはじめてで、病気のことは本人から知らされていて、いずれ死ぬということはわかっていたけれど、その死ぬ日まで、その人を味わっていたいと思っていた。
貫徹をしたいと。
これはあたしにとって必要なもの、そう意識してまでいた。
出来得るだけこの人を吸収したい。
幸い、あたしは受け入れられた。
学校の帰りに訪れて、休日に訪れて、病室で本を読んだり、眠ったり、時にはチョコミントのアイスを二人で分けて食べて、検査にはついていけるところまでついていって目があったら手を振ってピース、許可が得れる範囲で好きなよーに過ごして、一緒にいた。
病室で日記をつけていた。
交換日記じゃなくて、二人とも、独自の日記を。
その日起きたことを、とつとつと記した日記。
そう、あたしだけ続けていてどうするんだろう、自問自答して「何か」欲しくてウェブにあげてみた、初期のこの日記の、形態そのもののもの。
その人はベッドに座って机にノートを置いて書いて、あたしは床にヒザコゾウ立ちをして下敷きを敷いてベッドの上で書いて、ふと目線をあげると覗かれていたりした。
書き終えたあとのあたしの両方のヒザコゾウは、いつも赤くなっていて。
書いたあとには互いに見せあった。
日記のなかに自分が登場していると、うれしかった。
その個所だけ、何度も読んだ。

2002年12月28日(土)
ホットミルクには蜂蜜を

結局のところ、あれよ。
セイリョやヤマダは、あたしにとってオトコでもオンナでもないのだけれど、ヨースケさんはちがう。
好きになった、手に入れたい、ではないんだけれど、一番最初に意識したオトコ、ではあるのよね。
未だしたことないって思ってるし、だから初恋ではないんだけれど、自分とは別の生き物だってことを抵抗せずにすとんと思った、相手。
その証拠に、セイリョやヤマダとは、望むならば一緒にオフロにはいることもキスをすることも可能で、そうやってきたけれど、ヨースケさんとは絶対したくないし、できない。
触られるのもこわいし、手をつなぐ前にも「せーの」と思う。
そのくせ、いざ触られたり手をつないだりすると、このユビをどうしようなんてコトを一瞬、かんがえてしまう。
同じ車のなか、香りや体温や湿度を感じたときに、時々、ちょっと居づらいだなんて思うのは、そのせい。
同じ布団のなか、カオだけ出してつまんない映画を一人観ながら寝息を聞いて、一方的に守られているだなんて思って安心しちゃうのは、そのおかげ。


2002年12月27日(金)
all

髪を伸ばしてみようかと思ってから、はや一ヶ月。
現在、ちょっと長めのショート又はみじかめのボブ、になった。
今日、名古屋駅に出かけるついでに、小学校以来はじめて、前髪をナナメにしてみたら、『レトロな人形みたい』と何度も言われた。
伸ばし始めてから、まだ一度も、ヨースケさんに会ってはいない。
診察も、わざと、違うセンセに診てもらっていた。
どういうカオをすればいいのかわからなくって。
避けているコト、バレバレなんだろーな。
明日の診察は、ヨースケさんに診てもらえる時間帯に行こうかと思う。
まだ誰も、あたしが髪を伸ばしていることに気づいてはいないけれど、ヨースケさんになら気づかれると思う。
どんなカオをされるんだろう。
ちょっと楽しみで、ちょっと不安。

2002年12月23日(月)
みんなの国

時々、自分のプライドの高さが厭になる。
下げれば楽なる、と、解かっていても、下げることができない。
ふりほどけば、一緒に笑うことができると解かってはいるんだけれど。

2002年12月19日(木)
ブルーベリーマシュマロ
彼が殺されているとき、何も感じなかった。
彼が殺されたあとも、何も考えなかった。
ただ、あぁ、こういう人間でも殺されるんだ、そう思った。
趣味の悪い点線のように縦にずぶずぶと何箇所も刺した犯人は、ワンシーズンくらい経ってから逮捕された。
その連絡を聞いたときに、初めて、何かが解凍されたような、そんな気分になった。
彼はどういう人間だったのか、あたしはどう思っていたのか、事件はどういうものだったのか。
趣味が悪い点線のように縦にずぶずぶと何箇所も刺した気分はいかがでしたか?
そう犯人に聞きたかった。
頬をつらぬき、首をかすめ、肩に、胸に、腹に、太股に、ふくらはぎに、刺した気分は、いかがでしたか?
彼が抵抗をして、あなたの腕を深く引っ掻いても、静まることなく刺し続けた、そのときの気分はいかがでしたか?
心配をしなくてもいいのです。
だって、彼はあたしにとってそんな重要な人物でもなくて、ただの知り合い、たまたまフルネームを交換しあっていただけ、それだけですから。
図書館で時々見かけては互いに気をゆるめていた、それだけなのですから。
外見がではなくて、第一印象が、彼の持っている空気が、ちっとも怖い人じゃなくて、白旗をあげるには丁度いい人間。
彼が言うには、あたしの持っている空気は、とても閉鎖されていて緊張をさせるものらしくて、あまりにそうだから、少しちょっかいをかけてみたくなるものらしいけれど、だからいきなり名乗ったらしいのだけれど、それは別にどうでもいいの。
重要なのは、彼が、あたしにとってはちっとも怖くなくて、白旗を他人にいとも簡単にあげさせてしまう人間っていうことで、その彼が趣味の悪い点線のように縦にずぶずぶと何箇所も刺されて死んだということ。
先月、ゼミで行った刑務所には、その犯人が収監されていたらしい。
バスのなかでゼミの先生が、「どんな悪人がいるか」という例えで出した話のひとつはその年月からも内容からも、明らかにその人のことだった。
復讐とかそういうのじゃなくて、ただ、テレビ画面に映し出された犯人のカオを、あたしは覚えていて、感じは少し変わっているだろうけれど、犯人を見ることができるかな、そんなことを考えていた。
みんな、スタンプみたいに一様に先生が話したその事件のことを信じられないというカオをして聞いていたけれど(それは演技だったら大根で、素だったら数の意味しかない)、あたしは少し微笑んでいた。
知っているのよ、あたし。
そのこと、知っているのよ。
だって、殺された人はあたしの知り合いだったのだから。
警察の人が何か事情を聞きにくる、そんな何かを得られるような近い知り合いでも、ひっかかるようなおおっぴらの知り合いでも、なかったけれど、でも知り合いだったのだから。
誰にも一人にも言わなかったけれど。
なんで言わなかったのかというと、彼を、その時のことを、道化にしたくはなかったから、それと、なによりもったいないから。
彼のことを、あたし、フルネームしか知らなくて、話した内容はほとんど例え話で、でも、彼のその雰囲気を知っているだけで、なんだか全部知っているような気になって満足をしていた。
殺されてから気づいた。
それとも、殺されてから欠けた。
ぜんぜん満足してないこと、していないこと、できていないことに。
ときどき、ホントときどき、一年に10日あるかないかくらい、頭のなかで彼とのことを再現をしては、時計を見て、経った時間を数えて、思う。
でも、もうぜんぜん遅いから、プロファイルなんてもうぜんぜん遅いから、犯人に聞いてせめてもの情報を知りたかった。
どういうふうだったのか。
彼を殺したとき。
どういうふうに彼が死んでいったのか。
それをみて、どう思ったのか。
彼を殺した理由より方法を知りたい、なんて、最初は思っていたくせに、もう、そんなの、ぜんぜん嘘。
知りたくてたまらない。
どうやって、どうして、なんで、どんなふうに、なぜ、
彼を?
知りたくてたまらない。
唯一、まだ残っているもののうち、彼の家族を訪ねて聞くなんてとっぴなことじゃないから、あたしにも手が届きそうな情報だから。
それに、あたし、知って泣きあいたいんじゃないの。
欲しくてたまらないの。
こーいうときに人を殺すかもしれないんだわ。
そう思えるほどに、欲しくてたまらないの。
その時のことを、忘れようとなんてしないで、悪夢だっただなんて思って消し去ろうなんてしないで。
無くさないでよ。
もし無くしたのなら、それこそ、もっと、こーいうときに人を殺すかもしれないのだわ、なの。
一年に10日あるかないかくらいの、そのうちの何秒かを、その為に時間を使うかもしれないわ、なの。

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