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2011年07月10日(日) |
【Works】星を泳ぐサカナ |
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「天体望遠鏡の金は貯まった?」
僕がしたい話を、本田さんはわかってる。僕がなにを好きか、なにが大事か、ちゃんと憶えておいて、さらっと話題にしてくれる。
こういう気配りができるからモテるんだろうな……。
「……はい。ちゃくちゃくと、貯まってますよ」
「ほんとか〜? 無駄づかいして、貯まってないんじゃないの?」
肘で、つんつんつつかれた。
「む、無駄づかいなんて、しないですよ。携帯電話の料金払うぐらいだし」
「え。友だちと遊んだり、服買ったり、えろ本買ったりしないの?」
「友だちとは学校以外であまり遊ばないから、服もたくさんは必要ないんです」
「相変わらず真面目でいい子だな、優太郎。えろ本は?」
「いい子とは違うでしょ」
「いい子だよ。で、えろ本は?」
肩で、どんと体あたりしてやる。
睨み返す自分の顔が真っ赤に染まっているのはわかってて、本田さんが顔をそむけて声を殺して「たのしい」とくっくくっく笑うのが、悔しい。悔しいのに、お腹のあたりがそわそわくすぐったい。
悪い人だ。優しくて気配り上手で、悪い人だ。
「俺は高校の頃なんて遊びほうけてたけどなあ。バイク買った友だちに誘われて、バイト終わってから朝方まで山道をぐるぐる走ったりしてたよ。家帰っても、つまらないし」
悪くてモテて、遊びを知ってて、苦労人で……やっぱり寂しそうな人。
「山って、ぐるぐるすると楽しいんですか?」
「ぐるぐるするから楽しいんだよ」
ふうん? と首を傾げたら、本田さんが微苦笑した。仕事を続けながらさりげなく、僕の背中を軽くぽんと叩いて囁く。
「星もきれいだったよ」
……叩かれたところから、じわじわ想いが膨らんでいった。
悔しい。悪くて優しくて、寂しい人。そう想いながら、好きになっていく。
『星を泳ぐサカナ』―夜のサカナ
あさ。
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