◇日記◇
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2004年09月21日(火) 昨日

◇◆◇◆


噂には聞いていたが、今まで一度も現れたことはなかったのに
遂に私のところにもあの「ウェブ日記小僧」がやってきた。


◇◆

昨日の午後だった。

ぼんやりと痛い腰をさすりながら日記画面を見ていたら、そのすきまからぺらぺら、と
何かが現れた。
あまりにも突然だったので、まさか日記小僧だとは思わず、茫然として見ていたら、
ぺらぺらの何かは、首と肩をぐるりとまわして体の厚みを取り戻し、
たちまち日記小僧になった。正真正銘の日記小僧だった。


小僧は「ええと、お知らせしまする」と少し緊張気味の、案外かわいらしい声で言った。

「は、はい…」と私。

聞いていたとおり、身長10センチくらい。坊ちゃん刈り。黒く輝く瞳。
思わずじっとみつめる。

すると、日記小僧は少し照れたように視線をそらし、こほん、と咳払いをしてから言った。


「わがはいは、仕事中でありまする。
内密の仕事中でありまする。
よって、言えませぬが………(ここで小僧は大きく息を吸った)

言えませんけど、わがはいは知らせまする。
本当は決してしてはいけませんけどしまする。

何が何であるのか、なにがなんであるのか、

なにがぁなんでぇあるのかぁぁ(ここで小僧は声を張り上げた)


楽しかったことは永遠に心のなかに残りまする。
それだけが、まことでありまする。
ぼうぜんとしたり、遠い目をしたり、笑ったり、涙ぐんだり、酒を飲んだり、
すべて楽しかったことは、ここに(と小僧は自分の胸を指した)ありまする。

これがまことのまことでございまする。」


私が黙っていると、小僧はズボンのおしりのポケットからなにやら小さなものを取り出した。
私が差し出した手の指先に小僧が乗せたそれは、きらり、と光った。


「これからみんなに配りまする。何万個とありまする。
これは、ええと…1月23日の………違いまする……訂正しまする。

2003年1月29日のなかのひとつでありまする。
穏やかで礼儀正しく寛容、のなかのひとつでありまする。ええと……『も』ですかな。」


「ええ。『も』のようですね、とっても小さい『も』」


「では、わがはいは確かに届けました。行きまする。行きまする。」



そういうと、日記小僧は、ぺこり、とお辞儀をして、あっという間にぺらぺらと
画面のなかに消えてしまった。



あっけにとられる私。それから、気がついた。


小僧は、忙しいなかをわざわざ、大好きな友人のサイトの閉鎖を知らせに来てくれたのだ。
そして、寂しがるであろう私を元気づけようとしてくれたのだ。
指先に光る小さな小さな『も』。これがなによりの証拠である。


『こんなふうに消えてしまうものを形に変えるのが
ヤツの仕事だとしたらなかなか悪くないじゃないか』

という○ちゃんの言葉が、胸によみがえった。
胸がきゅん、と鳴った。
確かに。
なかなか悪くない。


ウェブ日記小僧のシャツの裾が相変わらずズボンからはみ出していたことを思い出し、
くすりと笑うと、やわらかな寂しさが体中にひろがった。


窓の外には、秋晴れの高い高い青空が広がっていた。


sai |MAILBBSDiaryINDEXpastwill

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