Rollin' Age

2004年11月05日(金)
 新聞号外に見る社会史

 というテーマで、新書一冊書けると思うんですが。ネットで軽く検索かけてみたところ、そういう著作はまだ世の中にないようなので、数十年後にまだやる気があれば自分で書いてみたいと思うこのごろ。

 それはともかく。先日の米大統領選で、友人から「どっちが勝つと思う?」というメールが来たものの、そんなん俺に分かるわけもなく。ブッシュ再選が決まった後も、インターネットを含む各メディアで、今後の展開について議論百出のようですけれど、そういうの語る見識が俺にあるわけもなく。もっと身近な例で何か語るとするならば、「号外」についてなのです。

 米国で投票が終わった当日、日本の各新聞社はいつ結果が出るかに目を光らし、号外を出すタイミングを狙っていました。投票結果が出る時間によって、対応が変わってくるんです。だいたいどこも午後9時から12時にかけて朝刊を刷るので、その時間帯以外ならば、号外で対応しようというわけです。すなわち、選挙結果が分かるのが3日昼過ぎから夕方の間ならば、その日の夜までに号外。夕方から夜にかけてならば4日の朝刊。深夜から早朝にかけてならば4日の朝で号外。4日の午前中なら夕刊で・・・と。

 結果だけ見ると、4日の朝刊でブッシュ再選と報じられていたので、ちょうどよく3日の夜に確定し、朝刊に投げ入れたことになります。おかげさまで号外はなく、4日の朝の通勤時間帯にサラリーマンの群れに飛び込んで「号外でーす。ブッシュ再選決まりましたー。号外でーす」とやらずに済み、一安心。当日、号外要員として待機を命じられていたので。ただ、いつ決まるか、いつ呼び出されるかと、まんじりとしない夜を過ごしたわけだけれども。

 今年度入ってからだけでも、「フセイン捕獲」とか「拉致被害者帰国」だとか、何度も号外が出てます。そのうち2回、大阪の梅田駅や京橋駅で配ったことがある。配りながら、なんでこんなことやるんだろうと、不思議に思ったりもします。だって、テレビがあるんだし。携帯にニュースが配信される時代だし。わざわざ駅前に出張って、すぐ捨てられるだろうに配るのはなんの意味があるのかと。そういう問いを責任者に投げかけたら、こんな答え。
 
 「まぁ、他紙がやるのにうちがやらないわけにいかないんだよ」。更に言うと、「今回あそこは★部だから、うちは★部撒こう」という示し合わせもやられている、らしい。なんだそりゃと。要は、宣伝・パフォーマンスの類であって、こんなの報道じゃないんだなぁと思った。新聞社の収入の約半分は購読料。そして、業界全般に購読者は減っている現状。号外を出してアピールすることで、少しでも読者獲得につなげたい、そんな思惑もあるようです。

 そういう考えだから、配った号外が散乱しないように、道端に捨てられるようなことがあれば拾って帰ります。街中で「なんとか新聞」がグシャグシャになって散乱してたらイメージダウンになるので。そんな舞台裏。

 ただ。テレビがあるネットがあろうとも、直接情報を届けに行くことには意味があるという見方もあるようです。

 又聞きなので本当かは知らないのだけれど、例えば阪神大震災の時。ライフラインの復旧もままならず、印刷所も打撃を受けた中で、読売新聞社は他紙に先駆けて街頭で新聞を配り、被害状況を伝えた。以後、関西での購読者を増やしたのだとか。テレビも点かず携帯も通じない状況で、「いったいどうなっているんだろう」と不安でいるときに手元に新聞が届けられたとしたら、多分むさぼるようにして読むのではないか、そんな気はします。

 それはまぁ特殊な事情だとしても、号外を配ってる時の、街行く人の食いつきは、実際すごいもんがあります。こっちが声を張り上げてるせいもあるけれど、そこかしこからわらわらと人が集まってきて、「何があったの?」「1部ちょうだい」と、強い興味を持って取っていきます。何千部があっという間に無くなる。「拉致被害者帰国」の際は、手渡した号外のでっかい見出しを見て、「あぁ良かったねぇ」とかいった声もちらほら聞かれた。

 そうした反応に接すると、あぁ、人は知ることに飢えているんだなぁと思ったりもするわけです。そして、号外を配る際の臨場感、「えらいこっちゃ!」という、どこか祭のような雰囲気があることについても考えます。もう少し踏み込んで言うと、「自分も渦中にある」という感覚。自分とは関係ない出来事が急に身近に感じられる瞬間が、号外なのかもしれません。

 「俺ら週刊誌とは違うんだぜ」という気取った顔をした日本の新聞たちが、「ニュースです!ニュースです!!」とあからさまに人々を煽る瞬間。その瞬間を作り出しているのは、報道の使命なのか、覗き見根性なのか、それともマーケティング戦略なのか。号外というのは、どこか不思議な現象です。


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