2001年11月16日(金) ビンタマン

宵闇に包まれた世界。

闇の中、異世界のように白く照らし出される終電間際のホーム。

彼は一人立っていた。

電車は客を吐き出し吸い込んでゆく。

降車した客は、そそくさと階段を降り家路につく。

無言のままで。

こんなにも人がいるのに、みな寒さに襟を寄せ、ただ無言で歩く。

誰にも触れ合わぬまま。

ホームに一人、留まるのは彼のみ。

上流から下流に流れる水のように消えて行く人たち。

やがて、電車も人々と同じように動き出す。

一日の終わりの情景。

車窓から顔を出す車掌は、この閑散としたホームを幾度見たことだろう。

徐々に加速度を上げてゆく電車。

奇しくもそれは家路へと急ぐ乗客の姿に似ている。

電車が完全に目の前を去りゆく瞬間。

ホームの端に立つ彼は、ゆっくりと手を上げた。

手に触れるのは。





ばっちーん





時速40Kmで迫り来る車掌の頬。

小気味よい音が、静寂のホームを包む。

そして彼も家路につく。

孤高のビンタマン。





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