TOM's Diary
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S氏は、庭に面したリビングでソファーに腰掛けていた。 正面には天井まで届く大きなガラス窓を通して、S氏自慢の 庭を見ることができる。
S氏は緑茶を飲みながら手入れの行き届いた芝生を眺めていた。 芝生は朝露に濡れ、休日の朝日を受けてキラキラと輝き、 まばゆいほどだった。その向こうには花壇が設けられており いろいろな色の花が植えられている。
それらはS氏の思考を活性化させるのには役立っていたが、 S氏はそれらを眺めているだけで見ているわけではなかった。 S氏の頭の中では地震の対策が頭を巡りめぐっていた。
S氏の家はそれほど古い建物ではなかったが、出来上がった ものを購入したので、骨組みや内部がどのようになっているか 判らなかった。それが1番の不安材料になっていた。 もちろん、S氏はそれほど建築物には詳しく無いのだが、 それでも建築中の骨組みだけの建物を見れば、丈夫そうだとか すぐに倒れそうだくらいのことは判る。もちろんいまどき すぐに倒れそうな家など見た事はないが・・・・ S氏の家もそんな簡単に倒れるとは思えないが、手抜き工事と 言うこともありえる。
基礎はしっかり作られているか? 基礎と骨組みはしっかり固定されているか? 柱は十分な強度をもっているか? 屋根は重たすぎたりしないか?
考えれば考えるほど不安になってくる。
S氏は地震が来たときにどんな風に家が揺れるか想像してみた。 まず、基礎が揺れると、その上で骨組みがどんどんずれていく。 多少のズレなら、むしろ衝撃を吸収してよいかもしれない。 しかし、それによってガスや水道の配管に無理な力が加わって 折れたりしないだろうか? さらに、屋根が重過ぎて柱が折れたりしないだろうか?
だいたい、地面が揺れるからいけなんだ。 家を上からぶら下げてしまえばいいんだ。 S氏はさっそく家の周りに櫓を組み、家をぶら下げた。 もちろん、直接家を吊り下げるわけにはいかない。 基礎の下に土台を埋めその土台の上に家が載っている状態にする。 直接吊るされているのはその土台と言うしかけだ。 いかにも地震に強そうになった。
その晩、S氏はゆらゆらとゆっくり揺れる家の中で船酔いに 苦しむことになろうとは、そのときは思いも及ばなかった・・・
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