井口健二のOn the Production
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2025年01月19日(日) プロジェクト・サイレンス、ミゼリコルディア、風たちの学校、初級演技レッスン、ジュ・テーム、ジュ・テーム

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『プロジェクト・サイレンス』“탈출: 프로젝트 사일런스”
韓国のインディペンデント映画会社「光化門シネマ」代表で
2018年『小公女』などの製作でも知られるキム・テゴンが、
自ら脚本・監督も手掛けたディザスター・ムーヴィ。
舞台は深い霧に包まれた高速橋。空港と結んで海を渡る長大
な橋の中程で多重衝突事故が発生する。そしてその事故が反
対車線にも影響し始めた時、そこに主人公らの乗った車が差
し掛かる。
主人公の1人目は国家保安室の行政官。大統領の側近でもあ
る彼は留学する娘を見送るために空港に向かっていたが、深
い霧と事故の影響で橋の上で立ち往生となる。そして2人目
は極秘プロジェクトに関っていた科学者だったが…。
そのプロジェクトの実験体を運んでいた車両が事故に巻き込
まれ、その救援に派遣されたヘリコプターがあろうことか橋
に激突、橋の崩落が始まる。しかも恐怖の実験体が解き放た
れてしまう。
さらにそこにある事情で主人公を追ってきたレッカー車の運
転士とその愛犬、海外遠征に向かう途中のプロゴルファーや
海外旅行から帰国したばかりの老夫婦らが絡んで、未曾有の
災害からの脱出劇が展開される。

出演は2019年12月2日付題名紹介『PMC ザ・バンカー』など
のイ・ソンギュン。2023年12月に他界した俳優が生前に撮影
完了していた作品の1本だ。他に2018年2月25日付題名紹介
『名もなき野良犬の輪舞』などのキム・ヒウォン。
さらに2019年4月紹介『神と共に』などのチュ・ジフン。ベ
テランのムン・ソングとイェ・スジョン。新鋭のパク・ヒボ
ンとパク・ジュヒョン。そして2017年7月紹介『新感染ファ
イナル・エクスプレス』などのキム・スアンらが脇を固めて
いる。
なお監督は以前に映画祭の脚本賞も受賞している人だが、本
作の共同脚本には『新感染ファイナル・エクスプレス』など
のパク・ジュソクと、『神と共に』などのキム・ヨンファも
参加しているという作品だ。
注文は1点だけ、邦題にもなっているプロジェクトの特性を
生かし切れていないのが物足りないかな。でもそこまでやる
と話が煩雑になりすぎるのだろうとは推測できるところだ。
それをあっさり捨てているのも見事と言える。
それにしても次から次とシチュエーションが変化して行くの
も見事な展開で、それを描き切った監督の手腕にも敬服する
ところだ。派手なアクションなどは無いけどエンターテイメ
ントはこうあるべきというお手本のような作品でもある。

公開は2月28日より、東京地区は新宿バルト9他にて全国ロ
ードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ハピネットファントム・スタジ
オの招待で試写を観て投稿するものです。

『ミゼリコルディア』“Miséricorde”
現代フランス映画を代表するとされるアラン・ギロディ監督
による日本未公開3作品が一挙公開されることになり、その
1作となる最新作の試写が行われた。
パン職人の主人公は師匠だった親方の葬儀のために以前に暮
らした寒村にやって来る。そして暫くの間、未亡人の家に逗
留することにするが、それがいろいろな憶測を呼び始める。
そして以前は親友だった師匠の息子が文句を言い出す。
それは自らに職人の才能を持たなかった息子の嫉妬のように
も見えたが、その言動がエスカレートし、遂には主人公と母
親との関係を疑い出すようにもなる。それには反論する主人
公だったが、そこで事件が起きてしまう。
ところが加害者である主人公には人望があり、被害者が嫌わ
れ者であったことから事態がおかしくなり始める。そこに教
会の神父や警察も絡んで…。さらには性的マイノリティの問
題も関り始める。

出演は2018年6月3日付題名紹介『グッバイ・ゴダール!』
などのフェリックス・キシル。1980年アラン・レネ監督『ア
メリカの伯父さん』などのカトリーヌ・フロ。他にジャック
・ドゥヴレイ、デヴィッド・アヤラらが脇を固めている。
監督がどういう性癖の人かは判らないが、ゲイの絆みたいな
ものが巧みに描かれた作品とは言えそうだ。そして全体の物
語も極めて巧みに作られている。これはカイエ・デュ・シネ
マ誌ベスト10の第1位も納得だ。
そして意外性を次々に繰り出してくる脚本の上手さも堪能で
きて、何とも芳醇な作品と言えそうだ。こんな作品が3作連
続で観られるというのも楽しみになってくる。後2本の試写
が待ち遠しくなってきた。
なお試写状ではレイティングの記載はなかったが、劇中では
以前にはスクリーンに登場しえなかったものが登場する。し
かもそれがテーマを集約してしっかりと艶技しているのには
笑ってしまった。
1976年大島渚監督『愛のコリーダ』では主演の藤竜也が苦労
したと聞いたが、その労苦は当時のスクリーンには反映され
なかった。そんな歴史も感じさせてくれる作品でもあった。
そんなこと関係ない話だが。

公開は3月22日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社サニーフィルムの招待で試写を
観て投稿するものです。

『風たちの学校』
愛知県新城市・奥三河にある学校法人黄柳野学園・つげの高
等学校を舞台に、その全寮制全日制普通科の学園に学ぶ生徒
を追ったドキュメンタリー。
登場するのは男女1名ずつの生徒。その内の女子生徒は学内
の和太鼓のチームに参加して横笛の演奏に挑戦している。他
方の男子生徒はアメリカの大学を目指したいとしているだけ
で、傍目にもそれが真の目標なのか見えてこない。
そんな2人の姿が、先生方の指導や父兄との3者面談の様子
などを通して描かれて行く。さらに学園祭や町の行事に参加
して行く様子なども描かれる。それらは普通の学校と変わら
ないようでもあるし、明確な違いなどは判らない。
ただ2人は前の学校では不登校で、そこからこの学校に辿り
着いたということは紹介されるが、だからと言ってここで特
別な教育がなされているものでもないし、映画自体は普通の
学園と変わらない生活を描いているものだ。
実際に映画の中では彼らが不登校になった理由などは明らか
にされないし、3者面談のシーンなどで多少伺える部分はあ
るが、その辺を敢えて追求しない制作者の姿勢は貫かれてい
る感じはした。

監督・撮影・編集は田中健太。大阪芸術大学映像学科卒で在
学中に原一男監督の制作指導を受けたという監督は、自身が
つげの高等学校の卒業生で、従ってその後輩に寄り添う目が
この作品を生み出したとも言えそうだ。
本作のような社会的な事象を扱ったドキュメンタリーには、
正直に言ってある種の問題提起を期待てしまう。しかし本作
の場合はこの学園の存在自体が問題提起なのであって、そこ
に敢えて何かを付け加える必要はなかった。
そこで監督の目はただ彼らの姿を追い続けることに終始して
いるものだが、その優しさ温かさが果たして作品の存在価値
に寄与しているかどうか。ただ学園のPRに終わってしまっ
ている感じなのは物足りなかったかな。
それからプレス資料を見ると2人のその後が紹介されていた
ものだが、ここはやはり本作中でもその辺まではフォローし
て欲しかったかな。敢えてそれを描かなかったことにもモヤ
モヤを感じてしまったものだ。

公開は3月15日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国
順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給を行う合同会社はなしの招待で試写
を観て投稿するものです。

『初級演技レッスン』
CMディレクターとして数々の賞を受賞し、2020年の長編デ
ビュー作『写真の女』で世界40冠を達成したという串田壮史
監督が、埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザの製作
で発表したかなりファンタスティックな要素のある作品。
物語は黒衣の男性が廃工場を借りて題名表記の会場を開くと
ころから始まる。そこにオーディションを目指す少年が現れ
てレッスンが開始されるが、それは少年の記憶を過去へと辿
る不思議な体験に繋がっていた。
さらに登場人物はもう1人。少年の通う学校では「演劇教育
の必須科目化」の是非を問う教師へのアンケートが行われて
おり、少年を担任する女性教師が「初級演技レッスン」の会
場にやって来る。
そしてレッスンを受けた彼女もまた自らの記憶を辿る体験に
導かれるが…。

出演は2022年5月紹介『ビリーバーズ』などの毎熊克哉と、
2022年7月紹介『夜明けまでバス停で』などの大西礼芳。そ
れに2008年生まれで2023年『雑魚どもよ、大志を抱け!』な
どの岩田泰。
物語は作中でも言及される中国戦国時代に荘子が著した「胡
蝶の夢」をモティーフとしており、夢と現実の狭間が巧みに
描かれた作品となっている。そしてそこに登場人物らの過去
に繋がる物語が展開される。
しかもその物語の展開が上手い。これはファンタシーという
より夢という科学を応用したSFとも呼べる作品で、それは
SFファンの自分にも納得できたし、プロパー外からこんな
作品が提示されたことに驚きも感じられたものだ。
脚本・編集も手掛けた串田監督にどれほどの認識があったか
は判らないが、新年早々からこれは今年のSF映画の収穫と
言える作品に出合えた思いがした。そんな気分にもさせてく
れる作品だった。
因に監督は2023年発表の第2作では「Jホラー第3波の幕開
け」とも評されたそうだが、ホラー・SF映画界に新たな才
能が誕生したのかもしれない。監督の次回作にも大いに期待
を持ちたいものだ。

公開は2月22日より、東京地区は渋谷ユーロスペース、埼玉
県はMOVIX 川口他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社インターフィルムの招待で試写
を観て投稿するものです。

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』“Je t'aime, je t'aime”
ヌーヴェル・ヴァーグの巨匠の1人とされるアラン・レネ監
督が1968年に発表し、SF映画史を語る上で必ずと言ってい
い程登場する作品が日本では劇場初公開されることになり、
試写会が行われた。
物語は、自殺を図ったものの一命をとりとめた主人公がとあ
る研究に誘われる。それは薬物を使ってタイムトラヴェルを
行うという研究だったが、動物実験では過去に到達したか否
か判明せず。さらに生体爆発の危険もあった。
しかし元々自殺志願者だった主人公は死の危険を顧みず、そ
の実験の被験者となる。そして実験が始まるが、それはちょ
うど1年前のバカンスの海辺で彼女と愛し合った記憶の再現
だった。
ところが実験が始まると彼の身体は同じ時点を繰り返し訪れ
ることになり、その都度異なる出来事が起こり始める。果た
してそれは実験失敗の前兆なのか…。

出演はフランソワ・トリュフォー監督の『黒衣の花嫁』など
生涯 100本以上の映画舞台で活躍したクロード・リシュと、
フレッド・ジンネマン監督『ジャッカルの日』などハリウッ
ド映画でも活躍したオルガ・ジョルジュ=ピコ。
タイムトラヴェル・テーマということでSF映画史に名を残
し、以後の多くの作品にも影響を及ぼした作品だが、現状で
観るとタイムトラヴェルはギミックとして使われているだけ
で、監督の主眼は人間模様の方に置かれている。
まあ往時の状況はこれをSF映画と呼びたくなるほど作品に
飢えていたものだが、実際に監督自身もインタヴューでSF
映画ではないと明言しているもので、今更これをSF映画で
評価するのは失礼かもしれない。
でもその時代にこれを描いたというのは、それなりにSFへ
の理解もあったとは言えるのだろう。そういう敬意は表して
おきたい作品ではある。まあこの前後にはゴダールの『アル
ファビル』などもあった時代の作品だ。
実は直上の作品も同じ日に鑑賞していてその認識の違いにも
いろいろ考えさせられたが、SFの環境は当時より好転した
とは言えそうだ。その認識のためにも観ることをお勧めする
作品だ。

公開は2月28日より、東京地区は角川シネマ有楽町他にて全
国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社コピアポア・フィルムの招待で
試写を観て投稿するものです。


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井口健二