井口健二のOn the Production
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2023年12月24日(日) 梟−フクロウ−、水平線、PLAY!、ボーはおそれている

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『梟−フクロウ−』“올빼미”
1392年から1910年までの 519年に及ぶ朝鮮王朝の歴史を記し
た「朝鮮王朝実録」において、毒殺されたとの記述が残る昭
顕世子(ソヒョンセジャ)の史実に基づくフィクション作品。
物語の主人公は盲目の鍼師ギョンス。彼は目が見えない中で
知識と技術を高め、脈を診ることもなく病名を言い当てるな
ど才能を発揮して見事に宮廷での職を得ている。そんな彼に
は守らなければならない病弱の弟がいたが…。
そんなある日、1637年の丙子の乱以来、人質として瀋陽に囚
われていた世子の帰国が実現する。しかし人質先の清で勉学
を積んだ世子と父王仁祖との間には確執が生じており、宮廷
には只ならぬ雰囲気が漂い始める。
それでも宮廷の健康維持に奮闘し、特に世子が祖国に残した
息子の健康を診ていたギョンスには世子も称賛の目を向ける
ようになり、夜間は僅かな視力が生じる彼に特別なレンズが
下賜されるなど親交も生じていた。
ところがそんな世子が突然病に倒れ、駆け付けたギョンスは
その病状に只ならぬものを感じる。そしてギョンスは暗闇の
中で世子が謀殺されたことを知ってしまう。しかもその首謀
者を示す証拠も存在した。

脚本と監督は2005年『王の男』で助監督を務めていたという
アン・テジンのデビュー作。2005年作もフィクション化され
た歴史劇だったものだが、本作ではさらにフィクションの部
分で見事な展開が描かれている。
出演は2019年11月紹介『スピード・スクワッドひき逃げ専門
捜査班』などのリュ・ジョンヨル。国王役には『王の男』や
2018年3月11日付題名紹介『タクシー運転手約束は海を越え
て』などのユ・ヘジン。
他にチェ・ムソン、チョ・ソンハ、パク・ミョンフン、キム
・ソンチョル、テレビシリーズで人気を得て本作でスクリー
ンデビューのアン・ウンジン、2023年2月紹介『不思議の国
の数学者』などのチョ・ユンソらが脇を固めている。
正直に言って朝鮮王朝の歴史などはたまに映画で見知る程度
で、ほとんど理解の外にあるものだが、それでもそこに盛り
込まれたフィクションの面白さが本作を際立たせている感じ
がする。
暗視の目という設定は2004年7月紹介『リディック』などの
先例はあるが、本作ではそれをしっかりと描き切っており、
ドラマや物語の展開も見事な作品と言える。これぞ歴史フィ
クションという感じの作品だ。

公開は2024年2月9日より、東京地区はヒューマントラスト
シネマ有楽町、新宿武蔵野館他で全国ロードショウとなる。

『水平線』
2008年5月紹介『ビルと動物園』などの俳優小林且弥が、同
作の監督齋藤孝の脚本を基に、2023年10月紹介『マリの話』
などのピエール瀧の主演で映画化した監督デビュー作。
主人公は福島県の港町で海洋散骨事業を営む男性。それは委
託された遺骨を細かく砕き、水溶紙に包んで船上から海に流
すというものだ。そしてその海は、津波で行方不明のままの
人々が眠る鎮魂の海でもある。
そんな男性の許に骨壺を持った1人の男が現れ、散骨を依頼
する。しかし必要な書類が揃っておらず、主人公は一時遺骨
を預かることにするが、その遺骨には曰くがあり、主人公は
トラブルに巻き込まれて行くことになる。
そしてそのトラブルは、周囲の人々や唯一人の家族である娘
との確執も生むことになり…。

共演は2019年8月4日付題名紹介『左様なら』などの栗林藍
希、2022年6月紹介『激怒』などの足立智充、2012年7月紹
介『鍵泥棒のメソッド』などの内田滋、2019年7月紹介『超
・少年探偵団NEO Beginning』などの押田岳。
さらに円井わん、高橋良輔、清水優、遊屋慎太郎、大方斐紗
子、大堀こういち、渡辺哲らが脇を固めている。
物語の背景には3・11の震災があり、主人公には津波で行方
不明のままの家族がいるといった設定もある。そんな状況で
の散骨業ということになるが、さらにそこからの屈折もなま
じではないという感じになる。
それは主人公の問題だけではない様々な要素が絡み合ったも
ので、その展開にも強く心を惹かれるものがあった。実際に
本作に描かれたドラマは、単に震災の後遺症を描いただけに
は留まらないものだ。
因に本作は、2018年に小林が初めての舞台演出を依頼された
際に齋藤孝監督と共に企画したものだったそうだ。ところが
その企画はCOVID-19の影響などで頓挫し、舞台演出デビュー
は他の作品で行ったとのこと。
しかし福島での取材活動などが心に残る小林は新たに映画監
督デビュー作品の題材として本作を再考、最初から主演に希
望していたというピエール瀧を迎えて実現に漕ぎ着けたもの
だそうだ。
従って本作に描かれた屈折は、恐らくは福島での取材の中で
感じ取られたものであったのだろうし、そんな外部の人間に
は窺い知れない苦しみが描かれた作品とも言えそうだ。

公開は2023年12月にフォーラム福島で先行上映の後、東京地
区は2024年3月1日よりテアトル新宿他にて全国ロードショ
ウとなる。

『PLAY!〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』
特定非営利活動法人北米教育eスポーツ連盟日本本部調べで
【eスポーツ】を題材にした日本初の劇映画と称する作品。
主人公は徳島の高等専門学校に通う生徒3人。1人目は学力
優秀だが怪我で挫折し人間関係が上手くできない。2人目は
学内の人気者だが家庭に問題を抱えている。そして3人目は
Vtuberに嵌ってリアルな友人関係が持てない。
そんな3人がひょんなことからチームを組み、全国高校eス
ポーツ選手権に挑むことになる。とは言うものの競技ゲーム
で全国有数の腕前を持つ1人以外は全くの初心者、それでも
巧みな駆け引きで全国大会出場を勝ち取るが…。
物語はそんな全国大会出場までのチームの進捗と共に、個々
の家庭内での問題なども描いて行く。それはまあ青春映画の
定番というような感じの展開の作品だ。そこにゲームの映像
などが挿入される。

出演は、2023年3月紹介『Village/ヴィレッジ』などの奥平
大兼、MEN'S NON-NOモデルオーディショングランプリ受賞者
で2019年10月6日付題名紹介『決算!忠臣蔵』などに出演の
鈴鹿央士。他に山下リオ、小倉史也。
また花瀬琴音、斉藤陽一郎、冨樫真、山田キヌヲ、薬丸翔、
夏生大湖、岩本晟夢、徳留歌織、杉山ひこひこ、村上航、胡
桃のあ、西間木冠、味元耀大、和田聰宏、古舘佑太郎、三浦
誠己らが脇を固めている。
企画・プロデュースは「天外魔境シリーズ」などを手掛ける
クリエーターの広井王子、脚本はテレビ小説『ブギウギ』な
どの櫻井剛、監督は2020年3月22日付題名紹介『のぼる小寺
さん』などの古厩智之が担当した。
物語の背景は2018年に第1回大会が開催された全国高校eス
ポーツ選手権。この大会では実際に徳島の阿南工業高等専門
学校が全国大会に出場しているものだが、そこに盛り込まれ
た青春ドラマの展開はあまりに定番過ぎるかな。
今更こんな青春模様は恥ずかしくもなるが、でもまあ挫折や
はぐれものの中で育まれる友情の尊さみたいなものは、ど定
番の展開の中でこそ発揮されているもの。これは永遠に不滅
なものなのかもしれない。
ただゲームの映像にはもう少し工夫が欲しかったかな。特に
決め技で同じ映像が繰り返されるのは興ざめ。因にこの映像
は大会の公式ページの動画にも登場するもので、実際にこの
通りだったのだろうが、映画的には工夫が欲しかった。
とは言え、eスポーツでも友情や絆が育まれるというのは、
企画者の言いたいところではあるのだろうし、それを定番の
青春ドラマで描くのは常套ではある。その意味では巧みに作
られた作品なのだろう。

公開は2024年3月8日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷
他にて全国ロードショウとなる。

『ボーはおそれている』“Beau Is Afraid”
2018年10月紹介『ヘレディタリー/継承』、2019年12月2日
付題名紹介『ミッドサマー』に続くアリ・アスター脚本、監
督による上映時間 179分の第3作。
主人公のボーが暮らすのは終末を思わせる荒んだ都会にある
アパートの一室。極度の心配性のボーは医師から飲み薬を処
方されるが、それは水無しで飲むと死ぬかもしれないという
劇薬だった。
そして夜になり、翌日母親を訪ねるため早朝の飛行機便を予
約したボーは早く寝ようとするのだが、突然ドアが叩かれ、
ドアの下から「静かにしろ」という手紙が差し込まれる。そ
れは全く身に覚えのないことだった。
ところがその抗議は夜中じゅう繰り返され、ようやく寝つい
たボーが起きたのは飛行機の出発にぎりぎりの時間。しかも
パニックになったボーが処方された薬を飲むと水道が断水に
なっており、慌てて水を求めたボーは…。
まず不穏な雰囲気の中で物語がスタートし、そこからとんで
もないドタバタ劇が繰り広げられて行く。

主演は2019年4月21日付題名紹介『ゴールデン・リバー』な
どのホアキン・フェニックス。共演には2012年6月紹介『白
雪姫と鏡の女王』などのネイサン・レーン、2022年12月紹介
『WORTH 命の値段』などのエイミー・ライアン。
他にスティーヴン・マッキンリー・ヘンダースン、ヘイリー
・スクワイアーズ、ドゥニ・メノーシェ、カイリー・ロジャ
ーズ、パーカー・ポージー、パティ・ルポーンらが脇を固め
ている。
心配性の裏に潜むトラウマなど、現代人が陥りそうな恐怖が
次々に提示され、それが無声映画時代のスラップスティック
を髣髴とさせるドタバタやアクションの連続の中で展開され
て行く。
しかも上映時間は約3時間の長尺。それをしっかりと描き切
るのだから、これは鬼才というよりもはや怪物としか言いよ
うのない監督の作品だ。それにしてもトラウマの正体がこれ
とは…、監督は小松左京の読者なのかな?
兎にも角にもすさまじいエネルギーで、いやはや参りました
としか言いようのない作品だった。

公開は2024年2月16日より、東京地区はヒューマントラスト
シネマ渋谷、グランドシネマサンシャイン池袋、TOHOシネマ
ズ日比谷他にて全国ロードショウとなる。
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 以上で今年の更新は終了。2023年は試写会で 181本を鑑賞
させていただきました。とは言えこの本数でベスト10の選定
などはおこがましいので、そのようなことは控えさせていた
だきます。
 なお 181本の内で先週鑑賞した1本は情報開示の規制のた
め保留となっており、その作品の紹介は2月第1週にさせて
いただきます。また年末年始は試写鑑賞の予定を入れていま
せんので、次回の更新は1月第2週となります。

 それでは良い年をお迎えください。


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井口健二