井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2023年08月13日(日) めためた、コンフィデンシャル:国際共助捜査、トンソン荘事件の記録、白鍵と黒鍵の間に、フラッシュオーバー炎の消防隊

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『めためた』
2019年9月15日付題名紹介『種をまく人』などに出演の俳優
で、他に撮影部、照明部、助監督などでも映画に関ってきた
という鈴木宏侑が、やはり俳優の新井秀幸と組んで企画し、
新井の脚本、鈴木の監督で製作した長編デビュー作。
登場するのはスランプ中の作家、そんな作家が街を彷徨しな
がら小説の断片を綴って行く。そしてそれらの断片が映像化
される。その中には、妹の就職祝いに帰省する女性とそれに
付き合う俳優志望の男性や、妊活中の夫婦に突き付けられる
現実や、さらに作家自身の話も盛り込まれる。

出演は脚本も務めた新井の他、和座彩、錫木うり、鍛代良、
久保田翔、橋本つむぎ、柳谷一成、金谷真由美、池内明世、
野呂健一ら、主に舞台やインディーズ映画に出演している俳
優たちのようだ。
タイトルの「めた」はメタフィクションを標榜しているよう
で、確かに作家が登場して自作について悩むというのはその
範疇にあるようだ。ただそれぞれのエピソードは、俳優たち
に設定だけ渡して演じられた即興劇(エチュード)のようで、
互いの展開などが考慮されたものではない。
そうなると映画全体の物語も統一性のないもので、しかもそ
れぞれのエピソードに完結性というか、物語の成立も怪しい
ものになるから、全体として何かを達成した感にも乏しいも
のになってしまう。単純にスケッチの羅列という感じの作品
だ。
メタフィクションというのは、それ自体はいい加減に作られ
ているようにも見えるが、実際には周到に構築された物語世
界の中で展開されるもので、その形式だけを踏襲しても面白
くなるものではなく、却っていい加減さが目立つようにも感
じられた。
ただ本作が先に上映された映画祭TAMA NEW WAVE ではかなり
観客は湧いたそうで、そういう人たちには受け入れられたの
だろう。とは言えこれを映画として評価するのはかなり抵抗
感のある作品だった。まあ僕の方が古い価値観に囚われてい
るだけなのだろうが。

公開は11月より、東京地区は渋谷のユーロスペース他で全国
順次ロードショウとなる。
上映時間は72分で、若い才能を発見するにはお手ごろな作品
と言えそうだ。

『コンフィデンシャル:国際共助捜査』“공조2: 인터내셔날”
ヒョンビン、ユ・ヘジン、元「少女時代」のイム・ユナら主
要なキャストが再結集した2017年12月10日付題名紹介『コン
フィデンシャル/共助』の続編。
プロローグはニューヨーク。FBI捜査官ジャックは北朝鮮
に起源を持つ国際的麻薬組織のリーダーの逮捕に成功する。
しかしその身柄は米朝間の取り決めにより、北の捜査官リム
・チョルリョンに奪取されてしまう。
ところがその護送部隊が麻薬組織のメムバーに襲われ、激し
い銃撃戦の末にリーダーは奪還されてしまう。斯くして任務
に失敗したチョルリョンだったが、帰国した彼を待っていた
のはリーダーらが韓国に潜入したという情報だった。
そこで以前の共助で成功を収めたチョルリョンに再び韓国で
の共助捜査が命じられるが…。以前の共助で酷い目に遭った
韓国側は協力的でなく。一方、冷や飯を食わされていた以前
の捜査官カン・ジンテは再浮上のチャンスと捉える。
しかしそこには、以前の共助でとんでもない目に遭わされた
家族の厚い壁が待ち構えていた。さらにそこにジャックも参
戦してくる。

新たな出演者は、米韓両国で活動するダニエル・ヘニーと、
2019年11月紹介『エクストリーム・ジョブ』などのチン・ソ
ンギュ。また監督は、2016年5月1日付で題名のみ紹介『ヒ
マラヤ 地上8,000メートルの絆』などのイ・ソクフンが担当
した。
前作は米ドル紙幣の偽造原版で、今回は麻薬というか覚醒剤
(ヒロポンという台詞が聞き取れた)、どちらも北朝鮮がやり
そうな国家犯罪だ。しかもそれを隠しながらの共助捜査とい
う展開だが、日本人には少し判り難いかな。でもそんなこと
はほっといても存分に楽しめるアクションムーヴィだ。
特に巻頭で描かれたニューヨークでの銃撃戦は、7月紹介の
『ハント』でも東京舞台のド派手なシーンを見せられたが、
今回はそれを倍加するような強烈なシーンに仕上げられてい
た。因に撮影は全長100mの巨大セットで行われたそうで、そ
の物量にも圧倒されるものだ。
それに加えて前作から引き続いての3人の見事なアンサンブ
ル。シリアスからコメディ、アクションまで巧みに演じられ
ているのも見事な作品になっている。

公開は9月22日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。

『トンソン荘事件の記録』“마루이 비디오”
1992年に起きた殺人事件に纏わる取材映像が2019年に発見さ
れたと称するホラー作品。
元となる事件は釜山の旅館の一室で起きた殺人事件。アルバ
イトの男性が女性を連れ込み、その様子をヴィデオで記録し
ていたが、男は女性を殺してしまう。しかし逮捕された男は
取り調べで心神耗弱による無罪を主張したというもの。
ところがその後、証拠品のヴィデオにあり得ないものが写っ
ていたという噂が広まり、その真相を追ったディレクターが
遂にそのヴィデオを入手する。そこには確かに現場には居な
い筈の人影が映っていたが…。

監督は2015年に『あいつだ』という作品を手掛けているユン
・ジュンヒョン。前作も実話に基づくとされる作品だったよ
うだが、本作もその流れということかな。
出演は多くの作品で脇役を務めてきたソ・ヒョヌと、韓国イ
ンディペンデンス映画のスターとされるチョ・ミンギョン。
まあ一般的な認知度の低い俳優を使うのはこの手の作品では
常套だ。
映画ではヴェトナム戦争に出兵した韓国兵のPTSDのよう
なものも扱われていて、それなりに社会性のある題材のよう
にも見える。しかしそれが複雑な家族関係などと一緒くたに
描かれるから、何というか話の筋が良く見えてこない。
しかも後半にはさらに呪術的な話が加わってきて、一層話を
混乱させている。だた本作は基本ホラーだからそれも狙いな
のかな。僕には折角の題材が勿体ないようにも感じたが、韓
国ではスマッシュヒットのようだ。
それにしてもそんな怨念が他人を巻き込んでしまうのは理不
尽にも感じるが、『リング』や『呪怨』以降のJホラーは大
体そんなものだから、これも仕方ないところかな。たまには
因果応報の怪談も観たくなってきた。
なお本作は on line試写で観たもので、鑑賞中の集中はあま
り保てなかった。

公開は10月27日より、東京地区はシネマート新宿、大阪地区
はシネマート心斎橋他にて全国ロードショウとなる。

『白鍵と黒鍵の間に』
現役ジャズピアニストでエッセイストでもある南博が2008年
に出版した自伝エッセイを、2017年12月17日付題名紹介『素
敵なダイナマイトスキャンダル』などの冨永昌敬と、2015年
『ハッピーアワー』などの高橋知由の共同脚本、富永の監督
で映画化した作品。
主人公は音大に学ぶ学生。ジャズピアニストが目標だが、師
事する教授の域にはなかなか達せられない。そんな教授から
は銀座の高級クラブがジャズの修行には最適な場所と教えら
れるが…。
昭和63年年の瀬、銀座もはずれのキャバレーで酔客相手のピ
アノを弾いていた博は、刑務所を出て来たばかりという男の
リクエストで「ゴッドファーザー愛のテーマ」を演奏する。
しかしそれは界隈では禁断の演奏だった。
一方、銀座の高級クラブ2軒のピアノを掛け持ちで演奏する
南は、界隈の顔役のリクエストで「愛のテーマ」を演奏でき
る唯一のピアニストだったが、彼も酔客相手の演奏に飽きて
自分を変えることを考えていた。
そしてアメリカ留学を決意した南は、願書に添付するテープ
の録音をクラブの仲間と共に行おうとするが、折悪しくそこ
に界隈の顔役の会長がやってきてしまう。果たしてテープの
録音は成功し、南は留学できるのか?

出演は池松壮亮、仲里依紗。そして森田剛、高橋和也。さら
にクリスタル・ケイ、松尾貴史、パプアニューギニア出身の
サックス奏者・松丸契、川瀬陽太。また杉山ひこひこ、中山
未来、佐野史郎、洞口依子らが脇を固めている。
原作は自伝エッセイだから現実の話だが、映画化ではかなり
トリッキーな脚色で、特に主人公を南と博の2人格に分けて
一方は駆け出し、他方はベテランとしてそれぞれのエピソー
ドを描くのは見事な作劇だった。
さらにこの2人が巧みに交錯し、後半にはファンタシーとも
取れる展開まで用意されている。これが正に映画という感じ
の作品だった。いやはやお見事。これでまたファンタシーフ
ァンには楽しみな人材が増えたようだ。
またこれは原作にも書かれていることなのだろうが、様々な
シチュエーションでのそれぞれに対するジャズの蘊蓄があっ
て、それも楽しめる作品になっていた。なかなか奥の深い作
品だ。

公開は10月6日より、全国ロードショウとなる。

『フラッシュオーバー炎の消防隊』“驚天救援”
2014年6月紹介『インフェルノ 大火災脱出』などのオキサ
イド・パン監督が、中華映画陣を結集して撮ったというディ
ザスターアクション作品。
発端は小規模の地震。しかし安全確認中に小さな見落としが
生じる。そして火災が発生、化学工場が林立する地区で爆発
や類焼が続き、さらに有毒ガスの流出や大規模爆発の恐れが
判明する。そこに余震も襲ってくる。
そんな中での消防隊の決死の消火活動や人命救助の様子。ま
た有毒ガス流出を防ぐ特殊活動などが描かれる。

出演は、2020年2月2日付題名紹介『在りし日の歌』などの
ドゥー・ジアン、2010年11月1日付「東京国際映画祭」で紹
介『鋼のピアノ』などのワン・チエンユエン、2015年『タイ
ガー・マウンテン』などのトン・リーヤー。
さらにハン・シュエ、ユー・ハオミン、2021年『鋼の第7中
隊』などのエルヴィス・ハン、2017年『カイジ』の中国版な
どのワン・ゴーらが脇を固めている。
そしてアクションのコレオグラファーは、1999年『マトリッ
クス』や2002年『インファナル・アフェア』なども手掛けた
ディオン・ラムが担当した。
パン兄弟と言えば、丁寧に演出されたホラーや大量の火薬を
駆使したド派手なアクションでも注目されたが、さらに近年
はCGIも取り入れてその領域は広げられているようだ。
ただ本作に関しては消防の現実を描くことに注心した様で、
劇中ではロボット放水銃やミサイル消火弾など最新の消防機
材が羅列される一方、何かそれらを扱う人間の描き方が物足
りなく感じられた。
同様の化学コンビナート火災を描いた作品では、2019年10月
27日付 <JAPAN CONTENT SHOWCASE 2019>で紹介した『烈火
英雄』が強い印象を残しているものだが、同作ではもっと鮮
烈な人間の生き様みたいなものまで描かれていた。
しかも同作は実際の事件に取材したノンフィクションを映画
化したものだったが、もっと自在にフィクションを描けた筈
の本作で、その辺に物足りなさを感じてしまったものだ。
もちろん本作でもそれなりの人間模様は描かれるが、何とな
くその後の展開が予測できるものばかりで、その点も不満足
に感じてしまった。『烈火英雄』の日本未公開が、本当に残
念だ。
なお本作も on line試写で鑑賞したものだ。

本作は10月6日より、全国ロードショウとなる。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二