| 2023年03月05日(日) |
それでも私は生きていく、Village/ヴィレッジ、帰れない山、TAR/ター、サイド バイ サイド 隣にいる人 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『それでも私は生きていく』“Un beau matin” 2013年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールに輝いた『アデ ル、ブルーは熱い色』にて鮮烈な印象を残したレア・セドゥ が主演し、現代パリに生きる女性の姿を描いて2022年カンヌ でヨーロピアン・シネマ・レーベル賞を受賞した作品。 セドゥが演じるのは8歳の娘を抱えるシングルマザー。同時 通訳の仕事などで生活ぶりは問題ないようだが、元大学教授 で痴呆が始まっている父親の介護や、その生活の整理などで 何か虚しさを感じ始めている。 そんな折に彼女は1人の男性と再会する。彼は亡き夫の親友 で学術研究のために南極に行っていたという。そして研究者 の一家に育ったらしい彼女は、彼の人柄に惹かれて行くこと になるが…。 脚本と監督は2013年3月10日題名紹介『グッバイ・ファース トラブ』などのミア・ハンセン=ラヴ。本作では監督の希望 で35�丱侫�ルムによる撮影が行われており、撮影監督は監督 とは4度目のコラボレーションというドゥニ・ルノアールが 担当している。 共演は2007年7月紹介『エディット・ピアフ』でセザール賞 ノミネートのパスカル・グレゴリーと、2006年3月紹介『ぼ くを葬る』で主演のメルヴィル・プポー。他にニコール・ガ ルシア、カミーユ・ルバン・マルタン(子役)らが脇を固めて いる。 物語は特に修羅場がある訳でもなく、むしろ主人公は感情を 表に出さない性格付けだから淡々と進んで行く。でもそれが 現実だろうし、そんな現実的な生活の一部が鮮やかに切り取 られた作品と言えそうだ。 僕自身は親の介護には立ち会わなかったからその現実は判ら ないが、自分の年齢からするともはや介護される側に近い人 間だから、特に父親がどんどん老いて行く姿に色々と感じる ところは多かったものだ。 そんな中で父親の蔵書を整理して行くシーンでは、「並んで いる本が人生を表している」という台詞に、自分の蔵書はさ して多くはないけれど、何か感慨を覚えるものもあった。そ んな正に現実が巧みに描かれた作品とも言える。 演出では初めの方にちょっとケアレスなミスはあったが、全 体は落ち着いたトーンで、それが深みのあるフィルム撮影と 相まって、正にこれぞ映画という感じの作品に仕上げられて いた。 公開は5月5日より、東京は新宿武蔵野館、シネスイッチ銀 座、UPLINK吉祥寺他にて全国順次ロードショウとなる。
『Village/ヴィレッジ』 2018年9月紹介『青の帰り道』などの藤井直人監督が、同作 にも出演の横浜流星を主演に招いて、因習に満ちた村社会の 現実を描いた作品。 物語の舞台は山の麓に田園の広がる村落。その村では伝統の 薪能も披露されている。そんな祭りの日に事件が起きる。村 民の男が自宅に放火して自殺したのだ。それから10数年後、 能舞台のある神社の裏山には巨大なごみ焼却場が建ち、田園 の広範囲はごみの集積場と化している。 そんな村で主人公は、リサイクルと称するごみの分別作業に 従事していたが、夜半に突然携帯が鳴り、集められた者たち は恐らくは違法な産業廃棄物を集積場に埋め立てる仕事にも 従事していた。その仕事は過酷だが、生活のためには必要な ものでもあった。 そんな村に、東京に出ていた1人の女性が帰ってくる。彼女 は東京には何もなかったと言って、過疎の村の村役場に勤め 始める。そんな彼女は主人公の幼馴染で、再会した彼女は村 が進める広報活動に主人公を誘う。それはごみ焼却場の意義 を世間に広めるというものだったが…。 その広報活動が功を奏し、村には徐々に観光客も集まるよう になってくる。しかしそれは諸刃の剣でもあった。そして生 じる確執が再び事件を引き起こす。 共演は、黒木華、古田新太、中村獅童。他に2017年2月紹介 『無限の住人』などの一ノ瀬ワタル、2020年のデビュー作で いきなり新人賞を総なめにしたという奥平大兼、ジャニーズ Jr.HiHi Jetsの作間龍斗。さらに杉本哲太、西田尚美、木野 花らが脇を固めている。 企画、製作、製作総指揮は2012年7月紹介『かぞくのくに』 などの河村光庸。昨年6月他界した硬派のプロデューサーは 本作のクランクアップを見届けてから逝ったそうだ。 能舞台では『邯鄲』が演じられ、「一炊の夢」とされる故事 がモティーフになっている。しかしそれはあくまでも主人公 だけのことであり、その陰で蠢く社会悪の物語は、正しく骨 太な社会派のドラマが描かれているものだ。 そしてそんな物語がCGIやドローン撮影も駆使した迫力の 映像で描き尽くされている。なお撮影監督は、あいみょんや King Gnuなど錚々たるミュージシャンのPVを手掛ける川上 智之が担当した。 またポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』やジョン・ウー監督 の『レッドクリフ』なども手掛ける岩代太郎が担当した音楽 も聞きものになっている。 公開は4月21日より全国ロードショウとなる。
『帰れない山』“Le otto montagne” 2019年2月3日付題名紹介『ビューティフル・ボーイ』など のフェリクス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督が、妻でもあ る脚本家シャルロッテ・ファンデルメールシュとの共同監督 で挑んだ北部イタリアの山岳地方が舞台のパオロ・コニェッ ティ原作小説の映画化。 普段は両親と北イタリアの都市トリノで暮らす少年と、イタ リアアルプスの名峰モンテ・ローザ山麓の過疎の村で暮らす 少年。そんな2人が大自然の中で出会い友情を育む。しかし 大人の事情が2人の仲を引き裂き、特に都会の少年は家族と も離れて村にも寄り付かなくなる。 それから歳月が流れ、父親の訃報で山にやってきた主人公は 幼い日の親友と再会し、主人公が離れた後の父親の様子など を知ることになるが…。 幼い日々の大自然の中での冒険や危険、そして青年になって 再訪した過疎の村の厳しい現実。そんな厳しさに満ちた物語 が1.33:1の縦横比率の画面の中で、雄大かつ繊細に描かれ て行く。 1.33:1の縦横比というのは1.85:1のIMAXよりもさらに縦 が長いことになるが、元々のサイレント時代の画面のサイズ でもあるもので、安定感というか落ち着きのある映像が描か れているようにも感じられた。 そんな画面の中に雄大なイタリアアルプスの景観と、繊細な 親子の物語が描かれている作品だ。物語自体には特に大きな 事件があるようなものでもないが、 147分の上映時間の中で 全てがどっしりと丁寧に描き尽くされている感じもした。 出演は、2017年4月紹介『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーク』で ダヴィッド・ディ・ドナッテッロ賞の助演男優賞を受賞した ルカ・マリネッリと、2018年3月4日題名紹介『ダリダ あ まい囁き』などのアレッサンドロ・ボルギ。 他に2011年3月紹介『愛の勝利を』などのフィリッポ・ティ ーミ、舞台出身でティーミとの共演歴も多いエレナ・リエッ ティらが脇を固めている。 公開は5月5日より、東京は新宿ピカデリー、シネスイッチ 銀座、シネリーブル池袋他で全国ロードショウとなる。
『TAR/ター』“Tár” 2007年6月紹介『リトル・チルドレン』以来16年ぶりとなる トッド・フィールド監督が、『LOTR』のガラドリエルなどの ケイト・ブランシェットを主演に迎えて、ベルリン・フィル で史上初となる女性首席指揮者の生き様を描いた作品。 主人公のリディア・ターはアメリカ5大オーケストラの首席 指揮者を歴任し、ついにベルリン・フィルの首席指揮者の座 も射止める。その間にはエミー賞、グラミー賞、アカデミー 賞、トニー賞も全て受賞し、正に叶わぬ夢はないと言われる 存在だった。 そんな彼女の最後の夢は、師であるバーンスタインも愛した マーラーの交響曲の全曲録音であり、それも第5番を残すの みとなっていた。しかしその録音の日が近づくにつれ、徐々 に焦燥が高まって行く。それでも出版予定の自伝のプロモー ションなど、多忙は極めていたが…。 そんな中で1人の女性演奏家の死を切っ掛けに彼女への信頼 が揺らぎ始める。それでも強気に録音の準備を進める彼女の 周囲で、思い掛けない陰謀が渦巻き始める。果たして彼女は その困難を切り抜けることができるのか? 共演は、2019年の“Portrait de la jeune fille en feu” でルミエール賞受賞のノエミ・エルランと、2012年11月紹介 『東ベルリンから来た女』などのニーナ・ホス。そして実際 にチェロの奏者で19歳のソフィー・カウアーがキーとなる役 柄で大抜擢されている。 他に2012年5月紹介『プリンセス・カイウラニ』などのジュ リアン・グローヴァー、2020年1月12日付題名紹介『1917命 をかけた伝令』などのマーク・ストロングらが脇を固めてい る。 物語の中では『猿の惑星』や『地獄の黙示録』など、映画の 話題も巧みに取り込まれ、正に実話にような物語が展開され て行くが、実は主人公は全くの架空の人物。しかしブランシ ェットの巧みな役作りや、正にオーケストラの裏を知り尽く したような助言者の協力で実話と見まごう作品に作り上げら れている。 そのリアルさは海外の論評でも誤解する所があったようで、 ウィキペディアの紹介では始めに架空の人物だという記載が されているほどだ。この映画作りの妙がトッド・フィールド 監督の真骨頂と言えるのかもしれない。 これぞ映画の醍醐味という感じの作品だった。 公開は5月12日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国 ロードショウとなる。
『サイド バイ サイド 隣にいる人』 別名義で2017年8月6日付題名紹介『ナラタージュ』などの 行定勲監督作品を手掛ける脚本家の伊藤ちひろが、同監督の プロデュースの許で自らの原案・脚本により監督第2作とし て発表した作品。因に、本作の企画は第1作より先にあった そうだ。 主人公は霊魂が見えるという男性。それは死者の霊だけでな く、遠く離れて暮らす人間の生霊もその思いが強ければ見え るようだ。そんな主人公は自らの能力を使って人々が抱える 悩みやトラウマを解決し、人に癒しを与えてきた。 そして現在の彼自身は大自然に包まれた山里で、看護師の恋 人と彼女の妹と共に牧場の手伝いなどをしながら穏やかに暮 らしていたが…。ある日、遠くから届く異様な思いに心が騒 ぎだす。 その真意を確かめるためミュージシャンとして活動する昔の 友人のライヴ会場を訪れた主人公は、彼を巡って過去に起き たある事件の真相を突き付けられる。それは彼自身が封印し た過去の出来事だった。 主演は『ナラタージュ』にも出ていた坂口健太郎。共演は、 元乃木坂46の齋藤飛鳥、伊東監督の第1作にも出演の浅香 航大。他に2010年8月紹介『マザーウォーター』などの市川 実日子、子役の磯村アメリ。さらに茅島成美、不破万作、津 田寛治、King Gnu井口理らが脇を固めている。 テーマ的には、1999年のM・ナイト・シャマラン監督作品を 思い出すところが大きいかな。物語の展開自体は全く異なる けれど、このテーマだと1999年作の結末がどうしても頭をよ ぎってしまう。 その点でいうと本作ではその結末が極めて曖昧に感じられて しまうのだが、それは監督の意図なのだろうか。もちろん同 じ結末にすることは避けたい気持ちは働くが、このように曖 昧だとそれをしてしまったのかという疑念も生じる。 ここはもっと明確な結末を、それが1999年作と同じであった としても明示するべきだったような気がする。本作は仮に結 末が同じであったとしても、いろいろと面白い展開が期待で きる作品のように思えるのだ。 その辺に妙に気を使ってしまったことが、本作の本来持って いた意味も曖昧にしてしまった感じもするものだ。センスは 良いと感じていただけにちょっと残念な感じもした。 公開は4月14日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国 ロードショウとなる。
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