井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2022年07月10日(日) わたしのお母さん、ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド、響け!情熱のムリダンガム

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『わたしのお母さん』
2015年のデビュー作『人の望みの喜びよ』でベルリン国際映
画祭のジェネレーション部門「スペシャルメンション」を受
賞した杉田真一脚本・監督による第2作。
物語は、ローカル線の車中に座る女性が「お母さんと呼ばな
くなったのはいつからだろう」と述懐の様なモノローグを発
するところから始まる。そして映画は、彼女と母親の人生を
語って行く。
その母親は長男の家に同居していたが、赤子の孫を見ながら
の炊事中に小火を出し、長男の嫁に疎まれて長女の家にやっ
てくる。その長女は夫と二人暮らしだったが、朝起きると鏡
台で化粧をする外交的な母親が少し苦手なようだ。
それでも独身の妹と共に温泉旅行に行ったり、親子の時を過
ごすが…。屈託のない妹の姿も長女の目には違和感になる。
そして妹の発した言葉が、彼女の記憶を母親との確執を生ん
だ出来事へと誘って行く。

出演は2011年3月紹介『八日目の蝉』で演技賞を総なめにし
た井上真央と、2007年8月紹介『サッドヴァケイション』な
どの石田えり。他に2018年3月25日題名紹介『海を駆ける』
などの阿部純子、2019年11月17日題名紹介『花と雨』などの
笠松将らが脇を固めている。
脚本は、監督と2018年8月26日題名紹介『ビブリア古書堂の
事件手帖』などの松井香奈との共同となっている。
母娘の関係は親子以前に女同士という格言もあるようだが、
正直に言ってその関係性が男の僕には良く判らない。僕自身
には娘がいるが、娘と妻との関係がこんな風だとは思わない
し、第一に主人公は「お母さん」と呼ばなくて、母親を何と
呼んでいたのだろう。
とは言え脚本には女性の目線も入っている訳だし、ベテラン
と言える主演の二人だって、納得できなければ演じることは
なかっただろう。でもこれが女性にとっては普遍的な話なの
か? その辺を僕には理解できなかった。
それと作中の男性の存在感の薄いこと。物語としては長男と
主人公の夫もいるものだが、それが登場はするが母娘の関係
にほとんど関ってこない。これは男性の監督があえて避けた
のだとは思うが、何か不自然な感じもした。

公開は2022年秋。封切り日や劇場などはまだ決まっていない
ようだ。

『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』
           “Meeting the Beatles in India”
1943年生まれで、今までに 300本以上のドキュメンタリーを
制作し、数多くの受賞にも輝くカナダの製作者ポール・サル
ツマンが、1968年インドでのビートルズとの出会いを描いた
2020年本国公開の作品。
当時23歳でカナダ国立映画制作庁に勤め、全国ネット番組で
共同司会者も担当していた若者は、ある朝、自分が自分の嫌
いな人間になっているのではないかという想いに捉われ、イ
ンドへの渡航を思い立つ。
そして同地で撮影される映画の録音技師を契約して渡航費を
工面し、恋人に想いを告げて旅立つ。しかし旅先に彼女から
別の男性と付き合うとの手紙が届き、傷心の若者はマハリシ
・マヘーシュ・ヨーギーのアシュラムに導かれる。
ところがそこにはビートルズが家族や、女優のミア・ファー
ロー、ビーチ・ボーイズのマイク・ラヴ、さらにドノヴァン
らとともに訪れており、若者は門前払いとなってしまう。し
かしそれから8日間キャンプを張った若者は…。
映画はアシュラムに入ることを許された若者がビートルズと
交流して行く様子が、若者自身が撮影した写真と共に描かれ
る。それはビートルズの最高作とも言われるアルバム“The
Beatles”の制作秘話でもある。
そんな物語が、サルツマンとビートルズ研究の第一人者とさ
れるマーク・ルイソンの2人で、今や「ビートルズ・アシュ
ラム」とも呼ばれる現地を再訪する様子と共に描かれる。そ
れは観客をも当時の記憶に誘ってくれる。

製作・脚本・監督はポール・サルツマン。製作総指揮はデイ
ヴィッド・リンチ、映画のナレーションをモーガン・フリー
マンが務めている。
監督本人が当事者というこの手の作品では、やもすると自慢
話になってしまいそうだが、その辺はしっかりと抑えられて
いるのは好感が持てる。それにビートルズの描き方も人間味
があって、気持ちの良い作品だった。
そして何より、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーの教えが前
面に押し出されているのは、監督や製作総指揮のリンチがそ
の信奉者であるお陰だろうが、特に現代にはその教えの重要
さも問い掛けられている感じのする作品だった。

公開は9月23日より、東京は池袋シネマ・ロサ、ヒューマン
トラストシネマ渋谷、UPLINK吉祥寺他にて全国順次ロードシ
ョウとなる。

『響け!情熱のムリダンガム』“சர்வம் தாளமயம”
本国では2018年に公開され、同年の東京国際映画祭でも上映
された作品だが、日本公開は見送られていたインド・タミル
語映画を、東京都葛飾区の南インド料理店が買い付け、一般
公開に漕ぎ着けた作品。
主人公はタミル語映画の大スター、ヴィジャイを推し活する
若者。しかし一人の女性と出会ったことから将来のことを考
え始める。そんな折、太鼓職人の父親に連れられて見た古典
芸能の太鼓演奏に魅せられ、その道を志すが…。
苦心の末に太鼓の名手の許に弟子入りした若者は才能を開花
させ始める。しかし意地悪な兄弟子や高貴な家柄の同期弟子
たちに翻弄され、さらにはテレビ局も絡んで名手の許での修
行を断念せざるを得なくなる。
そこにはカースト制度も関り、親からもその道を諦めるよう
説得されるが、恋人の励ましの声が若者を新たな世界へと導
いて行く。

原作と監督は、1963年生まれでCMディレクター出身のラー
ジーヴ・メーナン。音楽を、2009年1月紹介『スラムドッグ
$ミリオネア』でアメリカアカデミー賞を受賞したA.R.ラ
フマーンが担当している。
監督と音楽家はCM時代からの旧知の仲だそうで、音楽家の
推薦で1997年と2000年にも音楽を中心とした映画を監督して
ヒットさせているが、本作は前作から18年を経ての第3作だ
そうだ。
因に南インド出身の音楽家は、地元の作品を手掛けるときに
はローカルな音楽シーンを意識するそうだが、本作でもそれ
はいかんなく発揮されている。特に若者が新たな世界に導か
れるシーンは見事な展開だ。
それに比べると、特に前半の兄弟子からのいじめのシーンな
どはかなりべたな感じだが、そこに見え隠れするカーストと
の関りは、恐らく現地の人には鋭く映るものなのだろう。そ
んな社会状況も巧みに描かれた作品だ。
それといじめの展開の中では、リメイクもされた石原裕次郎
主演の日活映画も思い出したが、それを言うのは野暮という
ものだろう。いやひょっとしてオマージュか?

公開は10月1日より、東京は渋谷のシアター・イメージフォ
ーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
実は本作の試写は上記のビートルズの映画と連日で観たのだ
が、ドキュメンタリーとドラマなのに内容的に似通うところ
があったりもして面白かった。それにしてもインドと音楽の
繋がりには奥深いものがあるようだ。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二