井口健二のOn the Production
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2014年04月13日(日) 初夏のパン祭り、ゴール・オブ・ザ・デッド、メトロ42

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『影なきリベンジャー【極限探偵C+】』“C+侦探”
『冷血のレクイエム【極限探偵B+】』“B+侦探”
『コンスピレーター謀略【極限探偵A+】』“同謀”
『惨殺のサイケデリア』“追凶”
2007年5月紹介『ゴースト・ハウス』などのダニー&オキサ
イド・パン兄弟による4作品が「初夏のパン祭り」と称して
連続公開されることになり、纏めて観させてもらった。
上の3本はオキサイド監督による第1作が2007年、第2作が
2011年、第3作が去年発表された3部作で、1と2の間が少
し開いているが、タイトルはC→Bの順になっているから、
Aで終る3部作は予定通りだろう。
物語は、タイ・バンコクの中華街で開業している私立探偵が
主人公。彼は警察の捜査にも協力して実績も上げているが、
実は幼いころに両親が行方不明になり、探偵稼業の目的には
両親の行方を探すことも含まれている。
そんな主人公の許に1人の女性の捜索が依頼される。ところ
が彼が情報収集を開始すると、その行く先々で次々に遺体が
発見され…

出演は、3部作通じての主演が2010年4月紹介『殺人犯』な
どのアーロン・クォック。共演者として2013年12月紹介『大
捜査の女』などのリウ・カイチーらが登場する。
パン兄弟というと、2008年10月にハリウッド版リメイクを紹
介した2002年『the EYE』を始め、かなり鮮烈なホラー作品
で注目されるが、本作は比較的まともな探偵もの。
第1作では被害者の霊が主人公を導いているような描写があ
り、第2作では多重人格が描かれるが、いずれも添え物程度
で、全体的にはストレートなサスペンススリラーだ。
ただしその裏側には主人公の両親の行方など、巧みで壮大な
物語が構築されている。しかもその物語を5年以上も掛けて
じっくり織り上げているのだから、かなり入魂の作品とも言
えそうだ。
とは言うもののホラーファンには少し物足りないかな。特に
第1作では仄めかしがあるだけに、ちょっと残念感は生じて
しまった。そんな気持ちをなだめてくれる
4本目は、ダニー
監督による2012年の作品だ。
作品は英語題名が“Fairy Tale Killer”とされているもの
で、そのタイトルの通りのお伽噺に擬えた惨劇が描かれる。
ただそれだけだと類似の作品は見つかりそうな感じだが、そ
こに展開される主人公の立場を絡めた物語が絶妙だ。
僕自身、最初の内は少し引き気味だったが、クライマックス
では思はず手を打ってしまった。テーマ的にはオキサイドの
3部作に通じるところもあり、これは見事な4作品だと思わ
せる。

上映は、オキサイドの『C』が5月3日から、『B』が10日
から、その後にダニーの作品を17日から挟んで『A』が24日
から、東京はシネマート六本木で、それぞれ1週間ずつの連
続公開となる。

『ゴール・オブ・ザ・デッド』“Goal of the Dead”
今年のワールドカップを見込んでの作品かどうか判らないけ
ど、普段からサッカーを応援していると思わずニヤリとして
しまう今年発表のフランス映画。
主人公はトップリーグに所属するフォワードの選手。しかし
ベテランの彼が主戦力のチームはリーグ戦の戦績は芳しくな
いようだ。そんなチームがカップ戦のために主人公の故郷に
やってくる。それは主人公には凱旋のはずだが…。
どうやら主人公の地元チームからトップリーグのチームへの
移籍の際に確執があったらしく、地元では彼への風当たりが
かなり強い。その上、当時からの選手の1人は父親に謎の薬
品を投与されてモンスター化していた。
しかもそのモンスター化の症状には感染性があり、逃亡した
男がスタジアムに向かう道筋にモンスターが増殖。ついに男
がスタジアムに到着すると、地元のサポータまでもが次々に
感染してしまう。
果たして主人公はその窮地を脱出できるか? そこに主人公
の家族の問題なども絡んで、人情とゾンビのドラマが展開さ
れる。
物語の背景にあるのは、初めの方で「32強を決める」という
台詞があったから、日本で言えば天皇杯のようなプロ・アマ
の国中のチームが参加するトーナメント戦なのだろう。そこ
でトップリーグと対戦は地元チームには楽しみのはずだが、
過去に経緯があると簡単ではない。
特に下部リーグで活躍した選手が上位リーグに引き抜かれる
のは、主力を奪われる側には大きな痛手だ。それでも普通は
選手の将来を思って笑顔で送り出すものだが、トラブルがあ
ると難しい。
そんなこんなが色々描かれている作品で、これは僕が普段か
らサッカーを応援しているからかもしれないけれど、そんな
細かいことに一々反応できることがファン冥利と言いたくな
る作品だった。

出演は、2009年6月紹介『96時間』ではスタントマンを務
めていたというアルバン・ルノワールと、主にテレビシリー
ズで活躍中のシャーリー・ブルノー。他に大学で演技を勉強
中というティファニ・ダヴィオ、若手コメディアンのアメッ
ド・シラらが脇を固めている。
監督は、「死霊のキック・オフ大乱闘編」という副題の前半
戦が、2009年に『ザ・ホード‐死霊の大群‐』という作品を
発表しているバンジャマン・ロシェ。「地獄の感染ドリブル
編」という副題の後半戦が、数多くのCMを手掛けていると
いうティエリー・ポワロー。
状況説明などに追われる前半戦は多少もたつき感があるが、
後半戦はアクションも含めて観られる作品になっていた。前
半戦と後半戦を同じ上映時間にするという決め事があったの
かもしれないが、少し考えてしまうところもあった。
でもまあサッカーファンなら、それなりに楽しめる作品には
なっている。特に事情が判っているとニヤリの作品だ。

公開は5月3日から、東京はヒューマントラストシネマ渋谷
他で、全国順次上映となる。

『メトロ42』“Метро”
2012年8月紹介『リンカーン/秘密の書』などのティムール
・ベクマンベトフ監督を誕生させ、最近では2013年5月紹介
『オーガストウォーズ』なども生み出しているロシア映画界
が、ハリウッド映画のお家芸とも言えるパニック映画に挑戦
した作品。
主人公はは多忙な勤務医。そんな主人公は家庭サーヴィスも
ままならず、キャリアウーマンでもある妻は幼馴染のビジネ
スマンと不倫関係にある。しかし主人公はそれに気付いても
咎められないでいた。
そんな主人公が、その日は普段は車で送る娘の登校が妨害に
遭いやむなく娘と共に地下鉄に乗り込む。そしてその地下鉄
には、地上の渋滞を避けた不倫相手のビジネスマンも乗り込
んでいた。
一方、地下鉄の管理部ではベテランの職員が漏水に気付き、
その水の臭いから危険を感じるが、いつも酔っ払っている彼
の意見に耳を傾ける者はいなかった。そして満員の乗客を乗
せた地下鉄は走行を続けていたが…
主人公たちの乗った車両がモスクワ川の川底に差し掛かった
時、ついにトンネルが決壊し、濁流が路線に侵入してくる。
しかもモスクワの地下には冷戦時代に掘られた退避壕が縦横
に存在し、そのすべてに水没の危機が迫っていた。

主演は、今年はジュード・ロウとの共演作も控えているとい
うセルゲイ・プスケパリス。
その脇を、『オーガストウォーズ』にも出演のアナトーリー
・ベリィ、2012年2月紹介『裏切りのサーカス』COFCA賞を
受賞し、2013年『ウルヴァリン:SAMURAI』では敵役を演じ
ていたスヴェトラーナ・コドチェンコワらが固めている。
監督は、ドキュメンタリー出身でその作品では受賞歴もある
というアントン・メゲルディチェフによる劇映画は3作目の
ようだ。
主な舞台になるのはモスクワの地下鉄。路線網も広大で乗降
客も多く、ソ連時代に施された社会主義リアリズムの装飾で
世界一美しいとも言われた首都の足も、老朽化と整備の不足
でこんな危険に曝されているようだ。
もちろんこれはフィクションだが、この種のパニック映画で
は水の侵入速度など時間経過が問題になるところ、本作では
実に巧みな仕掛けでそれも納得できるように作られていた。
また登場人物の配置や小動物の活躍なども巧みな脚本だ。
それにしても、数年前に公開された日本のパニック映画でも
新橋の廃線駅が登場したが、どこの地下鉄にもこういう駅は
あるものなのかな? そんなものが描かれているのもマニア
には嬉しい作品だった。

公開は5月17日から。東京は新宿シネマカリテにて上映され
る。


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井口健二