井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2013年06月20日(木) 「フランス映画祭2013」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、明日21日から開催される「フランス映※
※画祭2013」で上映される作品を紹介します。なお、※
※文中物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読ま※
※れる方は左クリックドラッグで反転してください。  ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『テレーズ・デスケルウ』“Thérèse Desqueyroux”
オドレイ・トトゥの主演で、フランスのノーベル賞作家フラ
ンソワ・モーリアックの原作を映画化した作品。
物語の背景は1920年代。主人公は家同士が決めた政略結婚を
受け入れた女性。しかし旧態依然とした家族制度が徐々に彼
女を蝕んで行く。主人公は破滅思想とでも言うのかな、とに
かく物事の全てを悪い方向に進めてしまう考え方の持ち主。
そんな女性のダークサイドをトトゥが巧みに演じて行く。

昨年2月紹介『ある秘密』などのクロード・ミレール監督に
よる2011年の作品で、監督は昨年4月に逝去し本作が遺作と
のことだ。
日本での一般公開は未定。

『恋のときめき乱気流』“Amour et turbulences”
リュディヴィーヌ・サニエの主演で、旅客機で隣同士になっ
た男女の恋の経緯を描いたラヴコメディ。
主人公は自身の結婚のためフランスに帰国する途中の女性。
座席がビジネスクラスに振替になりラッキーと思った矢先、
隣の席にやってきたのは、3年前に彼女が恋をし、その未練
を断ち切ったばかりのたプレイボーイだった。
ラヴコメ自体が日本では難しいが、本作は回想シーンを巧み
に取り入れ、それはうまく描かれていた。その回想シーンで
はパリ観光も楽しめる仕組みになっている。

監督は、本作が長編デビュー作となるアレクサンドル・カス
タネッティ。共演は後で紹介する『タイピスト!』にも出演
のニコラ・ブドス。
本作も日本での一般公開は未定。

『ウェリントン将軍〜ナポレオンを倒した男〜』
“Les Lignes de Wellington”
1810年、フランス・ナポレオン皇帝の命によるポルトガル征
服を描いた歴史絵巻。
ナポレオンのヨーロッパ征服というと、北方のロシア戦線で
冬将軍の到来により敗退する話は聞いているが、南方戦線の
話は西洋史の授業でも聞いた記憶がない。しかし当然それは
あったもので、そこではイギリスからの派遣軍とポルトガル
軍の連合戦線が果敢な攻撃を仕掛けていたようだ。
そして連合舞台を率いるイギリス軍のウェリントン将軍には
ある秘策があった。本作はそんな戦いに関った人々の様子を
豪華なオールスターキャストで描いている。

出演は、タイトルロールにジョン・マルコヴィッチの他、マ
チュー・アマルリック、カトリーヌ・ドヌーブ、ミシェル・
ピコリ、イザベル・ユペール、キアラ・マストロヤンニ、メ
ルヴィル・プポー。監督はヴァレリア・サルミエント。
上映時間152分の大作で、日本公開は来年の予定。

『母の身終い』“Quelques heures de Printemps”
2010年11月紹介『君を想って海をゆく』などのヴァンサン・
ランドン主演で、生きることに不器用な母親と息子の姿を描
いた作品。
主人公は長距離トラックの運転手だったが、密輸に絡んで逮
捕服役、出所した時には職を失っていた。そして人生を立て
直そうと母親のもとに転がり込むが、その母親は不治の病で
余命短く、尊厳死を選択しようとしていた。
尊厳死というのは所詮自殺なので個人的に容認できないが、
そこに至る人間ドラマは見事だった。ただ途中で母親が愛犬
に行う行為は意味不明というか…、結果オーライではあるの
だが。

共演は、エレーヌ・ヴァンサン、エマニュエル・セニエ。監
督は本作でセザール賞候補になったステファヌ・ブリゼ。
日本公開は、2013年晩秋に予定されている。

『椿姫ができるまで』“Traviata et nous”
2011年春。エクサンプロバンス音楽祭での上演に向けて行わ
れたヴェルディの名作「椿姫」のリハーサルの模様を記録し
たドキュメンタリー。
舞台の演出はジャン=フランソワ・シヴァディエ、主演には
フランスのオペラ歌手ナタリー・デセイを迎えて、2人は時
に和気藹々と、また時にせめぎ合いながら舞台を作り上げて
行く。
オリジナルの舞台を観ていないので、そこに新解釈があるの
かどうかは判らないが、シヴァディエが個々の場面の演出を
付けて行く中では、それらのシーンの彼の解釈を聞くことも
でき、演出ノートを見ているような作品になっている。
そしてデセイが見事なソプラノで歌い上げる「椿姫」の数々
の名場面も堪能でき、今後「椿姫」を観る機会があれば参考
にもなる作品だ。それにしても繊細かつ堂々としたデセイの
姿が素晴らしい作品だった。

映画の監督は、同種の作品を数多く手掛けるフィリップ・ベ
ジアが担当。
日本公開は、今秋に予定されている。

『わたしはロランス』“Laurence Anyways”
昨年のカンヌ国際映画祭ある視点部門で上映され、主演のス
ザンヌ・クレマンが最優秀女優賞に輝いた作品。
高校で国語教師を勤めるロランスは、恋人のフレッドに「女
になりたい」と打ち明ける。それを聞き最初は激しく非難す
るフレッドだったが、やがてその思いの強さを知った彼女は
彼の最大の理解者であろうとする。
そこからの10年に亙る2人の葛藤の日々が描かれる。そこに
は周囲の人々の無理解や、偏見、拒否反応などあらゆる障害
が待ち受けていた。
内容はマイノリティの問題など多岐に亙るが、僕自身が男性
で保護者の立場で見ると、本作では女性のフレッドの立場が
注目された。その彼女がランチで切れるシーンにはドキッと
させられたものだ。

ロランス役は『ウェリントン将軍』にも出演のメルヴィル・
プポー。他にナタリー・バイらが共演している。
監督は弱冠23歳にして、「ある視点部門」には2度目の出品
というグザヴィエ・ドラン。特異な題材ではあるが、巧みに
まとめあげていた。
上映時間168分の大作で、日本公開は今秋予定されている。

『短編集』
このプログラムでは、今年は8本が上映される。
「妻の手紙」“Lettres de femme”
ダンボール細工のような人形を用いた15分11秒のアニメーシ
ョン作品。第1次大戦と思われる戦場を舞台に、負傷兵を救
護する衛生兵と家族から届く手紙の儚い物語が綴られる。

ったくもって見事な作品だった。
「からっぽの家」“La maison vide”
19分の実写作品。玄関錠の修理にやってきた鍵師の息子が、
父親の修理した錠前の合鍵を手に入れ、留守の邸宅に侵入す
る。いろいろ象徴するものはあるのかもしれないが、僕には
よく判らなかった。

「日本への旅・捕縄術」
“Portraits de voyages Japon: Hôjô Jutsu”
スケッチと簡単なアニメーションで綴られる日本の思い出?
最初は日本の印象記のようだが、途中からあらぬ方向に話が
進んで行く。
上映時間は3分だが、それなりに面白く観られ
る作品だった。
「すべてを失う前に」“Avant que de tout perdre”
クレモンフェラン国際短編映画祭で最優秀作品賞など4部門
を受賞した作品。DVに苦しむ妻と2人の子供が、妻の勤務
先だった大型スーパーを舞台に決死の脱出行を敢行する。

映時間の30分が見事な緊張感で演出された名品。
「次で最後(63年秋)」“Next to last(Automme 63)”
マチュー・アマルリック監督による5分36秒の作品。陽の差
し込む部屋に飾られた絵画の解説に、様々な言語でニュース
などの音声が重ねられる。ただし字幕はフランス語の解説に
対してだけで、他の言語には添えられておらず、多分英語で
は核問題があったと思うが、定かには聞き取れなかった。

「オマール海老の叫び」“Le cri du homard”
今年のセザール賞で短編映画賞を受賞した作品。フランスで
難民生活を送る一家の息子が祖国での戦いに出兵し帰還した
日の出来事。歓待の食事に出されるオマール海老を象徴的に
使って、戦争の恐ろしさが描かれて行く。
胸に突き刺さる作
品だった。
「移民収容」“Retention”
旧東欧圏から脱出して不法滞在している人々を巡る物語。
人公は人道的な見地から収容者の強制送還の阻止を図るが…
不法滞在者の収容と強制送還の問題は、日本の事情も何本か
のドキュメンタリーで観たが、本作も政治と人道のせめぎ合
いを鮮烈に描いていた。

「春」“Le printemps”
春の到来を告げる森の様子をCGIアニメーションで描いた
15分13秒の作品。様々な楽器を模した造形が、華やかな音楽
を奏でながら行進する。中にはちょっと象徴的なものも登場
しているようだったが、僕の知識では理解できなかった。

以上合計で約135分だが、映画祭のみの上映となる。

『森に生きる少年』“Le Jour des Corneilles”
アヌシー国際アニメーション映画祭でプレミア上映された作
品。
深い森の奥で男手一つで育てられた少年は、父親から森の外
は行ったら命のない魔界だと教えられていた。一方、少年に
は様々な森の仲間がいて、緊急の時にはアドヴァイスもして
くれる。そして父親が大怪我をして…
キャラクターには『もののけ姫』に通じるところもあり、ジ
ブリの影響が色濃く見える作品だった。ただし物語はジャン
=フランソワ・ボーシュマンの原作に基づき、地に足のつい
たものになっている感じだった。

監督は、本作が初長編作品となるジャン=クリストフ・デッ
サン。声優はジャン・レノや2010年に亡くなったクロード・
シャブロールらが担当している。因にジャン・レノは、宮崎
駿監督の『紅の豚』でフランス語版の主人公を担当したこと
があるそうだ。
日本での一般公開は未定。

『ローラ』“Lola”
2009年1月紹介『シェルブールの雨傘』などの名匠ジャック
・ドゥミ監督による1961年のデビュー作。
港町ナントを舞台に、街の若者とキャバレーの踊り子、それ
に海軍の水兵や街に舞い戻った男などがちょっと入り組んだ
恋模様を描いて行く。
その街で退屈な毎日を送っていた主人公は、幼馴染の踊り子
と10年ぶりに再会し、彼女に恋心を伝えるが、彼女は7年前
に別れた男の影を追っていた。
ドゥミは2年後の『シェルブール』に本作の主人公を再登場
させ、7年後の『モデル・ショップ』では踊り子の後の姿を
描いており、それらの作品の原点とも言える物語がミシェル
・ルグラン作曲、アニエス・ヴァルダ作詞の音楽と共に綴ら
れている。

出演は、踊り子役にアヌーク・エーメが扮してドゥミが当て
書きしたというキャラクターを見事に演じている。
上映は仏米の映画財団によってディジタル修復された映像で
行われるが、日本での一般公開は未定となっている。

『タイピスト!』“Populaire”
1950年代を背景にした若い女性のサクセスストーリー。
主人公は田舎の雑貨屋の娘。父親が偶然仕入れたタイプライ
ターに興味を持ち、それは彼女を都会に連れ出す鍵となる。
そして人差し指だけの早打ちで秘書の座を射止めた彼女は、
敏腕コーチの指導の許「早打ち世界大会」への挑戦を開始す
るが…
女性タイピストの話では2003年6月紹介『セクレタリー』な
ども思い出すが、それに勝るとも劣らない女性の痛快な活躍
が描かれていた。

出演は、2005年9月紹介『ある子供』などのデボラ・フラン
ソワと、2011年7月紹介『ハートブレイカー』などのロマン
・デュリス。監督は、本作で長編デビューのレジス・ロワン
サル。
なお、本作は試写の時点では原題で紹介されたが、その後に
邦題が決定した。日本公開は8月に予定されている。

『In the House(英題)』“Dans la maison”
2010年9月紹介『Ricky』などのフランソワ・オゾン監
督による最新作。本作は昨年のサン・セバスチャン国際映画
祭で最優秀作品賞及び最優秀脚本賞を受賞している。
主人公はかつて作家を志したこともある国語教師。しかし今
は、凡庸な生徒たちの作文の採点に辟易する毎日だ。そんな
彼の前に才気溢れる作文が登場する。その文章に魅せられた
主人公はそれを書いた生徒の個人指導を始めるが、そこには
思いもよらない落とし穴が待ち構えていた。
無垢に見える生徒とのやりとりが、やがて息詰まる心理戦へ
と変化して行く。

教師役は、昨年4月紹介『屋根裏部屋のマリアたち』などの
ファブリス・ルキーニ。生徒役に新人のエルンスト・ウンハ
ウワー。他にクリスティン・スコット・トーマスらが共演し
ている。
5月に紹介した『コンプライアンス』は心理学に基づく実話
の映画化だったが、本作は見事なフィクションで創作の妙を
感じさせた。
日本公開は秋に予定されている。

『遭難者』(仮)“Le Naufragé”
『女っ気なし』(仮)“Un monde sans femmes”
1977年生まれの新鋭監督による2009年のデビュー短編と、そ
の1年後に同じ舞台で、一部の登場人物も共通に作られた作
品の2本立て。後者はフランス批評家組合の最優秀短編賞を
受賞している。
1本目は、長距離サイクリングの途中の田舎町でタイヤがパ
ンクしてしまった男性に、田舎の青年が救いの手を差し伸べ
るが…。2本目は、バカンスでやってきた若い母親と幼い娘
にその田舎の青年が所有するアパートを貸す。そして母子と
青年は一緒に買い物をするような仲になるが…
どちらも有り勝ちな感じの作品だが、フランスでも2本立て
で公開されてロングランを記録。高く評価されたようだ。

監督のギョーム・ブラックはフランス国立映画学校の卒業生
で、長編の次回作も完成している。青年役のヴァンサン・マ
ケーニュはフランス高等演劇学校の卒業生で、昨年5月紹介
『灼熱の肌』にも出ていたようだ。
日本公開は秋に予定されている。

『アナタの子供』“Un enfant de toi”
1996年『ポネット』などのジャック・ドワイヨン監督が、実
娘で歌手のルー・ドワイヨンを主演に迎えたラヴコメディ。
物語の語り手は7歳のリナ。母親のアヤは優しい歯医者のヴ
ィクトールと恋人同士だが、実は元カレのルイともヨリを戻
しているらしい。そしてリナがその証拠を掴んだとき、母親
はリナにもう1人子供が欲しいと打ち明ける。その子供の父
親は…?
他愛もないラヴコメだが、男女が取り交わす会話などには、
さすが名匠と呼ばれる監督の力量が発揮され、嫌味のない巧
みな物語が展開されていた。

共演は、サミュエル・ベンシェトリ、マリック・ジディ。そ
してリナを演じた子役のオルガ・ミシュタンは注目だ。
上映時間136分の大作で、日本での一般公開は未定。

『黒いスーツを着た男』“Trois mondes”
アラン・ドロンの再来と言われるラファエル・ペルソナーズ
主演のサスペンスドラマ。
主人公は、3日後に結婚を控えている男性。貧しい母子家庭
に育った彼は自動車販売の会社で頭角を現し、支配人の娘も
射止めて次期支配人の座も目前にしていた。しかし正に魔が
差したというタイミングで交通事故を起こし、思わず現場か
ら逃走してしまう。
ところがその事故には窓辺から目撃していた女性がいた。そ
して被害者が不法移民で、その被害もぞんざいに扱われる状
況を目にした彼女は、密かに逃亡したひき逃げ犯を調査し、
その身元を突き止めるが…。その行為が彼女を思わぬ危険に
陥れてしまう。
映画の始まりは若者の馬鹿げた行為に見え、そこに典型的な
巻き込まれの女性が関って行く。そしてそこからのサスペン
スの盛り上げが見事な作品だった。

共演は、昨年6月10日付「フランス映画祭2012」で紹介
『ミステリー・オブ・リスボン』のクロチルド・エスムと、
2008年11月紹介『ロルナの祈り』のアルタ・ドブロシ。監督
は多くの女性映画で知られるカトリーヌ・コルシニが手掛け
た。
日本での一般公開は8月31日から予定されている。

以上の作品が24日まで開催の「フランス映画祭2013」で
上映され、一部はその後に日本公開もされる。フランス映画
祭も何年か紹介させてもらっているが、今年は特に力作揃い
で堪能できた。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二