井口健二のOn the Production
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2009年04月05日(日) キング・コーン、チョコレート・ファイター、台湾人生、17アゲイン、ラスト・ブラッド、ロシア革命アニメーション、スティル・アライヴ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『キング・コーン』“King Corn”
アメリカの大学で最終学年生の若者2人が食に興味を持ち、
コーン(トウモロコシ)の栽培に挑戦する。しかしそれは、
食の根本を探る壮大な旅路へと彼らを誘うことになる。そん
な若者たちを追ったドキュメンタリー作品。
ある科学的な分析によると、人間の身体の多くの部分はコー
ン由来の成分で占められているのだそうだ。そこに興味を持
った若者たちは、米国内では最大の生産地であるアイオワ州
に1エーカー(4047�屐砲稜醒呂鮗擇蝓⊆尊櫃縫魁璽鵑虜惑�
を試みることにする。
その栽培は、遺伝子組み替えによる強靱な種子を蒔き、強力
な除草剤を使うことで実質的な農作業はないに等しいもの。
それでもコーンは立派に育ち、驚くほど簡単に収穫が得られ
てしまう。
ところがその収穫で得られる収入は、コーン価格の下落によ
って土地代や種子、農薬代など経費の合計に満たない。それ
でも政府の保障制度などによってコーンは作り続けられる…
そこに隠された秘密とは。
アメリカの農業政策も、以前は規制優先で減反政策など価格
の維持に重きが置かれていたそうだ。しかし1970年代にその
政策が転換され、アメリカは世界有数の農業国に変貌して行
く。それは特にコーンの栽培に集中していった。
このためコーンの価格は暴落するが、それでも彼らはその生
産を止めない。それどころかコーンの利用法を次々に開発。
それによって人間の身体の多くの部分がコーン由来の成分で
占められる事態となって行く。
何故アメリカはコーンを作り続けるのか、そこにはアメリカ
の、そして全世界の食に関わる重大な問題が含まれている。
コーンによって育てられた牛の悲劇。砂糖を減産に追い込ん
だ甘味料コーンシロップの登場など、今まで多少疑問には感
じながらも見過ごしていたいろいろな問題提起がこの映画で
は行われている。
さらに映画では、牛の胃袋の中を直接覗くことのできる研究
所や、学校の理科室のような設備でコーンシロップを作る実
験など、様々な取材によってコーンの現状が描かれる。そし
て最後は、1970年代に施策を転換した当時の農務長官本人に
まで迫って行く。
映画の結論として若者たちはある決断をする。その姿は見事
に鮮烈な映像で提示される。しかしそこには空しさも漂う。
彼らの決断が正しいものであることは確かなのだが…これは
我々自身にも突きつけられた問題だ。

『チョコレート・ファイター』“ช็อคโกแลต”
『マッハ』『トム・ヤム・クン』などを手掛けたプラッチャ
ヤー・ピンゲーオ監督+パンナー・リットグライ/アクショ
ン監督による最新作。
2人の監督は前の作品でも、CGIなどを極力排したリアル
アクションを売りにしていたが、今回は、前作までの主役を
張ったトニー・ジャーに替って、新人のジージャーことヤー
ニン・ウィサタナンが、正に身体を張ったヒロインを演じて
いる。
物語は、母親が不治の病に冒された少女が主人公。そこで彼
女は、母親が過去に金を貸していた男たちを突き止め、治療
費を得るためにその集金に向かうのだが、男たちはなかなか
金を返してくれそうにない。
ところがちょっと自閉症気味の彼女には、カンフー映画を見
るだけでそこに展開される技を体得するという特殊な能力が
備わっていた。しかも自らもカンフー映画を愛する彼女は、
密かに鍛練も積んでいたのだ。
ということでうら若い少女が、彼女の前に立ち塞がる男たち
をバッタバッタと打ち倒す…そんな痛快なアクションが展開
される。
これに、彼女の関係者である日本人やくざや、過去にはその
やくざと抗争を繰り広げた現地マフィアのボスなどが絡んで
物語は進められる。因にこの日本人やくざを阿部寛が演じて
いるのも話題になりそうだ。
とは言うものの映画の主眼は、少女が大の男たちを相手に繰
り広げる強烈なカンフーアクション。特に後半のガード脇の
路地を舞台にしたアクションシーンは、もちろんワイヤーな
ども使用されてはいるものだが、それでも間違いなく痛そう
で壮絶なものだ。
そのアクションをスタントなしで演じているというジージャ
ーは、ピンゲーオとリットグライが6年の歳月を費やして、
手塩に掛けて育ててきた秘蔵っ子とのことで、魅せるアクシ
ョンを見事に展開している。
そしてそのアクションは、当然計算されたものであるはずな
のだが…。巻末に紹介されるNGシーンには、それを売り物
にするのもどうかと思うくらいの生傷映像が大量に登場して
いた。正に身体を張ったアクション映画というところだ。

『台湾人生』
戦前占領下の台湾で日本人教育を受けた台湾人の現在を追っ
たドキュメンタリー作品。
その人たちは、戦前の日本人教育で日本への愛国心を植え付
けられ、戦中はその愛国心のもと日本兵として戦争に赴く。
しかし戦場ではチャンコロと呼ばれて差別を受け、さらに戦
後は蒋介石率いる支那人の侵略によって長年の圧制に苦しめ
られる。
それでも彼らは日本が好きだと言い切り、今でも「天皇陛下
万歳」と言って死ねるという。
こんな人たちが台湾人口の何%いるかは明らかにされない。
しかし、元々の原住民の人から一般的に台湾人と呼ばれる人
たちまで、ここに登場する人たちは確かに今の台湾に暮らし
ている人たちだ。
もちろんこれは、戦前の日本人教育が正しかったということ
ではないし、またこの人たちは、1947年2月28日に始まる国
民党の迫害(戒厳令が38年間も続いた)によって、日本への
思いが純粋培養されてしまった人たちなのかもしれない。
しかし、今でも流暢に日本語を話す彼らの姿を見ていると、
日本が置き去りにしたこの人たちを僕らはどう考えれば良い
のか、心を痛めてしまうものでもあった。
そんな彼らは、日本政府に謝罪して欲しいという思いは語る
ものの、それ以上の要求などは一切口にすることがない。そ
れが日本への彼らの思いを、一層明白に物語っているように
も感じられた。
彼らが語る小泉の靖国参拝などに関しては、「問題はそこに
あるのではないよ」と教えてあげたくもなるし、蒋介石一族
への恨みなどには我々とは直接関わらない問題もあるが、彼
らが受けた苦難のいくらかは日本にも責任があることは確か
なものだ。
なお、映画の中に高座海軍工厰の話が出てきた。高座郡は相
模平野のほぼ中央に位置する場所で自分の生まれた平塚市に
も近いので興味を持ったが、調べてみると当時8400人を超え
る台湾出身の青少年がここで工員として働いていたのだそう
だ。
その他にも、二二八事件と呼ばれる国民党との抗争などは今
まで知ることもなかったし、日本人にとって台湾という存在
は一体何だったのか考えてもしまう。それは日中国交正常化
によって抹殺されてしまった歴史なのかもしれない。
それにしても、こんな風に学校が教えない歴史は、現在の日
本教育には他にもいろいろ隠されていそうだ。

『セブンティーン・アゲイン』“17 Again”
『ハイスクール・ミュージカル』のザック・エフロン主演に
よる最新作。17歳の時にした決断がもしかしたら誤りだった
かも知れない。そんな過去を引き摺ったまま生きてきた主人
公がその過ちを正せるかも知れない奇跡に見舞われる。
主人公は17歳の時、高校のバスケットボールの花形選手とし
て大学のスカウトも見に来るほどの存在だった。しかしその
スカウトが見つめる試合で、彼は自分自身のある決断により
将来を棒に振ってしまう。
そして10数年。彼は妻と2人の子供と共に地道に会社勤めを
しながら暮らしていたが、何に付けても覇気がなく、ついに
は妻からも愛想尽かしをされてしまう。そんな時、ふと訪ね
た母校で、彼は人生をやり直せるかも知れないチャンスを掴
むのだが…
大人がその記憶を保ったまま青春時代の身体になる。こうい
う展開の映画は過去にもいろいろありそうだが、今回はそこ
にちょっと捻りがある。その捻りによって主人公は、親子の
断絶や自らの家族への思いに直面して行くことになる。
それにしても、離婚天国と言われ夫婦や家族の繋がりが希薄
になっているとも考えられるアメリカで、こんなにも家族の
ことを真剣に考える作品も珍しい。それはちょっと古くさい
考えかもしれないが、人が本来持つべき姿を描いている作品
のようにも思えた。
と言うメインストーリーだが、さらにこの物語には僕らを喜
ばせるサブストーリーも用意されている。それは主人公の高
校時代からの親友がオタクという設定のもので、これがなん
とも僕らの心をときめかせてくれるのだ。
元々メインの物語もファンタシー系だから、その手の観客が
ターゲットだと思われるが、そのオタク振りが尋常でない上
にその展開が見事に決まっている。その内容は、定番のSW
からLOTRまでレヴェルも高く、特に本作はニューライン
の製作なので、後者に対する思い入れには素晴らしいものが
あった。それはファンには必見とも言えるものだ。

共演は、『無ケーカクの命中男』などのレスリー・マンと、
『燃えよピンポン』では脚本も執筆していたトーマス・レノ
ン。他にマシュー・ペリー、メロラ・ハーディンらが出演し
ている。
エフロンのファンには彼の踊りも楽しめるし、オタクのファ
ンにも充分に満足できる作品だ。

『ラスト・ブラッド』“Blood: The Last Vampire”
『猟奇的な彼女』などの韓国女優チョン・ジヒョンが、セー
ラー服の戦士に扮して闘うアクション作品。
戦国時代から続く鬼との闘い。その鬼を退治するのはその使
命のために数100年を生きてきた女剣士サヤ。そして本作の
時代のサヤはセーラー服に身を包み普段は女子高生として過
ごしながら、ことが起これば日本刀を抜き放ち鬼を一刀両断
にする。
そんなサヤの背後には組織があって、彼女が退治した鬼の後
始末などもしてくれる。しかし彼女と組織の間にも軋轢があ
り、さらに非公式な組織は時として米軍など政府機関とも対
立することがある。
本作の時代背景はヴェトナム戦争が泥沼化し始めた1970年。
混沌の時代には鬼どもも勢力を増加させ始めている。そして
鬼どもが勢力を強める中でサヤは、ついに父親の仇でもある
奴らの首領オニゲンの所在を突き止める。
オリジナルは2000年に製作され、Annie賞や確かアカデミー
賞の予備候補にも挙げられた北久保弘之監督によるアニメー
ション作品。本作はその実写による再映画化だ。僕はこのオ
リジナルを観たかどうか記憶が定かでないが、今回の実写版
では、その映像表現が如何にもアニメーションという感じに
も作られている。
その実写版を監督したのは、フランスで2005年『エンパイア
・オブ・ザ・ウルフ』などを手掛けたクリス・ナオン。製作
は、2000年『グリーン・デスティニー』などのビル・コン。
香港を拠点に置く映画製作者が『昴』に続けて日本が舞台の
作品に挑んでいるものだ。
共演は、アジアを代表する女優の称号も似合い始めてきた小
雪と、『17アゲイン』にもザック・エフロンの17歳の時の
恋人役で出演していたアリソン・ミラー。また、汎アジアで
活躍してきたアクションスターのベテラン倉田保昭が元気な
姿を見せてくれている。
因に、1981年生まれのチョン・ジヒョンは、試写前の舞台挨
拶で「セーラー服はちょっと恥ずかしかった」と語っていた
が、元々ちょっと幼い感じもする顔立ちは、充分に通用する
雰囲気で演じていたものだ。
それにしても画面には、トンキン湾空爆のニュースが繰り返
し登場するが、これは空爆開始が鬼の差し金で、サヤの働き
によってそれが失敗に終ったという意味なのだろうか。

『ロシア革命アニメーション』
旧ソ連時代の1924〜79年に製作された短編アニメーションを
集めたコレクション。全16作品がA、Bの2プログラムに分
けて公開される。
旧ソ連のアニメーションというと1957年製作の『雪の女王』
や、オリジナル版は1947年発表の『イワンの仔馬』(昔は違
う名前だった)が、芸術性の高さや日本のアニメーターたち
に与えた影響の大きさなどで有名なものだ。
しかしここに集められた作品は、旧ソ連のプロパガンダ用に
製作されたもので、その内容の陳腐さなどでは正に珍品と言
えるものばかりだ。
上映されるのは、Aプログラムが『ソヴィエトのおもちゃ』
(1924)、『用心を怠るな』(1927)、『ファシストの軍靴
に祖国を踏ませるな』(1941)、『百万長者』(1967)、
『予言者と教訓』(1967)、『狼に気をつけろ』(1970)、
『電化を進めよ』(1972)、『射撃場』(1979)の8本。
Bプログラムは、『惑星間革命』(1924)、『レーニンのキ
ノ・プラウダ』(1924)、『勝利に向かって』(1939)、
『映画サーカス』(1942)、『ツイスター氏』(1963)、
『株主』(1963)、『生かされない教訓』(1971)、『前進
せよ、今がその時だ』(1977)の8本。
という16作品だが、どの作品もブルジョアや資本主義への批
判というより青臭い非難のアジテーションばかりで、正直に
言ってアニメーションのレヴェルも低く、特に観て何かを得
られるようなものでもない。
特に、Bプログラムで上映の『惑星間革命』には、題名から
ちょっと期待もしたのだったが、内容は革命を逃れて火星に
逃亡したブルジョワジーを、革命戦士たちが追い掛けて行っ
てやっつけるというだけのもので、何とも低レヴェルの発想
と言うか、あまり頭の良い作品には見えなかった。
その他では、Aプログラム『射撃場』とBプログラム『映画
サーカス』がそれなりに面白くはあったが、これらはプロパ
ガンダというより風刺劇という感じで、それも、だから…?
と言うくらいの程度のものだ。
いまさら失敗に終った政治体制をとやかく言っても始まらな
いが、結局こういう部分から考えの甘さと言うか青臭さが観
えてしまうのも、体制の未熟さを感じてしまうところだ。所
詮は机上の空論でしかなかったものなのだろう。
戦時中のプロパガンダで言えば、日本でも『桃太郎の海鷲』
や、アメリカではディズニーが戦争協力映画を作ったことは
知られているが、政治体制のプロパガンダが重なるとこうも
浅薄な物になってしまうのか、その原因は上映時間の短さだ
けではないように思えた。
もう少しは、共産主義の明るい未来を描いた作品でもないの
かと期待して観に行ったのだが、それも期待外れの作品ばか
りだった。
僕自身、制度としての共産主義は否定するものではないが、
どんなに理想的な制度でも、それを実行する人間が駄目だと
うまくは行かない。今回上映される作品群を見ていると、こ
んなプロパガンダを押しつける連中では、うまく行かなくて
当然とも思わせた。
それは結局1世紀も持たずに制度を潰してしまったロシアの
現実でもある訳だ。そんなことも理解できる作品群だった。

『スティル・アライヴ』“Still Alive”
『デカローグ』や『トリコロール』3部作などの作品を残し
て、1996年に54歳の若さで急逝したポーランドの映画監督ク
シシュトフ・キェシロフスキの業績を称えて2005年に製作さ
れたドキュメンタリー作品。
実は、僕は上記の作品は観ていないのだが、彼の遺稿脚本を
映画化したトム・ティクヴァ監督の『ヘブン』(2002年12月
に紹介)と、ダニス・タノヴィッチ監督の『美しき運命の傷
痕』(2005年12月に紹介)は、どちらも見事なドラマとして
感銘を受けたものだ。
その脚本を遺したキェシロフスキは、最初はドキュメンタリ
ーで頭角を現すが、フィルムに写されたものが必ずしも真実
ではないと気付き、あえてフィクションにすることで人間の
心の奥底にあるものを描き出そうと考える。そして次々に名
作を生み出して行く。
そんな監督の作品を網羅して、生前の監督自身の声も交えな
がら、監督と親交のあった映画監督ヴィム・ヴェンダース、
主演女優のジュリエット・ビノシュ。さらに作曲家や脚本の
共同制作者らの証言が綴られている。
もちろん追悼作品であるから、彼を称えることが主眼の作品
ではあるが、彼が政治体制や個人的な環境に苦しみながら自
分の作風を作り上げて行く過程は、監督のファンならずとも
感銘を受ける。
政治問題を描いた彼の作品が国内では上映禁止などの処分を
受けながらも、徐々に国内外に認められて行く過程は、当時
同じ境遇だった人は他にも多いとは思うが、時代と歴史を語
る上でも重要なものだ。
なお本作は、6月20日の東京渋谷ユーロスペースを皮切りに
全国順次開催される特集上映「キェシロフスキ・プリズム」
の一環として上映されるものだが、この特集上映では、上記
の代表作を始め日本未公開だった作品も公開される。
特にこれらの未公開作品は、版権の関係でDVD化もできな
い作品とのことなので、監督のファンにはぜひこの機会に観
ておきたいものだ。
ドキュメンタリーとフィクションの関係は、今年1月に紹介
の『四川のうた』と2月15日付第177回の記事でも話題にし
たところだが、特にドキュメンタリーから出発した監督の発
言には納得するところも多いものだった。


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井口健二