| 2003年11月25日(火) |
★「ロマンスエックス」続 |
玄関に向かう途中、中庭を望む回廊で、天蓬はふと足を止めた。 いったい何坪あるんだか、天界でも一、ニを争う広い庭。その片隅に、ちょうど一休みするのにぴったりな、小さなあずまやが建っている。 ほとりには清らかな水をたたえた蓮池があって、よく、仕事の息抜きと称しては、彼を部屋から連れ出した。
また来たのか、天蓬。軍はよっぽどヒマなんだな。
ブツブツ文句を言いながら、仕方なさそうに判を置く。―――目をつぶれば昨日のことのように、今でもはっきり思い出せる。 白い横顔、金糸の髪。 まばゆいばかりの外見とは裏腹に、中身は全然スレてなくて、純粋培養の見本のような人だった。 あの観世音菩薩の下で、どこをどうすればあんな堅物に育つのか、今時、深窓のお姫さまだってああはいかない。 世俗から隔離された屋敷の奥で、大切に大切に育まれた真珠のようなひと。 この先、永遠に近い歳月を生きようとも、彼のような存在には二度と巡りあえないだろう。 運命というものがあるとしたら、それは彼だった。 なのになぜ、自分は気づかなかったのだろう。 天蓬は苦いものでも噛み潰したように、秀麗な眉をひそめた。 なぜ気づかなかったのだろう。あの透明な、吸い込まれそうなほど澄んだ彼の瞳が、次第に生気を失ってガラス玉のように虚ろになっていく様を。 言葉も感情も少しずつ失われていって、綺麗なだけの人形のように彼は心を閉ざしていった。 自分が一番近くにいたのに。 手を伸ばせば届くほど、あんなにも側にいたのに。
「・・・金蝉」
つぶやいた名前はひっそりと、声になる前に風に溶けた。
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そろそろ禁断症状が出てきました。三蔵さまー――!!!
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