その日、玄奘三蔵は朝から機嫌が悪かった。 いや、悪いなんてもんじゃない。 三蔵の人となりを少しでも知る者がいたら、見た瞬間回れ右してとっとと逃げ出していたことだろう。 だが残念なことに、今、彼の周りにいる者は誰一人として三蔵の性格を知らなかった。 もっとも、知っていたからといって、大して変わりはなかっただろう―――彼女たちには。 「お召し替えでございます」 背後から楚々とした声をかけられて、三蔵の眉間のしわがまた一つ深まった。 言い忘れていたが、三蔵はさっきまで禊を行っていた。身につけているのは袷一枚、それもすっかりずぶぬれで、体にぴったり貼りついている。 「失礼します」 そう声をかけると、おどろおどろしいオーラをものともせず、女たちはさっそく自分の仕事を開始した。 さっと腰の結び目を解いて、するりと袖を抜き取られる。 いつもながらその手際のよさには舌を巻くばかりだが、こういったもてなしに慣れてない三蔵には苦痛なだけだった。 ここに来て、初めて脱衣所で彼女たちが現れた時は肝をつぶした。 場所が場所でなきゃ、"その手のもてなし"かと勘違いして、銃の一つもぶっ放していたところだ。 飲む打つ殺すは当たり前、破戒僧を地で行く自分が、今さら女犯がどうのと言うつもりはないが、一応ここは霊山で、精進潔斎のため連れてこられた場所なのだ。 ――一体なに考えてんだ!? まさかこれも修行とかふざけたこと抜かしてんじゃないだろうな? 険しい顔で考えこむ三蔵にかまわず、女たちは慣れた手つきで着付けていく。 本人が聞いたら嫌がるだろうが、何のかんの言いつつも、ここでの生活にすっかり順応している三蔵であった。
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えー、どのへんがボツ原かと申しますと、三蔵サマならおとなしくお召し替えはしてくれないだろうなあと思って。 フェミニストじゃないのは本誌で証明済みだし。(笑) もういっぺん練り直します〜 ロマンスX、冒頭でした。
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