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2002年01月27日(日) スクランブル☆パーティ2−1

1月7日、あわただしく冬休みは終了し、学年最後の学期が始まった。
いつも通りの眠いだけの始業式が終わり、提出物やらを集められると午前中で学校は終わり、帰宅出来ることになっている。
「ええー?」
「んーなに驚くことねえだろー! じゃ、そういうわけだからよろしく頼むな、ヤマト!」
「頼むって、太一! 俺、そんなこと何も聞かされてねえぞ。だいたい新年会って昨日にやったはずじゃねえのかよ!」
「んなこと言ったって、おまえやタケルがいねえとつまんねえとか何とかいう意見がさあ。それにおまえの携帯かけたけど、ちっとも出なかったじゃねえか」
「え・・・?いつ?」
「ゆうべの7時頃」
「・・・・・・あ。新幹線の中で・・・・ね、寝てた・・かな」
実際は寝てたのではなくて、タケルと・・・。
いや、そんなことはさすがに太一に言えるはずもなく。
ヤマトはそういう、ちょっと後ろめたい部分もあって仕方なしに「選ばれし子供たち新年会」の場に自宅を提供することを渋々ながら承諾するハメになったのだった。
「で、なんでウチだよ」
「おまえんち、昼は両横も下も留守だって言ってたじゃん」
「まー、そうだけど・・・」
「じゃ、2時にな! 掃除しとけよ!」
「あー・・え? 掃除・・って!オイ」
さっさと言うだけ言って行ってしまった太一に、ヤマトはがっくりと肩を落とすと、ズボンのポケットから携帯を取りだした。
そして、慣れた手つきでメールを送る。
ゆうべ島根から帰宅したままのあのすさまじい状態を思うと、それだけでどっと気分が滅入りそうだった。


「ええーほんとーに大輔から聞かなかったのお?」
「だって、大輔くん。朝から今日は一度も口きいてくれなかったし」
「おまえなあ! そっちからだって話しかけてこなかったくせに、俺が悪いみたいに言うなよなー!」
「でも、新年会今日だって知ってたんだから、そっちから教えに来てくれればいいじゃない?」
「うるせーなあ、今聞いたんだからいいだろーが!」
「だって、僕、支度も何も出来てなくて・・・・あれ。Dターミナルにメールが入って・・・・うわ」
タケル宅の玄関で、新年会に誘いにきた「新・選ばれし子供たち」を前に、すったもんだを繰り広げていたタケルは、もしや何か兄から連絡が入っていたのかも?とDターミナルを取りだして青くなってしまった。
「急ごう!!」
「え、え、え、え、ちょっとタケルさん!」
「タケルくんってばー、急にどしたのー?」
皆を置いて、鍵をかけるのも忘れそうな勢いでずんずんと歩き出したタケルに、とにかく部屋に鍵をと説得して、「新・選ばれし子供たち」はとにかく石田宅へと急いだのだった。


メールはヤマトからで、昨日の今日で部屋がめちゃくちゃなので、掃除を手伝ってくれとあったのだ。
学校から帰って、とにかく昨日の長旅の疲れで、もう眠くて仕方がなかったから、ちょっと仮眠をとっていた。その間にメールが入っていたのだろう。
普段でさえひどいあの部屋が、ヤマトが島根にいる間は父一人だった上、帰ってからの荷物もそのままじゃ、さぞかしひどいことになっているだろう。
足早に皆を引き連れ、玄関のチャイムを押して、出てきた人影に「ゴメン遅くなって!」と手を合わそうとしたタケルは、その顔を見るなり固まってしまった。
「あら・・・早かったのね、みんな」
「きゃー空さん、あけましておめでとうございますー」
「ああ、こちらこそおめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「なんだか新婚家庭におじゃましたみたいですね・・・」
「いやあだ。伊織くんったら。さ、どうぞ」
空に通されるままに皆が靴を脱ぎ、一番最後にタケルが呆然と立っていると、ヒカリが軽く腕をひっぱる。
「タケルくん?」
「あ・・・うん」
タケルは促されるままに、靴を脱ぐと廊下を通ってリビングへと足を踏み入れた。
いつも通いなれたその部屋が、きちんときれいに掃除されている。
それを目にすると、知らない人の部屋に入ったようなひどく寂しい気持ちになった。
(僕が来られなかったから・・・お兄ちゃんは、空さんに連絡を入れたのかな・・? それとも、最初から空さんにも頼んでたのかな・・・? どっちにしても、僕が来なくても、ちゃんときれいになっていてよかったな・・・・)
そう考えたら「よかった」はずなのに、なんだかとても悲しくて、タケルは項垂れたままリビングの皆の輪の中へと坐り込んだ。


兄に真相を確認する事も出来ず、ましてや顔を見る事も出来ず、視線を遠ざけているうちに、子供たちは全員集合し、またしても大賑わいとなった。
まあ「旧選ばれし子供たち」のデジモンたちはもうデジタルワールドに帰ってしまったから、多少人口密度はましになったといっても、ヤマト宅のそう広いともいえないリビングは、酸欠状態になるほどの混みようになってしまった。
相変わらず、持ちこまれたカラオケセットと、ヤマトのギターによる生演奏(本人はもちろん本気で迷惑がったが)歌って踊って盛り上がり、もちろんゲームもやって、持ちこまれたお菓子やジュースも食べ放題の飲み放題。
・・・そりゃあ、あのクリスマス会の後、太一の家の近所の部屋から苦情が出ただろうということは、聞かなくても十分想像できる。
「タケルくん。そういえば島根はすっごい雪だったんだってねえ」
「え。ああ・・・・そうなんですよミミさん。もうすごく吹雪いてて・・・」
言ってるそばから、あまりのうるささにこちらの会話が聞こえないらしく、同じ質問を太一からもされてしまう。
「おう、タケル! すっげえ雪だったって、島根!」
「え、はい。もう、やんで雪かきしても、その後から後からすぐ降り積もって・・」
「へええ、そっかー。こっちは少し正月にチラチラしただけだぜえ」
「あ、そうなんだ」
会話の途中で、「太一先輩、次!」と歌の指名をして、歌い終わった大輔が今まで太一のいた場所に坐りこむ。
「で、どうだった?」
「え?なに?君のうた?」
「ちげーよ、馬鹿。島根、すっげえ雪だったんだって」
「・・・・・・あのね!」
「な、なんだよ」
「さっきから同じことばかり聞かないでよ、もう!」
「お、同じことばっかりって、俺、今聞いたとこじゃん!・・ったく、おまえさあ。何で俺にゃそうつっかかってくるんだよ!」
「つっかかってるのはそっち! だいたい、新年会のこと僕にだけ教えてくれなくてさー」
「後で言おうと思ってたんじゃねえかよ。そしたらおまえ、さっさと急いで帰っちまうから」
「じゃあ、電話でもしてくれればいいじゃない」
「したけど、出なかったろ!」
・・えっ・・・?
もしかして、メールの受信の音だけじゃなく、電話が鳴ってるのすら気づかず爆睡してた?
急にマズイという顔をするタケルに、大輔が何か言いかけた時、丈がやおら立ち上がって叫んだ。
「よーし、みんな! せっかくお正月なんだから、お正月らしい遊びをやろう!」
「え? お正月らしい遊びってなんですか? 丈さん」
「良く聞いた、光子郎! これぞお正月の決定版! 百人一首だー!」
「ええええ???ひゃくにんいっしゅーーー!!!」
丈の声に、皆が一斉に驚いたように声を合わせた。


結局、小学生グループと中学生グループに分かれてやる羽目になり、まずは中学生グループでバトルが繰り広げられることなった。
「あ、じゃあ、一乗寺くん。読んでくれる?」
「はい」
「みんな、お手つきしたら罰ゲームだからね!」
ええー?という声を上げつつも、目は皆真剣だ。
「なんだか、丈さん。妙に新年会は仕切ってますよね? 空さん」
「わかんないけど、勉強で鬱憤がたまってるのかも?」
「ではいきます。あまのはらー」
「はい!」
「・・・・・早ぇ、光子郎・・・」
「じゃ、次。いにしえの〜」
「はい!」
「・・・・・・空さん、怖い・・・」
「おい、みんな最後まで聞こうぜ・・・?」
「なげけとて〜・・・」
「はいっ」
「丈さんも素早いですね」
「わがそでは〜」
「はい!」
「やっぱり空さんがこわいー 早くて手の動きが見えないー!」
「さすが家元の娘・・・」
「関係ないでしょう、ヒカリさん」
「これやこの〜」
「ええい、これだ!」
「太一、お手つきー!」
「ええ、マジかよー」
「はい、ここから引いて。罰ゲームかいたくじ」
「丈・・・・。いっつのまにそんなもん作ってやがったんだ・・・・え?早口ことば?」
「じゃあ、読んで」
「赤巻き紙、青巻き紙、黄巻き紙・・・・あかまきがみあおまきまきききま・・・え?」
「オーソドックスですね。言えてないけど」
「まあまあ、伊織くん」
「ルリリマリルマリルリ?るりりまりるまりりりるりりりり・・・・・はあ?」
「ポケモンですね」
「くわしいね、伊織くん」
「タケルさん、知らないんですか?」
「大橋脚、中橋脚、小橋脚・・・・。ええい、だいきょうかくきゅうきょうかきゅちょうきょかくきゃ・・・・いってえ!舌噛んだ!」
太一の大苦戦の早口言葉に大爆笑となり、さらに大激戦が繰り広げられた末、目にとまらぬ速さで札をとばす空の圧勝となり、次に小学生グループの番となった。
さすがに上の句だけで取れるのは一乗寺賢くらいのもので、それなりに目を皿のようにして必死の形相で札を睨む子供たちに、中学生組が余裕で微笑って見守る。
「はいっ!」
「あ、大輔、それお手つきだぜ!」
「えええ? くそーやっと取れたと思ったのにぃ〜!」
「はいはい、罰ゲーム」
「何すか、コレ。ものまね・・・・」
「じゃあ、よろしく」
「よーし、じゃあ、アイドル系演歌歌手! ♪やだねったらやだねえー ♪やだねったら・・・・」
「似てなーい!」
「くそー! じゃあ、とっておきのヤツ! デジモンカイザーやりまーす! ふははははは・・・虫けらどもめ・・・僕にひれふすがいい・・・ふははは・・・・」
「似てないよー・・・」
「おまえが言うな! 一乗寺賢!!」
「あはは・・・じゃあ、大輔くん、もういいやー。次読むねー」
「はいっ、丈さん、お願いしますっ」
「気合はいってるわねえ、伊織」
「あうことのー絶えてしなくはなかなかに〜 人をも身をも恨みざらましー」
丈の読んだ句に、タケルがふっと笑顔をなくす。
そして、ほとんど今日は一度も視線を合わす事のないヤマトを、ちらと盗み見た。
太一となにごとか話している姿を、札を探しているふりをして、伸びた前髪の間からチラリと見つめた。
太一とヤマトの会話に、ヤマトの隣にいる空が何の不自然さもなく話に加わる。
楽しげな3人の姿に目の奥がつんと痛くなった。
(あうことの・・・。逢うことがまったくなかったなら、かえって、あなたをも自分をも恨むことなどないであろうものを・・・か)
「あきのたの〜」
「あ・・・はい」
「タケルくん、お手つき!」
「え?」
「それ、わがころもでにゆきはふりつつ。だよ」
「え・・・あ、そうか、天智天皇だから、わがころもではつゆにぬれつつ・・。ですよね・・?」
「そうそう、詳しいねー。でもお手つきはお手つきだからね、はい、罰ゲーム」
言われて、「あーあ」と嘆きつつも、くじの入った箱にごそごそと手を忍ばせる。
それから一枚とった紙を開いて、タケルは困ったような顔をした。



<スクランブル☆パーティ2−2に続く>


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