徒然なる Short story 集

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『月のカケラ』七

2005年11月12日(土)

 くるくる回したまま、レンは呆けた様にこちらを見ている……
 と。
 ピシッ!?
 紐が指から外れ、何かにぶつかる。飛んでった方を見てみたら、いつの間に来てたのか、あの野郎が立っていた。
 丁度額の真ん中らへんに、巾着袋が張り付いていた。
 ぽす、と軽く音を立てて、巾着袋は彼の掌の中に落ちる。
「えっ、と……その……
 だ、大丈夫か?」
 ヒヤリと、一筋の汗を流しながら、レン。
 あの巾着、確かキルティングで出来てたと思ったけど──
(ヤケに鋭い音がしたわねえ……)
 彼はムスッとしたまま、手の中にある巾着袋からレンへと視線を移した。
 彼の額には、くっきりと石がぶつかったあとがあった。赤くなってる……
 よっぽど勢いよく至近距離でぶつかったという事だ。
(……い、痛そう)
 ムカつく奴ではあるが、私はさすがに同情的になった。気の毒そうな視線を向ける。
 なんと言っていいかわからず、惑い二人を交互に見た。
「ごっ、ごめん! ぶつける気はなかったんだ。信じてくれっ!」
「……ワザとじゃないのは、わかるけどなあ……」
 ずっと黙ったままだった彼が、やっとで口を開いた。 明らかに不機嫌な…押し殺した声。
「こんなモンに気ィ取られて敵からボール取り損ねてんなよ!
 試合中断さすなっ、アホらしいっ!!」
 巾着握った手で拳を突き出す。
「だから、ゴメンってば〜!? 許して〜!」 立ち上がりざまにそれを避け、逃げだすレン。
「待ちやがれ!このヤロ〜!」
 すかさず彼は追いかけて行き、二人は教室の外へと飛び出していった。
 一体、なんの用があったのかと思ったが……体育の授業のことで用があったのかな?
 廊下の方から喧騒が聞こえる。追いかけっこは暫くやみそうになかった。 
(やれやれ……)
 言わんこっちゃない。
(あの石、無事だといいけどねえ…) 
 私は秋の様相を深めた窓外に目を向けて、溜め息を吐いた。


 昼休みが終わるギリギリに、レンは戻って来た。
「あ〜疲れた〜!」
 椅子に座り、ヘタっと机に持たれかかる。「石、大丈夫だった?」
「ん〜。ああ、無事だったよ」
 言いながら、制服の胸ポケットから巾着を取り出した。
「何があるかわからないからな。今度から体育の時間も、ちゃんと胸ポッケにしまうようにするよ」
 ニッコリ笑うレンに、私はゲンナリとしてこう言った。
「だから……そういう問題じゃないと思うよ」


 つづく


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如月なつき [MAIL] [HOMEPAGE]