closet+
2009年10月08日(木)  (1)
今思えば、サトルとタクミはちっとも似ていない、ね。
どうして「似てる」なんて思ったんだろう。

ユウコはゆっくりと鏡の中の自分を見た。
いつもよりも入念なメイク。パールのネックレスと、イヤリング。純白のドレス。
まだヴェールはつけてはいないけれど、誰が見間違うこともない「花嫁」になっていた。

似て見えた、んだよね。笑顔が。
それだけで周りの空気が変わる、笑顔。
それだけでほっとできる、不思議な感覚。
それをサトルにも感じたの、あの日。

それから今日まで、サトルの笑顔はわたしを裏切ったことなかったね。


もうすぐ、挙式の時間です・・・
介添の女性――牧田さん、と自己紹介を受けた――に告げられて、背筋をしゃんと伸ばした。
鏡の中の自分をもう一度見つめて、笑顔を作ってみる。
ヘアメイクの女性がヴェールをつけてくれる。

大丈夫、誰が見ても「幸せな花嫁」だ。今のわたし。
牧田さんに手伝ってもらって控え室を出ると、サトルが待っていた。

きれいだよ。

普段からあんまり多くを語らない人なのに、そんなことを言ってくれる。
たぶんこれが彼の、・・・サトルの精一杯。
照れ屋で、頑固で、でも懐が深くて、全てを包み込んでくれる人。

そうだよ、ちっとも似ていないよ。
サトルは、サトルだもの。
他の誰でもない、これからわたしと一緒に生きていくヒト。


隣に並んで、教会までの通路を歩く。
なんだか照れくさくて、お互い手を差し伸べあわないまま、だ。
わたしは着慣れないドレスの裾を裁くのに必死だし、
サトルは、前をまっすぐ見て何かを考えている風だった。
「どうしたの?」
いや、なんでもないよ。
そう言ってふわっと笑う。
こんな時も、この人の笑顔は変わらない。それがうれしかった。

もう皆様お揃いです・・・
父と、式場のスタッフ達が扉の前で待っている。
介添の牧田さんがドレスの裾を直し、ヴェールを整える。
じゃあ、向こうで待ってるからな。
サトルが言ってパイプオルガンが鳴り響く会場へ先に入っていく。
父が、わたしを見て一瞬目を細めた。
大きくなったなぁ・・・
口の中でもごもごとそう言ったように聞こえた。
「お父さん、ありがとう」
ぎこちなく腕を組んで、閉まっている扉を見たまま言う。
ああ、うん・・・
そう言ったきり、黙ってしまった。
ごめんね、今まで感謝の言葉も言えなくて。こんな時に言って。
こんな風にしか言えなくて。


いよいよ、扉が開く。
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