加藤のメモ的日記
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| 2016年03月13日(日) |
天才アスリートは偏食 |
天才アスリートは偏食という驚くべき真実
職は命の源といわれる。しかし、天才的な能力を発揮するアスリートがチョコレートやハンバーガーばかりを口にし、一方で、肉を食べずに筋骨隆々の部族がいると聞けばどうだろうか。食事と人間の関係には、最新の科学でも解き明かせない未知の世界がある。
野菜を連想させる緑色も嫌い
アメリカでは肥満が深刻な社会問題になっている。そこに突然、槍玉に挙げられたのが、天才バッター、イチローだった。メジャーリーグの歴史を振り返るドキュメンタリー番組の中で、10年連続200本安打を達成したイチローのパフォーマンスを支える食生活がクローズアップされた。しかし、放送直前に医療支援団体からクレームがついた。イチローの食事は、実はかなり偏っている。野菜嫌いで特にニンジンやセロリなど繊維質の野菜やキノコ類は大の苦手だ。独身時代は牛タン一辺倒、結婚後は婦人手作りのカレーを毎朝のように食べ、最近の数年間は朝は食パンとそうめんだけだと本人が語っている。
医療支援団体は、アメリカの子供たちがスーパーヒーローの真似をして肥満になったら困ると、偏食シーンを削除するよう迫り、結局放送は見送られた。ところが「変な食卓」はイチローだけではないのである。トップアスリートの食生活をみると、実は偏食がかなり多い。体操選手で世界選手権3連覇中の内村航平(23)は、北京五輪で銀メダルを2個獲得したときに、その食生活が話題を呼んだ。
「朝食は食べてもバナナかチョコプリン、夜はビッグマップ、おやつは『ブラックサンダー』」とコメント。『ブラックサンダー』とは1個30円のチョコ菓子だ。北京五輪前、中国製のチョコを試したが、口に合わなかったため、『ブラックサンダー』を”勝負食”として日本から40個持ち込んだ逸話まである。内村はもともと野菜が大嫌いで、野菜を連想させる緑色も嫌いというほど、高校で実家を出て、友人とアパート暮らしを始めたため、幼少のころの好き嫌いがますます激しくなったという。
日本サッカー界の至宝だった中田英寿も野菜嫌いで食べられるのはすりつぶしたジャガイモとトマトソースだけ。そのうえ、「主食はスナック菓子」というほどの菓子好きだ。ゴルフ界のスーパースター、タイガー・ウッズ(36)は大のハンバーガー好きで有名だ。4大メジャー大会の一つ、マスターズでは、大会前に開かれる夕食会「チャンピオンディナー」のメニューを前年優勝者が選べる。ウッズが初優勝した翌年の1998年に選んだのが、チーズバーガーとチキンバーガー、フレンチフライにストロベリーシェイクとバニラシェイクという驚くほどジャンクなメニュー。当時22歳だったウッズは「僕はこれで育った」と平然と言い放ち、これには歴代の優勝者も複雑な表情だったとか。
女性アスリートでは、ゴルファーの横峯さくらは菜食主義者で肉や魚を口にしない。タンパク質は筋肉を作るのに必要な栄養素で、アスリートには必須なはず。それを食べない横峯のドライバーショットがあんなによく飛ぶのはどうしてなのか?
NASAが研究した不食人間
健康のためには栄養のバランスを考えて、好き嫌いをせずに食べること、が常識とされる。ましてや運動選手は身体が資本。その身体を作るのは食事なのだから、アスリートの食事は一般人よりもバランスがとれているべきだ、というのは正論だし、それを守って一流の肉体を維持するアスリートももちろん多くいる。が、添えが「絶対」「必須」でないことも否定できない事実である。なぜ「偏食アスリート」は体調を維持できるのか。
東大名誉教授で微生物生態学の権威である光岡知足氏の研究によれば、ニューギニアの高地に住むパプア族の食事の96.4%はサツマイモで、魚や獣肉はほとんど食べない。栄養学的に言えばタンパク欠乏の状態なのだが、なぜか健康状態は良好で筋骨たくましいのである。不思議なことに、彼らが毎日食事から摂取している窒素の量は2グラムでタンパク質の10〜15グラムでしかないのに、便や尿から排出される窒素量はその2倍近くあった。そこで光岡氏は、空気中の窒素やタンパク質以外の窒素化合物が体内に取り込まれ、そこから腸内細菌がタンパク質を合成しているのではないかと推定した。パプア族の人たちは肉や魚を食べなくても体内でタンパク質を作っているというのだ。
こだわりの食事でリラックス
それにしても、一流アスリートに偏食が多く存在し、常人の真似できないパフォーマンスを発揮できることは別の驚きである。スポーツ栄養学を専門とする中京大学の松本孝明教授が言う。「身体を動かすエネルギーとなるのはカロリーで、カロリーさえ摂取していればパフォーマンスを発揮することは可能。理論上はチョコレートだけでも大丈夫です。栄養学的にいえば運動に必要なのは糖分や、肉類に含まれるビタミンB1やB2。野菜には運動に必要な栄養素は含まれていません」
もちろん、体調の維持や疲れをとるためには、やはり野菜などに含まれるビタミン類は必要だという。臨床心理カウンセリング総合研究所所長の井上敏明氏は一つの仮説としてこう分析する。「アスリートに限らず、過去に天才的な能力を発揮した芸術家や学者の言動を分析すると、アスベルガー症候群の傾向が見て取れる。彼らに共通していえるのは、鋭敏な感覚で物事に没頭すること。その反面、型にはまった日課を好み、興味や関心が狭くなる傾向がある。それが偏食として現れることもあります」人間の能力と食の関係は、まだまだ未知の世界なのである。
『週刊ポスト』3.13
gtbz
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