加藤のメモ的日記
DiaryINDEX|past|will
| 2011年12月14日(水) |
人は放射線になぜ弱いか(57) |
ネズミなどを用いた実験によると、好きなだけ餌を与えた個体に比べ、腹7分目以下の餌を与えた個体は、寿命が延びるだけでなく、ガンにも、その他の老化の病気にもかかりにくくなる。節食のときは、体重の増え方が遅くなる。発育の速度をゆっくりさせると、老化もガン化もその速度が遅くなると考えてもよさそうである。貝原益軒の腹半分また7,8分目の養生訓は立派な経験則である。
ヒトのガンの9割は食べ物などと関係があるという疫学調査の結論は、案外、文明人の食べ過ぎがガンの要因であることを暗示しているのかもしれない。人類は500万年の新化の歴史の中で、大部分の期間は、食物が不十分で腹7分の生活をせざるを得なかったのではなかろうか。猿人や旧人がなぜ滅びたのか。進化の歴史から学ぶことは数多くある。文明が進むほど自然環境に対する適応力が退化していく。自然の生活を大事にしていた先祖の教訓を学び直す時にきているようである。禅と本来の日本文化に対して、近代文明をつくった欧米人が、熱い目を注ぎ始めている理由は、この辺にあるように思われる。
長崎で原爆をあびた人とあびなかった人の年間年間死亡率を、原爆被爆後約30年経ってから比較した。50歳までは被曝した人としていない人の年間死亡率は差がない。ところが、60歳を超すと、被曝した人のほうが死亡率が低い。男女とも原爆をあびると長生きするという結果になった。
被曝した人というのは、被曝手帳を持っている人である。この手帳を持っている人は、健康検査も放射能と関連のある病気に限定した病気の治療も無料である。したがって、手帳を持っている人は、持っていない人よりも健康に気をつける習慣がついたのだろう。このような少しの気配りが、普通の生活をしている人より、被曝した人に長生きの恩恵をもたらしたのだろう。
長生きの現象は、本当は放射線ホルミシス効果の表れではないか、と思いついた。そこで長崎大学医学部原爆資料センターの人たちと共同で、次のような調査を開始した。まず、被曝手帳を持っている人たちの間で、被曝量が適当に増えると、死亡数が減る傾向にあるかどうかを調べた。その結果、男性の場合、50〜100ラドを被曝した人たちの全死亡率は、被曝していない人より約10%少ないことがわかった。
ガン以外の病気による死亡で調べたところ、35%も死亡数が少なかった。この35%とという値は統計的に有意である。つまり、50〜100ラドの放射線が男性に長生き効果を与えた。しかし、ガン死について調べると、1〜49ラドの線量以外の中・高線量の被曝群は、どれもその死亡率が被曝していない群より高い。
つまり、放射線は害を与えた。いいかえると、低・中線量の放射線は害と益の両方を人体に与える。男性の場合、益が害より少し多いため、全死亡で比べると、低・中線量被曝はほんの少し益を与えた。いいかえると、低・中線量の放射線は害と益の両方を人体に与えた。長崎原爆放射線をあびた人の骨髄細胞は、被曝線量にほぼ比例して染色体異常頻度が増えているから、放射線が人体の細胞に傷をつけるのは間違いない。それにもかかわらず、少しの放射線ならあびたほうが人体に益をもたらすことが、中国と日本の健康調査でほぼ確かになった。
『人は放射線になぜ弱いか』
|