加藤のメモ的日記
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2009年05月01日(金) ニュートリノの発見

■立花 この辺でニュートリノとはそもそも何かという、歴史的な経緯から入っていったほうが読者にはわかりやすいでしょうね。あの粒子は不思議な粒子ですね。最初に存在があったのではなく、まずコンセプトがあった。こういうものがあるはずだ。理論的にないとおかしい、という議論があって、現実の存在確認はずっと後だった。放射性物質から出てくる放射線にアルファ線、ベータ線、ガンマ線、の三種類がある。放射性物質がベータ線を放出して別の物質に変換する(例えばウラニウムが鉛に)ベータ崩壊と呼ばれる現象を仔細に検討してみると、どうもエネルギー保存則に合わない現象が起きているらしいということになった。何かエネルギーを担って外に出て行くものがないと、エネルギー保存則が敗れてしまう。そこで、電荷を持たず、ほとんど質量もない粒子としてニュートリノが考え出された。 

●戸塚 そうです。1930年にウォルフガング・パウリがニュートリノ仮説として出したのです。彼はエネルギー保存則を守るため、いささか自棄的になって、ニュートリノという粒子を持ち出したのです。

■立花 物質が生成したり消滅するという考えは人間の根本認識を変えるような話ですね、かって、原子が最も基本的な物質粒子と考えられ、それは不変と考えられていた。分子は変化しても原子は不変。ところが放射性物質の発見で原子は崩壊することが明らかになった。しかし、原子の構成要素である素粒子は不変であるとされた。ところがいまや、その素粒子が生成したり消滅すると考えられるようになった。崩壊とか分解ではなく消滅してしまう。反対に何もないところから生成したりする。このあたり物質というものの最も基本的な概念が揺らいでくる。しかし、この当時はまだ、ニュートリノの存在証明はなされていません。存在証明もなしに、ニュートリノは物理学の中に定着してしまったんですか?

●戸塚 見つけにくいとされていましたが、いろんな傍証から、ニュートリノの実在を疑う人はいなかったと思いますね。それでも何とか捕まえてやろうという提案が、1940年代後半には出ています。

■立花 だけど、ニュートリノは何でも突き抜けるでしょう。どうやって他ものをストップして、ニュートリノだけ突き抜けさせるんですか。それがニュートリノだということがどうやってわかるんですか。

●戸塚 厚さ何メートルものコンクリートの壁を作るんです。そして原子炉を止めて信号が出なくなるのをまず確認する。次に出力を上げて、出力を二倍にしたら信号も二倍になったとなると、原子炉の出力と相関する何か見えない粒子が、厚い壁を突き抜けて出てくることが証明できるわけです。存在証明はずいぶん苦労してやっているんです。

■立花 そこを突き抜けてくるのは、ニュートリノ以外に考えられないという装置をつくるわけですね。

●戸塚 そうです。原子炉から出てくるニュートリノは、カドミウム塩を溶かした石油系の液体を満たした巨大なタンクの中を通るとき、原子核と反応して陽電子を作ります。この陽電子はカウンターの中を走ると発光するので、その光を捕えて間接的にニュートリノの存在を証明したのです



『サイレンス・ミレニアム』立花 隆


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