初日 最新 目次 MAIL HOME


読書・映画・旅ノート(毎日更新目指す)
くま
MAIL
HOME

My追加

2005年09月29日(木)
「亡国のイージス」は50点

まず、私は原作は読んでいないし、これからも読む気がないことを断っておく。だからこの評論は原作から離れて純粋にこの映画について語るつもりだ。

イージスとはギリシャ神話に登場する「ゼウスが娘のアテナにあたえた防具アイギス(イージス)」が語源らしい。つまり最強の盾なのである。事実イージス艦の防御能力のすごさはこの映画の中で何度も言及される。そして米軍より盗んだ核兵器級の爆弾を抱えて東京湾に現れ、政府を脅すわけだ。某国のテロリストの煽動に乗った自衛官の幹部が協力するわけであるが、彼らは最強の武器を持ちながら、「専守防衛」の原則が気に食わないというわけである。「日本は平和ボケしている。亡国のイージスだ。」というわけだ。

原作の意図はどうなのかは知らないが、この映画では監督は「専守防衛、是か非か」という論点は微妙にずらしてつくっている。(如月)「撃たれる前に撃つ。それが鉄則だ。」(千石)「じゃあどうして俺のときには撃たなかったんだ。」ぐっと詰まる如月情報員。防衛論議を個人の話にすりかえて誤魔化してしまった。

そうやって千石伍長を主人公にすえて、話を作ったのは阪本順治らしい。監督はがんばった。さすがに俳優人たちもよくがんばっている。退屈だけはしなかった。しかし、と私は思う。それではなぜ今この時期にイージス艦なのか。話を誤魔化してしまった以上、結局印象に残るのは、ドラマではなく、イージス艦という「本物の兵器」だけなのだ。製作者や監督の意図はどうであれ、これは到底反戦映画にはなりえない。結局、「これだけ優秀な武器を持ちながら宝の持ち腐れだよなあ。」と観た人が思っても決して不思議ではない、という映画になっている。だから改憲へ、とは単純には結びつかないだろうが、それを後押しする映画にはなると思う。結局、設定自体は現状に振り回される映画なのだ。結果好戦映画になっている。防衛庁の勝利だろう。

「いまの日本は危機管理がなっていない。そのことを指摘した映画だ。」と誰かは言うかもしれない。しかし、本当の危機管理はテロリストをおびき寄せない政策だろうと私は思う。ことの発端はあるはずのない最悪の米軍製化学兵器を某国(北朝鮮であることはあまりにも明らか)テロリストが盗んだことにある。しかも、それを消すためにはやはり米国製の強力焼夷弾が必要だという。今回の「危機」の原因は日米安保条約にあることは明らかだ。テロリストをおびき寄せない政策というのは同時に戦争をもおびき寄せない政策でもある。だからヨンファが「見ろ!日本。これが戦争だ。」なんて言わなくてもいいのである。

かって考古学者の佐原真は「人類の歴史300万年を仮に3mとすると、日本の場合最後の3mmで武器や戦争を持った。殺しあうことが人間の本能ではない。戦争は人間がつい最近作り出したものだから必ず捨てることが出来る」といった。人間が盾を持ってたかだか3000年に過ぎない。必ず捨てることが出来る。そういう雄大な映画を、誰か撮ってもらえないかなあ。
Last updated 2005.08.05 09:50:24