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2005年07月20日(水)
『言葉が通じてこそ、友達になれる』茨木のり子 金裕鴻(キムユーホン)

『言葉が通じてこそ、友達になれる』筑摩書房 茨木のり子 金裕鴻(キムユーホン)
金氏は言う。「韓国では(たとえ夫婦喧嘩の最中でも)別々の布団を敷いて寝ることはほとんど無いのです。日本人は嫌いになるのに時間がかかりますが、一度嫌いになると徹底して嫌いになる。ところが韓国の人は一日に三回も四回も嫌いになったり好きになったりしてすぐ忘れる。韓国語に『復讐の心』『恨みを抱く』はあるけど『根に持つ』という簡単な言葉が無いんです。」

この本はハングル講座の草分けの金氏と、その講座の長い受講者でもあり詩人の茨木のり子氏の長時間対談である。お互い言葉に関しては鋭敏な感性を持っており、お互いの文化に対して『はっ』とするところが多々あった。発見の本である。

しかも、お互いの国に対しては『違いを楽しむ』という態度であり、これからの日韓の交流のあり方の見本みたいな本である。まだまだ日本人は韓国人の行動の基準を知らないし、韓国人も日本人の『察する』文化など分かっていない所は多々あるだろう。そう言う理解の不足が今日の日韓問題にも影響しているはずだ。韓国人の主張は極端だという前にこの本を読む事をお勧めする。また、もし私に韓国語が出来たなら今すぐにでもこの本を翻訳してソウルの教保文庫の棚に並べたい。それだけ「力」のある対談である。

(以上がアマゾンに投稿した中身。以下は私のメモ。)


朝鮮語からハングル、韓国語への言葉の移行を例にして。金「(日本は)流行に走ったり、目の前の危機感にパニックになったりすることはありますが、社会を変えるような大きなうねり、流れは少しづつしか動きません。人々は変革を好まないし、変革を唱える人がいても、多用な意見があっていちいち気を使うものですから、みなの意見をまとめて動かすのに時間がかかるからだろうと思います。」<非常に鋭い。
茨木「韓国のことわざで「虎に噛まれて連れ去られても、気を確かに」というのがあるんですが、サッカーの粘り強さを見てもつくづく思います。」金「日本には「もはやこれまで」とか「あっさり」という言葉がある。反対に今韓国では「あっさり」という言葉が流行っている。」
金「誰かと知り合いになると日本では仲良くなってどこかへ遊びに行こうと言う事になるんです。これが基本です。しかし韓国では知り合いになるといっしょに遊んで行動しながら仲良くなる。善意のおせっかいもある。知り合いで無くても気がついたら注意しないと気がすまない。」<私も『かばんのチャックが空いている』と何度も電車で注意された。
茨木「失礼な言葉もある。オールドミスを老処女とかいて『ノウチョニョ』と呼ぶ。結婚していないと一人前とみなさない。結婚しても男子を生まないといけない。」
茨木『違いが面白いと感じるんです。』<(大切な視点だ)
金「気候の違いで、日本は疲れを癒すために銭湯に行く。韓国では月に一回か二回くらいしか行かない。その代わり冬はどんなに寒くても上は脱いで洗面する。韓国は空気が乾いているのでそれですむけど、日本では一日行かなかったらべとべとになる。」
金『韓国人は自分が親しくなったと思ったら距離感を置かない。」茨木『だからぶつかったときは激しいわけですよね。』「日本はある程度節度を大切にします。人間関係が壊れるのも、たいていは節度を踏みはずしたときです。」金『日本には部屋に押入れがある。」茨木『韓国は無いですね。部屋につんである。」金『ええ、万年床もありません。昼間は必ずたたんでおきます。」
金『韓国では夫婦が別々の布団を敷いて寝ることはほとんど無いのです。日本人は嫌いになるのに時間がかかりますが、一度嫌いになると徹底して嫌いになる。ところが韓国の人は一日に三回も四回も嫌いになったり好きになったりしてすぐ忘れる。韓国語に復讐の心、恨みを抱く、はあるけど根に持つという簡単な言葉が無いんです。」
金『日本人は気兼ねをし、気を使う。相手から気を使われることもある意味よしとする。ところが同情はされたくない。韓国人は気を使うこともしないし、気を使われると『何でそんな水臭いことをするのか』と思う。しかし同情はされたい。同情されたいから同情もする。『大変だろう。何とかしよう。』ということで同情するんです。」
金『日本ではバスに並んでいればいつかは乗れる。秩序が確立している。その秩序が乱れることには耐えられない。しかし、韓国ではバスは停留所にとまらない。」茨木『あれには参りました。走るんだけど、子供年寄り、身障者はどうするのか』金『ところが韓国は面白いんで、走っていくんだけどまずその人たちを乗せてから自分が乗る。不文律。韓国式秩序です。」<そう言うところは見習わなくては。
金『韓国の地下鉄には、車両の入り口のすぐ横の網棚に新聞とか雑誌、読み終わったものを置いておく場所がある。」<今年の韓国旅行で気がついた。
金『日本には怒る言葉が少ないですね。上司が部下に『君は何を考えているんだ』というぐらいでしょうか。」茨木『怒ったときは大声で怒鳴るくらいでしょうか。』金『韓国では普通に話しても大声に聞こえますから(笑)。顔の名前、内臓の名称もたいてい二つあって、悪態語として使い分けます。悪口大会は一回しかなかったんですが、一等になったのを直訳すると、「あくらつな強盗を蒸して肴にし、売女の閨水をもらい酒を作って飲んで、血くそをたらして死ぬ、南原の弁学徒と親類になって、天化に轟く下品なやつ。ピョンガンセ(パンせりに出てくる有名な下品な悪口ばかりいうやつ)のような孫を持つ奴め。」汚い言葉の意識がちがう。蛍は「ケートンボルレ」つまり「犬糞虫」です。流れ星は「ピョルトン」「星の糞」です。金芝河(キムジハ)の詩集に『糞氏物語』がある。ここに日本人の悪口がダーと出てくる。『五賊』もそうです。
金『日本人は純粋なんですね。物事をすごくまじめに受け止める。ところが韓国の人たちは大まかに受け止める。久しぶりにあった人に「あなたどうしの、その顔は?死にそこなったような顔をして」ストレートにいう。日本人は「顔色が良くないね。」というだけで傷つく。「やあ、老けた」といえるわけが無い。でも久しぶりにあったら『そう?やっぱり老けたねえ。』でいいんです。変わらないなんてお化けじゃあるまいし。でも韓国の若い人には注意します。日本人に対しては誉め言葉でも、傷つけるような言葉でもうかつに韓国語に翻訳していうな。老けたねえ、というとその場では笑うかもしれないけど、必ず気にする、家に帰って自殺するかもしれない。それほど日本人は純粋でまじめなのだ。」茨木『なんか人間が小さいのかもしれません。』
金『日本人も内心は強いはず。韓国の若者にいわせると日本人は『トッカダ』(性格が強い)です。地震がおきても笑っている。でもそれは違う。恐いんだけど恐がってもしようが無い、という気持ちがある。親が死んでも人前ではなかない。トイレなどで涙を流している。」
金『日本語の『察する』という言葉は韓国人には分かりにくい。相手が黙っているのにどうして察せられるのか。盗んで学ぶものすごい技だと思います。去っていく後ろ姿に両手をあわせるしぐさ、映画や漫画に良く出てくるのですが、あれは無駄だとずっと思っていました。今は無駄だと思いながらもやっとその心情が分かりかけている。」
金『日本人の生活は、合理的というか、生きている人のために生活している。そのために自分の家族があり、社会がある。韓国の人たちは伝統的に死んだ人のために動いている。先祖のため、先祖の供養のために生きている。自分が感知しうる先祖のことを、知っていることを次の大荷伝え、受け継いでもらうのがひとつの大きな役目です。儒教の教えは、四世紀にはいり、14世紀以降国教になる、人々の生活に深くいりこんでいる。タバコ、お酒どころかめがねも親の前ではかけれない。親から授かった自然じゃないとだめ。パーマも出来ない。儒教では体を傷つけるのは先祖に申し訳無い。」茨木「今はパーマ、ヘアカラー、整形などとても盛んです。ファッションのほうがさっさと儒教を脱ぎ捨ててるのではないですか。」金「時代の流れですね。」茨木「族譜(チョクポ)つまり系図を大事にしますが、、その中に強盗とかが居た場合はどうするんですか。」金「族譜の中で一族の中に官位についた最高の人を、誰かめぼしい人を決めて、その人にすがって生きているんです。だれだれさんは大臣をやった人の流れであると、その中に石川ごえもんが居ようとそんな人は無視する。」
金『陰暦8月15日には「秋夕」(チュソク)があり、私を例にとるとソウル郊外に墓(ミョ)丁寧には山所(サンソ)があり、サンソ参りをする。六代七代前から順にしていく。始まる前に年長者がこの人はどういう人だったか説明をしていく。毎年するので手帳に記さなくても自然と覚える。結婚をしていない人は墓も作ってもらえない。目下の人が墓の場合は、式の間目をそらす。関知できない前の墓の人は骨を焼いてしまって移して墓をなくす。」茨木「だけど女はたまったものではありませんね。」金『そうです。チョクポには女性は苗字しか載らないんですよ。女性は祭祀の準備をする人で男性は食べる人。」<そうだったのか。それで韓国中、墓だらけになっていないんだ。
金「茨木さんは『韓国現代詩選』(花神社)の翻訳しましたが、気がついたことは」茨木「韓国語は形容詞が豊か、日本語は名詞が豊富。韓国の詩は〈生きる〉ということに明確につながっている。花鳥風月はいたって少ない。感情を表現する言葉が多い。ユ・トンジュ(ゆ東柱)の星空を歌った詩。『死ぬ日まで空を仰ぎ一点の恥辱無きことを…』日本の敗戦半年前に27歳で獄死したのですね。私の散文が築摩書房の高校教科書に13年間載っています。」金『そのことを知っている韓国の人は大変少ないでしょう。」茨木『もうひとつ気がついたのはテーマに母を歌ったものが大変多いということでした。日本では少ない。儒教の影響はあまり無いように思うが。」金『韓国は女性蔑視、差別がずっと続きました。貧しくもありました。苦労の多いオモニにとって最高の楽しみは我が子の成長です。子供にとっても、虐げられ苦労する母の姿を見て育ち、思いは強く、これは一生薄れません。『情』(チヨン)の世界です。母は弱い人というのが古い韓国の通念ですが、今の女性パワーを考えると、母は強くなり、父は弱くなる一方、遠くない将来父を詠う詩が登場するかも。(笑)」
茨木『韓国の歴史ですごいなと思うことが二つ。古代中国に侵略されたり、近代日本に侵略されて禁止されても朝鮮語を見失わなかった。あと、他国を侵略したことは無かった。他国から侵略されたことはあったけど、最後は必ず蹴散らしてへたばらなかった。朝鮮戦争はあったし、ベトナムで国連軍としていってしまったことはあったけど。」金『今北朝鮮の悪いところだけが非常にクローズアップしています。』茨木『それは、最近まで日本の知識人、マスコミが北朝鮮支持だったんです。韓国は軍事独裁政権で、悪口ばかり言っていた。北朝鮮叩きというのは昔の韓国叩きと良く似ています。」<韓国の侵略しないという思想は弥生時代に倭国に輸入して来た可能性が強い。
茨木『冬ソナ効果で、韓国への憧れが生まれて、これは古代を除くと史上初めての現象。』
(05.05.04記入)